文房具
2019/6/26 19:00

“製硯師”青柳貴史にインタビュー!硯と毛筆に対する情熱的でクレイジーな思いとは?

製硯の過程

1、採石

石はブローカーから情報を得て買い付けることもあれば、自ら中国などに採石しに行くこともあります。採石地の多くは私有地や国立公園などの場所であるため、現地で採石や研究などを行っている人物とのコネクション作りも大切な仕事のひとつ。オーダーの内容によっては、石を探すところからスタートすることも珍しくありません。

 

2、彫り

硬度、密度など石の性質をよく鑑みた上で設計図を引きます。金鋸やスライサーを使って原石を大まかに切り出したら、その後は鑿などの道具を使って石を緻密に手彫りしていきます。彫りに要する時間は、石の硬さや硯の大きさにもよりますが、だいたい数週間から1ヶ月程度。長いものでは1年以上かかるものもあるといいます。

↑硯を彫るための作業台。台の両サイドに立っているのが、硯を彫るための鑿(のみ)です。基本的な道具のほとんどは、祖父・保男さんの代からずっと使い続けているそう

 

↑彫るときは指先や腕に力を入れすぎず、肩と背中の力で押し出すように。石の硬度や密度は必ずしも一定とは限らないそう。彫っている間も、削り粉の匂いや刃先に発生する熱などから、注意深くその石の情報を収集しています

 

↑墨を溜める墨堂のアールを確かめているところ。造形に狂いがないかどうかは、錯覚が起きやすい目ではなく、指先の感覚で確かめるそう

 

↑手作りの鑿の刃先には、タンガロイという特殊な合金が使われています。刃先をあまり鋭くしていないのは、石を必要以上に傷つけないように力加減を設定しているから

 

3、磨き

彫り以上に多くの時間を要する磨きの行程。硯は彫りによってある程度の形のベースを作った後、丹念な磨きによってそのデザインや使い心地を細部にわたって調整していきます。

↑磨きには耐水ペーパーなどのやすりを使用。石には多くの場合柔らかい部分と硬い部分が混在しているため、ひとつの硯に対して、さまざまな番手のやすりが必要になります。ある程度磨きを進めた結果、再び彫りの工程に戻ることもあるそう

 

↑こちらは研ぎの工程。泥砥石を使って表面を丹念に研ぐことで、墨をするための“鋒鋩”(ほうぼう)を立たせているところです

 

↑磨きの工程に使われる、無数のやすりと砥石たち。砥石は硯石の近隣で採掘されることが多く、砥石の中にも幻と呼ばれるような優れた質のものがあるのだそう。青柳さんにとってみれば、砥石でさえダイヤモンド級の価値があるのです

 

4、仕上げ

硯の仕上げには、墨がけをする方法と、漆がけをしてより装飾的に艶を出す方法などがあり、持ち主の好みに合わせて施します。完成前に一度試しに使ってもらい、さらなる微調整を加えたらいよいよ出来上がり。期間は数ヶ月でできるものから、年単位でかかるものまでさまざまです。

 

青柳貴史 渾身の3作


石紋の美しさを見事に活かした歙州硯は、墨をするときのシャカシャカと小気味良いレスポンスが特徴なのだそう。小ぶりながらもぽってりと肉厚な造形で、思わず触れてみたくなります。

 


フライパンの上でバターがとろけるような感じで、とろんと墨がおりるという端渓硯。さりげない飾り彫りと、石の自然のままの表情をあえて残したかのようなフォルムが印象的です。

 


日本の信楽焼のような表情を持つこちらは、澄泥硯(ちょうでいけん)と呼ばれるもの。砂が堆積してできた原石から作られます。鋒鋩が力強く独特の墨あたりが特徴。たっぷりすれる大きさです。

 

【店舗情報】

宝研堂

所在地:東京都台東区寿4-1-11
電話番号:03-3844-2976
営業時間:9:00〜18:00(月曜〜土曜)/10:00〜17:00(第1・3日曜)
定休日:第2・4・5日曜、祝日
http://www.houkendo.co.jp/

 

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