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2023/9/22 10:30

CO2排出量世界最少スニーカー「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95」全世界同時発売へ。何がすごい?

2022年9月にアシックスは温室効果ガス(カーボンフットプリント)排出量をもっとも低く抑えたスニーカー「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95(ゲルライトスリーシーエム1.95)」の開発に成功しました。それから約1年後の9月11日、市販スニーカーではCO2排出量世界最少の一足あたり1.95㎏CO2eのGEL-LYTE Ⅲ CM 1.95の世界同時発売を発表しました。国内では9月14日からアシックスオンラインストアで先行発売し、9月22日からアシックス原宿フラッグシップ、アシックス大阪心斎橋で発売されます。

↑「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95」1万9800円(税込)

 

機能性とデザイン性を犠牲にしない

アシックスジャパン東京本社で行われた発表会では、まずアシックス 執行役員、スポーツスタイル統括部長の鈴木豪氏が登壇し「昨年の『GEL-LYTE III CM 1.95』の発表から約1年が経ち、ようやく市販スニーカーでは温室効果ガス排出量最少のこの商品がお客様の手に届けられることになりました」と宣言。発売時期、販売価格の発表ととともに製品の特徴について解説が行われました。

↑「今回の学びをしっかり生かしながら、今後もイノベイティブなモノづくりを目指していきたい」と力強く語った鈴木氏

 

「カーボンフットプリントを最小限に抑えながら、機能性とデザイン性を両立させたのが特徴で、アシックススポーツスタイルを象徴するスニーカーの一つであります『GEL-LYTE III OG』がベースモデルとなっております。」(鈴木氏)

 

同商品のデザイン、構造面での大きな特徴は3つ。一つ目は、刺繍デザインでアシックスストライプなどを表現したこと。二つ目がアッパーの部分で、テープを折り返しながら配置した補強構造が用いられていること。そして三つ目が、見えない部分に配置された裏材が、裁断時の材料ロスを最小限に抑えた形状になっていることです。

 

また材料についても、アッパーの中敷には環境負荷の低いソリューションダイという技法で染色したリサイクルポリエステルを使用。ミッドソールと中敷にはサトウキビなどを原料とした複数のバイオポリマーを配合した、同社が新たに開発したカーボン・ネガティブ・フォームが採用されています。

 

今回のカラーはナチュラル系のワントーンでまとめ、靴底を厚めに設計することで、シーンや服装を選ばず着用しやすいタイムレスなデザインになっています。

↑ランナーに対する国際調査によると、消費者がサステナビリティに対し高い関心を持っていることがわかった

 

同社がMetrix Lab社に委託した2022年の国際調査の調査結果も公表されました。耐久性のある製品や廃棄物の削減、リサイクル材の使用、CO2排出量の削減など、スポーツブランドにもサステナビリティの取り組みに期待する声が高まっており、製品購入の際にもCO2排出量の「表示したものを購入したい」「表示してほしい」を併せて69%となっています。

 

「お客様の商品購入意思決定の際、これらの選択ができるように対応しなければならない。消費者の購買変容に応えるべく、機能性やデザイン性に加えて、サステナビリティという観点でも、今回の学びをしっかり生かしながら、今後もイノベイティブな物作りを目指していきたい」(鈴木氏)

 

失敗しても学びがあり、失敗を恐れてやらない方がリスクは大きい

続いて開発の経緯と実現の要因について、アシックス サステナビリティ統括部長の吉川美奈子氏から説明がありました。同社は、「人々をスポーツを通して心身ともに健康にする」というパーパス(企業の存在意義)のもと、そのためにスポーツをする環境を守っていくための目標を掲げています。

 

「2050年にはNet Zero、2030年までに2015年比でCO2を63%まで削減することを目指しています」(吉川氏)

↑「体重200キロのお相撲さんが50キロになるくらいのダイエットに努力した。それくらいすごいことをしたんです」とユニークな例えも交えて開発の背景を振り返った吉川氏

 

そこで見直したのが、同社のバリューチェーンでのCO2排出量でした。材料調達と製造の生産部分での取り組みにおいて、実に80%のCO2の削減に成功しました。

↑生産段階での再生エネルギー調達や船輸送でのバイオ燃料プランの採用などで、CO2の排出量世界最少の1.95kgに成功

 

同社のスニーカーの平均的なCO2排出量は8kgで、今回達成した1.95kgはその約4分の1。また、シューズはアパレルとは違って、CO2の削減や循環型にするには難しい問題があります。シューズはパーツが多く、材料の種類も多岐にわたるなど構造が複雑なため、製造工程が多く、排出するCO2の量も多くなるのです。その問題を解消するため、従来の商品と比較してパーツを50%以上削減することに成功しました。

 

今回のプロジェクトに当たり、同社では社長を委員長としたサステナビリティ委員会を設けてアイデアをボトムアップしてきたこと、その可能性を信じて情熱にかけて、しっかりと権限を与え、経営資源を投下したことが成功の要因だとも吉川氏は回想します。

 

「サステナビリティを進めるのは簡単ではありません。未来を作るので成功するかどうかわからない。しかし、続けることで、失敗してもそこからの学びがある。失敗を恐れてやらないことのリスクの方が大きい。トップダウンとボトムアップ、そして私たちの強い想いが融合されて、このイノベーションにつながったと考えています」(吉川氏)

 

環境のためであり、お客様のためであるシューズづくり

説明会の第二部は引き続き吉川氏と、アシックス サステナビリティ部「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95」プロジェクトリーダーの荒井孝雄氏と、専門家として慶應義塾大学大学院特任教授の横田浩一氏を迎えてのトークショーが行われました。

↑それぞれ「GEL-LYTE Ⅲ CM 1.95」を着用してトークショーを行った、右から横田氏、荒井氏、そして吉川氏

 

「ステークホルダーとともに環境負荷の低い商品をグローバルで⽣産・販売することの難しさ」をテーマに行われたトークショーでは、最初に専門家から見た難しさからトークがスタートしました。

 

「生産がアジアと海外という、その国ごとに規制や調達の問題など様々な課題があるなか、パーツが多くて組み立て工程も大変複雑なシューズでの材料調達の可視化は難しい。長いサプライチェーンすべてに目を通し、CO2の算出と排出量を抑えるのは大変なことです」(横田氏)

 

「品質を保ちながら、世界最少の排出量を実現することに非常に苦心しました。この両立のために、従来の慣行を見直して、16個の削減策に取り組んで商品開発を進めました」(荒井氏)

↑今回取り組んだ16の取り組みの中で、温室効果ガス排出量をマイナスに保ちながら、同時に高い品質を保つカーボン・ネガティブ・フォームの開発が大きなイノベーションとなった

 

品質だけではなくて、低環境負荷と消費者のニーズにも同時に応えなければいけないため従来の製品開発とは全く異なるアプローチが必要になったといいます。

 

「日本の消費者は良いものを安く買うことに慣れているから、商品のクオリティとサステナビリティをどう両立するかは大きな課題です。それを乗り越えるのが新しい市場創造で、そのために必要なことがイノベーションになります」(横田氏)

 

「マッピングを活用することで、パーツの形状や互い違いに裁断することで廃棄を減らし、テープ形状のものを折り返して配置するなどまったく新しいアプローチによってベースモデル「ゲルライトⅢ OG」より50%以上のパーツ数削減を実現しました。しかし、環境負荷が低いだけでなく、お客様のためのシューズを開発することが重要だと考えています」(荒井氏)

↑ミッドソールと中敷きに採用したカーボン・ネガティブ・フォームやニット+刺繍など、発想の転換でパーツ数とロスの削減を実現

 

また、横田氏は1年に2000人以上の中高生と探求学習を行っており、生徒のアンケートによると「同じ値段であれば社会・環境に良いものを選ぶ」という高校生は全体の8割を超えていたそうです。「私はこの世代をSDGsネイティブ世代と呼び、その購買行動から新しい市場ができてくると考えています」と期待を寄せています。

 

最後はこの商品を手に取るユーザーに向けて、それぞれがメッセージを伝えました。

 

「サステナビリティをテーマに新しいマーケットを作ることは新しい未来を作るということ。チャレンジを引き続き期待しております」(横田氏)

 

「我々の思いに共感いただけたのであれば、ぜひシューズを手に取っていただいて、ともに将来にわたって体を動かし続けることができる未来を守るために歩んでいけたらと思います」(荒井氏)

 

「次はお客様の番です。お客様には購買力があり、世の中を変える力があります。皆さんが、CO2の排出量を気にしたり、透明性を持って開示しているものを購入することで、新しい未来が作られると思います。一緒にサステナブルな未来を作っていきましょう」(吉川氏)

 

世界に誇れるCO2排出量最少のスニーカーを実現したアシックス。次は、このような商品を私たちが意識を持って選択することで明るい未来へつながるはずです。一度手に取って、そのクオリティを確かめてみてください。

 

 

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