【きだてたく文房具レビュー】プッシュ通知を確認できるボールペン
「ウェアラブル端末」という言葉を聞いてまず連想するのは、おそらくスマートウォッチか、もしくはメガネ型のスマートグラスだろう。数年前までは「おおー、未来!」という印象だったが、最近は「Apple Watch」などが普及したおかげで、「うん、いろいろ便利だよね」ぐらいの“普通”に落ち着きつつあるようだ。
ウェアラブル=常時身に着けている、ということだから、普段から身に着けていて違和感のない常用アイテム(腕時計・メガネ)のスマート化は当然なのだけど、そういえばこれ以外に、僕らがわりといつも身に着けているアイテムがもうひとつあった。筆記具だ。
……という流れでキングジムが先日発表したのが、スマートボールペン「info+」(以下、インフォ)である。
ウェアラブル端末としての「インフォ」の立ち位置は?
これまでに「スマートペン」というジャンルで発売されてきたのは、筆記と音声を連動記録できる「Livescribe」「Neo smartpen」といった、記録するのが便利になるツールだったが、インフォはそれらとは方向性が全く違う。
スマホをハブにして送られてきた情報を、手元で確認するための端末なのである。つまり、大ざっぱに言えばスマホの通知サブ画面として機能するペンということ。機能的には完全にスマートウォッチを代替する端末だ。
専用アプリ「info+ App」でスマホと接続(低消費電力の通信モード「Bluetooth Low Energy」を採用)することで、電話の着信やメール受信からLINEなど各種SNSの通知をペン軸にあるモニター・LED・バイブで確認できるのが、インフォのメイン機能といえるだろう。
現状では27種のアプリに対応し、それぞれに10色のLEDカラーとバイブを振り分けて設定が可能。画面を見なくても、なんとなくどういう通知が来たのかを知ることができる。
他には音楽再生のコントロールやカメラ(スチール/ムービー)の操作なんかもできるのだが、このあたりはまぁあれば便利かなー、くらいの感じ。
ボールペンとしての使い勝手・使い心地はどうか?
文房具であるボールペンとしての部分は、2色の振り子式ノックを採用。リフィルは汎用性の高い“D1規格”なので、三菱鉛筆「ジェットストリーム」やパイロット「アクロボール」といったメジャーな低粘度油性インクから、OHTO「ニードルポイント」、ゲルインクのパイロット「ハイテックC」などと、自分の好みに合わせてカスタマイズが可能だ。
ペンとして気になるのは、主に重量だろう。何しろ本体重量が40g。ボールペンとしてはかなり重たいと感じるレベルである。
ただ、軸後端に液晶画面やバッテリーといった重量物が入っている割には、リアヘビーにならないようバランスが取られているので、書きにくいと感じることはない。むしろそのバランスを整えるために、外装を真ちゅう製にするなど工夫した結果、全体が重くなって40g、となったのだと思う。結果として、筆記時はともかく、ウェアラブル端末として胸ポケットに挿していると「重いなー」と感じてしまうわけなんだけれども。
約1か月間使ってみると
さて、実際に1か月ほどウェアラブルに携帯して使ってみた感想としては、「未来を期待しすぎるとガッカリするかもしれないけれど、“今の端末”として使いこなせればアリ」という感じ。
スマホをカバンに入れた状態でプッシュ通知を受け取れるのは単純に便利だし、打ち合わせ中に着信があっても、ひとまずスマホの画面を見ずに誰からの連絡か確認できて、出るべきか後から折り返すべきかの判断をつけられるのはありがたい。
ペンを握った姿勢であれば手元に目をやるだけなので、通知や時刻の確認がスマートウォッチよりも自然にできるのはかなり便利だし、対面している相手にも不快な思いをさせずに済むだろう。
あと、個人的にありがたかったのは、アラーム機能。ノートにあれこれと書き込むのに没頭していると、つい時間を忘れがちなのだが、手元でバイブしてリミットを知らせてくれるのは意外と助かるのだ。また、スマホに登録しておいたリマインダーのプッシュ通知も受け取れるので、危うく遅刻してしまうところを次の予定に気付いて免れたこともあった。
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改善の余地あり! のポイントは?
逆に、使っていて「これはちょっと……」と感じたポイントもいくつかあった。
まず、日中の屋外では液晶が暗すぎて視認がつらい。外出時にインフォで着信を受け、誰からのものか確認しようと画面を見ても、表示を読み取ることができなかったのだ。屋内であれば問題ないのだけれど、ウェアラブル端末として外で使いづらいのは、もったいないだろう。
もうひとつ、液晶画面にかからないようにクリップがかなり短めになっているのだが、これも使いづらかった。
ジャケットの胸ポケットや内ポケットであれば、なんとかフチにクリップがかかるのだが、シャツの胸ポケットはギリギリか、届かないかというところ。高価な製品だけにうっかり落として壊したり紛失したりというのは避けたいのだが、これからのシーズン、ワイシャツの胸ポケットにひっかかってくれないのはちょっと怖い。
画面の視認性など理由はあってのこの長さとポジションだとは理解できるが、それなら画面から90度ずらした位置で、もう少し長いクリップだと良かったのになー、と感じた。
さらには、移動中にイヤホンで聴いていた音楽のボリュームが突然ハネ上がって、心臓が止まりそうなほど驚いたこともあった。これはタッチパネルがシャツポケットのフチに擦れて、勝手に操作されてしまったのが原因である(シャツが汗で湿っていて、タッチパネルに通電したらしい)。
これもポケットの深さに由来するトラブルなので、ジャケットなどでは起きない気もするのだけれど、とはいえ今後もありうるトラブルだ。音楽に関する操作はイヤホン側のインターフェースで行う人も多いだろうし、アプリでこの辺りの操作自体のオンオフができるようになると、ありがたい。
ウェアラブル端末としてのボールペンの価値
他にも、本人以外でも簡単に通知内容が見えてしまうセキュリティ面の弱さなど、いくつか不満はあるものの、とはいえボールペンをウェアラブル端末にするという発想は悪くない……というか、かなり良いと思うのだ。特に筆者は、腕時計の装着感が苦手でスマートウォッチを使いこなせないので、同様の機能があるスマートボールペンは純粋にありがたい。たぶん、そういう人は自分以外にもいるんじゃないだろうか。
お馴染みキングジムのニッチ戦略製品ということで、どれほどの人にフィットするかは不明。だが、これらの不満点を見た上でなお気になるという人なら、試してみる価値はありそうだ。
できればいい感じにヒットして、バージョンアップした“インフォ2”が出るくらいになってくれると、嬉しい。例えばPowerPointなどプレゼンソフトの操作ができるようになったり、スマートロックやFelica/NFCに対応してくれたりしたら最高なんだけど!
※2019年7月末には、キングジムよりインフォ本体のファームウェアアップデートが発表された。通知設定の改善のほか動作もより安定しているようなので、すでに利用しているユーザーの方はぜひファームの更新をおすすめする。