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2024/2/7 20:00

一級建築士が教える部屋を広く見せる家具選びとレイアウト方法…ビフォアアフターで解説する5つのテクニック

新年度を前に、部屋の模様替えや引っ越しを計画している人も多いのでは? 家具は選び方や配置を間違えると、部屋が狭く見えたり圧迫感を感じたりすることもあります。いったい何を根拠に選び、レイアウトするのが正解なのでしょうか? そこで、住まいの悩みとして多い「部屋が狭い」問題を解決するための、家具選びとレイアウトのテクニックを、模様替えのスペシャリストである一級建築士のしかまのりこさんに解説いただきました。

基本ルールは「動線」「空間分け」で
「家具が置ける広さ」を見極める

家具のレイアウトで部屋が狭くなってしまう原因は、どんなところにあるのでしょうか?

 

「失敗例の多くは、“部屋のサイズ”と“家具が置ける広さ”をイコールにしてしまうことです。
例えば、リビングダイニングが12畳あるとします。しかし、12畳すべてが“家具のおける広さ”ではありません。“家具が置ける広さ”とは、12畳から、部屋から部屋へ移動するための“動線”を引いた広さのこと。そして、前回の記事『家具レイアウトのルール』でも解説しましたが、その部屋をどういった部屋にしたいかという“部屋の役割”を考えたうえで“空間分け”をすることが大切です。失敗の多くは、そのまま“部屋のサイズ12畳=家具が置ける広さ”として、12畳に合うダイニングテーブルを購入してしまうことにあります。でも、実際に置いてみると、なんだか圧迫感を感じ、使いにくい……と、ストレスを感じてしまうのです。まずは、動線を考えてみましょう」(一級建築士のしかまのりこさん、以下同)

 

部屋を広く、片付けやすく! 家具レイアウトのルールとNGを一級建築士が解説

 

では、「動線」「空間分け」から「家具が置ける広さ」を割り出すための具体的な方法とは?

 

動線を無視したレイアウト

 

動線を考えたレイアウト

 

「上の2枚の画像を比べてみましょう。いずれも同じ間取りの10.7畳のLDKです。LDKなので、10.7畳の中には、リビングとダイニング、キッチンの機能が必要です。
動線を無視したレイアウトでは、キッチンのすぐ横に、ダイニングテーブルを置いていますが、扉から扉へ移動する“動線”の妨げになっています。これでは、生活していて不便さを感じます。実際には移動するための動線が必要なのに、その動線を考慮していません。まずは、動線を考えたレイアウトのように、家具が置けないスペースを確認する必要があります」

 

家具を置ける広さを割り出すためのステップを見てみましょう。

家具を置ける広さを割り出すための3ステップ

1.部屋の役割を洗い出す

「10.7畳のLDKを使って、部屋の役割を具体的に考えてみましょう。例えば、この部屋の基本的な役割を『ご飯を作る、食べる、くつろぐ』とします。そこに、『ピアノを弾きたい、勉強をしたい』などの希望をプラスします。まずは部屋でやりたいことを整理するのです」

2.動線の確保と空間分け

「次に、主な動線を確保します。主な動線とは、扉から扉、扉から階段など、部屋を移動する際に、必要な道のこと。上記の10.7畳でいうと、扉から扉へ移動する青文字で囲った2.4畳の部分です。動線の妨げになるので、ここに家具は置きません。となると、実際に家具を置けるスペースは、『10.7畳−2.4畳=7.3畳』なのです。
そして次に、部屋を役割ごとに分けます。空間を分けると物の移動が減るので、散らかり防止にもなります。『くつろぐスペース+ピアノスペース=3畳』『キッチンスペース=2.6畳』『食事スペース=2.7畳』としました。ここまで考えただけでも、3畳のスペースには、それほど大きなソファが置けないことに気づくことでしょう。10.7畳にあわせたソファでは、大きすぎるのです」

3.動線に合わせて家具を配置する

「部屋の役割のための空間が決まれば、そこに必要な家具のサイズもイメージしやすくなります。次に、部屋の中を移動するための動線を考えながら、家具を選びましょう。ダイニングテーブルからリビングテーブル、テーブルから収納へなどの“部屋の中を移動する”動線です。移動に必要な動線の幅は、最低でも60cm。2人がすれ違うためには、幅100〜120cmは必要です。レストランをイメージしてみてください。ホテルのゆったりしたレストランのような空間と、ぎちぎちにつまった居酒屋のような空間。どちらが、ストレスなく動けそうでしょうか。家の中は、座ってごはんを食べるだけではなく、料理したり洗濯したりトイレに行ったりと、移動が多いものです。居心地の良い動線は、生活するうえで大切な要素です」

 

とはいえ、そもそも部屋が狭すぎて、家具を置いただけで窮屈になってしまうなど、スペースに余裕がない住まいも多くあります。次は、部屋を広く見せるテクニックについて教えていただきました。

Before→Afterで一目瞭然!
「部屋を広く見せる」テクニック

部屋を広く見せるうえで、どういったポイントを意識すべきでしょうか?

 

「家具の『色』『高さ・大きさ』『統一感』を意識して選びましょう。そうすることで視覚効果を利用して、スッキリ広い部屋を演出できます。狭く見える部屋を例に、家具選びやレイアウトを変更することで、どのぐらい広く見えるのかをBefore、Afterとともに見てみましょう」

 

1.
【Before】黒やブラウンなどのダーク系の家具で窮屈に見える
【After】ホワイトやベージュなどの膨張色で広くスッキリ

Before

 

After

 

「2つの画像を比べてみましょう。どちらの画像も家具の形とサイズは一緒です。しかし、Beforeでは、黒やブラウンなどダーク系の収縮色を家具に使用しています。収縮色は、空間が引き締まる反面、面積が小さく見えるため、部屋が狭く見えてしまいます。一方のAfter画像では白やベージュなどの明るい膨張色を使っているため、空間が明るく膨らみ、全体の面積が広く見えます。色の視覚効果でこんなにも部屋に違いが出るのです。部屋を広く見せるためには、膨張色を利用することがポイントです」

■ まずは、面積の大きなインテリアアイテムから
「面積の大きいアイテムを膨張色にするだけで、グッと部屋が広く感じられます。まずは、カーテンやラグ、テーブルなどから変更するといいでしょう。ソファやテーブルなど、すぐにチェンジできない物は、ソファカバーやテーブルランナーなどの布を掛け、収縮色を使ったインテリアの面積を減らす工夫をしてみるだけでも効果があります」

2.
【Before】色も形もバラバラな収納家具でごちゃつく
【After】色、形を統一させてスッキリ見せる

Before

 

After

 

「Beforeは、収納の種類が不揃いなうえにオープン収納のため、収納の中に納められたすべての物が見えてしまっています。たくさんの色が見えていることでごちゃつき、部屋が狭く見える原因に。一方、Afterの収納家具は、形が統一され、かつ扉がついているため、Beforeにくらべ、収納家具のサイズは大きいですが、スッキリとして見えます」

■ カラーボックスなどの安価なアイテムに注意!
「カラーボックスなどの安価な収納は、物が入りきらなくなったら“とりあえず買い足す”などと、増ええてしまいがちなアイテムです。徐々に買い足すために縮尺もバラバラになる場合や、中が見えるため雑多感が出てしまうことも。また、奥行きは30cmの物が多いため、すべての物がおさまり切らず、はみ出してしまい、ごちゃつきに拍車をかけます。
収納家具を新調するならば、奥行きが40cmの物がおすすめ。40cmあれば、中を分けるための収納ボックスをたくさん入れることも可能ですし、収納できる物の幅も広いです。“部屋を広くみせる”ためには扉付き収納がマストですが、扉付きには注意が必要です。扉が付いているということは、物を片づけるまでにアクションが一つ増えるということ。“片付けにくさ”につながります。物が多かったり、片付けに不慣れなお子さんが使用したりする場合は、片付けやすさと部屋の広さ、どちらを優先するかを考えてから購入すると良いでしょう」

 

■ おしゃれに見える? 実はむずかしいオープン収納
「収納家具選びで失敗してしまう原因には、おしゃれを優先してしまう、というものもあります。例えば、壁に取り付けるタイプの扉のついていないオープン家具。家具店に行けば、花瓶や洋書、観葉植物などが置いてあり、一見たくさんの物を飾りながらスタイリッシュに収納できるように見えます。しかし、実際私たちがしまいたい多くの物は色で溢れていて、おしゃれな見た目の物ばかりではありません。飾るように収納するテクニックが必要になり、実はハードルが高い収納家具なのです」

■ 色についてさらにくわしく!

 

色が多くあると、部屋が狭く見えてしまうことがわかりました。部屋全体をスッキリと広く見せるためには、最低でも5色以内に収めるのがよいと、しかまさんは言います。

 

「5色の中にも配色の方程式があります。まず、壁や床や大きな家具に使う“ベースカラー”を1〜2色、次にカーテンやラグなどの大きい家具に使われる“メインカラー”を1色、絵画やクッションなどに使う“アクセントカラー”を1〜2色で考えましょう。日本の配色では、ベースカラーにホワイトとグレー、メインカラーに木製家具のベージュ、アクセントカラーに好きな色を取り入れる方が多いようです。狭い部屋で広くみせたい場合には、全ての家具を白で統一すると良いでしょう」

 

3.
【Before】テーブルやイスの背もたれが高く圧迫感を感じる
【After】家具の高さは70cmを基準にする

Before

 

After

 

「色の次は、家具の高さに注目しましょう。Beforeのダイニングセットでは、収縮色なうえにテーブルもチェアの背もたれも、高さがあるため圧迫感を感じます。Afterのダイニングセットは、膨張色で低く、ダイニングチェアの背もたれも、テーブルほどの高さです。
多くの家具は、このテーブルの高さを基準にそろえると圧迫感がなく済みます。日本人の身長に合わせたテーブルの一般的な高さは、70cm。この70cmを基準に、プラス10〜15cm以内の高さの家具をそろえるとよいでしょう。ただし、背の高い家具でも、先ほどのキッチンでの収納家具のように壁ぎわに配置するのであれば影響ありません。膨張色の家具を選べば、よりスッキリ見えるでしょう」

4.
【Before】中央の大きなソファに圧迫感を感じる
【After】ソファを移動し、“抜け感”のある空間に

Before

 

After

 

「Beforeでは、部屋の丁度真ん中に大きなソファが置いてあります。部屋の真ん中は、視線が集まる場所なので、大きな家具があると視線が遮られ、圧迫感を感じます。Afterでは、ソファを壁ぎわに寄せることで、視線の先が抜け、開放的な空間になっています。大きな家具は壁ぎわに寄せることで、空間の“抜け”を演出し、広さを感じることができます」

5.
【Before】狭い空間にたくさんの家具を置く

【After】テーブルとチェアを兼用し、1セットにする

Before

 

After

 

「Beforeでは、約6畳ほどの空間に“くつろぐ”ためのソファとリビングテーブル、“食べる”ための、ダイニングテーブルとチェアがぎゅっと押し込まれています。Afterでは、各テーブルとチェアの機能を兼用し、1セットに減らすことでゆったりとした空間に。そもそも部屋が狭く、多くの家具を置けない場合には、家具を兼用することもおすすめです」

■「1台2役の2WAY家具」も、家具を減らす手助けに
「リビングテーブルとダイニングテーブルを兼用する意外にも、省スペースを叶える方法があります。それは、1台2役の2WAY家具を使うことです。例えば、ベットの下に収納が付いている収納付きベッド、引き出し付きのダイニングテーブルなどです。中には、マガジンラック付きのテーブルなんてものもあり、別途マガジンラックを購入する必要もありません。部屋が狭い場合には、家具を兼用したり、2WAY家具を利用したりと、家具を減らすことを考えてみるのも一つの手です」

家具はインテリアの要。このため、機能性よりも見た目を重視してしまいがちです。しかし、部屋を広く見せるには、おしゃれの前に「何の目的で使い、どのぐらいのスペースに置けるのか?」と、機能とサイズを考えることが重要です。まずは動線を意識しながら、実際に家具が置ける広さを確認してみることからはじめてみましょう。

 

Profile

一級建築士・模様替えアドバイザー / しかまのりこ

COLLINO一級建築士事務所代表。「地球にやさしい 家族にやさしい」をコンセプトに、狭い・片づかない・不快などの住まいの問題を「家具配置・模様替え」によって解決する模様替えのスペシャリスト。現在まで、設計・検査・審査した住戸数は延べ5,000件以上にのぼる。著書に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社刊)がある。
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