近年のヨガブームで、瞑想が身近なものになっている人が増えています。イライラしたり、ネガティブ思考になったりしたとき、目を閉じて“今”に集中する瞑想を行うと、心を落ち着かせることができます。一方で、目を閉じてもあれこれと考えごとをしてしまい、瞑想がうまくできないという声も。静止するのが苦手なら、逆に“動く”ことで瞑想状態に入り込める、「ゼンタングル」がおすすめです。
ゼンタングルとは、「Zen(禅)」と「Tangle(絡まる)」を合わせた造語で、線や丸などを一定のリズムで描いていくことで、瞑想のようなリラックス効果が得られる米国発の新感覚アートです。ここでは、2011年に日本人初のゼンタングル認定講師となり、国内外でゼンタングルの教室を開催している、さとういずみさんにその魅力を聞きました。
ストレスの多い現代人におすすめのアート
「ゼンタングルは、絵を描く才能がないと思っていたり、絵を描く楽しさを知らなかったりする人でも、手軽にはじめられます。1枚の作品を描き上げるのはわずか15分ほど。やるべきことに追われ、ストレスの多い毎日を過ごしている方にこそおすすめです。就寝前の自分時間や家事のすき間にゼンタングルを描くことで、頭の中がすっきりし、心が安らぐのを実感いただきたいです」(さとういずみさん・以下同)
基本のストロークはこれだけ!
ゼンタングルは、2004年にアメリカ、マサチューセッツ州に住むリック・ロバーツとマリア・トーマスが始めたアートの技法です。「リックとマリアは『点、直線、カーブ、S字、丸の5つの基本ストロークが描ければ、誰でもゼンタングルを楽しむことができる』と言っています」
カリグラフィーデザイナーとして活躍していたマリアは、ある日、同じパターンを繰り返し描いている間、余計な雑念から開放されて無心になれることに気づきます。17年間もの間、僧の修行をした経験のあるリックは、マリアからその話を聞き、同じパターンを繰り返し描くことで瞑想のような状態になれることを知ります。そのことがきっかけで、このリラックス方法を多くの人に広めたいという二人の思いから、ゼンタングルは誕生しました。
リックとマリアがこだわったのは、直線や曲線、丸などの簡単なパターンを繰り返し描くだけで、誰でも気軽に楽しめるアートであること。今では40カ国以上、3000人以上のゼンタングル認定講師が、その魅力を広める活動をしています。
ゼンタングルで描く模様(パターン)はさまざまですが、「ペンを持ってゆるやかなアーチ(オーラ)を描く、そしてその上にもう1本、同じようなオーラを描く」「2本のラインの幅が等間隔になるように落ち着いてペン先を動かしていく」など、一つひとつは単純作業なので、ペン先に意識を集中しながらも、非常にリラックスできるのが想像できると思います。
「ゼンタングルは、絵がうまくなるためのレッスンではありません。描いているわずか数分でも、リラックス効果が得られるアートです。楽しみ方は無限に広げられますが、今というこの瞬間の自分自身と向き合える時間を楽しみ、“リズミカルにペンを動かすのは気持ちがいいな”とか、“オーラを重ねていくのが好きだな”など、感じたことや自分の好みから得られる気づきやひらめきを味わってください」
初心者でも美しい作品が簡単に作れる!
実際にどのように描いていくのか、順を追ってご紹介します。ここでは、いずみさんが講習会でも愛用している、サクラクレパスの『ゼンタングル専用キット』を使いました。ゼンタングル専用の道具をそろえなくても、インクがにじまない程度の厚めの用紙と、ペン先が細めの黒ペン、鉛筆、綿棒などがあれば始められます。
※()内の名称はゼンタングルで使用されている用語です。
ゼンタングルを描く手順
1.まずは、9cm×9cm四方の厚紙(ペーパータイル)の四隅に、鉛筆で点を描いて線で結び、外枠を作ります。その中にさらにアルファベットのZの形になるように線(ストリング)を描き、4つのスペース(セクション)に分けます。慣れてきたら、セクションの分け方や数はお好みのアレンジで進めてください。
2.「ピグマ」など細字の黒ペンを使って、それぞれのスペースに同じパターン(タングル)を描いていきます。「ゼンタングル専用キット」内にあるパターン例を参考にしてもよいでしょう。ゼンタングルでは消しゴムや定規は使いません。フリーハンドで線を描き、ピグマを使って、失敗を恐れずにどんどんとパターンを描いていきます。
3.すべてのセクションにパターンを描き終わったら、鉛筆で模様の隙間を薄く塗ったり、「擦筆(さっぴつ)」で鉛筆の線をぼかしたりしながら陰影をつけ、立体感を出します。このぼかしは、綿棒や指でもできますが、擦筆を使うことで細かい部分まで陰影の調整がしやすくなります。
4.完成したら、自分の描いたものを手に取って眺めてみます。天地が逆になるだけでも印象が変わります。このときに思わぬ発見があるかもしれません。描いたときの気持ちを形に残すためにも、イニシャルで作品の向きを決めます。ペーパータイルの空いたスペースに自分のイニシャルをサインします。
5.ペーパータイルの裏側には、日付とサインをします。このとき、余白に「描いたときの気持ち」や「描いた場所」などの情報をメモして保存しておくと、日記のような役割に。「病院の待ち時間に描いたら、いつもより待ち時間が早く感じられた!」など、平穏に過ごせた時間への気づきを得ることもできるでしょう。
消しゴムや定規を使わずに流れにまかせる
失敗したと思うような形になっても、消さずに描き続けていくと、新たな模様になったり、作品のアクセントにできたりします。定規を使わずにフリーハンドで進めていくのも、自然の流れを生かすアートだからです。「『人生に起きるできごとを消したり、時間を元に戻したりすることはできないけれど、前を向いて歩みを進めていけば、失敗と思ったことから思わぬ好結果を招くこともある』というのを、ゼンタングルを描くことで感じてみてください」
ゼンタングルの基本の描き方を押さえたところで、続いてせっかくの自分で描いたゼンタングルをどのように暮らしに取り入れるか、さとういずみさん流の取り入れ方を教えてもらいました。
ゼンタングルを暮らしに取り入れて楽しむ
基本のパターンに慣れてきたら、自分なりのアレンジを自由に楽しんでみましょう。ここでは、いずみさんの作例をいくつか紹介します。
●リズミカルで印象的な模様をメッセージカードに
「ゼンタングルのパターンは抽象的なものが多いのですが、植物風に見えるパターンを使って組み合わせると、印象の違う仕上がりになります。基本のゼンタングルが白黒なのは、あれこれ色選びに悩まないため。余計なことを考えずに『描く』という作業に集中するためです。でも、ときには色を加えて描くとまた違った雰囲気が楽しめます。右側は、青色のペンのラインをベースに茶色のペンを合わせて描き、白のチャコールペンシルで変化をつけました。裏面にひとこと添えて、メッセージカードにしてもいいですね」
●プレゼントにしたくなるギフトボックス
「平面の紙にパターンを描いたものを、立体的なギフトボックスとして仕上げました。それぞれのセクションに描く模様を左右対称にして、あえて幾何学的にしています。ひとつひとつのラインが等間隔になるように意識を集中してペンを動かしていると、頭の中がクリアになり、とても気持ちがいいものです。ギフト用の無地のボックスに好きなパターンを描き、手作りクッキーなどのお菓子を入れてプレゼントすれば、中身はもちろん、パッケージも喜んでもらえますよ!」
●花びら風のセクション分けを生かしたオブジェ
「タン色のペーパータイル(厚紙)にハスの花びら風の形を黒ペンで描き、それぞれに茶色のペンを使ってパターンを描きました。白のチャコールペンシルをアクセントカラーとして使い、背景に渦巻き状のパターンを描き、花びらが際立つようにしています。本のしおりとして使ったり、描いた作品を額装したりするのもおすすめです」
●星型の作品で作ったガーランド
「白画用紙を正方形に必要な枚数分カットし、それぞれに好きなパターンを描きます。それを星型のパンチ、またははさみで型抜きをします。型抜きをした星枠を市販のカラフルなタグに貼って、クリップで紐にとめれば完成。ハロウィンやクリスマスの装飾にぴったりです。お誕生日用には、アルファベットの文字の中にパターンを描いたガーランドにするのはいかがでしょうか?」
ゼンタングル初心者におすすめのアイテム
必要な道具が一式そろったスターターキット
サクラクレパス
「ゼンタングル スターターツールセットA」1296円
「ゼンタングル スターターツールセットB」1080円
「ゼンタングル スターターツールセットC」1458円
https://www.craypas.com/products/lineup/list/80.php
ゼンタングルに必要な道具がすべて揃ったスターターキット。ペンの種類や本数、ペーパータイルの色などによって3つのタイプから選べます。
誰もがちょっとしたアーティスト気分を味わえるゼンタングル。夢中で絵を描いた子どもの頃、クレヨンをにぎりしめて画用紙と向き合ったときのように、無心の状態でペン先に集中してみませんか。美しい作品の完成と同時に、心の変化を感じることができるかもしれません。ゼンタングルで自分自身とつながる時間を楽しんでみてください。
【プロフィール】
ゼンタングル認定講師/さとういずみさん
フリーアナウンサーとして、テレビ・ラジオで活躍後、1990年に渡米。現在はアメリカ・カリフォルニア州在住。渡米後、グラフィックデザインの勉強を始め、UCLA Extensionグラフィックコース修了。2010年にゼンタングルに出会い、翌年、日本人初の認定講師となる。ロサンゼルス、サンディエゴを始め、日本各地でもゼンタングルの魅力を伝えるレッスンを年に2回ペースで開催中。著書に『はじめてのゼンタングル』(自由国民社)、『小さなピースで楽しむゼンタングル』(自由国民社)がある。
HP: http://izumisato.com
BLOG: http://blog.izumisato.com
さとういずみ『はじめてのゼンタングル』
1620円/自由国民社
ゼンタングル初心者がおさえておきたい基本から応用まで、100種類のタングルについて描き順を追って丁寧に紹介されています。ペーパータイルに描く以外にも、ワインタグやメッセージカード、布バッグやTシャツに描く事例など、ゼンタングルを幅広く楽しむ方法が学べます。
※Zentangle®︎は、米国Zentangle, INC.の登録商標です。
詳細は、https://www.zentangle.com へ。