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2023/2/15 11:30

HOKA(ホカ)の“元味”! クリフトン 9/「大田原 透のランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”大田原 透が、走って、試して、書き尽くす! ランニグシューズ戦線異状なし

2023「HOKA」冬の陣② クリフトン 9の巻

 

ランニングシューズブランド自慢の逸品を、走って、試して、書き尽くす本企画。今回は、フレンチアルプスの麓アヌシーで開発された、元祖“厚底”ブランドHOKAのロードランニング代表モデル「CLIFTON(クリフトン) 9」である。

↑2023年2月15日に登場した「クリフトン 9」。メンズ10色展開、ウィメンズ10色展開(2023年2月より新色を順次展開)、2万900円(税込)

 

「“HOKAを履いてみたい”とおっしゃるお客様に、自信を持って私たちがお勧めするシューズが『クリフトン』です。機能的にもHOKAのラインナップの中心に位置して、一番ニュートラル。クリフトンは、言わばHOKAの“元味”です」。

 

と語るのは、日本におけるHOKAの販売戦略を担当する大庭貴士さん。大庭さんによると、クリフトンは開発当初、トレイルで培ったHOKAの機能をロードで活かすモデルのひとつだったという。

↑今回お話を伺った、デッカーズジャパンHOKA担当MD(マーチャンダイザー)大庭貴士さん

 

 

クリフトンを軸に、さまざまなモデルを開発される

「バランスが良いモノを作ったら、結果的に“元味”になった、というのが実情です。モデルが増えてゆくに従い、クリフトンを軸にして、さまざまなモデルが開発されるようになりました。クッション性があって、楽にトレーニングできるロードモデルという課題が先にあってクリフトンが出来たので、最初からHOKAを代表するシューズを作ろうとしたのではありません」(大庭さん)

 

クリフトンのターゲットは、最初にHOKAを履く人、ランニングを始めようとされる人、クッション性のあるトレーニングモデルを探している人、そしてフルマラソン42.195㎞を4~5時間かけて楽に完走したい人だという。

↑2層構造のアッパーは、素材が重なる部分を肉抜きし、圧着パーツも削減して、軽量化と耐久性を確保している

 

さらに厚底を3㎜増量、でも軽量に!

「最新のクリフトン 9では、ミッドソールを前モデルから3㎜厚くしましたが、重量は少し軽くなりました。素材のEVAのブレンド比率を調整することで、着地時のクッション性は高いまま、蹴り出しが強くなりました。HOKAのメタロッカージオメトリー(爪先と踵がゆりかご状にラウンドさせたロッカー構造)だけでなく、ミッドソールの素材そのものの機能も高めました。履き心地では沈み込み、蹴り出すと良く足が回ります」(大庭さん)

↑前モデルより3㎜厚くなったミッドソールながら、軽量になった。27cmのシューズであれば2g軽くなっている

 

圧倒的なボリュームのミッドソールに対し、クリフトンのアウトソールは張り付くように配されている。クリフトン 9では、アウトソールのラバーの位置を変更することで、中足部への負担を軽減。中足部のミッドソールも削られにくくなったという。

↑右は「クリフトン 8」。左が新作のクリフトン 9。足運びをスムースにすべく、中足部のアウトソールを改良している

 

ランナーが、走る快適さを求めて開発

「地味な部分ですが、足の甲にあたるガセットタンは、内側だけシューズのアッパーに固定されています。そもそもガセットタンは、タンを安定させるためのモノなのですが、内外両方をアッパーに連動させると、足入れが窮屈になってしまいます。タンは、歩いたり走ったりすることで、カラダの内側から外側に向けて引っ張られますから、内側を固定するだけで、タンがズレる気持ち悪さが防げます。開発者がランナーですから、何が快適なのかを、良く知っています」(大庭さん)

↑内側だけシューズに固定されたガセットタン。ローテクながら、ランナーに嬉しい設計だ

 

ヨーロッパ車と同じ発想のホールド感

クリフトンを含めたHOKAのシューズの特徴は、踵から中足部にかけてのアクティブフットフレームという部材で、しっかりと足が納まるようにしている点だ。昨今、ヒールカウンターが薄くなっているモデルが多く登場しているが、HOKAはホールド感を重要視している。

 

「シューズのクッションを活かすためにも、そして指先がしっかり使えるためにも、踵から中足部のホールド感は重要です。長時間の運転でも疲れさせない、しっかりしたシートを採用するヨーロッパ車と同じ発想です(笑)」(大庭さん)

↑踵から中足部にかけて、足をしっかりホールドするアクティブフットフレームという構造体が入っている。上から触っても、その存在がハッキリ分かる

 

 

いよいよ、クリフトン 9を試走!

いよいよ、クリフトン 9の試走スタート! まずは、シューズに足を入れた感覚およびウォーキングのインプレ。そして、初心者も含め、多くの方々がランニングシューズを履く、3つの理由に合ったペースで、実際にフィールドを走ってみた。

 

3つのペースは、以下の通り。「運動不足解消」が目的であれば、1㎞を約7分で走る(=キロ7分)の~んびりペース。続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分(=キロ6分)のゆっくりペース。最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)「スカッとラン」。クリフトン 9の実力、とくとご覧あれ!

 

【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感&ウォーキング)】

内側だけ固定されたガセットタンは、なるほど履きやすい。立ち上がっても、外見からつい想像してしまう奇異な感じは全くしない。厚底ながら、フラットな安定感。ドロップ(踵から爪先にかけての傾斜)が5㎜なので、当然と言えば当然。それにしてもクリフトン  9、よく沈む。

 

歩くとさらに、HOKA自ら“マシュマロ”と表現するクッション性を、まさに堪能できる。厚切りのステーキで例えれば“レア”。HOKAの“元味”をレアでいただく……と書くと、何の原稿だか分からなくなるが、このクッション性だけでも履く価値がある。加えて、HOKAのミッドソールの命ともいえる洗練されたロッカー構造「メタロッカージオメトリー」で、サクサクと歩ける。こんなフカフカさで走ったら、足が疲れるのでは? と、少々不安になるくらいだ。

 

【運動不足解消ジョグ(1kmを7分で走るペース)】

運動不足の解消のペースは、の~んびりが基本。1回走っただけでは、運動不足は解消しない。長続きさせるには、気楽に、散歩の延長の“散走”くらいがちょうどよい。休日の午前中、行先を決めず、ペースを落とし、時折止まってもOKで走ってみよう。という、の~んびりペースでのクリフトン9のクッショニングは絶好調だ。

 

厚切りステーキに例えると“ミディアムレア”。レアで感じたクッション性はそのまま、低速で走っても安定感まで失われてはいない。歩いている時に感じた不安感は、少し薄れてきた。しかも、見た目以上に軽い。厚底=重い、と勝手に思ってしまうが重量は248g(27㎝の場合)しかない

 

【痩せラン(1kmを6分で走るペース)】

散歩ならぬ“散走”だけでも、継続さえすれば、お腹周りはシュッとしてくる。継続できたあなたは、週に1回の“散走”を、週に2、3回にバージョンアップさせるチャンス到来である。ベルト穴の2段飛ばしシェイプも、夢ではないのだ。

 

1キロを7分で走る“散走”ペースから、さらに脂肪燃焼効率の高い1キロ6分に変えると、クリフトン 9の走り味が変化する。ミッドソールのクッション性に加え、バネが効いてくる。同じシューズなのに、乗り味が変わる不思議さだ。ミディアムレアの生感から、火が通ることでタンパク質が熱変性するのと同じく、クリフトン 9のミッドソールに硬さが出てくる。

 

ちなみに、筆者が、な~んにも考えずにクリフトン 9を履いて気持ちよく走ったペースは、1キロ6分10秒ほど。なるほど開発時のターゲット的にも合致している。筆者が最初にHOKAを履いた、クリフトン 2でウルトラマラソンを走ったペースもほぼ同じ。個人的な好みとしては、クリフトン 2の少し硬めのミッドソールの方だが、昨今の軟らかブームに竿を指すわけにもいくまい。

 

【スカッと走(1kmを4.5〜5分で走るペース)】

続いては、フィジカルではなく、メンタルのケアのためのラン。速く駆け抜け、気分を切り替え、喉の渇きをグビグビとさせたい方向け「スカッと走」である。フラットな路面を速く駆け抜けようとすると、クリフトン 9のミッドソールのバネは、ちと重い。設計が違うのだから、当然と言えば当然だ。

 

だが、坂道を走ると話は変わる。心臓バクバクで坂を上り、一気に駆け降りると、クリフトン 9のミッドソールは、まさに“ウエルダン”になる。坂道での走行で、クリフトン 9のミッドソールのクッション性と反発性がいかんなく発揮され、転がるように足が回る

 

撮影とは異なる日に、近所の石畳の激坂でも試してみたが、クリフトン 9の広い踏み面は不安定な石畳をしっかり掴み、ミッドソールのクッション性もあって、不安なく駆け降りることができた。多くのウルトラマラソンのコースには、必ずやっと走り切れる程度の、斜度の長~い坂が待ち構えている。クリフトンを選ぶ人が多い理由は、まさにアップダウンの強さにあると改めて気付かされる。

 

フレンチアルプスのトレイルランニングで培われたHOKAの衝撃吸収と安定性は、やはり坂で発揮されるのだ。う~む、また100㎞走りたい気分になってきたぞ!

 

 

撮影/中田 悟

 

 

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