スポーツ
2023/2/4 11:30

アーバンスポーツ「BMXフリースタイル」のルール、トリックについて学ぼう!

これまでのストリートカルチャーのイメージから大きく変化。4年に一度のスポーツの祭典で正式競技として採用されたことでアーバン(都市型)スポーツとして、若者を中心に注目されているのがスケートボードやBMXです。しかし、実際はこれらについて、どのようなルールで行われ、どんなトリック(技)があるのか知らない人も多いのではないでしょうか。

(C)JFBF

 

2024年のパリ大会では日本人ライダーのメダル獲得も期待されるBMXフリースタイルについて、日本代表監督と全日本フリースタイルBMX連盟(JFBF)の理事長を兼務する出口智嗣さんに、ルールと多彩なトリック、そしてフリースタイルの魅力を伺いました。

 

見た目以上に過酷なフリースタイルの世界。危険なトリックに果敢に挑むライダーたち、そして、お互いにリスペクトし合い競技後に見せる感動のシーンなど、これを読めばBMXフリースタイル競技を見る目が変わるでしょう。

<識者紹介>

JFBF理事長:出口智嗣さん

1977年岡山県生まれ。10歳でBMXに出会い、BMXレースで3度の全日本チャンピオンを経験。16歳でプロ契約し、21歳でフリースタイルに転向。フリースタイルシーンをリードしたが、競技中に大怪我に遭い29歳で引退。その後、全日本フリースタイルBMX連盟(JFBF)を設立し、日本代表監督としてもBMXフリースタイルの選手育成に尽力。2022年設立の「岡山県アーバンスポーツ協会(通称アックス)」の理事長も務める。

 

BMXとは?

1960年代後半から70年代前半、アメリカ・カリフォルニア州でバイクのモトクロスに憧れた子どもたちが自転車で真似をして、20インチの自転車で土の上を走り回った遊びがBMXのルーツです。

 

ストリートのカルチャーを受け継いでいるため、カジュアルで手を出しやすく世界中で人気があり、やがてスポーツの祭典の公式種目に(2008年の北京大会でBMXレース、2021年の東京大会でBMXフリースタイルが正式種目に)認定されました。

 

BMXには大きく分けて、コースを走ってタイムを競う「BMXレーシング」と、技の難易度や完成度、トリックの組み合わせや構成、ジャンプの高さなど総合的な採点が行われる「BMXフリースタイル」があります。

 

「BMXレーシングは、バイクのモトクロスを自転車で行う競技です。全長300mぐらいのコースに3ヶ所のコーナーや複数のジャンプ台があり、8人で一斉にスタートして一番にゴールした人が勝ち。服装としてはフルフェイスヘルメットを被り、レーシングスーツやモトクロスのジャージを着ます。対して、トリック(技)を披露するBMXフリースタイルは総称であり、さまざまな種目が存在します。」(出口さん)

 

BMXフリースタイルとは?

そんな「BMXフリースタイル」には、厳密には4つのジャンルがあります。スポーツの祭典で採用されている「BMXフリースタイル」は、そのなかの「BMXパーク」にあたります。

 

■BMXパーク

35m×35mや40m×40mくらいの四角いフィールドに、すり鉢状のハーフパイプやジャンプセクションがいくつもあり、選手はこれらの地形を活かしながら、さまざまなトリックを繰り出します。一般的にはスケートボードのパークで、スケーターたちとともにプレーすることが多いのが特徴。近年、このようなフィールドが全国各地に誕生しています。

 

■BMXストリート

街中に存在する手すりや壁、階段などを使ってトリックを披露します。その名の通り、場所はストリートなので、BMX1台あればパフォーマンス可能。「BMXフリースタイル」のなかで、一番競技人口が多い種目になります。

 

■BMXフラットランド

舗装されたフラットなエリアでBMXをくるくる回して、いかに足を地面につかずに回転できるかなどの独創性を競います。約3分の制限時間内で技を披露し、その完成度や構成が採点されます。2018年からはフラットランドのワールドカップも行われています。

 

■BMXダート

セクションやジャンプ台が土(ダート)で作られており、そのパーク内でジャンプ技を披露します。見た目は良いのですが、街中では行えず山の中などでの開催となるので、観戦が難しいという点がネック。トリックの難易度やオリジナリティを競います。

 

BMXフリースタイルのルールについて

(C)JFBF

自転車競技のなかで唯一、審査員による採点種目なのが、BMXフリースタイルです。

 

「BMXフリースタイル(パーク種目)は制限時間の中でコース内を自由に滑走します。予選は60秒で2ラウンド行い、決勝も60秒で2ラウンド行います。予選は1本目と2本目の平均点で争われ、そのため2本とも決めないと高得点となりません。準決勝からはベストラン方式で、2ランのうち良い得点を採用。そのため、準決勝からは一発決めれば勝ちとなり、BMXフリースタイル本来の面白さを感じられるルールになっています。

 

ランで重視されるのが、本質的な自転車のコントロールのうまさとトリック。一方、トリックをかっこよく決めても、ランディング(着地)でゲシったら(※編集部注:着地する際に、自転車の後輪がエッジなどに当たってしまうミス)減点です。基本採点は加点法ですが、減点もありますね。1ランに多くて12~13回飛んでいるのですが、1つのジャンプミスがすべてに響いてきます。すぐには次のジャンプがしづらくなり、縦回転や横回転などのトリックにうまくつなげられなくなります。」(出口さん)

 

BMXフリースタイルは、BMXとオープンフェイスヘルメットがあれば、プロテクター(推奨はされていますが)なしでもOK。ヘルメットの顎ひもを締めれば、グローブもなしでそのまま走れます。

 

「本当はプロテクターやグローブはあったほうが良いですが、かっこわるいから着けない。以前、オーストラリア・ゴールドコーストで開催された『2022年 UCI BMXフリースタイル ワールドカップ オーストラリア大会』に15歳の選手を連れて行きました。

 

その選手は練習時は胸などにプロテクターを着けていましたが、大会のときは『邪魔だから着けたくない』『かっこわるいから嫌だ』と着けませんでした。それくらい選手はスタイルにもこだわっています。」(出口さん)

 

BMXフリースタイルの代表的なトリック(技)について

フリースタイルには、基本となる4つのベーストリックがあります。これらのトリックをうまく組み合わせ、高難度のトリックを60秒間の中にどれだけ取り込むかで勝敗が決まります。

 

■バースピン

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ハンドルを360度回転させるストリートでよく使われるベーシックなトリック。重心は後ろに残し、片方の足はペダルに、もう一方の足はペグに置きます。片方の手でハンドルを手前に引き、もう片方の手でキャッチします。

 

■テールウィップ

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空中で自転車を後方に蹴って、ハンドルを軸に自転車を横に1回転させるトリック。2回転はダブルテールウィップ、3回転はトリプルテールウィップと呼ばれています。

 

■スリーシックスティー(360)

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ハンドルを握ったまま自転車も一緒に、名前の通り360度、横方向に1回転させる上級トリック。比較的ポピュラーな技。

 

■バックフリップ

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自転車とともに縦に1回転、後方宙返りする非常に難易度の高いトリック。1回転して元の前向きの体勢で着地を決めた時点で「メイク」したと表現されます。

 

「4、5年前は『ダブルバックフリップ』と言って、後方宙返りを2回するトリックは1人のライダーができるかどうかでしたが、今では大会中に5、6人出てきます。そうなるとベーシックになりすぎてポイントが上がりません。

 

そこで、ほかの選手がしないコンボ(技のセット)に挑戦する必要が出てきます。以前、(中村)輪夢(選手)が考えたのが、スリーシックスティーをしながらダブルバースピンして、ノーハンドでもう1回バースピンというコンボでした。見事に成功させ、高得点につなげました。

 

技の難易度はもうテッペンに来ていますね。あとは60秒の中に、どれだけ高難度トリックを取り組むかという競い合いになっています。」(出口さん)

 

BMXフリースタイルの魅力について

ダイナミックな空中技で会場を沸かすBMXフリースタイル。

 

「視覚から入るインパクトは、多分ほかの競技にはありません。縦回転や横回転などのトリックは、実際目の前で見ると鳥肌が立つと思います。」(出口さん)

 

選手ごとに個性的なトリックが次々と披露されるので、初めて見ても飽きることがありません。そこでお気に入りの選手を見つけたら、2本目はどんなトリックに挑むかなども楽しめます。そしてもう一つ、実際にフリースタイル競技を経験していた出口さんだからこそ知っている魅力が「リスペクト精神」です。

 

「テレビなどでは競技映像しかほぼ出ていませんが、例えば2020年エストニアで行われた『Simple Session 20』で、輪夢が初めて世界大会で優勝したとき。先に走っていたブランドン・ルーポス選手(オーストラリア)がとんでもないトリックを見せ、優勝確実だと思われましたが、そのあと輪夢が逆転したんです。

 

輪夢の走りの後、真っ先に走ってきたのがルーポス選手でした。そこにほかの選手も集まって、輪夢をワーッと胴上げしました。『お前すごいな』という感じでしたよ(笑)。ほかの競技の監督やコーチからよく『選手は人生を懸けている』と話を聞きますが、BMXは『今ある命』を懸けているんです。これを飛んだら死ぬかも、ということを分かっていてもみんな飛んでいる。

 

ジャンプ台って前から見ると壁に見えるんです。その壁へ40km/hくらいの速度で走っていってジャンプし、トリックをする。『命を懸けて』お互いやっているから『お前はすごい!』とリスペクトできるんです。」(出口さん)

 

競技後、リスペクトし合う選手同士が称え合う感動のシーンには、フリースタイルならではの魅力が凝縮されているのです。

 

BMXフリースタイル注目の日本人選手

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日本時間12月12日まで、オーストラリアで行われた『ワールドカップ』の最終戦では、ジュニアの男女とも日本人選手が優勝するなど、世界的にも日本のレベルは高く、全世界からも注目されています。そのなかで、日本を代表するのが以下の選手たちです。

 

●中村輪夢(なかむら りむ)20歳

17歳でBMXフリースタイルの世界大会「X Games」で準優勝し、大会史上最年少でメダルを獲得。「ワールドカップ」でも日本男子で初優勝を記録した、世界からも注目されている選手です。2021年の東京でのスポーツの祭典では5位入賞。

 

●大池水杜(おおいけ みなと)26歳

2018年の「ワールドカップ」で日本人女性初の優勝を記録。2022年の全日本選手権では、2年ぶり5度目の優勝を果たしました。2021年の東京でのスポーツの祭典では、7位入賞。

 

2024年にフランス・パリで行われるスポーツの祭典で、正式種目として2度目の採用となった「BMXフリースタイル」。前回の東京大会では、日本人男女とも入賞で競技の認知度は高まりましたが、次回はメダルの獲得が期待できそうです。鳥肌モノの豪快ジャンプ、そして「命を懸ける」選手たちの走りをじっくり堪能しましょう。

 

 

撮影/我妻慶一 文/マイヒーロー