乗り物
2016/6/4 10:00

BMW初のスクーターは4年経ってどう変わったの? 熟成進んでもはや敵なし!?

コマツ ダンpresentsぶった切りバイク批評

 

“あのプレミアムブランドBMWがついにスクーターに手を出した!”と、2012年に登場したC650GTとC600sportsという2台のマキシスクーターは、業界のみならず世界中のバイクファンを騒がせたものである。それから4年の月日が経った2016年、両車はモデルチェンジを行った。今回はそのうちのラグジュアリー路線を狙った「C650GT」について、紹介していきたいと思う。

 

そもそもBMWがマキシスクーターの開発に着手した背景には、世界中の大都市圏において、多くの需要があると見込んでいたからであった。しかし、そこには日本のメーカーが築き上げたスクーター市場という牙城が立ちはだかっていることが、誰の目から見ても歴然としたことだった。

 

さらに以前、BMW AGスタッフから「スクーターというジャンルに我々が提供する“駆け抜ける喜び”を見出すことができない。だから作ることはないだろう」と聞かされたこともあった。だが、マキシスクーターに着手したことを耳にした時には、日本のメーカーが作りだしたスクーターを認め、ついにそのステージに挑んできたのだと感じた次第だ。

 

ca20160523-03 (1) ca20160523-03 (2)

前置きが長くなってしまったが本題に入ろう。C650GTは電動スクリーンや、グリップ/シートヒーターなどを装備するデラックスモデルだ。「GT=グランツーリズモ」をイニシャルに持つBMWmotorradとして、K1600GT、F800GTと並ぶだけあって、その作り込みは入念なもの。今回のモデルチェンジではスタイリングこそほとんど手を加えられなかったのだが、CVT(オートマ機構)が大幅に手を加えられている。スロットルの開け始めからしっかりと駆動が伝わり、よりダイレクト感が増している。

 

メッツラー・フィールフリーのタイヤと動きの良いサスペンションの組み合わせは、乗り心地が良い。それでいて深いバンクを楽しむようなスポーツライディングをしても、スクーターのような小径タイヤでありがちな、足元からすくわれるような不安感を抱かせることはなく、そのバランスの高さが伺える。

 

これまでのモデルでは若干ではあるもののライバルに一日の長が感じられる部分があったりもしたが、熟成が進んだC650GTはもはや敵なしといったところ。鼻歌を歌いながら、ばっさばっさと切りまくって走らせられるオートマミッションの極上の快感を得ることができるのだ。

↑左右シンメトリックなスタイリングとするスプリットフェイスを新型でも継承。G650GTは電動スクリーンを採用する(C650sportsは手動)。ミラーの後方視認性は高いが、日本仕様では横にクルマなどがいることを知らせるSVA(サイド・ヴュー・アシスト)は装備されない
↑左右シンメトリックなスタイリングとするスプリットフェイスを新型でも継承。G650GTは電動スクリーンを採用する(C650sportsは手動)。ミラーの後方視認性は高いが、日本仕様では横にクルマなどがいることを知らせるSVA(サイド・ビュー・アシスト)は装備されない
↑高級感のあるインストルメントディスプレイ。アナログタイプの速度計をメインに、付随する液晶パネルが走行距離やシート/グリップヒーターの状態などのインフォメーションを表示する。なおシートヒーターは座面とバックレストに埋め込まれており、独立して強さを調整可能
↑高級感のあるインストルメントディスプレイ。アナログタイプの速度計をメインに、付随する液晶パネルが走行距離やシート/グリップヒーターの状態などのインフォメーションを表示する。なおシートヒーターは座面とバックレストに埋め込まれており、独立して強さを調整可能
↑大型スクーターでは一般的なスイングアーム内臓の駆動系はリセッティングが施され、スロットルのひねり出しから、タイヤが転がり出す瞬間までのダイレクト感が向上した。クルーズライドも気持ちいが、どちらかというと高回転まで使い切るように快活な走りを楽しみたい
↑大型スクーターでは一般的なスイングアーム内蔵の駆動系はリセッティングが施され、スロットルのひねり出しから、タイヤが転がり出す瞬間までのダイレクト感が向上した。クルーズライドも気持ちよいが、どちらかというと高回転まで使い切るように快活な走りを楽しみたい
↑LEDで纏められたテールシグナルは外部からの視認性も高いもの。タンデムライディングも考慮され、パッセンジャーシートにもシートヒーターを装備、グラブバーも大型で握りやすいものとされており、リアシートでも快適。こういったところはGTを選ぶポイントとなるだろう。
↑LEDで纏められたテールシグナルは外部からの視認性も高いもの。タンデムライディングも考慮され、パッセンジャーシートにもシートヒーターを装備、グラブバーも大型で握りやすいものとされており、リアシートでも快適。こういったところはGTを選ぶポイントとなるだろう。

 

 細部は改良の余地があるがやはりBMWブランド

新型C650GTを、高速を使ったロングツーリングから街中まで1500キロほど乗り回してきた。旧モデルを知っているだけに、その進化の高さをうかがい知れるものだが、BMWが作り出したモーターサイクルとして考えると、まだまだ詰め具合が甘いと感じられる部分がある。

 

例えば、モーターサイクルらしい鼓動感を味わうために搭載される2気筒エンジンは270度クランク爆発とされているが、はっきりいってしまうとこの手のモデルに触手を伸ばすライダーが、そのニュアンスを求めているかを考えると少々疑問に思う部分がある。

 

BMWの得意とするプレミアム感を演出するならば、むしろモーターのように滑らかに回転が上昇するいわゆるシルキーフィールではないのだろうか。特にストップ&ゴーに多く直面する市街地では、お尻の下でダカダカと振動を発するエンジンに冷めてしまう。

 

とはいえ、積極的にスポーツを楽しむような攻めるライディングをした際には、驚くほど滑らかに走る。C650sportsとはキャラクター分けがされているが、その気になって走らせたとしても、その差はあまり無いように感じられる。

 

あと気になったのはシート下のラゲッジスペース。フルフェイスヘルメットが2個入るとうたっているが、ちゃんと角度を揃えてこそ収めることができる形状となっており、無造作に2個をほおりこむとシートが閉まらない。

 

ただし、そうはいってもBMWである。プロペラマークがついたスクーターであれば、購入をする際にいつもは財布の紐を固く縛っている奥さんも頷いてくれるだろうし、近所からの視線も釘づけだろう。周囲に対する印象が良いのだ。これはとても重要なポイントであり、いくら世界最速のバイクに乗っていたとしても、ただの暴走族に見えてしまうのとは大きく異なる。

 

コマツダン的イメージストーリーでは、40代くらいの役職に就いた中堅サラリーマンが、30歳くらいの未婚の女性社員に手を出す際に使うソフトヤンチャマシンといったところ。彼女たちはタンデムシートで「昔付き合っていた彼氏がビッグスクーターに乗っていて、あの頃を思い出しちゃう」と心の中でつぶやいてしまうことだろう。そんなシチュエーションを楽しめるC650GTで味を占めたら、次は自分のためにより大排気量のGS系に手を出すもよし、より深い関係を求めるためにツアラー系に乗り換えるもよしだ。

 

C650GTはイージーライドなセカンドバイクではなく、ファーストBMWとしての素質を感じるものなのだ。

 

【BMW C650GT】

販売価格 116万5000円

エンジン
タイプ:水冷4ストローク2気筒、4バルブ
ボアxストローク:79 mm x 66 mm
排気量:647 cc
最高出力:44 kW (60 ps) / 7,500 rpm
最大トルク:63 Nm / 6,000 rpm
圧縮比:11.6 : 1
点火/噴射制御:電子制御マネージメントシステム(BMS-KP)、燃料カットオフ機能付
エミッション制御:クローズドループ三元触媒コンバーター、排ガス基準EU4をクリア

寸法・重量
全長:2,235 mm
全幅(ミラーを含む):805 mm
全高(ミラーを除く):1,480 mm
シート高、空車時:805 mm
インナーレッグ曲線、空車時:1,910 mm
空車重量、走行可能状態、燃料満タン時:261 kg
許容車両総重量:445 kg
最大積載荷重(標準装備時):184 kg
燃料タンク容量:15.5ℓ
リザーブ容量:3ℓ