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ランニング
2022/9/18 20:45

「分からなかったら、作っちゃう!」アシックス若き開発者たちの、あくなき挑戦!

ギョーカイ“猛者”オータワラトオルが、走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし

2022「アシックス」秋の陣①開発者インタビューの巻

 

運動不足だし、ランニングでも始めようかなぁ。となると、“おニュー”のランニングシューズが欲しくなる! 厚底やら、モノトーン系やら、いろいろ売られているけど、正直どれが良いのだろう……。そんな悩みをスッキリさせてくれる企画がスタート。

 

長年スポーツ・フィットネス業界に身を置き、カラダを張って取材してきたギョーカイ猛者・編集者オータワラトオルがお送りする、新企画「ギョーカイ“猛者”オータワラトオルが、走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし」。ランニングシューズの選び方から、開発のトレンドなどなど。直接メーカーに取材し、しかも最新シューズを走りまくって試してしまう企画です。

 

アシックス スポーツ工学研究所からお届けします

今月は、メーカー各社がシューズを開発するにあたり、ひとつの“物差し”となってきた、日本が誇るグローバルスポーツカンパニー「アシックス」にフォーカス! 計3回にわたりお届けする第1回目は、アシックスの開発力の源泉となる研究施設、兵庫県・神戸市の「アシックス スポーツ工学研究所」からである。

 

最前線に立つ若き開発者に、ランニングシューズ選びのキホンと、開発イズムを取材してきた(2回目と3回目は、2022最新のランニングシューズを、オータワラが実際にテストランしたインプレをお届けの予定)。

↑今回お話を伺った、ランニングシューズの若き開発担当たち。右、「NOVABLAST 3」の担当、益本真吾さん。左、「GEL‐KAYANO29」の開発担当、中村浩基さん。研究所内のオープンスペースにて

 

【開発者に訊く①】ランニングシューズの選び方

ネットで検索しても、ピンとこない……。お店に行っても、迷うだけ……。「運動不足解消、痩せるべく走ろう!」という気持ちになったが、カンジンの一足が選べない時は、どうすればいい?

 

「シューチューバーやユーチューバーの動画を見て、知識を蓄えている方が多くなりました。知識は増えたのですが、情報をどう自分に取り入れてるか、かえって迷ったり、間違った選択をされる方もいます」と答えるのは、アシックスのランニングシューズ開発者、中村浩基さん。

 

「トレンドに流されて、無理して走ってケガしては意味がありません。必要なことは、まずは自分の足を知ることです」(中村さん)

↑「GEL‐KAYANO29」の開発担当、中村浩基さん

 

シューズ選び4つのキホン。

 

【開発者に訊く②】中古のシューズって、ダメなの?

カッコよく走る自分をイメージし、トレンドや見た目でランニングシューズを選びがちだが、まずは自分の足を知り、目的を明確にするのが先決だという。

 

「ネットの中古マーケットも大きくなっていると思います。コレクターは別として、注意したいのは、3、4年以上前のランニングシューズです。中古のシューズは、クッション性も耐久性も確実に落ちています」(中村さん)

 

走る以上、シューズの機能が活かせなければ、ケガのリスクが高まるだけ。長く安全に走り続けるなら、新しいシューズを選ぶのが賢明なのだ。

 

「検索するだけでなく、アシックスのショップや、ランニング専門店へ行くのが理想ですが、ショッピングモールに入っているようなスポーツ量販店などに行ってみることもおススメです」(中村さん)

 

スポーツ量販店の店員に相談しにくかったら、ランニングシューズが並ぶ棚を見るだけでも、参考になるという。

 

「目的別に分かりやすい陳列を工夫していたり、詳しく説明したポップが並べてあります。これらを参考に、実際にシューズを手にしてみると、いろいろ発見があるはずですよ」(中村さん)

 

【開発者に訊く③】“シューズを履くだけでは痩せない”、ですよね……。

目的は、運動不足解消や、痩せるためのランニング。ズバリ、それに合うシューズは、どんなタイプだろうか?

 

「履いただけで痩せるシューズは、この世にありません(笑)。痩せるためには、運動が続いて習慣化すること、結果はおのずと伴います」(中村さん)

 

今から始めるならば、安定性があり、クッション性が高いタイプを選ぶことだという。

 

「私が開発を担当した『GEL‐KAYANO(ゲルカヤノ) 29』も、もちろんお薦めの一足です!」(中村さん)

 

【開発者に訊く④】“運動が習慣になる”、コツを知りたい。

“今、走らない理由を10コ挙げよ”。と聞かれたら、筆者は残念ながら、スラスラ答えられる自信がある(笑)。

 

「いきなり“習慣化”と言っても、難しいかもしれません。でも、旅行とランニングをつなげる人たちもいます。見知らぬ街を散歩するように走ったり、カフェを探して走ってみたり。そんな楽しみ方から始めるのも、ひとつの方法だと思います」と答えるのは、『NOVABLAST(ノヴァブラスト) 3』の開発担当、益本真吾さんだ。

 

益本さんによると、地方で開催されるマラソン大会などに出場がてら、観光を楽しむスタイルの“旅ラン”もあるとか。

 

「海外では、初心者が気軽に参加できる、ランニングのゆるいコミュニティがたくさんあります」(益本さん)

 

なるほど、走る仲間を作れば、おのずと回数も増えそうだ。日本でも、ネットで参加者を募るスクール形式のコミュニティは増えており、仲間と一緒ならモチベーションも上がりそうだ。

 

「そうしたコミュニティが煩わしければ、休日の午前中、距離は短くても、気持ちよく走ってスカッとすることでも、運動不足解消になりますよね」(益本さん)

 

まずは、ストイックに考えすぎず、気楽に走ってみる方が、長く続けることができそうだ。

↑「NOVABLAST 3」の担当、益本真吾さん

 

【開発者に訊く⑤】シューズの安定性が、大切なワケ!

「シューズ開発者が重要視するのは、ケガのリスクを抑えて長く走り続けるための、シューズの安定性です」。そう語るのは、先ほども紹介したGEL-KAYANO 29の開発を担当した中村さん。

 

29代目となるGEL-KAYANOシリーズは、国内のみならずグローバルでの評価が高く、今や“ザ・アシックス”とも言うべき同社を代表するブランドである。彼らのような若い開発者たちが、“最新のアシックスの伝統”を担っているのは心強い。

 

「シューズの安定性が高まることで、着地時に足が内側に倒れ込む現象(オーバープロネーション)が起きにくくなります。オーバープロネーションはケガのリスクを高めるので、倒れすぎないように抑える必要があります」(中村さん)

 

安定性とともに重要なのが、クッション性だという。

 

「クッション性の高いシューズ設計によって、スムーズな走りが実現されます。このクッション性には、ミッドソールの素材や厚みが大きく関係しています」(中村さん)

 

【開発者に訊く⑥】「FF BLAST PLUS」は、何が凄い?

クッション性を高めるため、最新のGEL-KAYANO 29で採用された素材がある。

 

「新しく開発された、『FF BLAST PLUS(エフエフブラストプラス)』です!」(中村さん)

 

FFは、『フライトフォーム』というアシックスのミッドソール部材の頭文字で、従来の『FF BLAST』の持つ高反発性やクッション性がアップした上で、さらなる軽量化にも成功している。FF BLAST PLUSをはじめとするミッドソール素材は、アシックスのみならず、スポーツシューズメーカーたちが熾烈な研究開発を競う主戦場なのだ。

 

ミッドソールは、一見すると地味な存在だが、クルマに例えると、エンジンとシャシーを一体化したような存在。ミッドソールの衝撃緩衝性によって、走る動作の中でも足は守られ、高い反発力によってランの推進力を引き出す。しかも、ランニングのパフォーマンスを引き出す上で、軽量であることもミッドソールには求められている。

 

【開発者に訊く⑦】プロトタイピング化、って何?

「ランニングシューズをはじめ新製品の開発は、従来のモノより、さらに良いモノを作る必要があります。その際、新しい素材や機能の採用によって、必ず新たな課題が生まれます」(中村さん)

 

アシックスが解決の方法として重要視するのは、プロトタイピング化だ。今回取材で訪れたアシックス スポーツ工学研究所は、プロトタイピング化のためのラボとしての機能も備えている。

 

研究所は、さまざまなデータをもとに設計されたプロダクツを、瞬時に試作品(プロトタイプ)化できる工場としての機能も持つ。このプロトタイプは、そのままテスト走行で試され、さらなるデータを収集・分析することが可能なのだ。これだけの規模の開発体制を日本国内に持つスポーツメーカーは、現時点ではアシックスだけと言っても過言ではないだろう。

 

「もちろん、数値の後押しは必要です。しかし、体感しなければ答えが出ないことがあります。数値だけで分からなくなったら、私たちは(プロトタイプを)作っちゃいます」(中村さん)

 

そうした試みができるのは、研究所を持つアシックスの強みという他ない。アシックスのモノづくりは、試行錯誤の連続の果てに結実しているのだ。

 

この秋からのランニングは、最新のシューズで!

では話を、シューズ選びについてに戻そう! 運動不足解消、痩せランのためには、安定性とクッション性のあるシューズを選ぶ。

 

「こうしたシューズで走れたら、習慣化しやすいし、走ること自体が楽しくなります。体重が落ちるという結果を伴ったら、嬉しいですよね」(中村さん)

 

各社がしのぎを削る開発競争の最前線だけに、2万円弱という価格も理解できる。

 

「値段は確かに安くはありません。安くはありませんが、自分自身の気持ちや目的と、価格が釣り合うかです」(中村さん)

 

たしかに、フィットネスクラブ2か月分ほどの価格と考えれば、1、2年は使えるランニングシューズの価格は高いとは言えない。しかも、朝でも夜でも、たった一つだけのギア=シューズがあれば、ランニングがスタートできるのだ。

 

「最初は、運動不足解消や痩せランという目的でも、走ることで、“レースに出る”や“旅ラン”などに広がる方はたくさんいます」(中村さん)

 

そうした奥の深さも、ランニングの魅力のひとつ。

 

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