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2022/9/21 20:45

アシックス「NOVABLAST 3」見た目は派手だが、実は優等生。 “最速”はムリでも、“最強”なら目指せる!

ギョーカイ“猛者”オータワラトオルが、走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし

2022「アシックス」秋の陣②「NOVABLAST 3」の巻

 

2回目は、アシックスの2022最新シューズ「NOVABLAST(ノヴァブラスト) 3」を実際にテストランしたインプレをお届けしよう(第1回は「アシックス スポーツ工学研究所」の若き開発者インタビュー。第3回は、2022最新「GEL-KAYANO(ゲルカヤノ) 29」の試し履き走インプレの予定)。

↑「NOVABLAST 3」。メンズ4色展開(ウイメンズ3色展開)、いずれも1万4300円(税込)。ラスト(足形)は2タイプ(スタンダード、ワイド ※ウイメンズはスタンダードのみ)

 

↑今回お話を伺った、「NOVABLAST 3」の開発担当、益本真吾さん

 

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初心者が楽しく走れるシューズを作ったら、ガチの評価がついてきた⁉

この秋、発表されたばかりの2022最新NOVABLAST 3。飛び跳ねながらゴールを駆け抜けられる爽快感は、とりわけ海外で高い評価を得ている。

 

「本来は、5km、10㎞のショートのランニングを想定し、初心者に楽しんでもらうシューズとしてNOVABLASTシリーズは開発されました。しかし意外なことに、レースで記録を目指すようなエリートランナーと呼ばれる選手たちからも、NOVABLAST 3への高い支持があったのです」と、満面の笑みで語るのは、NOVABLAST 3の開発に携わった、益本真吾さんだ。

 

「まずは、アシックスの契約選手たちからの好評価です。トップ選手たちは、さまざまなシューズを練習中に履き替え、異なる刺激によって脚力を養います。そんなトレーニング用の一足として、NOVABLAST 3が採用されたようです」(益本さん)

 

現在、エリートランナーたちがレースで使用するハイエンドのシューズは、カーボンプレート入りのタイプが主流となっている。そのため選手たちは、カーボンに頼らずに地脚を作るトレーニングとして、NOVABLAST 3で走るのだという。

 

柔らかいのに、よく跳ねる⁉

「NOVABLAST 3でフルマラソンを走る方もいますが、きちんと鍛えた足でないと、ケガのリスクが否定できません。理由は、設計上、踵や中足部の安定性よりも、前足部の反発性を重要視しているからです。もちろん自由に履いていただいて構わないのですが、天候の急変や気温の変化があるフルマラソンなど“何が起こるかわからない”長距離レースで履くなら、個人的にはGEL-KAYANOをお薦めします(笑)」(益本さん)

 

NOVABLAST 3の最大の特徴は、着地の衝撃を緩衝し、蹴り出しの際に推進力に換える反発性を活かした、ソール全体の構造だ。本来、衝撃緩衝のクッション性と、推進力としての高反発は、矛盾した機能だと言える。極端に書けば、“柔らかいのに、よく跳ねる”のだから! ひとつのシューズで異なる機能を兼ね備えることは、ひと言で表現するほど簡単ではない。

 

「私たち開発者は、こうした矛盾を、走る動作のフェイズで解決できると考えてきました」(益本さん)

 

着地のフェイズで必要なのは、踵や中足部での衝撃緩衝のクッション性だという。

 

「ミッドソールのフォームの厚みや素材、そして形状が重要です。NOVABLAST 3は、踵部の中央に大きな凹みを作り、動きに合わせたスリットを入れ、フォーム全体が変形しやすい形状を採用しています」(益本さん)

↑歴代NOVABLASTの裏の顔は、何と言ってもミッドソールとアウトソール! 着地する踵のミッドソールは凹み、蹴り出すつま先側は膨らんだ設計になっている。この設計により、着地衝撃を構造的にも緩衝し、蹴り出し時に反発力に換えているのだ。低速時だけでなく、加速時にはターボがかったような感覚を体験できる

 

まるでトランポリン! フォーム全体で変形しやすい形状を採用

一方の蹴り出しのフェイズでは、しっかりした反発を得ること。

 

「足の母指球にあたる部分に、踏み込んでから蹴り出せるよう、中央部に『トランポリンポッド』という膨らみを設けています。こうした形状の工夫によって、クッション性と反発性を担保しました」(益本さん)

 

ご存じの通りトランポリンは、脚力だけで跳ぶのではなく、着地による衝撃をカラダ全体で吸収しつつ、台の反発力のアシストを得て、重力に逆らう推進力にしている。全身の筋肉の高度な連携があって、初めてトランポリンで高く宙を舞えるのだ。NOVABLAST 3を履くエリートランナーたちも、そうした機能を自分のトレーニングに活用できることを、履いて走った際に感じたのだろう。外見が派手なNOVABLAST 3だが、中身を聞くほど“なるほどアシックス”だ。

 

「前足部のフォームが変形しないと、きちんと踏み込めません。そのためロッカー(つま先を反らせる形状)も抑えた設計にしています。ドロップ(つま先と踵の高低差)も8㎜と、見た目とは異なりマイルドです。履いてもらうと、奇異ではないことに気付いてもらえるはずです(笑)」(益本さん)

↑黄色のミッドソール素材は、軽量かつ衝撃緩衝性と反発性に優れた最新のEVA系新素材「FF BLAST PLUS」が使用されている。FFはアシックス自慢のミッドソールのEVA系素材「フライトフォーム」の頭文字だ

 

アシックスが、エラストマー系ミッドソールに慎重なワケ!

インパクト大の厚みのあるミッドソールには、新素材も投入されている。

 

「『FF BLAST PLUS(エフエフブラストプラス)』です。NOVABLAST 3だけでなく、2022新作シューズにも採用されています。クッション性と反発性に優れ、しかも軽量というEVA系の素材です」(益本さん)

 

軽量EVA素材のひとつとして、アシックスが誇るFF BLAST PLUS。サンプル部材を持たせてもらったが、“EVA=重い”というひと昔前の発想は、永遠に封じ込めた方が良いと反省させられる、驚きの軽さだ。

 

せっかくの機会なので、ミッドソールのトレンドの素材の話も聞いてみよう。ミッドソールのEVA素材といえば、最近話題になっているのが、厚底シューズへの採用で話題となったエラストマー系のフォームだ。正月の駅伝や、世界最高峰の競技会で目にした、アレである。

 

しかし、アシックスは、エラストマー系のフォーム素材に必ずしも積極的ではない。慎重さのワケは、何なのだろうか?

 

「開発チームは、さまざまな素材の中から、コンセプトにベストマッチするモノを選定しています。フォーム材に求められる高反発性とクッション性、軽さを追い求めた結果、現時点でエラストマー系の素材はベストマッチしなかったのです。

 

今後、開発が進み、高反発性、クッション性、軽量性をバランス良く実現できた場合は、エラストマー系のフォームも採用される可能性はあります。でも、まずランナーたちの要望を満たす目的が先であって、素材ありきではないのです」(益本さん)

 

今後、NOVABLASTは、どのように進化するのだろう?

 

「変えてはいけないコンセプトは、(前足部の反発性によって)走ることを楽しんでもらう点です。これからの課題は、高い機能性を担保したまま、脚の負担を減らすべく、軽量化を図ることです」(益本さん)

↑アシックス スポーツ工学研究所の屋上に設置された、テストラン用のスロープ。トレイルランニングなどのシューズ開発用のフォースプレート(床反力計)が設置されており、サーフェイス(路面)の質を替えての試験も行われる。クッション性の高いNOBABLAST 3のインプレは、屋外のアスファルトのトラックとともに、こちらのスロープでも実施。私は身長175cmながら、雨除けの天井にぶつからんばかりのトランポリン感~!

 

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