DeNAが提供している個人間カーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」の交流イベントが、2018年6月29日、「cafe 1886 at Bosch Cafe」(東京・渋谷)で開催された。このイベントは、クルマを貸し出すオーナーと、借りる利用者が定期的に交流する場としてAnycaを主宰するDeNAが企画しているもので、この日は約70人の利用者が集まって、交流を深め合った。
使わない時間を有効活用。愛車の貸し出しに抵抗はない?
自家用車を個人間で貸し借りするカーシェアリングサービスとするAnycaがスタートしたのは、2015年9月のこと。マイカーを所有者が実際に使う利用率は平均すると5%を下回ると言われるが、そのマイカーを使わない時間帯を第三者に有料で貸し出して有効活用しようというのがこのサービスの目的だ。ただ、見知らぬユーザー間でクルマの貸し借りをするのは不安も残る。そこで、交流会を通して互いの信頼関係を深めてもらうことが重要として、月に一度のペースでこのイベントは企画されているのだという。
個人間シェアリングで重要なことは、サービスはあくまで「個人間の共同使用契約であって、レンタカーのような営利を目的とするものではない」(DeNA)ということ。そのため、レンタカーよりも低料金で貸し出すことができ、同時にオーナーが持つ個性的なクルマを借りられるというレンタカーでは体験できないようなメリットがある。フェラーリなど“超”がつくような高級車は登録できないが、それでも高級スポーツカーから高級セダン、SUVなど約500種類が登録済み。普段ではまず乗れないようなクルマがリーズナブルな料金で借りられるのが最大の魅力と言えるだろう。
Anyca未体験者として気になるのは、愛車を貸し出すことに抵抗はないのだろうか、ということ。クルマ好きならなおさら愛車へのこだわりは強いはずだし、それを第三者へ貸し出すことなど個人的にはあり得ないとも思っていたからだ。
しかし、この日、参加したオーナー数人に話を聞いたところ、その抵抗はなかったという人ばかりだった。むしろ、「使っていないときに第三者が使うことでお小遣いが稼げる」ことへの期待感が強く、このサービスを知るきっかけも自らこのサービスを検索して探し当てたという人が多かったほどだ。
サービスの信頼性を高めるさまざまな工夫
その高い信頼性はどこにあるのか。
Anycaの利用方法は、まずクルマを借りる利用者と貸し出すオーナーそれぞれが、スマートフォンのAnycaアプリで会員登録を行うことから始まる。ここでオーナーはクルマの写真を掲載するほか、シェアする条件を細かく提示することができる。借りる側もオーナーも登録料は無料だ。登録を終えたら、次に利用者はアプリで貸出車両の検索や予約を行ってオーナーにリクエストを出し、リクエストが承認されればその時点で予約が確定する。
このサービスではアプリ内のチャット上で、貸出条件の設定や利用者との連絡が事前に行えるようになっている。貸出時には利用者とオーナーとが実際に会うことがほとんどで、これによって利用者側に「レンタカーではなく個人のクルマを借り受けるんだ」という意識が芽生えてくる。これがトラブル発生の抑止力となっているらしいのだ。
また、支払いの際、利用者とオーナー間で直接金銭を授受することはない。貸し出す料金はオーナーや車種によって異なるが、利用者はクレジットカード決済でDeNAに利用料金を支払い、DeNAは利用料金の10%を手数料として差し引き、翌月末にまとめてオーナーの銀行口座に振り込む。これは金銭上のトラブルを基本的に発生させないためだ。なお手数料はシェアが成立して初めて発生する仕組みとなっている。
このサービスは現状、登録台数の大半が東京23区に集中しているなど、主として都市部でのサービスとして成り立っている。これについてDeNAは「クルマの受け渡しをする利便性を踏まえるとやむを得ない面がある」とコメント。ただ、地域によっては、たとえば沖縄のような観光地ではすでに何台かの登録があり、旅行で那覇を訪れた人がAnycaのサービスを利用している例もあるという。この日の参加者のなかからも、実家のある群馬県で貸し出し、利用者はそこまで渋滞知らずの新幹線を利用し、軽井沢でのドライブを楽しんで帰るといった例も紹介されていた。
とはいえ、いくら気をつけてもクルマを走らせる以上、事故などのトラブルの発生はつきものだ。そこでAnycaでは、東京海上日動火災保険と提携し、専用の1日自動車保険を用意して利用者に保険の加入を義務付けている。さらにロードサービスが付帯されており、この日の交流会でもBoschによるクルマのトラブル相談会も開催された。Bosch側も、このサービスに対してどう参画していけばいいのかを模索中だという。こうしたサポートもサービスの下支えになっていくものと思われる。
懸念材料はあるが、個人間カーシェアリングの動きは広がりそう
ただ、参加者の話を聞いていくなかで、懸念材料もいくつか見受けられた。
1つは十分な確認をしないままでクルマを受け渡し、オーナー側から傷の発生を指摘された例だ。互いに言い争いとなって最後には裁判へ発展するかもしれない事態となり、その時点でオーナー側が引き下がったのだという。
2つ目は、利用中に車両トラブルからエンジンの載せ替えを強いられた例。この事例ではオーナー側としては「計器上で警告が出ていたにもかかわらず走行を続けた」として利用者への責任を問い、利用者は「車両トラブルは考えもしないことで、きちんと整備していなかったのではないか」とオーナーを責める。結果としてオーナー側が自らの判断で修理を負担することになったという。
利用料金でも少なからず不安を覚えた。というのもオーナー側が稼働率を上げるために、周囲の相場より料金を下げて過当競争に陥りはしないかという懸念だ。さらに言えば、オーナーが貸すことを優先してしまい、オーナー自身がクルマの利用を制限してしまう事例もあるという。もちろん、これらはオーナー側の判断に委ねられるわけで、違反行為ではない。ただ、その話を聞いていると、Anyca本来の目的である「利用しない時間帯を有効活用する」ということから外れてしまってはいないだろうか、と思ったりもする。
とはいえ、日本は諸外国に比べてマイカーの維持費が桁違いに高い。そんな状況下で、車庫に眠っているマイカーを有効活用し、その負担を軽減していこうとする考え方が浸透していくのは時間の問題と思う。自動車メーカーもそうした動きには敏感になっており、ホンダは今年3月にAnycaを通して自社のクルマを知ってもらう目的で参画した。
こうした動きは、クルマ離れがささやかれる若者たちにとっては、関心のあるクルマに低価格で乗れる絶好のチャンスともなる。今後、サービスが全国規模へと広がっていくときに、信頼できるネットワークをどう構築できるかが、個人間カーシェアリングを定着させるカギとなっていくだろう。