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2021/1/25 19:15

久保建英選手も輩出!「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2020」がコロナ禍でも実現した理由

「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」といえば、目下、スペインリーグでの活躍も目覚ましく、世界のサッカーファンの注目を集める久保建英(たけふさ)選手もかつて出場経験のある大会。その2020年大会が12月27日から30日にかけて、福島県のJヴィレッジで開催されました。新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されるさなかの運営には、さまざまな困難が伴ったものの、終わってみれば、大会関係者や参加者の誰もが「開催してよかった」と感じた様子。その背景も含めて、大会最終日の模様をレポートします。

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“サッカーを止めない”ことこそが大会の責務

2013年に発足して以来2020年で8回目を迎えた今大会。他のスポーツイベントと同様に、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、そのあり方は大きな転換を迫られました。

 

大会は2020年も例年同様8月に、大阪での開催を予定していましたが、5月の時点で断念。その後、12月末のJヴィレッジでの実施を目指すことになります。

 

ところが、この大会最大の特長である、スペインのFCバルセロナをはじめとする海外強豪ジュニアチームの招聘が、9月には諦めざるをえない状況に。大会名である「ワールドチャレンジ」が叶わなくなったわけですが、それでもなお“中止”としなかったのは、大会実行委員会に寄せられた「ぜひ開催してほしい」という数々の“声”が大きかったと、実行委員長の浜田満さんは振り返ります。

 

「9月末の時点で、もう海外チームを呼ぶのは無理だと判断して、国内大会に方針を変えました。もちろん、中止という選択肢も含めて検討したのですが、過去に出場したチームの選手やコーチたち、みんなが『参加したい』と言ってくれたんです。2013年から毎年続けてきたおかげで、“ワーチャレ”を楽しみにしている選手がたくさんいた。そうした“声”に後押しされました」

 

同世代の海外の強豪チームと対戦することはできなくなりましたが、それでも選手たちは、“試合”を欲していたのだと言います。コロナ禍の中、数多くの大会、試合が中止となり、選手たちは対戦の場、痺れるような本番の経験を求めていました。また、ジュニア世代ではあまり行われなくなった、本格的な11人制のサッカーが経験できる貴重な大会だと語るコーチもいました。

 

浜田さんは、大会ホームページに「主催者からのメッセージ」として、以下の文章を寄せています。

 

「私たちはサッカーを止めないことこそが責務であり、将来の日本サッカーの発展に寄与できるものと信じ、“ワーチャレ”として苦渋の決断ではありましたが、国内大会としての開催を決意致しました」

2020年大会が開催されたのは、福島復興のシンボルとして整備されたナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」。5000人の観客を収容できるスタジアム、天然芝・人工芝それぞれのピッチを備えた屋外フィールドと全天候型の練習場、ほかにホテル、プールなどからなる

 

子どもたちはプレーする楽しさを全身で表していた

かくして12月27日、Jヴィレッジにおいて「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2020」大会が始まりました。出場32チームのうち、地元の「福島ユナイテッドFC U-12 」が直前で大会出場を辞退しましたが、全国各地から集った選手たちは、新型コロナ対応に細心の注意を払いながら開催地周辺に宿泊し、待望の大会に心を躍らせ、試合に臨みました。

 

大会は天候にも恵まれ、順調に規定の試合数を消化。グループリーグではセレクションによって集められた「街クラブ選抜」の2チームや、この大会のために結成されたサッカースクールの選抜チームが躍進するなど、世間の不安なムードをよそに、子供たちは試合ができる喜びを爆発させ、プレーする楽しさを全身で表していました。

 

観戦に集まった保護者やコーチは、異口同音に「何より子供たちが楽しそうで安心した」と語っていましたが、それは今回現地で取材をした記者自身が、その場に身を置いて真っ先に感じたことです。

 

たとえ海外のチームが来なくとも、大会開催の意義は大いにありました。全国レベルのチームが集う“ワーチャレ”は、サッカーに打ち込む子供たちにとって、貴重な試合が体験できる大会であり、最高の舞台です。「サッカーを止めないことが責務」と浜田さんは語りましたが、その答えが、子供たちの全力のプレーに見えた気がしました。

 

スクール選抜の2チームが大躍進!

大会4日目にして最終日となる12月30日、ベスト4へと駒を進めたのは、「鹿島アントラーズノルテジュニア」、「Wings U-12 」(以下ウイングスU-12 )、「ソルティーロ・セレクト」、そして「エコノメソッド選抜」の4チーム。このうち、後の2チームは前述のサッカースクールの選抜チームです。

 

残念ながら、この最終日だけは暗雲が垂れこめ、昼前には寒空に雨が降り出すという悪コンディションでしたが、前日までのJヴィレッジのグラウンドからスタジアムに舞台を移し、メインスタンドには観衆も集まりました。ファンファーレを伴った本格的な入場セレモニーによって勢ぞろいした選手たちは、少し寒そうにしながらも、誇らしげです。

 

準決勝の結果、3位決定戦がソルティーロ・セレクトvs.エコノメソッド選抜、決勝は鹿島アントラーズノルテジュニアvs.ウイングスU-12 の対戦に。午後1時30分、雨に加えて風も強くなる中、まず3位決定戦の試合が始まりました。

 

この試合で存分に持ち味を発揮したのが、ソルティーロ・セレクトの選手たちでした。「ソルティーロ」は、あの元日本代表・本田圭佑氏がプロデュースするサッカースクールで、全国各地のスクールから選抜された選手によって構成されたチームです。

 

しっかりパスを回してゴールにつなげようというエコノメソッド選抜に対し、前線から強くプレッシャーをかけることでボールを奪取。序盤から立て続けにゴールを奪い、試合の主導権を握りました。

 

一方、スペイン人の監督が率いるエコノメソッド選抜は、スペインで独自に開発され、世界各国で展開されているサッカーメソッドを用いたスクールの選抜チームです。前半こそパスの出どころを狙われて苦しみましたが、それでも粘り強くパスを回して展開し、後半は相手ゴールに迫りました。

 

風雨が強まる中、両チームの選手たちは元気よくピッチを走り回り、プレーを楽しみました。いつもは一緒にプレーさえしていない、いわば急ごしらえの両チームが、並みいる強豪クラブチームを押しのけての3位・4位となったのですから、大躍進であることは間違いありません。両チームの選手にとって、この4日間の経験は本当に得難いものになったことでしょう。

4位を獲得した「エコノメソッド選抜」。最終日こそゴールを奪えなかったものの、ここまでの戦績は立派。選手たちは貴重な経験を積むことができた

 

見事3位を獲得したソルティーロ・セレクト。各地のスクールから集合した選りすぐりの選手たちは、急造チームながらしっかりと結果を残した

 

鹿島アントラーズノルテジュニアが初優勝!

そして決勝は、14時50分キックオフで始まりました。鹿島アントラーズノルテジュニアは、その名のとおりJリーグクラブの下部組織。千葉県からやって来たウイングスU-12も、関東地方では強豪として知られ、決勝トーナメント準々決勝で、大阪の名門・ガンバ大阪ジュニアを下しての決勝進出です。

 

試合は前半、風上に立つアントラーズノルテジュニアがやや優勢に試合を進め、21分、コーナーキックから、斉藤健吾選手が見事なヘディングシュートを決めて先制します。そして後半開始早々には、またも斉藤選手がコーナーキックからの流れから右足で押し込み、アントラーズノルテジュニアが追加点を奪います。

 

しかしウイングスU-12 も、その直後、やはりコーナーキックから相手のオウンゴールを呼び込み、反撃開始。サイドからドリブルをしかけるなどして、なんとか相手の守備網を崩そうと試みます。

大会MVPに選出された鹿島アントラーズノルテジュニアの正木選手(15番)。実はMVPを狙っていたとのことで、その意欲が積極的なプレーを生んだ

 

ここに立ちはだかったのが、後に大会MVPにも選ばれたアントラーズの正木裕翔選手でした。前半から中盤を縦横無尽に走り回り、攻守両面で貢献していましたが、実はオウンゴールを決めてしまった張本人。ミスを取り返すべく猛然とゴールを狙いに行くと、後半10分、ドリブルから相手を1人かわした後、見事な左足でのシュートを決めました。

 

この正木選手をはじめ、アントラーズノルテジュニアの選手たちは出足が速く、競り合いになると相手を弾き飛ばすほどの強さがあり、まさにアントラーズ直系のDNAを感じさせます。ウイングスU-12もチャレンジを繰り返しますが、アントラーズノルテジュニアがこれをことごとく跳ね返して、スコア3-1で試合終了。アントラーズノルテジュニアが、ワーチャレ初優勝をものにしました。

準々決勝でガンバ大阪ジュニアを破るなど、今大会でたしかな実績を残したウイングスU-12 が2位。千葉・習志野地域の強豪が大会の歴史にその名を刻んだ

 

大会を通じて圧倒的な力を見せつけ、栄冠を掴んだ鹿島アントラーズノルテジュニア。日本チームの優勝は大会史上2チーム目だが、単独クラブチームとしては史上初

 

大会を“続ける”ことの意義を実感

最後はみぞれのような雨が降る寒空の下、表彰式が行われ、4日間に及ぶ大会は幕を下ろしました。そして、今大会の意義をあらためて考えた時、前述の浜田さんが語った次の言葉が思い出されます。

 

「普段の大会でも、子どもたちはみんな、悔しがったり喜んだりしていますが、今回はその度合いが強い気がします。これまで試合の機会が少なかったこともあるでしょうが、なによりそのように感情を爆発させる機会そのものがなかったんじゃないかと感じました」

「参加してくれた子どもたちが、心底楽しそうにサッカーをしている姿は、例年以上に、本当に開催してよかったと心から思いました」との大会実行委員長の浜田満さんの言葉には、実感がこもっていた

 

“ワーチャレ”は、サッカーに打ち込む子どもたちにとって、貴重な試合が体験できる大会です。たとえ海外のチームと試合ができなくとも、子供たちは全力でプレーし、閉じ込めていたストレスを無意識に解き放ちました。最終日は無得点に終わってしまったエコノメソッド選抜の選手たちも、最後は笑顔で「楽しかった!」と言いつつ会場を後にしました。

 

その後の感染拡大状況を考えると、2020年もワーチャレをなんとか無事に開催できたことは、奇跡的だったかもしれません。同時に、こうした大会を続けることの大変さと同時に、意義や尊さをあらためて痛感します。

 

願わくば、2021年大会は再び世界中の子供たちのサッカーと笑顔が見られるよう期待したいと思います。