年間販売台数は約2900万台と、9年連続で世界一の自動車市場となっている中国。それだけに中国で開催されるモーターショーは半端じゃない盛り上がりを見せる。なかでも1年ごとに交互開催される北京と上海で開かれるモーターショーは、世界中のブランドが集まることでも知られている。今年は北京での開催年。その北京モーターショーについてレポートする。
“電動車祭り”の背景にあるのは中国の新政策!?
北京モーターショー2018は、2年前の前回と同様、北京市郊外にある「北京中国国際展覧センター」で開催された。展示エリアは22万㎡で、これは2017年に開催された東京モーターショーの2.5倍以上の規模。出展企業は部品メーカーを含めると1800社にも及び、105台の世界初公開車を含む計1022台を展示した巨大イベントなのだ。
世界中から大半の自動車ブランドが出展していると見られ、いまや世界の自動車業界で最も影響力のあるイベントと言っていいだろう。その中国でいま最も注目されているのが、電気自動車(EV)を中心とした電動車両の動向である。
中国では長い間、化石燃料を原因とするPM2.5に悩まされてきた。その切り札として打ち出された政策が、2019年からスタートする「NEV(新エネルギー車)規制」だ。これは各自動車メーカーに対して大量のEVの販売と生産を義務付けるもので、しかも、その車両はすべて中国製バッテリーを使うことを条件とする。
その背景には経済的な事情がある。EVといえどもクルマとしての性能を高めるには一朝一夕には行かないが、電動車両が増えればバッテリーの需要は増え、それが中国国内の産業にとってメリットが大きいというわけだ。
そんななかで行われた今年の北京モーターショー、会場はまさにEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、そして燃料電池車(FCV)など、“電動車祭り”といった状況だった。
中国で強い存在感を誇るドイツブランド各社の動向は?
中国で強い存在感を誇るドイツのブランドもその例外ではない。輸入車勢でもっともシェアが高いフォルクスワーゲンは、今年3月のスイス・ジュネーブショーで公開したEVの最上位モデル「I.D.VIZZION」を2022年までに中国で発売すると発表。プラットフォームはEV向けの「MEB」を採用し、最新の自動運転機能を搭載する。
BMWは初のピュアEV「コンセプトiX3」のワールドプレミアを行った。現行では「X5」にPHVの設定があるが、完全なEVパワートレインは今回が初。そのスペックは、最高出力200kW(約272ps)以上を生み出すというモーターを備え、400km以上の航続距離を誇る。
圧巻だったのは、メルセデスベンツがワールドプレミアしたマイバッハのEVコンセプト「アルティメット ラグジュアリー」だ。「SUVとサルーンのDNAを融合させた、3ボックスデザインの極めてモダンなSUV」とされ、最上級の贅沢が体感できるインテリアはクリスタルホワイトで統一されつつも、伝統の高い着座位置が確保されている。最高出力は550kW(748ps)で、1回の充電あたりの航続可能距離は欧州基準のNEDCモードで500km以上。5分間で走行100km分に相当する充電が可能という。
また、中国の吉利汽車(ジーリー)の資本参加を受けるスウェーデンのボルボも電動化へ急速にシフトしている。北京モーターショー2018でボルボは2025年までに世界で販売する車両の半数をEVとすることを宣言。すでに昨年、同社は2019年以降に投入する新型車はすべて電動化(PHV含む)することを発表しており、ボルボの電動化戦略は着々と進んでいるようだ。会場では発売して間もない小型SUV「XC40 」にPHEV「T5ツイン・エンジン」を搭載したモデルを出展して注目を浴びた。このエンジンはジーリーと共同開発したもので、1.5ℓ3気筒エンジンにモーターが組み合わされる。
日産、トヨタ、ホンダら日本勢の戦略は?
日本勢はどうか。
もっとも電動化に向けて力が入っていたのが日産だ。中国市場で日産がシルフィをベースにEV化した「シルフィ ゼロ・エミッション」を公開。2018年後半にも中国市場で販売する計画だ。根幹となっているのは日本でも販売されているEVである「リーフ」で、その技術やプラットフォームを流用。航続距離は338kmとした。
電池は中国製だが、モーターやインバーターは日本製となる。日産グループとしては、グループの「ヴェヌーシア」ブランドでコンパクトカーEVを投入済みだが、販売はいまひとつ。そこで最も売れているシルフィ(昨年の販売実績は約42万台)をEV化して実績をさらに伸ばしていきたい考えだ。
日産は今年2月、中国における日産の合弁会社「東風汽車」の中期計画を発表。それによると2022年までに年間販売台数を現在の150万台から100万台以上も上乗せするという、極めて野心的な計画だ。4月より東風汽車の総裁に就任した内田 誠氏は、「中国は変化がとにかく早い。そのニーズに合わせてタイミング良く出していく必要がある」とし、すべてのブランドに渡って20以上の電動化モデル(ゼロエミッションとe-Power※)投入を計画。2018年と2019年には日産、ヴェヌーシア、東風で6車種の電気自動車の投入する予定だ。※現時点でe-PowerはNEV規制対象外
トヨタが北京モーターショーで投入したのは「C-HR」と、兄弟車の「IZOA」だ。新世代プラットフォーム「TNGA」を採用し、中国市場への投入は昨年11月に投入したカムリに続く2車種目となる。トヨタはこの2車種をベースとしたEVを2020年に投入すると宣言。さらに初のPHVとして「カローラ」と「レビン」も発表した。中国のNEV規制ではPHVは含むものの、トヨタが強みとするHVは含まれない。今後はモーターやインバータ、電池という電動車に必要な基幹部品の現地化を急ぎ、NEV規制に対応していく。
ホンダは、中国専用EVのコンセプトカー「理念EVコンセプト」をワールドプレミア。中国の本田技研科技有限公司と広汽本田汽車有限公司(広汽ホンダ)との共同開発によるもので、詳細なスペックは不明だが、広汽ホンダの自主ブランド「理念」のラインナップとして2018年中の発売を予定する。そのほかホンダでは、中国国内で2018年後半に発売を予定している「アコード ハイブリッド」を広汽ホンダで、同じ時期に東風ホンダから発売を予定する新型セダンのコンセプトモデルとして「インスパイア コンセプト」を出展した。
中国メーカーのブースにも大勢の人だかり
最後に中国メーカーに話を移そう。最も際立つ存在だったのが、中国を代表する高級車メーカー「紅旗(ホンチー)」が発表した「E境GTコンセプト」である。フロントマスク両端の切り立ったエッジだけでなく、フロントグリルからボンネットに走る赤いラインは、明らかに紅旗の一族であることを誇示。これまでセダンを主にラインナップしてきた同社だが、このコンセプトモデルでは大胆なクーペデザインを採用している。輸入車が常識だった中国のラグジュアリークーペ市場に一石を投じるモデルとなったことは間違いない。
中国のEVメーカーの代表格といえば「BYD」だ。もともとはバッテリー製造メーカーであるが、現在では3年連続でNEVの量産メーカー世界一にまでなった。今年の主役はSUV「唐」のニューモデルだ。PHVは後輪をモーターで駆動する四輪駆動で、100kmを2リットル以内で走行できる。インフォテインメント「DiLink」は、縦横回転可能な14.6インチのスクリーンや、OTA(オンデマンド・アップデート)、緊急時通報機能など、多くの機能を備える。価格は約25万元(日本円換算:430万円)から。中国ではナンバーが取得しやすいNEVに含まれ、BYDブースは大変な人混みとなっていた。
中国では2025年時点での生産販売台数を3500万台と見込んでおり、そのうちの約20%をNEV規制対象車とする計画を立てている。これは単純計算で700万台に相当し、そのハードルは極めて高い。というのも、現状ではその占有率は2.4%、約12万台にとどまっているからだ。
しかし、自動車メーカーにとっては、たとえ数%のシェアしかなくても分母が大きい中国市場だけに、その方針に従っても十分旨味があるということだろう。折しも欧州を中心に電動化への動きが急展開している最中。今後も中国を軸として自動車の電動化は着時に、かつ急速に進んでいくことになるだろう。