おもしろローカル線の旅26 〜〜秩父鉄道(埼玉県)〜〜
羽生から、熊谷、寄居、さらに秩父と埼玉県内を東西に縦断するように走る秩父鉄道。東京に一番近いSL列車が走る路線としても人気が高い。
秩父鉄道の魅力はSL列車だけでない。乗れば乗るほど、新たな発見がある。四季折々、沿線を彩る自然に加え、観光も魅力いっぱい。さらに鉄道好きには見逃せない貨物列車も走る。さあ、秩父鉄道「再発見の旅」に出かけよう。
【秩父鉄道の歴史と概要】絹や木材輸送のため路線が計画された
まず路線開業の歴史および、路線の概要を見ておこう。秩父鉄道の歴史は関東地方を走る民営鉄道の中では、古参の部類に入る。
路線開業 | 上武鉄道(じょうぶてつどう)により1901(明治34)年10月7日に熊谷駅〜寄居駅間が開業 |
現在の路線と距離 | 秩父鉄道秩父本線・羽生駅〜三峰口駅間71.7km、三ヶ尻線7.6km(貨物専用路線) |
駅数 | 37駅(ほか貨物駅4駅あり) |
開業は明治期だったものの、当時の日本は日清戦争後の不況が重なり、同会社も資金難に陥った。創業に携わった人たちが私財を投じるほどまで状況は厳しく、路線の延ばせない状況だった。1911(明治44)年に金崎(皆野町)までようやく延伸する。
さらに荒川を渡る橋梁の工事を進めるなどして、ようやく1914(大正3)年に現在の秩父駅まで路線が延ばされた。1916(大正5)年には社名が秩父鉄道となる。
一方、熊谷駅〜羽生駅(はにゅうえき)間の開業は北武鉄道(ほくぶてつどう)という会社により進められた。1922(大正11)年8月1日に羽生駅〜熊谷駅間の路線が全通している。同年の9月18日に秩父鉄道が北武鉄道を合併した。
最終的に、現在の三峰口駅まで路線が通じたのは1930(昭和5)年のことだった。実に30年近い歳月をかけて徐々に路線が延ばされていったわけだ。
路線の延伸は長い歳月がかかったものの、それまで筏に頼っていた秩父の木材の切り出しに鉄道が利用されるようになり、特産品の絹の輸送にも鉄道が使われた。
また武甲山からの石灰石の輸送も行われるようになり、秩父鉄道に大きな利益をもたらした。1922(大正11)年には熊谷駅〜影森駅間の全線が電化される。これは地方の民営鉄道としては最も古いとされている。
大正期の電化後と、昭和30年代には300系といった地方私鉄としては、意欲的な車両を自社発注したものの、その後は国鉄や、大手私鉄で使われた車両を導入して輸送力を確保している。国鉄の近代化に大きく貢献した101系もつい最近まで走っていた。引退する前に最後の雄姿に見ておきたいと多くの鉄道ファンが沿線を訪れた。
【秩父鉄道の車両】元東急や西武の車両が秩父路を元気に駆ける
現在、秩父鉄道を走っている電車を見ていこう。
主力となっている車両は元東急電鉄の車両たちだ。これらの車両は今でも東急で活躍中の車両で、秩父鉄道へやってきたものの古さを感じさせない。
◆7000系(元東急8500系)
秩父鉄道7000系は東急電鉄時代に8500系だった車両。変更されている箇所は、ドアごとに開け閉めボタンが付けられたことと、前面のカラーが変更されるなどで、東急時代とあまり変っていない印象だ。
東急出身の車両は他に秩父鉄道7500系・7800系が走る。元東急の8090系で、東急大井町線で使われていた。3両編成化された車両が7500系に、2両編成化された車両は7800系となっている。7500系は東急時代の面影を残しているが、7800系は先頭車の姿が大きく変更され、特徴のある姿で秩父路を走っている。
◆6000系(元西武新101系)
元西武の新101系も導入され、急行用電車として使われている。西武の101系といえば、かつては西武秩父線の開業に合わせて生まれた車両だ。秩父に縁の深い車両が、改造されて秩父路を今も走り続けているわけだ。
ちなみに車両はクロスシートに改造、また3ドアだった車両が2ドアとなっている。秩父鉄道の普通列車はロングシートが主流なだけに、鉄道旅の気分を楽しみたい方にはおすすめの電車だ。なお、急行列車への乗車には乗車券以外に急行券(200円)が必要となる。
ほか元都営地下鉄三田線の6000形も5000系となり走っている。
◆西武鉄道4000系
西武鉄道の4000系も西武秩父線から秩父鉄道へ直接乗り入れている。4000系は、勾配が急な西武秩父線内と、秩父鉄道への乗り入れ用に造られた車両で、セミクロスシート仕様、トイレも用意される。
週末は池袋駅〜長瀞駅・三峰口駅間を走り、ハイカーを中心に、多くの観光客に利用されている。
【秩父鉄道のSL情報】朗報!正月からSL列車が復活の予定
秩父鉄道の名物となっている「SLパレオエクスプレス」。週末を中心に熊谷駅〜三峰口駅を一往復する。東京から最も近くを走るSL列車として人気だ。パレオエクスプレスの名は、1300万年前に秩父地方に生息していたとされる海獣「パレオパラドキシア」にちなむ。
そんなSL列車だが、牽引をつとめるC58形蒸気機関車の点検作業中に不具合が発見され、2018年9月末から12月末まで長期運休を余儀なくされていた。
今後が心配されていたが、無事に復活することが12月18日に発表された。
予定では「SLパレオエクスプレス」の2019年の運行は、1月1日から6日までと、2月3日から3月3日までの土曜・休日を中心に計15日間、運行される。例年2月は運休時期だっただけに、初の冬の運行が本格化することとなった。期間中は多彩な車内イベントなども企画されていて、期待も膨らむ。
「SLパレオエクスプレス」の牽引に使われるC58形363号機は、1944(昭和19)年生まれ。主に東北地方のローカル線で使われた。1987(昭和62)年に「’88さいたま博覧会」を契機に復活が図られ、同年、JR東日本から秩父鉄道へ転籍した。
復活当初は「埼玉県北部観光振興財団」が所有していたが、財団解散後は秩父市へ移管、さらに2003年以降は、秩父鉄道が所有する車両となっている。C58形の動態保存機は、JR東日本が運行する観光列車「SL銀河」用の239号機と、秩父鉄道の363号機のみ。まさに秩父鉄道のお宝というわけだ。
【秩父再発見の旅1】関東平野の広さを感じる行田市の田園風景
ここまで話が車両中心になってしまったが、秩父鉄道秩父本線の再発見の旅に出かけよう。まずは秩父本線の起点となっている羽生駅(はにゅうえき)から旅をスタートする。
秩父鉄道といえば、SL列車や急行などの優等列車が走る熊谷駅〜三峰口駅間に注目が集まりがちだが、羽生駅〜熊谷駅間も見逃せない区間だ。
東武鉄道伊勢崎の改札を出て、秩父鉄道の改札へ向かう。秩父鉄道は交通系ICカードがまだ利用できない。そのため券売機で切符を購入して乗車する。
週末に秩父鉄道を旅する時には「秩父路遊々フリーきっぷ」(大人1,440円)を購入するとおトクで便利だ(土曜・休日・SL運転日のみ利用可能)。また西武鉄道からも、西武沿線内の主要駅から秩父鉄道の野上駅〜三峰口駅間の乗継ぎが可能な「秩父フリーきっぷ」が販売されている。
羽生駅発の電車の発車時刻は、時間帯でまちまちで、15〜30分間隔で電車が出ている。ちなみに平日と、土曜・休日では、発車時間が大きく異なるので、注意したい。筆者はネットで時刻と調べつつ乗り巡ろうとした時に、曜日の確認を疎かにして大失敗したことがあった。ご注意を。
羽生駅を出発した電車は、2つ先の新郷駅までは住宅地の中を走る。新郷駅を出ると景色が開ける。次の武州荒木駅(ぶしゅうあらきえき)までは、ほぼ田園風景となる。付近は行田市にあたり、とくに路線の南側の田園風景が見事だ。約1km先に国道125号の行田バイパスが見えるが、障害物がないために国道を走るクルマがくっきりと見えた。
関東地方を走る鉄道路線で、ここまで左右に、さらに遠くまで田園風景が広がる風景は記憶にない。これだけでも今となっては、お宝のように感じた。ちなみに北側は遠くに群馬県の赤城山に望むことができる。
【秩父再発見の旅2】広瀬川原駅という駅をご存知でしょうか?
熊谷駅の手前で上越新幹線の高架橋をくぐり、JR高崎線を立体交差で越えて、熊谷駅へ到着する。
羽生駅発の電車は秩父本線全線を通して三峰口まで走るものと、熊谷駅止まり、影森駅止まりの電車があるので注意したい。たとえ熊谷駅止まりの電車に乗っても、対面するホームから、熊谷駅より先へ行く電車が、適度な時間差で接続しているので便利だ。
熊谷駅から先は、やはり秩父本線のハイライト区間といって良いだろう。寄居駅までは、鉄道ファンにとって、心も浮き浮きするような区間だ。さらにその先は、風景が変化に富み、四季折々の風景が楽しめる。
なぜ、熊谷駅〜寄居駅間が鉄道ファンにとって浮き浮きする区間なのか。車両基地や、貨物線の分岐ポイント、撮影名所など、ご存知の方も多いかも知れないが、改めて紹介していこう。
熊谷駅を発車した電車は、上熊谷駅と石原駅の2駅ほど、JR高崎線と平行して走る。石原駅の先で、JR高崎線から分かれ、上越新幹線の高架橋をくぐり、西へ向かう。そして、しばらく熊谷市郊外のベッドタウンを見ながら進む。
ひろせ野鳥の森駅が過ぎたら北側の車窓に注目したい。次の大麻生駅の間に広瀬川原(ひろせがわら)車両基地が広がる。ここには秩父鉄道の電車と、色とりどりの貨物用電気機関車、さらに「SLパレオエクスプレス」用のC58形蒸気機関車や、12系客車が停められている。同基地内には熊谷車両区、そして検査を行う熊谷工場、また蒸気機関車用の転車台も設けられている。
実はこの場所、車両基地として知られているが、貨物駅の広瀬川原駅(ひろせがわらえき)も兼ねている。同区間は貨物列車が通らず(東武鉄道から委託される甲種輸送列車などのみ)、この場での貨物の取り扱いはほぼないのだが、今でも駅として同鉄道のダイヤグラムには掲載されている。
大麻生駅の一つ先、明戸駅(あけとえき)と武川駅(たけかわえき)間では、北側の車窓を注意しておきたい。
駅間で1本の線路が合流してくる。この路線は三ヶ尻線(みかじりせん)と呼ばれる貨物専用線だ。線路の先はJR高崎線の熊谷貨物ターミナル駅まで続いている。貨物列車が定期的に走り、鉄道好きにとっては興味深い路線でもある。
三ヶ尻線は武川駅まで秩父鉄道の秩父本線と平行して線路が続く。武川駅には機関車検修設備も設けられ、常に数両の貨物用機関車が停車している。
【秩父再発見の旅3】日本で一番新しい駅が誕生した理由は?
武川駅付近ともなると、郊外の趣が深まり、田畑が多くなってくる。この先、寄居駅までそうした風景が続くが、途中に新駅が誕生した。
10月20日に開業した「ふかや花園駅」がその新駅で、いま日本で一番新しく誕生した駅でもある。新駅周辺は今のところ、田畑が広がっているが、2020年にはアウトレットモールが開設される予定だとされる。
この駅、深谷市が総事業費を全額負担して生まれた駅だ。実は周辺の農地は優良農地に指定されていた。
そのため商業施設の造成ができなかった。ところが、駅が誕生したことにより、その縛りが解けて開発可能となる。「なるほど!」と筆者も納得させられた策である。農地を商業地化する是非はあるだろうが、鉄道と、地方経済をより活発化させるという意味で、今後が注目される。
新駅は関越自動車道の花園ICも近い。将来はSL列車も停車する予定で、ここ数年で、駅周辺が大きく変って行くことだろう。
【秩父再発見の旅4】寄居駅を過ぎると景色が一転、山景色に
秩父本線の起点、羽生駅からちょうど1時間ほどで寄居駅に到着する。終点の三峰口駅まで、普通列車であと1時間ちょっとかかる。路線のちょうど中間駅と言って良いだろう。
この寄居駅は東武東上線とJR八高線の接続駅でもある。そのため乗り換え客もさぞや多いのだろうと推測したが、意外に少なめだった。駅前のショッピングセンターなども閉店している。
推測するに、秩父鉄道の沿線に訪れる人たちはJR高崎線の熊谷駅、または西武秩父線を乗り継いでという人が多くなっているように思われる。以前は西武秩父線から乗り入れて寄居駅まで行く列車もあったが、利用者の減少から現在は長瀞駅までの運転となっている。
このような状況を見ても、誕生したふかや花園駅周辺の商業地開発が、埼玉県北西部、そして秩父鉄道にとっても今後の大きな鍵となりそうだ。
寄居駅を出発すると、車窓は山景色に変化する。さらに電車は荒川に添うように走る。秩父本線ではこの先、長瀞駅周辺が、最も観光客で賑わうポイントとなる。
長瀞といえば荒川を下る「アドベンチャー舟下り」が名物となっている。冬期は休業となるが、来春は3月10日ごろからの受付を開始の予定。地名でも長瀞と呼ばれるぐらいで、長瀞付近は流れが緩やかだ。その反面、舟下りコースの一部には急な流れもあって流れを乗り切る際はスリル満点となる。
この舟下りが通る荒川橋梁。同橋梁付近の「SLパレオエクスプレス」の通過時間は下り列車が11時46分ごろ、上り列車が15時ごろで、運が良ければ舟下りの船上からベストショットを狙うことができる。
上長瀞駅〜親鼻駅間にかかる荒川橋梁は全長153mのプレートガーダー橋梁で、左右に障害物がなく、非常に展望も良い。荒川本流の最上流に架かる鉄道橋でもある。舟下りとともに車窓からも荒川の眺めを堪能したい。
【秩父再発見の旅5】影森駅を過ぎるとさらに山中へ電車は進む
荒川橋梁を越えると秩父も近い。秩父本線では、秩父駅が秩父市の中心駅となるが、乗り換え客で賑わうのは、次の御花畑駅だ。西武秩父線の西武秩父駅と秩父鉄道の御花畑駅がやや離れているのが難だ(徒歩5分程度)。ちなみに西武鉄道から秩父鉄道へ直通列車は、御花畑駅の専用ホームへ直接、乗り入れ、三峰口駅へ、また長瀞駅へ向かう。
御花畑駅から終点の三峰口駅までは、あと5駅しかない。ところが次の影森駅止まりの電車が多いので注意したい。影森駅〜三峰口駅間は、平日の場合は、ほぼ1時間に1本と列車本数が減る。ただし土曜・休日は本数が増え、お昼前後の時間帯を除き15分〜30分間隔と便利になる。
影森駅を過ぎると電車は右へ、左へカーブを切りつつ、登り勾配を走る。その途中、秩父本線に途中まで寄り添い、山中に消えるように走る謎の引込線の線路が見えるのだが、同引込線の話は後ほど。
山の中の小さな駅を停車しつつ終点の三峰口駅へ向かう。三峰口駅は四方に山々が望める静かな駅。駅前からは三峰神社方面へのバスも出発している。
【秩父再発見の旅6】秩父市内で見逃せない観光ポイントがある
ここからは秩父本線のおすすめ観光ポイントをいくつかあげておこう。全線に渡り、見どころは多いのだが、ここでは秩父に絞って見逃せないポイントを紹介したい。
秩父市内の古い街並みや、羊山公園といった観光ポイント以外に、秩父に点在する34か所のお寺さんを巡る「秩父札所巡り」も近年、人気となっている。
秩父の食も見逃せないポイントだ。特に地粉を使った手打ちそば(秋の新そばが美味)に、丼に入り切れないほどの大きさの「わらじカツ丼」。さらに夏ともなれば、天然氷を利用した「かき氷」も、近年、注目の的となっている(長瀞に人気店が多い)。かつて養蚕用に造られていたとされる秩父の天然氷。それが今は名産となって、かき氷に利用されているのがおもしろい。
【秩父再発見の旅7】秩父鉄道の貨物列車の動きに注目したい
最後に貨物列車の動きを見てみよう。現在、民営鉄道(第三セクター鉄道を除く)で貨物列車の運行する会社は国内で3社のみとなっている。
秩父鉄道では古くから武甲山を始め沿線で採掘される石灰石を専用の貨車で運んで来た。ホッパ車と呼ばれる貨車の上部、石灰石が顔を見せるほどに満載した車両を連ね、箱形の電気機関車が牽引する姿が絵になる。そうした貨物列車の動きを、写真で見ていこう。
秩父鉄道の貨物輸送量は平均して年間200万トン前後にもなる。これはJR貨物を除き、岩手県の岩手開発鉄道と並び1〜2位を争う輸送量だ。もちろん運ぶ物品が異なるため、トン数のみの数値では比べにくいが、臨海鉄道としては最大の輸送量を誇る京葉臨海鉄道の輸送トン数をも上回る。
それだけ貨物輸送が盛んということが言えるだろう。さらに近年は、どちらかといえば地味目だった電気機関車の車体カラーが、黄色やピンクに塗り替えられ、華やかになって、より目立つようになった。
秩父鉄道の貨物輸送は非常に活発で、平日休日とも影森駅〜三ヶ尻駅間を4〜7列車、下りが4〜11列車が走る。ただし、セメント工場がメンテナンス等で休みとなると、貨物輸送もなくなる。また早発、遅発、さらに運休が多いので注意したい。
このほか、秩父鉄道では東武鉄道などの電車の甲種輸送も行っている。東武鉄道の東西の線路網が遠く離れているためだ。そのため東武鉄道と線路がつながる羽生駅と寄居駅間で、秩父鉄道の電気機関車が、東武鉄道の電車を牽いた甲種輸送が行われている。
秩父鉄道は通勤・通学や観光だけでなく、セメント製造のための石灰石輸送や、東武鉄道の甲種輸送など、欠かせない鉄道路線となっている。さらに新駅誕生で変りつつある秩父鉄道の沿線。これからも注目していきたい。