【きだてたく文房具レビュー】誰にも怒られることなく破壊行為を行えるノート
以前に、この連載で「いたずら書き専用ノート」というのを紹介したことがある。
要するに最初からちょっとしたモチーフが印刷されているため、真っ白い紙にゼロから落書きするよりもスタートの勢いがつけやすい(余計なお節介の含まれた)ノートである。
そもそも人間の脳というのは、退屈な状態に置かれると白昼夢(非現実的な空想)を見るようになる。そしてこれが脳の処理能力をかなり無駄に消費するらしいのだ。退屈だなと思った時は、いたずら書き程度の軽い作業を脳にさせておいた方がリソースを消費せず、結果的に集中力を発揮しやすくなるという脳科学の研究結果も出ているそうだ。
なるほど、落書きが脳にいいのはなんとなく分かった。じゃあもっといろいろとやれば、さらにいいんじゃないか? と考える人もいるだろう。
そういう人におすすめしたいのが、「WRECK THIS JOURNAL」(レック ディス ジャーナル:破壊日記)。その“いろいろやる”がちょっと行き過ぎというか、いたずら書きどころじゃない凶行を好き放題にやっていいノートなのである。
なにがどう“行き過ぎ”かというと、このノートを開いてすぐのところにある「注意」の項目に、
・本書で遊ぶと体が汚れる。
・塗料や、その他のさまざまな異物まみれになる可能性がある。
・びしょぬれになることもあるし、大丈夫かな?と思うようなことをやるよう指示されたりもする。
……とあるぐらいだ。
まぁ、生半可なことではないだろうとは、お分かりいただけるだろう。
「WRECK THIS JOURNAL」は、各ページに行うべき凶行のテーマが指示されている。どのページから始めても良いとのことなので、まずランダムにめくって出たのが、これ。
いきなりの物理破壊指令。
言われたとおりに鉛筆でグサグサと穴を開けるのだが、これがかなり気持ちがいい。単なる紙ではなく、きちんと製本されたノートに穴を開ける背徳感と爽快感はかなりのもの。そして恐ろしいことに、この背徳感すらもやがて完全に麻痺していく。
「いっしょにシャワーを浴びろ」の指示あたりから、自分の中で数十年ずっと無意識のうちに持っていた、「本は大事に読もう」という規範が音を立てて崩れたように思う。
このノートは大事にしなくていいし、むしろ壊すためのものなのだから何をやってもOKなのだ。
これらの指示は「意味が分からない」と言われるかも知れないが、でもまだ比較的理解しやすい方なのだ。
例えばこれなんか、最初に見たときに内容が頭に全く入ってこなかったので、何度か読み返したくらい。
他にも、「このページを堆肥にしよう。朽ち果てる様子を観察!!」や「このページを無くそう(捨てるとかね)そして、その喪失感を受け止めよう」など、もはやノートに対する所行として考え得るレベルを超えた指示が満載。
最終的に、10ページほど指示を実行しただけでこの有様。自分としては、これでもまだ破壊し足りないぐらいの心持ちである。
いたずら書きが脳にほど良い軽作業であるとしたら、これは明らかに破壊のための破壊であり、脳は「もっとひどいことしたい!」という思いで集中し続けている状態と言えよう。
ちなみにTwitterで「#wreckthisjournal」のタグを検索すると、世界中の破壊者の“WRECK THIS JOURNALいじめ”を確認することができる。こうやって公開するには、クリエイティビティの高い創造的破壊をカッコよくキメたいところではあるが、しかし自分の心の赴くままに、残虐かつ衝動的に破壊してしまうのも気持ちが良いもの。
とにかく好き放題にやっちゃうのが楽しいので、ぜひ破壊しまくってみてほしい。
【著者プロフィール】
きだてたく
最新機能系から駄雑貨系おもちゃ文具まで、なんでも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は文房具関連会社の企画広報として企業のオリジナルノベルティ提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。著書に『日本懐かし文房具大全』(辰巳出版)、『愛しき駄文具』(飛鳥新社)など。近著にブング・ジャムのメンバーとして参画した『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。