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2018/1/27 17:32

静岡鉄道の「虹色」車両が美しすぎ! 導入理由もステキで堅実だった

静岡鉄道は静岡清水線を運行する鉄道会社。起点の新静岡駅から終点の新清水駅までの全線が静岡市内を走る。路線距離は11km、駅の数は15で、駅間は300m〜1.7kmと短め。朝のラッシュ時には5分間隔、日中でも6〜7分間隔と電車の本数が多く便利だ。

 

2016年3月に43年ぶりの新車A3000形を導入。翌年3月にA3000形の第2編成が、2018年3月21日には第3・第4編成(静岡鉄道社内の呼び方は第3号・4号車)が走り始める予定だ。このほど長沼車庫で、現在まで導入した4編成を揃えたお披露目イベントが開かれた。

 

新車を毎年、導入してきた静岡鉄道。小さめの私鉄ながら、まさに今、元気印の鉄道会社である。その元気の源を確かめるべく、長沼車庫を訪れた。

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↑静岡鉄道の長沼駅に隣接する長沼車庫で行われた新車のお披露目イベント。右はこれまでの主力車両1000形

 

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↑新型A3000形第1編成(写真右)から第4編成までがずらりとならぶ。当日は好天にも恵まれ、800人の来場者があった。鉄道ファンだけでなく親子づれも目立った

 

2019年度中には7色の新型車両が揃う予定。そのモチーフとは?

上の写真のように、静岡鉄道の新型A3000形はすべて色が異なる。「shizuoka rainbow trains」と名付けられ虹色7色の新車両シリーズで、すでに走る第1編成がクリアブルー、第2編成がパッションレッド。新たにお披露目されたのがナチュラルグリーンと、ブリリアントオレンジイエローだった。車庫内に新型A3000形4編成が並ぶ。水色、赤、緑、黄色というカラフルな色使いの電車は、華やかで、見ている側の心も浮き立つようだった。

 

このA3000形。今後も増やしていき2019年度までに7色が揃う。最終的には12編成が造られる予定だという(色の配分は未定)。

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↑新静岡駅の待合室に設けられた新型A3000形紹介のブース。最終的には7色の車両が揃う予定だ

 

この新型車両に使われる予定の7色のカラー、実はそれぞれが静岡県の名物・名産品にちなんだ色となっている。

 

まず第1編成のクリアブルー(水色)は、富士山のイメージ。第2編成のパッションレッドは石垣いちご、第3編成のナチュラルグリーンはお茶、第4編成のブリリアントオレンジイエローは温州みかんをイメージしている。

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↑静岡鉄道のこれまでの主力車両1000形。1973(昭和48)年に導入され40年にわたり静岡市内を走り続けてきた

 

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↑2016年3月に走り始めたA3000形第1編成。最初の車両には静岡と縁が深い富士山をイメージしたクリアブルーが採用された。すでに第2編成のパッションレッドも走っている

 

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↑2018年3月21日に走り始めるのが第3編成ナチュラルグリーンと、第4編成ブリリアントオレンジイエローのA3000形

 

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↑A3000形第1編成のクリアブルー車は、鉄道友の会が選定する2017年ローレル賞に輝いた。ローレル賞の受賞は優秀な車両であることを認められた証でもある

 

さらに今後に登場の予定のフレッシュグリーンは山葵(ワサビ)、プリティピンクは桜エビ、エレガントブルーは駿河湾をイメージしているそう。7色のレインボー電車が走るようになれば、さらに沿線が華やぐことだろう。太平洋に面した静岡の、明るく温暖なイメージによく似合う。

 

静岡鉄道が新造車こだわった理由とは?

静岡鉄道のように自社発注の新造車を作る例は、地方の私鉄の場合、非常に少ない。自治体から補助を受けている鉄道会社を除けば、大手私鉄が使っていた車両を再生して使う例が目立つ。

 

なぜ静岡鉄道でもそういった選択肢をとらなかったのだろうか。ちなみに、新車A3000形の1編成(2両)の金額は3億3100万円と高額。それが12編成となると40億円近い金額となる。

 

巨額の出資をしつつ新車導入に踏み切らせた裏には、静岡鉄道ならではの手堅い営業戦略と、静岡鉄道の路線の特異性があった。

 

当初は、大手私鉄で使われてきた車両を購入しても良いのではという声が社内にあったとのこと。ところが、技術的な制約があったのだ。静岡鉄道を走る車両は2両編成で、1両の全長が18m、幅が2.74m。電気方式は直流600Vとなっている。都市部を走る大手私鉄の電車の場合、多くが全長18~20m、幅が2.8m超で、直流1500V方式が多い。

 

大手私鉄の車両を改造して間に合わせれば、初期費用は少なくてすむ。ところが、こうした電車をそのまま走らせるとなると、ホームを削る、電圧を変えるなど余分な工事が必要になる。導入後に使用できる年数や、メンテナンス費用などを含め総合的に判断し、では独自の新型車両を導入しよう、ということになった。

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↑4色並ぶ姿は壮観。お披露目イベントでは鉄道ファン用に、撮影時間も用意された

 

2019年度に会社創立100周年を迎える静岡鉄道

静岡鉄道の創始は1919(大正8)年にさかのぼる。駿遠電気鉄道という会社が静岡市内(旧清水町)を走る鉄道路線を譲り受け、列車を走らせたことに始まる。1960年代までは静岡市内、清水市内に路面電車路線を所有するなど、総延長100km近くの鉄道路線を持つ会社でもあった。

 

1960年代にはモータリゼーションの波が押し寄せる。静岡鉄道では静岡清水線を残し、1975(昭和50)年までにほかの4路線を廃止した。鉄道に固執することなく、素早くバス路線に転換させた。当時の経営陣の先見の明には感服させられる。

 

唯一残った静岡清水線では安全対策に力を注ぎ、連続50年、有責事故ゼロという記録を打ち立て、「中部運輸局優良事業者表彰」を受けている。

 

ここで、静岡清水線の営業成績を見てみよう。鉄道事業の営業収益は平成25年度・26年度が14億円、平成27年度・28年度が15億円と伸びている。とはいえ鉄道事業だけを見ると、営業経費のほうが上回り、ここ数年は1.3億円から2.3億円という赤字を計上している。

 

多くの鉄道会社と同じように、鉄道事業のみだと経営は厳しい。静岡鉄道も鉄道以外の事業に乗り出している。そのなかで不動産事業と索道事業(日本平ロープウェイを運行)が好調で、最終的には静岡鉄道は年に4.7億円~5.3億円という純利益を上げてきた。こうした数字に、同社の手堅さが見てとれるようだ。

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↑1000形車両の多くは地元企業の広告をラッピングした車両も多い。静岡鉄道はこうした地道な営業努力を重ねている会社でもある

 

新車の形式名の頭に付く「A」の意味

会社創業100周年となる2019年度までに導入される予定の新型A3000形。せっかくの新車ならば、静岡鉄道らしい独自の車両にしよう。そんな思いは7色の車体色とともに、車両形式名にも込められた。

 

これまでの主力車両1000形とは異なり、新車A3000形の形式名には「A」が付く。AはActivate(活性化する)、Amuse(楽しませる)、Axis(軸)と3つの単号の頭文字だとされる。

 

鉄道が走る静岡清水エリアを“Activate(活性化)”させ、乗ること、眺めることで“Amuse(楽しい)”気持ちになってもらい、静岡市が目指すコンパクトシティの“Axis(軸)”になるような電車、という意味が「A」には込められている。

 

堅実な経営を続けてきた静岡鉄道が思い切った新車の導入。そこに込められた気持ちは、地域のリーディングカンパニーとしての熱い思いであり、静岡の人たちへのメッセージが込められているようでもある。

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↑イベントでは車内の見学会も開かれた。工場から搬入されたばかりの真新しい第4編成の車内がお披露目された

 

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↑省エネルギーと省メンテナンス化を狙ったA3000形のLED照明。ロングシートには生地に濃淡を付け、1人分の席の区分けがさりげなく図られている

 

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↑運転台はワンハンドルマスコンを中心に配置。ワンマン運転を行う乗務員の扱いやすさを考え、シンプルな機器の配置を心がけた

 

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↑カバーがかけられていたものの、吊り革の形がユニーク。下をにぎっても上をにぎっても良い2段吊り革が導入されている。国内で初めてA3000形で使われた形状でもある