ドライブ中、ふと昔なじみの道を通ることがあります。そんなとき、当時聴いていた曲が無意識に頭の中で再生されることってないですか? バイトへ行くときやドライブデートのときにヘビーローテしていた曲が、「そういえばここで聴いていたなぁ」と思い出とともに蘇ること、ありますよね。
シンガーソングライター兼音楽プロデューサーの寺岡呼人さんがナビゲートする「クルマと音楽」、今回はクレイジーケンバンドを率いる横山剣さんをお迎えしました。誰しもが各々に抱いている特別な思い出の曲――横山剣さんの場合は「SUMMERBREEZE」、それもアイズレー・ブラザーズがカバーしたバージョンとのことです。いまでもクルマで横浜の産業道路を走ると思い出すそうですが、いったいどんな思い出があったのでしょう。
【横山剣】
クレイジーケンバンドのリーダー、そしてダブルジョイレコーズの代表取締役も務める。中学時代からバンド活動に勤しみ、1981年にクールスのローディーからメンバーへと抜擢。1983年に脱退してからは数多くのバンドを経て、1997年にクレイジーケンバンドを結成。また数多のアーティストに楽曲を提供している、作曲家・プロデューサーとしての姿もみせる。
クレイジーケンバンド オフィシャルサイト:http://www.crazykenband.com/
「GOING TO A GO-GO」
クレイジーケンバンド
2018年8月1日発売
クレイジーケンバンドのデビュー20周年を記念した約3年ぶりのニューアルバムがリリース決定! アルバムのテーマは「支離滅裂」。「だって作曲中毒の僕が3年もオリジナル・アルバム出すの我慢してたんだから!」と横山剣さんが語るように、ソウル、ファンク、ジャ ズ、ボッサ、レゲエ、ガレーヂ、和モノ、亜モノ、モンド、あらゆる音楽が爆発しています!
【寺岡呼人】
シンガーソングライター兼音楽プロデューサー。1988年、JUN SKY WALKER(S)に加入。1993年にソロデビューし、1997年にはゆずのプロデュースを手がけるようになる。ライブイベントGoldenCircleを主催し、FMCOCOLOの番組「CIRCLEOFMUSIC」で、さまざまな音楽とアーティストをナビゲートしている。筋金入りのオーディオマニアであり、カーマニアでもある。
寺岡呼人オフィシャルサイト:http://www.yohito.com/
家からスタジオまで、クルマで移動し始めた瞬間からトップギア!
寺岡 今日のテーマはクルマと音楽なんですけど、まずは音楽のお話から聞かせてください。僕は1988年にデビューして、今年30周年になったんですが、剣さんは1981年でしたっけ。
横山 そうです20歳の時です。
寺岡 僕も20歳でした、一緒なんですね! クレイジーケンバンドは昨年で20周年を迎えられたそうですが、実際のプロミュージシャン活動としては。
横山 37年なりますね。
寺岡 先日の渋谷クラブクアトロで行われた「PUNCH!PUNCH!PUNCH!」を見てから、クレイジーケンバンドのファーストアルバム「PUNCH!PUNCH!PUNCH!」を改めて聴いたら、僕がいうのもあれなんですけどその進化っぷりがすごいなぁと思いまして。現在は、どのように曲を作られているのか不思議なんです。
横山 まずはデモテープ作りですね。自宅には録音設備がないので、スタジオで全部作業しています。スタジオまで、クルマで移動している間にアイデアが出てきたりするものでして。
寺岡 その前までは真っ白なんですか?
横山 真っ白です。頭のなかに、おぼろげなメロディがあったりはするんですけど。
クルマに乗り、スタジオに移動する時間からトップギアに入れるという横山さん。その間に脳内で煮詰めた最新のフレーズを持って、スタジオという現場に乗り込むのですね。
寺岡 クレイジーケンバンドのサイクルとしては、夏のツアーがあって、その前にレコーディングがあると思うのですが、その間の製作期間って、僕の想像だとかなり短いのではないかと。
横山 2月くらいからスタジオに入ってますね。とはいっても、ずっとスタジオに入れるわけではないんですが。
寺岡 曲そのものは、どのような作り方をしていますか?
横山 歌メロよりも先にベースラインから思いついてしまうことも多いですね。ベースラインから考えてそれにコードをつけていきます。それをメンバーに聴いてもらって直したりとか。
寺岡 じゃあ最初は剣さんお一人で!
横山 はい。鍵盤でなんですけど、それでベースを弾いています。で、僕が好きなタイプのベーシストの感じで「弾いてくれる?」とシンヤくん(クレイジーケンバンドのベーシスト洞口信也さん)に頼んだりして。ドラムはドラムループの音源を使ったりするんですが、何もないときは自分で叩いていますね。最後までは叩けないので、それでループを作ったりしています。
寺岡 そうやってイメージを固めていくのですね。
「みんなのうた」の「山鳩ワルツ」は構想50年!
寺岡 もっと不思議なのは歌詞なんですよね。何でこのトラックでこの歌詞なんだろうと思うことがあって(笑)。剣さんの頭の中はどうなっているのかと不思議で不思議で仕方がないんです。いま、かっこいいトラックって高校生でも作れるかもしれないけど、プロというか、音楽で個性を出すって最終的には歌詞かなと思うんです。「山鳩ワルツ」とかすごいじゃないですか。なんで山鳩が出てくるんだろうと。
横山 あれはですね、構想50年以上の曲なんですよ。
寺岡 本当ですか! 歌詞の通り、本当に親戚のおじさんとの思い出からですか!
横山 本当です。山鳩の鳴き声って、「クークー、ポーポー、」と三拍子で鳴っているという思い込みがずっとありまして。これは何だろうなと気になりながらツチャッチャチャー、ツチャッチャチャーとTAKE5っぽいリズムが思い浮かんだりして。「山鳩ワルツ」はNHKの「みんなのうた」が決まったときになにか良い題材がないかと考えて、そうだ山鳩だ! と。それまでタイトルと「クークー、ポーポー、」だけはずっとあったんだけど、そこから先に進んだことはなかった。今回初めてそこから進んだんですよね。だから構想50年以上です(笑)
情緒たっぷりの歌詞にジャジーなワルツが魅力の「山鳩ワルツ」に、そんなバックグラウンドがあっただなんて、びっくりですね。
横山 あと、踏切が開くのを待っているときに退屈だったから、「カーンカーンカーンカーン」の音に合わせてリズムを作ったりして、いつか曲にしようとか。電車の「ガタンゴトン」から曲にしてやろうとか。
寺岡 じゃあ「そうるとれいん」も、そういう鉄道のイメージがあったんですね。
横山 今回の「GOING TO A GO-GO」もそうです。生活音や擬音か何かから生まれたメロディやリズムが入っています。
クレイジーケンバンド20周年を象徴する「MIDNIGHT BLACK CADILLAC」
寺岡 「GOING TO A GO-GO」といえば過去アルバムで一度はボツになったという「MIDNIGHT BLACK CADILLAC」が入っていましたよね。あれも当時のデモテープみたいのがストックしてあったんですか。それとも頭の中にあったのでしょうか。
横山 あれは、当時「PUNCH!PUNCH!PUNCH!」のアルバムのためにレコーディングをしていたんですよ。だからドラム、ベースギター、ボーカルは、20年以上前の当時のまんまの音です。
寺岡 あ、だから声がお若い! なるほど!
横山 デッドストックです。そのサウンドにいまの音をトッピングして、20年かかって完成した曲なんですよ。
寺岡 じゃあ当時のマルチトラックのマスターがあって、それをコンバートしたんですね。でも、もう機器がないですよね。
当時、ヨンパチこと48トラックの録音ができるPCM-3348でレコーディングをしていた横山さん。このマルチレコーダーは現在メンテナンスサービスが終了しており、実働状態のものが少なくなってきているそうです。
横山 ダメ元でやってみたんだけどちゃんと再生できて、「よしっ!」って感じでしたね。クレイジーケンバンドにはその当時サックス一本しかなかったんです。でも「MIDNIGHT BLACK CADILLAC」はホーンセクションがないとダメだよなと思ってて。いやあ、あの時出さなくてよかった、いまこの編成でこそやってよかったですね。
寺岡 全部やり直そうとは思わなかった?
横山 やっぱり20周年を記念するアルバムなので、それを象徴するようなものってないのかなと考えたんですよ。ゼロから作るよりもその当時のデッドストックから仕上げるというのも一つの手だなと。
寺岡 あと今回は全体の音が柔らかくも研ぎ澄まされてる感じがしました。すごく音が良くて抜けていて、「ここに来てこういう音を出すんですか!」と落ち込むぐらいでした。
横山 結構好みの音ですね。ちょっとやりすぎちゃったかなという気もするけど。マスタリングはBernieGrundman Mastering Tokyoの前田さんにお願いしています。デジタルすぎると角が立って音が痛いと思ったから、アナログの機材でマスタリングするところじゃないとダメだと考えまして。
寺岡 そうなんです。アナログで録ったみたいな音ですよね。ある意味、剣さんがやってこられたことの集大成的なすごく良い音で本当によかったです。ところで、クレイジーケンバンドのライブって何度見てもまったく飽きないというのが不思議なんですよね。例えば同じオチがありますけど、あれもどっかで待っている感じがあるし。
横山 チャックベリーのダックウォークとかJBのマントショーとか。わかっているのに待っているところがありますよね。
寺岡 そういうときにクレイジーケンバンドのような大編成だからこそいい意味での「ドリフ感」があるというか、何回か見ると年齢を問わず病みつきになっちゃう要素がありますよね。
小学生時代は一人で東京モーターショー見学に行っていたほどのカーマニア
寺岡 クレイジーケンバンドにはクルマの曲も多いし、ファンの人たちにとってクルマと剣さんって切っても切れない関係だと思うんですけど、そもそもクルマに興味を持ったきっかけは何だったんですか?
横山 5歳のとき、幼稚園の同級生のお父さんがベレット1600GTに乗っていたんです。その子の家に遊びに行くとお父さんとクルマ話をするわけですよ。「これツインキャブですか」とか言うとエンジンかけてくれたり、「かっこいい!」と言うとその友だちをほっておいてクルマに乗せてくれたりして。同様に、友だちのお父さんが乗っている日野コンテッサとかプリンススカイライン54Bとか、そういったクルマに興味を持っていましたね。
そして6歳のとき、父親に「より特化したものを見せてやる」と言われて、三船敏郎さんが出てる「グラン・プリ」という映画を観に連れて行ってもらったんですよ。これはF1をテーマにした作品なんですけど、ここからモータースポーツに入りましたね。
「路面電車」「ベレット1600GT-CKB仕様」「アメ車と夜と本牧と」などなど、クルマがモチーフとなった曲が多いクレイジーケンバンド。横山さんご自身もクルマが好きだとは聞いていましたが、まさか5歳のときからハマっていたとは!
寺岡 日本だと18歳からしかクルマの免許は取れないじゃないですか。5歳からの18歳までの13年間はどうだったんでしょう。
横山 晴海の見本市会場でやっていた東京モーターショーに行っていました。友だちにもカーマニアはいたけど、一緒に行くと集中できないので一人で行ってました。
寺岡 小学生で! 会場には当時の新車が並んでいたんですか?
横山 あとコンセプトカーですね。東京モーターショーにコンセプトカーが出ると、翌年にその市販版が発売されるという時代でした。確か1970年のモーターショーでセリカとカリーナがデビューしたんですが、もうほんとにセンセーショナルでしたね。
気がつかずに買ってしまったアメ車は7500cc!
寺岡 ご自分で一番最初に乗ったクルマは?
横山 18歳のときに買ったサニー1200GXです。ただそれはレース用なので公道は走れなかったんですよ。あとオールズモビルのカトラスも買いました。これ7500ccでした。
寺岡 ななせんごひゃくしーしー!
横山 35万円くらいで売っていて、「これは俺、買える!」と思って買ったんですが、まさかそんなに排気量があるとは知らなくて、車検証を見て「え!? 7500cc!?」と。知らないで買っちゃったんですよ。そして1年経つと13万円弱の自動車税が(笑)
寺岡 だから人気がなく安かったのか…。ではその2台から始まってたくさん乗り換えてきたんですよね。
そうして教えていただいたクルマ遍歴のすごいこと、すごいこと。スカイライン2000GT、アルファロメオ1750GT、ベレットGTは3種類乗り継いだし、オールズモビルのカトラスも多数乗り換えてきています。
横山 急に気分が変わってアコードのエアロデッキとか、ワーゲンのタイプ3をフラット4に改造してもらってすごく速くしたり。
寺岡 目黒通り沿いのワーゲン専門店ですよね。
横山 そうです。「これちょっと速くしてほしいんですけど」って(笑)
寺岡 じゃあクルマの乗り換えは、10年とか3年毎といった周期的ではなかったと。
横山 もう次から次へでしたね。
寺岡 「MIDNIGHT BLACK CADILLAC」には、曲名にキャデラックの名前が使われていますけど、キャデラックも乗っていたんですか。
横山 最初に乗ったのはフリートウッドブロアムです。ローライダーにしようと思って買ったんですけど、フルノーマル状態で見たらこれはカスタムしたらもったいなと思いましたね。その次はコンコース。その次はCTS。いわゆる現代車ですね。今月にATS-Vという小さめのクルマが来ます。
ヨコハマの女子ウケがよかった曲はアイズレー・ブラザーズの「SUMMERBREEZE」
寺岡 クレイジーケンバンドの「中古車」という曲の、「カーステレオのなかに得体の知れないカセットテープが入っていた」っていう歌詞が面白いですよね。
日本の自動車メーカーの名前を羅列していますが、曲調はエスニックな雰囲気が濃厚の「中古車」。前のオーナーが残していったテープを聴いたら、得体が知れないけど懐かしくも美しいビートが流れる…という歌詞なのです。
横山 当時の横浜の港は、パキスタン人の車業者が多かったんですよ。その人たちはパキスタンの音楽が入ったカセットテープを聴いていたのですが、あるときその業者が扱う中古車を試乗したら、パキスタンの音楽が流れ出したんです。カセットテープを抜き忘れてていたと。で、「なんだこの曲は!」と、業者の方にカセットテープを譲ってもらいまして。
寺岡 ではあの歌も実話なんですね。クルマで聴く音楽って、最初はカセットテープだったと思うんですけど、こだわりの選曲をした思い出ってありますか。
横山 ありましたね。特にデートのときは気合い入れましたね。でもカセットテープはCDと違って、そのタイミングでその曲が来てくれるか、わからないじゃないですか。だから夕暮れ時にムーディな曲をかけたいと思って、気づかれないように巻き戻したりするんだけど、女の子はお喋りに夢中で、そのシチュエーションになっても曲に気づいてくれなかったりとか(笑)。いまでもデートコースだった場所を通ると、頭の中で鳴るんですよね、昔聞いた曲が。
寺岡 ありますあります!
横山 当時は毎年夏になると本牧市民プールにラジカセのでかいのを持って行ってたんです。そのときかけていた曲のなかでも、特に女の子が反応する曲があったんですよ。それがアイズレー・ブラザーズの「SUMMERBREEZE」。これかけてると結構釣れるといいますか(笑)
寺岡 じゃあ「タオル」の歌詞はまさに!
横山 その思い出を曲にしました。いまだに産業道路をクルマで走っていて、本牧市民プールの看板をみると、「サマーブリーズ~」と鳴るんですよ。
寺岡 そういう音楽との出会い方っていうのもいいですよね。音楽との接し方が変わってきている現在ですが、色々な音楽の聴き方をしてほしいなと思いますね。
ちょい聴きだったらオンラインサービス。本気で欲しくなったらパッケージ
寺岡 ところでクルマの中ではどのように音楽を慣らしていますか?
横山 いまのクルマにはCDプレーヤーがないので、iPodからBluetoothで飛ばして聴いています。でもCDの方が音がいいので、次に来るキャデラックにはCDプレーヤーをつけましたね。
寺岡 お、iPodですか。
横山 電話がガラケーなんで、音楽はiPodに任せてます。
寺岡 ご自宅で聴くときはどうでしょう。
横山 自宅はCDとアナログと、パソコンに保存した曲を聴くことが多いのですが…ボリューム上げるとうるさいと言われてしまう(笑)
寺岡 よくわかります(笑)。ところで、いわゆる音楽配信サービスについてはどう捉えていますか?
横山 娘はそれで聴いてます。僕はやり方が分からないので娘に教えてもらって。ちょい聴きしたいものにはいいですよね。その曲が気に入れば、CDやアナログのパッケージが欲しくなってきます。
寺岡 ほどよく利用しているわけですね!
横山 そういうことになります(笑)
撮影/横山勝彦