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2018/3/18 21:00

赤字体質から6年連続増益へ――躍進する「JR貨物」に鉄道貨物輸送の現状を見る

相模灘を眼下に望む東海道本線の早川駅〜根府川駅間のカーブを、うねるようにして貨物列車が進む。ブルートレイン牽引機として活躍したEF66 “マンモス”、その血を受け継いだJR貨物のEF66形式直流電気機関車が、長い貨物列車の先頭に立つ。24両編成、総重量1000トン以上にも及ぶコンテナ貨車。力強く牽引する姿は豪快そのものだ。

この貨物列車の姿のように、JR貨物がいま、力強く元気だ。長年、赤字体質だった会社が、6年前から黒字経営に、さらにここ数年は好業績を上げ続けている。どのようにして体質改善が図られていったのか、変わるJR貨物の現状を見ていきたい。

 

6年連続増益!ついに最高益をあげるまでに

まずは、JR貨物の好調ぶりを数字で見ていこう。

 

平成29年10月30日に、平成30年3月期の中間決算が発表された。営業収益は935億円。対前年比23億円プラスで、2.6%の増収となった。営業利益にいたっては前年比12.2%増、経常利益は対前年比20.5%増となった。

 

中間期の純利益を見るとなんと78.2%の増加となる。これで6年連続増益となり、中間期決算の公表を開始した平成9年度以来の最高益をあげた。

↑JR田端駅近くビル上にある案内看板。夜になると機関車のヘッドライトが光り、面白い。赤い電気機関車がJR貨物を力強く牽引するといった構図にも見える

 

いまでこそ好調のJR貨物だが、10年ほど前まで、この状態はとても予想できなかった。純利益を見ると、平成20年度(△15億円)、21年度(△27億円)とマイナスの数字が並ぶ。22年度(10億円)は持ち直したものの、東日本大震災があった平成23年度はマイナス5億円の損失を計上した。

 

ところが、翌平成24年度からプラスに転じ、それ以降、ほぼ右肩上がりで業績を延ばしている。

 

こうした背景には、トラック輸送から鉄道輸送や船輸送への転換。CO2の排出を減らそうとする取り組み「モーダルシフト」が、国により強く推進されたこともあるだろう。また昨今の、ドライバー不足から鉄道貨物輸送への転換を余儀なくされた荷主が増えている背景もありそうだ。

 

一方で、時間をかけつつも、より効率の良い鉄道貨物輸送を目指してきた、その成果が実を結んだようにも思える。どのような改善を施し、また成果を生み出したのか、いくつかの事例を見ていきたい。

 

【事例①】

企業とのつながりを強めた「専用列車」の運行

鉄道貨物の輸送は大きく2つにタイプに分けられる。「車扱(しゃあつかい)輸送」と「コンテナ輸送」の2つだ。石油や鉱石などを専用の貨車に載せ、走らせることを車扱輸送と呼ぶ。一方、一定の大きさのコンテナを貨車に載せて運ぶ列車をコンテナ輸送と呼ぶ。

 

古くは車扱輸送が主流だったが、現在は、コンテナ輸送が鉄道貨物全体の約70%を占めている。主流となるコンテナ輸送だが、その姿を大きく変えたのが次の列車だった。

↑一企業の専用列車として走り続ける「スーパーレールカーゴ」。東京貨物ターミナル駅を23時14分に発車、大阪の安治川口駅に早朝5時26分に到着する

 

2004(平成16)年に走り始めた「スーパーレールカーゴ」。東京貨物ターミナル駅と大阪市内の安治川口駅を結ぶ貨物列車で、佐川急便の荷物を積んだコンテナのみを載せて走る。

 

M250系という動力分散方式の車両を利用、専用のコンテナを積んだいわば“貨物電車”のスタイルで走る。深夜の東海道本線を最高時速130kmで走り、上り下りとも約6時間10分で結ぶ。深夜に出発して、翌早朝には東京、大阪に到着するダイヤで運行されている。

 

「スーパーレールカーゴ」での輸送が実績を上げたこともあり、2013年からは福山通運の専用列車「福山レールエクスプレス号」が東京貨物ターミナル駅〜吹田貨物ターミナル駅(大阪府)間を一往復しはじめた。さらに「福山レールエクスプレス号」は、2015年から、東京貨物ターミナル駅〜東福山駅(広島県)間、2017年には名古屋貨物ターミナル駅〜北九州貨物ターミナル駅間の運行も開始された。こうした専用のコンテナ列車は、1往復で、大型トラック60台分のCO2削減につながることもあり、効果が大きい。

↑東海道貨物線を走る「福山レールエクスプレス号」。同列車は東京〜大阪間だけでなく、東京〜福山間、2017年5月からは名古屋〜北九州間の運転も始まっている

 

この動きは、宅配業種との協力体制のみに留まらない。2006年11月から運行を始めたのが「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」。列車名でわかるように、トヨタ自動車関連の部品類を運ぶ専用列車だ。愛知県の笠寺駅(名古屋臨海鉄道・名古屋南貨物駅着発)〜盛岡貨物ターミナル駅、約900km間を約15時間かけて走る。1日に2往復(土・日曜日は運休)するこの専用列車。愛知県内にあるトヨタ自動車の本社工場と岩手工場間の部品輸送に欠かせない列車となっている。

↑相模灘を背に走る「トヨタ・ロングパス・エクスプレス」。青い色の31フィートサイズの専用コンテナを積んで走る

 

2018年3月のダイヤ改正からは、こうしたクルマの部品輸送用の専用列車が相模貨物駅(神奈川県)〜北九州貨物ターミナル駅間を走る予定で、専用列車の需要はますます高まっていくと言えそうだ。

 

【事例②】

スムーズな輸送に欠かせなかった拠点駅の整備

専用列車の登場とともに、JR貨物のスムーズな輸送に大きく貢献したのが2013年3月の吹田貨物ターミナル駅の開業だ。国鉄時代には、東洋一の規模を誇った吹田操車場の跡地の一部を利用した貨物駅で、東海道本線の千里丘駅〜吹田駅間の約7kmにわたる広大な敷地に貨物ターミナル駅が広がる。

↑東海道本線に沿って設けられる吹田貨物ターミナル駅。同駅の整備にあわせて福山通運の「福山レールエクスプレス号」の運行が始められた

 

同駅の整備により、先にあげた「福山レールエクスプレス号」などの列車の着発と、荷役が可能になった。また貨物列車の上り下り線ホームを整えたことで、東海道本線や山陽本線という物流の大動脈を走る列車の荷役作業を、よりスピーディに行えるように改善された(作業は着発線荷役と呼ばれる)。

 

吹田貨物ターミナル駅からは、大阪市内の別の貨物駅、大阪貨物ターミナル駅や百済貨物ターミナル駅を向かう列車も多い。構内を整備したことで、これらの列車の発着もよりスムーズになった。1つの駅の整備が大阪圏内だけでなく、西日本の鉄道貨物の流れをよりスムーズにしたと言っても良いだろう。

↑東海道本線を走る多くの貨物列車の起終点となるのが東京貨物ターミナル駅。駅構内に新たに設けられる大型物流施設の工事も始まっている
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