多機能なスマートウォッチではなくトラディショナルな腕時計を選んだり、スマートフォンのほかに一眼カメラを手にしたり、単機能を追求したモノに憧れたりはしませんか?
キングジムの「ポメラ」もまさに、単機能追求型のガジェットです。「文章を書く」、その1点のみで、スマートフォン・タブレット・ノートパソコンといった強力な布陣ひしめく市場の中を駆け抜けている存在なのです。
界隈がざわめいた登場から10年
歴史を紐解けば、初代モデル「DM10」が登場したのは約10年前の2008年。4インチのモノクロディスプレイで、当時としても表示部は枯れた技術が使われていましたが、それが良かったんですね。ひたすら文章を紡いでいくという作業において、カラー画面は必要なかったのですから。
さらに折り畳み式のキーボードを搭載し、収納時はコンパクト&執筆時はフルサイズキーボードに可変するスタイルが、レポートの多い大学生や、ライターにブロガー、作家から愛されるガジェットとなりました。
6月8日に登場する最新モデルの「DM30」は、初代モデルのDNAをもっとも色濃く受け継いでいます。そう、折り畳み式キーボードを採用しているのです!
キングジム
デジタルメモ「ポメラ」DM30
4万6440円(税込)
http://www.kingjim.co.jp/pomera/dm30/
この機構を積んだキーボードのおかげで、現行機の最上位モデル「DM200」と比べて、格段にコンパクトになりました。
ここから本題。最上位とどっちが“買い”なのか?
では「DM30」は、併売される最上位モデルの「DM200」と比較して、どのようなスキルセットを持っているのでしょうか? 両機をじっくりと使い比べてみました。論文・レポート・小説執筆専用ギアとして「ポメラ」を選ぶならどっちだ!?
シンプル・イズ・ベストな「ポメラ」が帰ってきた! ———「DM30」
「DM30」の最大の特徴はやはり、折り畳みキーボードを用いたことによる収納時のコンパクトさでしょう。観音開き型の構造となっており、畳むとディスプレイサイズに近い約156×126mmに収まります。
折り畳んだキーボード部があるために、厚みは33mmとややファット。とはいえちょっとページ数の多い文庫本サイズですね。気になる重さは約450g(電池含まず)です。手で持って見ると、密度の高さを感じます。
・低消費電力の電子ペーパーを初採用
ディスプレイには、解像度がSVGA(800×600ドット)の電子ペーパーが使われています。低消費電力かつ文字の視認性が高く、長文も難なく書き進められます。液晶のバックライトとは異なり、暗い場所で見ても目に優しい。またギラリとした太陽光が降り注ぐ屋外であっても、マットなディスプレイゆえに反射が穏やかで見やすさ、よし。4:3のアスペクト比も表示部全体を把握しやすくて、よし。
お、入力時のレスポンスもいいですね。電子ペーパーは表示されるまでのタイムラグを感じやすいデバイスですが、「DM30」に限ってはそんな印象はありません。液晶のレスポンスにかなり近いものとなっています。
また電子ペーパーの特性上、メニュー表示やスクロール時に、それまで表示されていた文字などの跡が残像として残る現象が起きますが、「F12」キーを押せばリフレッシュされるので、その残像はきれいに消すことができます。
・スタンダードなノートPCと同等のキーピッチ
折り畳み式キーボードは剛性が低く、タイプ時にフレームが歪んで指の力が逃げることがあるのですが、「DM30」に関しては心配なし! キーボードを開くとキーボードフットも自動的に開いて安定性を向上。ディスプレイ部からはみ出た領域のキーにおいても入力しやすくなっています。
横17mm、縦15.5mmという、スタンダードなノートパソコンと同等のキーピッチにも注目しましょう。コンパクトなモデルでこのピッチのキーを採用したキングジムに拍手を送りたい! 普段は13インチ級のノートパソコンを使っていますが、気兼ねなく原稿を執筆することができました。
ただし膝上においての文字入力はしにくいところがあります。キーボードを開いたときにロックする機構がないために、キーボードが閉じやすいんですね。とはいえロック機構があると収納する際に一手間増えてしまいますし、これは仕方がないものと考えましょう。
・長文の入力に便利な機能もいろいろ
アウトライン機能も備えています。センテンスの最初の1文字めに「.」(半角ピリオド)か「#」(半角シャープ)を入れると、見出しとして認識。左側の見出し一覧にリスト表示され、目次として使えます。コンマの数を増やすことで最大10階層のツリー構造にもできます。執筆中に前後の章の内容を確認したり、書くべきことを適切な章で記載したりと、長文の入力に便利ですね。
日本語入力環境は、「ポメラ」独自のIMEである「ATOK for pomera」が支えています。日常で使う言葉に関しては、一切合切問題ナシ。基本となる辞書は明鏡国語辞典 MX、ジーニアス英和辞典 MX、ジーニアス和英辞典 MXを採用しており、さらに辞書を拡張することで語彙を増やせます。
なお、補助辞書のなかには漫画家名辞典、テレビ番組名辞典、戦国武将名辞典など、一風変わった用語を登録できる辞書もあります。
・乾電池や充電式電池が使える
バッテリーは単三電池x2本、データ保管用に使うコイン電池x1です。
アルカリ単三電池2本で使ってみたところ、11時間ほどでバッテリーが切れました。公称の持続時間約20時間とは差がありますが、これは僕が頻繁に画面をリフレッシュしていたからでしょう。それでも実測値で10時間超え、というのは頼もしい限りです。
・やっぱりコンパクトさは高ポイント!
フルサイズのキーボードを持ちながら、収納モードにトランスフォームさせるとiPad miniよりも小さくなるのがお気に入り。
また、執筆したテキストはQRコードや、SDカードFlashAir™️を用いることでスマートフォンやパソコンにワイヤレス転送できます。書きっぱなしで終わらず、オンラインで送信したり共有したりするための機能も備わっていますよ。
頼れる執筆ワークステーション ———「DM200」
現在入手できるもう1台の「ポメラ」は、折り畳み機構がないキーボードを用いた「DM200」。7インチTFT液晶が組み込まれた、「ポメラ」史上最大画面を持つハイエンドモデルです。
横幅は10〜11インチ級のノートパソコンと同等である263mm。ディスプレイを閉じた時の奥行きは120mm。厚みは18mmに収まっています。質量は約580g。フルサイズキーボード付きの端末としては、軽くて細いのが特徴です。
「DM200」のディスプレイの大きさを「DM30」と比較してみましょう。
上の写真は左がDM200、右がDM30です。ワイドな比率となって解像度も1024×600ピクセル。これもまた文字表示専用ガジェットとしてならば、申し分のない解像度です。室内であれば視認性も高いですね。フォントサイズを小さくしても読みやすいため、卓上に置く電子書籍リーダーとしても使いたくなります。
アウトライン機能を用いて見出しのリストを常に表示しても、執筆エリアは見やすく使いやすいサイズを保ったまま。より長い文章を快適に入力したいという要望に応えてくれる仕様です。
・キーピッチは2モデル共通
キーピッチは「DM30」と同じ横17mm・縦15.5mmです。と言いますか、「DM200」の文字入力の楽々さを「DM30」が受け継いだと見るべきですね。
実際に入力してみると、大きく余裕のあるキーレイアウトからきた入力のしやすさに、安心感が盛り上がってくるんですよ。剛性が高いから筆圧ならぬタイプ圧が高い人でも大丈夫。「DM30」よりも勢いよくタイプしても問題ナシ。
ノートパソコンのようなタッチパッドのエリアがなく、奥行きが短いから机そのものがパームレストがわりとなりますが、熱くならないから快適! 文章入力だけならポインティングデバイスはいらないというメリットが、こういうところでも生きるとは!
2016年に発売されて以来、ライターや作家といった毎日長文を書き続けているプロフェッショナルから認められ続けてきたモデルだと感じますね。
・無線LAN機能でデータのやりとりが楽
最高のポータブルな執筆ワークステーションを目指した「DM200」には、無線LAN機能が備わっています。
Evernoteなどのクラウドサービスにアップロードできるほか、パソコンなどへメールに添付して送れる「アップロード」や、iPhone、iPad、Macのメモアプリと連携する「ポメラSync」の機能が使えます。何日もかけて長い文章を仕上げていきたい時に効果的。
また、スマートフォンやタブレットのBluetoothキーボードとして使える機能も備えています。例えばSkypeやLINEでミーティングを行うなど、通信環境が必要なシチュエーションで文章を入力していかねばならないときに効果的。ディスプレイ部がスマートフォンのスタンドとしても活用できます。
・あらゆるシーンに対応できる充実の執筆支援機能
大きな画面を使ったアウトライン機能、2つのテキストファイルの同時表示による比較機能、1つのテキストの分割表示機能、指定した文字数×行数でページ分割を行うフレーム表示機能など、豊富な執筆支援機能も「DM200」の特徴のひとつ。特に便利なのが比較機能ですね。過去に書いたテキストファイルの一部を抜粋・引用することが楽に行えるので、レポートの作成効率が大幅に上がります。
搭載される日本語入力環境は、「ポメラ」史上最高性能を誇る「ATOK for pomera [Professional]」。実際に使ってみるとなるほど、文節の位置を適切に認識して変換してくれるために、誤変換は少なめ。Windows版のATOKを使っているのと同じ感覚で扱えます。「DM30」と比較すると変換精度は明らかに高め。とはいっても「DM30」のATOK for pomeraもなかなか頼れる精度があります。
・手持ちのモバイルバッテリーで充電
「DM200」は、「ポメラ」で唯一のUSB充電式バッテリー内蔵型です。
登場時は、コンビニなどで電池を買って電源を補給できる他ポメラと比べると「やや残念」という声が多かったのですが、いまやモバイルバッテリーを持ち歩くのが一般的となりました。移動の合間にバッグの中で充電し続けることができますし、使用目的によってはバッテリー内蔵型のほうがいいという人もいるでしょう。僕個人としても、そう実感しました。
単三電池交換式からバッテリー内蔵型に変えたことで、より多機能性を追求できた点も見過ごせません。全体的にレスポンスがよく、文字入力もデリートも、各種機能を使ったときにも遅延を感じないために快適。発売されてから1年半ほど経つモデルですが、純粋な文章執筆ガジェットとしては最高峰に位置するプロダクトです。
なお、バッグに入れて持ち運ぶ際は、ノートパソコンの収納部に入れるのがピッタリ。11インチ級のノートパソコンが入れられるスペースがあれば充分ですよ。
さて、2機種を比較した上でまとめてみましょう。
コンパクトスタイルを追求した「DM30」、全方位的に完成度が高い「DM200」
「文章を入力するための専用ツール」という、同じ目的をもった「DM30」と「DM200」。しかし使い勝手は大きく異なるものでした。
コンパクトなサイズでありながら高品質な打鍵感を実現した「DM30」は、意外にもじっくりと時間をかけて文章入力したいときに向いているプロダクトです。僕らライターの業務でいうなら原稿執筆時に使いたくなるもの。机の上におかないと入力しにくい側面があることも、気合を入れて書くときにこそ効果を発揮する「ポメラ」です。また乾電池駆動式であり、超コンパクトに折り畳めることから、旅行先に持っていきたくもなりますね。
対する「DM200」は、どんなシチュエーションでも文章を紡げる隙のなさがあります。たとえばインタビュー時のメモ取りも、会見時の書き起こしも、テキストファイルの資料を参照しての執筆も、なんでもOK。片手で持って、片手で入力というスタイルもこなせます。ストライクゾーンの広さ、魅力ですね。また値段がこなれてきており、買いやすいというところも見逃せません。
それぞれどんなワークスタイルの人に向いている?
それぞれ別の個性をもった2台の「ポメラ」。「DM30」は極力荷物を減らしたい、バッテリーライフが長い、バッテリーがコンビニで補給できるといったオリジナルの「ポメラ」から受け継いできた個性を求める人にはピッタリ。ほかに持ち運べるノートパソコンや、タブレットを持っている人にもオススメで、純粋な文章作成ツールとして活躍してくれるでしょう。
「DM200」は高性能であるがゆえにノートパソコンなどと用途が被るところがありますから。ゆえに、普段はスマートフォンのみ持ち歩いている人にはピッタリだといえます。
【商品情報】
キングジム「デジタルメモ<ポメラ>」
・DM30 4万6440円(税込)
http://www.kingjim.co.jp/pomera/dm30/
・DM200 5万3784円(税込)
http://www.kingjim.co.jp/pomera/dm200/