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2022/12/16 11:30

ミズノ「ウエーブライダー26」はランシュー界の高級SUV /「大田原 透のランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”大田原 透が、走って、試して、書き尽くす! ランニグシューズ戦線異状なし

2022-23「ミズノ」冬の陣②「ウエーブライダー26」の巻

 

ランニングシューズブランド自慢の逸品を、走って、試して、書き尽くす本企画。今回は、日本で開発され、世界中で支持される、ミズノランニングの基幹シューズ。26代目となる「WAVE RIDER(ウエーブライダー)」である。

↑「ウエーブライダー26」全10ラインナップ(メンズ⦅2E相当⦆3モデル、メンズスーパーワイド⦅4E相当⦆3モデル。ウイメンズ⦅2E相当⦆2モデル、ウイメンズスーパーワイド⦅4E相当⦆2モデル)、いずれも1万4850円(税込)

 

では、前回に引き続き、ウエーブライダー26(以下、ライダー26)の企画担当の吉村憲彦さんにお話を伺った上で、実走レビューを行おう!

↑3回にわたってお話を伺ったのは、「ウエーブライダー26」企画担当、ミズノのグローバルフットウエアプロダクト本部、企画・開発・デザイン部パフォーマンスランニングの吉村憲彦さん。東京・神田小川町「MIZUNO TOKYO」3階にある、ランニングシューズ売り場にて撮影

 

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“ウエーブライダー史上最高のクッション性”とは?

今回注目するのは、最新ウエーブライダー26である。最新ライダーは、昨今のトレンドである、高いクッション性を得られるモデルだ。2020年からミズノが肝入りで展開する衝撃緩衝性と反発性に優れたフォーム材=「ミズノエナジー」の厚みは、前作よりも2㎜アップ(サイズ27cm)。キャッチコピーは、“ウエーブライダー史上最高のクッション性”である。

 

長年ライダーを履き続けてきた筆者にとって、26作目のミッドソール厚の変更は大変興味がある。たかが2mmながら、されど2mmである。なぜなら、ライダーの最大の魅力は、ミッドソールに配された、適度な硬さのプレート材「ミズノウエーブ」による安定性だから。つまり、フォームが厚くなれば、かえってウエーブによる安定性を損なう可能性が高まる。

 

この2つの両立を、届けるべきターゲットに向け、バランスよく仕上げる。書くのは容易だが、実現は簡単ではない。シューズの開発コンセプトと設計、機能性の高い部材の組み合わせという、正解のないジグソーパズルの答えは、無数にあるからだ。

 

「ライダーの良さは、中足部のプレートである『ミズノウエーブ』による安定感と、その反発性です。そこは、今後も変えずにいきたいと思っています」(吉村さん)

 

“ライダーの良さ”は、ウエーブに宿る

担当者・吉村さんの言葉は、“ライダーイズムの継承”の決意と言える。時代のニーズに合わせてクッション性を担保しつつ、それでも変わらぬ“ライダーらしさの答え”もまた、ウエーブによって導き出したという。

 

「ライダー26では、ウエーブの形状を変えています。25では、ウエーブ左右の両端の巻き上げは、内側にだけ施していました。一方の26では、両サイドを巻き上げています。さらに26では、着地の安定性に影響しない範囲で、かかと側のプレート長を短くすることで着地時の柔らかさをより感じられるようにしました。しかも、(軽量化の工夫をしながら)ウエーブの形状を変えて、強度を高めました。これらの変更はすべて、ミッドソールを2mm厚くしたことに対応する、ライダーの安定性の確保のためです」(吉村さん)

↑ミッドソールのフォーム材に挟まれたブルーのプレートが「ミズノウエーブ」

 

ライダー26では、シューズの裏面のアウトソールも変更。前足部と中足部にかけてのラバーを、セパレートでなく一体化させている。ミッドソールへの過度な屈曲を抑え、スムーズな体重移動をサポートするためだ。さらに、アウトソールの前足部と踵内側には、微発泡ラバーを採用。軟らかさと軽量性を追求した。

↑ライダー26のアウトソール。ガイドラインの溝の奥に見えるのもウエーブプレートだ

 

「ライダーのレンジ幅は、ミズノエナジーによって、さらに拡がりました。日常生活を快適に過ごす普段履きはもちろん、運動不足解消のジョギングにも、ダイエットを目指す方にも、初めてのフルマラソンや、マラソンを4時間以内で走り切る目標を持つ方たちまで、ライダー26はさらに幅広く対応できるようなったのです」(吉村さん)

 

いよいよ、ウエーブライダー26を試走!

開発の話をたっぷり聞いたところで、ライダー26の試走スタート! まずは、シューズに足を入れた感覚のインプレを行う。そして、初心者も含め、多くの方々がランニングシューズを履く、3つの理由に合ったペースで実際にフィールドを走ってみた。

 

最初は、「運動不足解消」が目的、1㎞を約7分で走る(=キロ7分)の~んびりペース。続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分で走る(=キロ6分)ゆっくりペース。最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)「スカッとラン」。気になるライダー26のポテンシャルを、引き出してみた!

 

【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感)】

走り出すには、心のウォーミングアップも必要だ。まずは、丁寧にシューズを履いてみよう。ライダー26の平ひものシューレースは、たっぷり緩める。シューズの中まで、新鮮な空気で満たそう。ランニング用の薄手のソックスをまとった足を、シューズに通す。つま先を上げて、かかとをシューズに合わせる。大振りのかかとの部材(ヒールカップ)がしっかり足を包むはずだ。

 

シューレースは丁寧に、きっちり締める。頃合いは、きつ過ぎず、ゆる過ぎず。気持ちを“走るモード”に切り替えるべく、左右均等に締めよう。もちろん、結び目の大きさも揃えたい。徐々に、ライダー26で走り始める心のウォーミングアップが整ってくるはずだ。

 

ゆっくり立ち上がる。前作より2㎜厚くなったミッドソールのフォーム材「ミズノエナジー」の優しい厚みを感じよう。続いて、かかとに重心を移す。かかとには、中足部に配されたプレート「ミズノウエーブ」が及んでいない。その分、ミズノエナジーの心地よい沈み込みを堪能できる。

↑前モデル(ウエーブライダー25)からクッション性は約20%、反発性は約30%向上

 

今度は、つま先重心。前傾姿勢になると、すぐに走り出したくなる。その理由は、シューズの設計にある。つま先とかかとの高さを比べた際、かかと側が12mm高い構造だからだ(ランニングシューズ界隈では、この落差をドロップと呼ぶ)。ほどよいドロップによって生まれる前傾姿勢は、カラダを前へ進めることに役立つ。たしかに、過度に高いドロップは膝への負担を高めがちだが、低いドロップのシューズ=快適に走れるとも限らない。

 

話とともに、重心を、ニュートラルに戻そう。アーチ(土踏まず)は、中足部に配されたプレート=ミズノウエーブがしっかりとホールドしている。今、走り出せば、ウエーブによって、さらなる安定感を得られるはずだ。準備完了! あとは、走り出すだけ!

 

【運動不足解消ジョグ(1㎞を7分で走るペース)】

1㎞を7分かけて走る。ランナーは、時速ではなく、「キロ〇分」という表現で、自分たちの速度をカウントする。ちなみに、キロ7分は、時速にすると8.75㎞/時。歩きの時速は4㎞/時ほどなので“超速”っぽいが、実際走ってみると、キロ7分なら、運動不足解消のジョギングペース。一緒に走るひととおしゃべりできる、の~んびりランである。

 

キロ7分での、ライダー26。着地の瞬間、「ミズノエナジー」の軟らかさが、かかとから足の裏全体に伝わってくる。ミッドソールが2㎜厚くなって、なるほど今どき流行のソフトな着地感を堪能できる。

 

運動不足の解消が目的、公園まで往復3~5㎞程度のジョギングであれば、ライダー26はもちろん申し分ない。実際、何も考えずに、気持ちいいと感じるペースで走ると、1キロ走るのにライダー26では6分20分秒。あくまで筆者の走力でのインプレなのだが、ライダー26の設計上のポテンシャルとも、まさに噛み合ったペースと言える。

 

【痩せラン(1㎞を6分で走るペース)】

続いて、1㎞を6分で走るペース。時速に直すと、ジャスト10㎞/時。1時間走り続ければ、10㎞進む計算になる。大雑把な目安だが、ランニングで消費されるエネルギーは、距離×体重で計算できると言われている。体重70㎏の人が、10㎞走ると700キロカロリー。700キロカロリーは、そば一杯分程度なので、ランチを食べなかったくらいのダイエット効果がある。1㎞6分のペースだと、消費カロリーの約半分は、脂肪が使われる。距離を伸ばせば伸ばすほど、つまり、お腹周りは軽くなるのである。

 

ペースを上げても、さすが26代目となるライダー、余裕の安定感だ。試しに、ダラダラ上る坂道に突入。2㎜厚くなったミズノエナジーの反発性がいかんなく発揮される。体力以上に、ぐいぐい登る。乗り物でいうと高級SUVや、クロカンMTBの上級モデルのような、スムーズな登坂力だ。ただのチカラ任せではなく、サスペンションを含めた躯体の構造でガシガシ前に進む、あの感覚が得られる!

 

下りも快適。アウトソールの一体化された広いラバー面、さらにウエーブのおかげで、安定感も抜群だ。昨今ブームの厚底&プレート無しのシューズだと、内側のフォーム材を厚くして安定感を出すタイプもあるため、下りでの安定感に不安を覚えることも。その点、プレートのあるライダー26は、そんな不安とは無縁だ。

 

インプレに要する絶対的な時間が必要なので、断定こそできないが、フルマラソン以上の距離でも、最新ライダー 26はポテンシャルを発揮するはずだ。特に、いっぺんにまとめて70㎞~100㎞走るウルトラマラソンなどの、いわゆるエンデュランス系のイベントにも合うだろう。筆者も、過去のモデルのライダーで、100㎞のウルトラマラソンを何度も走っている。ウルトラマラソンには、コースにアップダウンが組み込まれているため、ウエーブの安定性は後半の救いの綱となるはずだ。

 

【スカッと走(1㎞を4.5~5分で走るペース)】

下り坂でペースアップしたので、そのまま走り続ける。坂道の位置エネルギーによる慣性は、平地に戻ると、あっという間に終わる。その後の立ち上がりは、脚力の勝負。MTBであればギアを落とし、サスペンションをロックして、立ち漕ぎでもがいて加速するシーンだ。

 

ライダー26のミズノエナジーの反応性も、決して悪くはない。時間をかけてペースを上げるなら、十分すぎるスペックだ。しかし、打てば響く、まさにレースで使う加速性能は、持ち合わせていない。ライダー26の反応速度は、レースに勝つためではなく、あくまでランを楽しむためのものと言えよう。

 

実は、ミズノエナジーには、さらに上位スペックの「エナジーライト」、「エナジーコア」がある。これらは、さらなる衝撃緩衝性と高い反発力を持つフォーム材だ。ハイスペックなフォーム材は、使い方を誤ると怪我のリスクにもなる。上位スペックを含めたミズノエナジーの全貌は、いずれまた、この企画で紹介する機会を設けたい。

 

ライダー26の魅力は、“スカッと走”よりも、運動不足解消や脂肪燃焼ランに向く。さらに、ウルトラマラソンなどの過酷な環境でのランニングに適していると言える。ライダーが目指しているのは、安定性に優れ、バランスの良い“誰からも愛されるシューズ”なのだ。

 

次回の予定は、ライダーのDNAを受け継ぎ、ライダー26と同じスペックのウエーブを採用している「ウエーブネオ ウインド」。今どきのイケメン風のシューズ素顔やいかに! 乞うご期待である。

 

撮影/石原敦志

 

 

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