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2024/4/18 19:00

アシックスが高機能ランニングシューズ「NIMBUS MIRAI」を発売。シューズリサイクル3つの問題点を解決へ

アシックスは、シューズに使われている材料を容易に分別し、リサイクルできるようにしたランニングシューズ「NIMBUS MIRAI(ニンバスミライ)」を4月12日から発売開始しました。これに先立ち行われた発表記者会見では、商品情報や開発背景について語りました。

 

シューズリサイクルの3つの問題点を解決するNIMBUS MIRAI

商品名の「NIMBUS」はラテン語で「雲」を意味し、アシックスではランニングシューズの最高峰ブランド「GEL-NIMBUS(ゲルニンバス)」に由来します。「MIRAI」には、“持続可能な世界が当たり前となるべく、次世代のランナーと一緒に考えて行きたい”という思いを込めて名付けられました。

 

NIMBUS MIRAIは、シューズの各部位にリサイクル素材を採用し、アシックスを代表するクッション性を重視した高機能モデルとして開発されました。従来と同等の品質や性能を保ちながら、廃棄時にシューズの回収サービスを設け、環境保全への意識改善に取り組む方針です。

↑ユニセックスランニングシューズ「NIMBUS MIRAI」2万2000円(税込)

 

↑ミッドソールには、軽量でやわらかく、跳ねるように反発するFF BLAST PLUSの機能性はそのまま。約24%に植物由来材を使用し、さらに環境に配慮された新たなフォーム材「FF BLAST PLUS ECO」を採用

 

フットウエア生産統括部マテリアル部⻑の上福元史隆氏は、開発経緯について「シューズは世界で年間約239億足が生産されているが、そのうちの使用済みシューズ95%以上がリサイクルされず埋め立てられるか焼却処分になる」というデータを紹介しました。その理由に「アッパーとソールを分離できないこと」、「シューズのアッパーは複合素材でできていること」、「回収とリサイクルできる環境が整っていないこと」の3つの主な理由を挙げ、「NIMBUS MIRAIは、サステナブルと高い機能性を両立させた最上位シューズである」と説明。また開発期間には約3年7か月を要したことを明かしました。

 

これら3つの問題を解決すべく、まず取り組んだのはアッパーとソールが分解可能な接着剤の独自開発です。「使用時に従来と同等の接着強度を保ちつつ、熱を加えれば簡単に剥がせるようにしたことで容易に分別してリサイクルすることができます」と上福元氏は語ります。

↑NIMBUS MIRAI開発責任者 フットウエア生産統括部マテリアル部⻑の上福元史隆氏

 

素材について、パフォーマンスランニングフットウェア統括部デザイン部の安藤良泰氏は、「通常数十種類あるアッパー素材は本体、補強部、ハトメなども全てポリエステル系繊維の単一素材でできており、そのうち75%以上が再生ポリエステルを使用しています。素材を単一にすることでパーツ分解の作業を削減し、高い精度で再生が可能になる」と説明しました。

↑デザイン担当者 パフォーマンスランニングフットウェア統括部デザイン部の安藤良泰氏

 

また、素材にポリエステルを選んだ理由について、上福元氏は「アパレル素材として使われるポリエステルはリサイクルのスキームが整っていることから、シューズでも同じようなリサイクルのループが実現できるのではないかと考えた」ことがきっかけであると話しました。

 

回収されたシューズのアッパー部分は、新たなシューズに生まれ変わり、ミッドソールとアウトソール部分は玉砕処理後、マットやパネルなどの素材の一部にリサイクルされる予定です。

 

シューズ回収に参加し、ともにサーキュラーの実現へ

安藤氏は最も重要な点として、「ランナーの皆さまに履き終わったシューズの回収活動に参加していただくことです」と、顧客を巻き込んだ参加型のサステナビリティであることをポイントに挙げました。

 

足の甲部分にあたるシュータンかシューズボックスに施されたQRコードを読み込むと、回収方法が記載された特設サイトにアクセスできます。オンラインで受付することができ、シューズを回収するスムーズな環境も整っています。

↑シュータンに施されたQRコードを活用し、シューズを回収。ともにサーキュラーの実現へ

 

↑アッパーやアウトソール、ミッドソールなどを容易に分解してリサイクルすることができる

 

上福元氏は、「特殊な材料を使うなど、どうしても高くなる部分がある」としたうえで、「継続的に販売し、規模を拡大していくことが重要。これまで困難と言われてきた、使用済みシューズを資源に戻すアクションを、お客さまと一緒に始動したい」と語りました。

 

サーキュラー実現に向け、継続的かつ様々な角度からサステナビリティに取り組む

↑(左から)サステナビリティ部⻑の井上聖子氏、フットウエア生産統括部マテリアル部⻑の上福元史隆氏、パフォーマンスランニングフットウェア統括部デザイン部の安藤良泰氏、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博氏

 

開発にあたり、アシックスの開発チームは、日本で初めて“ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)”宣言をし、独自のリサイクルの仕組みを取り入れている徳島県上勝町を訪問しました。

 

安藤氏は「町内でリサイクル出来ていない20%の内訳にシューズが含まれていると知り、廃棄を考慮して作られていないシューズ産業の現状を改めて感じた。開発段階からリサイクルを意識することが重要です」と当初を回想。開発のプロジェクトを進めるにあたり、上勝町の訪問が大きかったことを明かしました。

↑NIMBUS MIRAIの部材

 

デザインについて安藤氏は次のようにコメントしています。「サーキュラリティを意味する円や、リサイクルのループのストーリーを手書き風デザインで描くことで、お客様と親しみを持ってコミュニケーションをしたいという想いが一体となり、このループを完成させたいという意味を込めました。カラーは真っ白ではなく、あえてポリエステル素材そのものの色を生かした生成色を採用しています」。

 

また、上福元氏は「機能性・デザイン性は崩さず、“ニンバス”の名に恥じないというところから進めた。『サステナブルな商品だから使う』というのも重要だと思うが、お客さまには快適さやデザイン性、機能性をメインに選んでもらえたら嬉しい。『自分が好きだから』、『自分が履きたいから』というところでまず入っていただき、それでなおかつサステナブルにも気を遣っている商品だということを感じてほしい」と話しました。

 

サステナビリティ部長の井上聖子氏は、「ネットゼロ(温室効果ガス排出量ゼロ)」に向けて、循環型ビジネスへの転換が必要不可欠と考えています。サーキュラーを実現するためにNIMBUS MIRAIは重要なマイルストーンになります。自社の製品材料が『次の製品に循環されること』、『製品の品質・機能性とサステナビリティの両方を追求すること』、『お客様と一緒にアクションを取っていくこと』」を挙げ、NIMBUS MIRAIを通じてさらに取り組みを活性化させていくことを宣言しました。

↑サステナビリティ部長の井上聖子氏

 

また、発表会にゲストとして登壇したサーキュラーエコノミー研究家の安居昭博氏は、アシックスの取り組みについて「商品開発の段階からリサイクルを見据えるサーキュラーエコノミーに取り組むことは、これから異業種にも広がっていくのではないかと思う。特に自社独自の接着剤の開発はシューズ産業のみならず、建築や電化製品といった他分野でも大きなステップになると思う」とコメントしました。

 

NIMBUS MIRAIは、アシックスラン東京丸の内、アシックスフラッグシップ原宿、アシックスストア大阪、アシックスオンラインストアにて発売中です。

 

 

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