ここ数年のボールペンの進化には目覚ましいものがあるが、ただ、個人的には不満もなくはない。というのも、取り沙汰されているのは基本的に、インクの濃淡や重量バランスといった書き味の部分ばかり。もちろんそこが最重要なことに異論はないが、そればっかりでもなぁ、とも思うのだ。
例えばぺんてる「Calm(カルム)」が静音性に着目したのは、なかなかに面白い方向性だった。もはや書き味が良いのは当然の前提であって、そこからさらに機能をプラスしていくのが、これからのボールペンの有り様になるはずだ。
ということで、三菱鉛筆から2023年3月に発売された新ボールペンも、書き味+αというものだったのだが……それにしたって「えっ、そういう方向性もありなの?」と驚くような、ユニークな製品だったのである。
コロンとかわいい新「ユニボールワン」
その「そういうのもあり?」と驚かされたボールペンというのが、三菱鉛筆の「ユニボール ワン P」だ。ゲルインク史上最濃とも言われるくっきりインクを搭載したボールペン「ユニボールワン」シリーズの最新版ということになる。
三菱鉛筆
ユニボール ワン P
各500円(税別)
芯径0.38mm/0.5mm、軸色は全8色
単体で見ても「ん? なんか比率おかしくない?」と感じられるかもしれない。
口金周辺やカラー、クリップなどの要素は同シリーズの「ユニボール ワン F」に近いが、とにかく寸詰まりで寸胴。印象としては、ユニボール ワン Fを前後からムギューッと押し潰したような感じなのだ。実際に数値で見ても全長約117mm/軸径約13.9mmということで、ユニボール ワン Fの全長約140mm/軸径約11mmと比べると、やはり「豆タンク」と表現せざるを得ないだろう。
興味深いのは、この「重心位置がユニボール ワン Fとほぼ同じ」という部分である。これだけ軸寸が短いと重心位置も違って来そうなものだが、測ってみるとこの通り。成人男性の手で握ってみると、軸後端ギリギリが親指と人差し指の間に乗る、というぐらいのポジションが適正と感じられた。
ちなみに、ユニボール ワン Fは重心調整用にスタビライザーと呼ばれる金属製のオモリがグリップ下に埋め込まれているのだが、ユニボール ワン Pにはそういうギミックは無し。口金の金属パーツのみでバランスを取っているように感じられる。短くても違和感はほぼなく、かつ太軸の握りやすさもあるため、むしろ書きやすいと感じる人も多いかもしれない。
ちなみにリフィルはシリーズ共通である。引き抜いて並べてみると、ユニボール ワン Pのノックノブ後端スレスレまでリフィルが来ているのが分かるだろう。この短さを実現するために、実はノックノブ内に回転子を配置するなど、かなり特殊なことをやっているのも見て取れた。
軸を短くするためにはリフィルをノックノブ内に引き込まねばならず、そのためにノックノブが太くなり、軸もそれに合わせて太くなった、という流れのようだ。つまりは短くするための工夫としての太軸化、というわけである。
機能は特になし!? かわいさだけを追求したぽっちゃりボディ
で、このちっちゃぽっちゃりシルエットがどう機能するのか?と言うと……正直、便利さは特になさそう。おそらくは、ただ可愛いだけ。なにしろオフィシャルのキャッチコピーが「ころんと、可愛い」というぐらいだから、そこは間違っていないはずだ。
もちろん短寸化で携帯性はちょっと良くなっているかもだけど、代わりに軸径が太くなっているので、一般的なペンの太さを基準に作られているペンホルダーに入らない、などの不便も出そうな気はする。
ただあらためて持ってみると、デフォルメの効いたボディが手の中に「ころん」と収まっている様子は、間違いなく可愛い。サイズが縮まったことで全体的な局面の比率が高まり、雰囲気も従来シリーズよりキュートになっているのだ。
少なくとも、この可愛さで「握って書いてみたい」と感じる人はいるはず。であれば、それはボールペンの進化における一形態と言っても間違いではないだろう。
これまでのボールペン業界における“可愛さ”というのは、カラーリングや軸のプリント、キャラクターのトッパーなど、パーツ要素によるものがほとんどだった。しかし、いよいよ「シルエットの可愛さ」という全体の構成にまで踏み込んできたわけで……正直、これはなかなかスゴいことになってきたぞ、と震えざるを得ないのである。