ギョーカイ“猛者”大田原 透が、走って、試して、書き尽くす! ランニグシューズ戦線異状なし
2022-23「ミズノ」冬の陣①商品企画担当インタビューの巻
ランニングシーズン、真っただ中! 最新のランニングシューズを、走って、試して、書き尽くす本企画。今回から3回連続でお届けするのは、日本を代表するスポーツカンパニー「ミズノ」だ。
1回目は、ミズノのランニングシューズの企画担当者に“履き心地”の秘密を直撃取材。2回目、3回目は最新のランニングシューズをお借りして、走って試した、実走レビューをお届けする!
日本生まれの世界的マスターピース=ライダー
ランニングシューズ開発の最前線をレポートする本連載の3ブランド目は、独自の世界戦略を描く、ミズノ。東京・神保町の東京オフィスにお邪魔して、企画担当の吉村憲彦さんにお話を伺った。話題はもちろん、ミズノの世界戦略の要となる主力商品、ミズノ「WAVE RIDER(ウエーブライダー)」。欧米を中心に多くの熱い支持者を持つ、日本生まれのマスターピースである。26作目となる最新モデルの解説を中心に、張り切ってスタートしよう!
「初代のミズノ 『ウエーブライダー(以下、ライダー)』は、1997年に発売されました。ミズノのランニングのコンセプトは“スムーズさの追求”です。そのコンセプトを、一番に感じていただけるシューズが、ライダーです」(吉村さん)
筆者も、ライダーを長年履いてきた。ライダーの魅力は、何と言っても安定感の良さ。近所の河川敷での普段のジョギングから、さまざまな距離のランイベント、100㎞を走る過酷なウルトラマラソンまで、何度ライダーに助けられたか、数えようもない。
酷評をバネに、ライダーの進化がスタート
「ライダーは、誰からも愛されるシューズを目指しています。何かしらの尖った機能ではなく、バランスの良いシューズであることに、常に気を配っています。ミズノが開発した最新の機能や材料は、真っ先にライダーでその性能が試され、徹底的に分析されます。ライダーは、ミズノにとって一番大事なシューズだからです」(吉村さん)
シューズ愛が、今にも伝播しそうな吉村さんの言葉に偽りはない。ライダーは、ミズノランニングのグローバル市場における、まさに主力商品だからだ。
「実は、初代のライダーは、酷評されたそうです。最近、初代ライダーを、ライフスタイル向けに復刻したのですが、けっこう“もちっ”としていました(笑)。重量も300g以上あり、現在のライダーよりも、さらに走行安定性を重視した、いわゆるスタビリティモデルとしてスタートしました」(吉村さん)
もちろん、翌年の『ライダー2』の開発では、ラスト(靴の足型)からフィッティングまで大きく見直されたことは、改めて書くまでもない。その後、アメリカのランニング専門誌『ランナーズワールド』でも高く評価され、ランニングシューズとしての認知度も高まり、四半世紀以上にわたってライダーは世界中で愛され続けることになる。
欧米市場で、ライダーが支持されるワケ
「ライダーが最も売れているのは、欧米市場です。欧米と日本とは、ランニング文化が異なります。ライダーを選ぶ多くの方が、レースや大会ではなく、日常の暮らしの中で走ることを楽しむ“ファンラン”として愛用していただいています」(吉村さん)
日本では、走る=ストイックというイメージが、なるほど強い。“私、走っています”と話すと、“フルマラソンに挑む”とか“自己ベスト更新を目指す”など、挑戦や目標という話に、すぐになってしまう。しかし、取材で何度も訪れた欧米では、挑戦する人や目標に掲げる人もいるが、それ以上の大多数の人々の日常の暮らしの中に、ランニングが力まずに溶け込んでいる。通勤や買い物など、ランニングシューズで日常を過ごすことも当たり前だ。
ランニングシューズは、そもそも履きやすい上に、きちんした機能もある。欧米で売れているのも、グレーやブラックなど、日常生活でも使えるカラーだというのも、納得なのである。
「あくまで個人的な感想ですが、ミズノブランドの欧米での認知度は、皆さんが感じているほど高くはありません。そうしたポジショニングなので、ライダーは、陸上競技などの運動経験があったり、マラソンのファンだったりなど、何らかの形でミズノを知っている方が手に取ってくれる傾向はあると思います」(吉村さん)
ライダーの“履き心地”の秘密に迫る
日本でも、ライダーを選ぶ層は“一定程度の走力を持っている人”というイメージがある。実際に、マラソン大会などの現場を観察しても、ライダーを履いている人は、体型や走力的にも、全くの初心者ではない。“自分の足に、もっと馴染むモデルを試したくなった”という層が、ライダーを履き、熱烈な支持者になってゆくのだと思えてならない。
「“やっぱり、日本人の足に合うよね”と、足入れの良さを実感して購入される方は多く、その点は私たちも自信を持っています。足入れの良さは、アッパーの工夫でも感じていただけます。アッパーのシュータン(足の甲に当たる部材)は、ガセットタングという一体構造で、しかも表と裏で異なるメッシュを使っています。シュータンがズレないようにしつつ、足を快適な状態に保つことをサポートします」(吉村さん)
ランニングシューズは、さまざまな部材が組み合わさって作られる、労働集約型を代表する商品のひとつだ。走行時に最も屈曲する甲の部材(アッパー)、ひもの通し方だけでシューズのフィッティングを自在に操ることができるシューレース、つま先からかかとまで足を包み込むアッパー、着地衝撃を緩衝して推進力に替える靴底のクッション材(ミッドソール)、中足部のアーチをサポートして走行安定性を高めるプレート(シャンクとも呼ぶ)、地面をとらえる着地面のアウトソールなどなど。
“小さなことの積み重ね”が、シューズの履き心地を決める
さらに、履き心地に直接大きな影響を与えるのが、シューズの成型時に使用される足型(ラスト)だ。完成品のシューズからは外されているが、こうした一つひとつの部材が、履き心地を形作っているのだ。
「フィッティングの要となるライダーのラストは、過去に一度だけ見直されました。さらに甲をしっかりホールドするように削ったり、つま先部分にわずかな余裕を持たせたりなど、工夫を重ねた結晶です」(吉村さん)
愛用するシューズのラストが変更になると知ると、何足も買い込むファンもいる(オイラだ!)ほど、履き心地に影響するのである。
履き心地に影響する部材と言えば、ヒールカウンターも忘れてはならない。最近は、ヒールカウンターを小さくしたり、モデルによってはヒールカウンターそのものがないランニングシューズもある。
「初心者にも履いていただくライダーには、他社と比べて特別大きくはないですが、成型されたしっかりしたヒールカウンターを使用しています。インソール(ソックライナー)はEVA素材の方が安価なのですが、履き心地を優先させ、しっかりしたPU素材(ポリウレタン)を採用しています。これはミズノの品質基準が、非常に厳しいためです」(吉村さん)
こうした少しずつの積み重ねが、ライダーの履き心地を支えているのだ。
ライダーの価値の源は、ウエーブにあり!
ランニングシューズには、さまざまなパーツへの細やかな仕事が結実しているのだ。そうした結実が、履き心地の良さを左右することは、言うまでもない。最後は、ライダーを語る際、絶対に忘れてはならないパーツ=ウエーブについて触れておきたい。
「ウエーブの役割は、衝撃緩衝性と安定性の確保です。かかとから中足部にかけて、ミッドソールに内蔵された一枚のプレートが、ウエーブです。ウエーブは、着地時にたわむことで衝撃を緩衝します。また、着地から蹴り出しにかけて、過度なねじれ(オーバープロネーション)も、生じにくくさせています」(吉村さん)
ウエーブは、この26代目も含め、過去に10回以上も形状や素材を見直してきたという。以前は、普通のTPU(熱可塑性ポリウレタン)素材だったが、今は樹脂素材の「ぺバックス」を使用しているという。
ライダーのポテンシャルの高さは、もっと評価されて然るべきだ
「ライダー25とライダー26のウエーブプレートを比較すると、その形状や厚みを変更しています。その理由は、ミッドソールを2㎜厚くしたため。厚くなったミッドソールによる、着地時の軟らかさを担保しつつ、反発性を高め過ぎず、さらなる安定性を重視した設計です」(吉村さん)
ここ数年のランニングシューズ開発のトレンドは、初心者から履けるランニングシューズから、プレートの存在を消すことだった。ミッドソールを厚底化して+ゆりかごのような形状のロッカー構造を持たせることで、転がるように走るシューズは、確かに流行りではある。しかしロッカー構造は、多くの初心者にとって、必ずしも優しい構造は呼べない面もあるのだ。
しかしミズノには、ライダーがある。ライダーには、ウエーブという確固たる信念とデータに裏打ちされたプレートがあって、しかもその技術は26年継続して高められてきた。さらに、パーツやフォームのクオリティの高さを、日本のモノづくりの価値として継承してきている。ライダーには、もっともっと高いポテンシャルが秘められている。
「ウエーブがあることで、着地のファーストタッチが安定します。そこから蹴り出しにかけての動作が、スムーズに繋がるのです。まさにウエーブは、ミズノのランニングのコンセプト“スムーズさの追求”そのものの機能なのです。ライダーの良さは、ウエーブによる安定感と、その反発性です。それを変えることはありません」(吉村さん)
いよいよ次回は、ミズノ「ウエーブライダー26」の実走インプレをお届けしよう!
撮影/石原敦志
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