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2019/8/2 18:00

「実に真摯」ーーレンジローバー・イヴォーク2代目はどう進化した?

ラグジュアリーな個性派コンパクトSUVとして日本でも支持を集めていた「レンジローバー・イヴォーク」がフルモデルチェンジしました。その“エッジ”の立った内外装は一層洗練されたものとなり、エンジンやシャシー回りも一新。日常でも扱いやすいサイズをキープしながら、プレミアムなSUVとしての魅力度は格段に引き上げられています。

【今回紹介するクルマ】
レンジローバー/イヴォーク
※試乗車:レンジローバー・イヴォークRダイナミックHSE P300 MHEV

価格 461万円~821万円

【フォトギャラリー】※GetNavi web本サイトにてご覧になれます。

 

新たなデザイン理念を取り入れることで進化のほどをアピール

クルマ好き、特にSUVという言葉が一般化する以前を知る人にとっての「レンジローバー」は、現在よりもはるかに特別な存在でした。1970年に誕生した初代レンジローバーは、傑出した悪路走破性と乗用車級の快適性を両立。当時、過酷な環境下での“ワークホース”という役割に特化したモデルが大半だった4WD車市場にあって、プレミアムの域を超えたプレステージ4WDとしての地位を確立しました。そこで付いた異名が「オフロードのロールス・ロイス」。今や当のロールス・ロイス自身が「カリナン」という超高級SUVを発売。

また、レンジローバーを擁する現在のジャガー・ランドローバーとロールス・ロイスの共通項は英国生まれということぐらいですから、いまの時代にこの異名を使うことはできません。しかし、こうした呼び方が生まれたことからも当時のレンジローバーがいかに孤高の存在であったかがご理解いただけるでしょう。

そんなレンジローバーも世代を重ね、現在のモデルは4代目。高級でいながら一級の走破性を両立するという伝統はしっかり受け継がれていますが、昔とは大きく異なる点もあります。それは、“スピンオフ”ともいうべき別バリエーションが存在すること。“本家”のレンジローバーを頂点として、アッパーミドル級には近年のプレミアムSUV市場で台頭するドイツ勢を仮想敵とした「レンジローバー・スポーツ」が生まれ、ミドル級にはスタイリッシュな「レンジローバー・ヴェラ―ル」が投入されています。

「レンジローバー・イヴォーク」は、そんな“ファミリー”の末弟に位置付けられるモデルで初代は2011年に登場しました(日本では2012年に発売)。2008年に発表されたコンセプトカー、「LRX」のテイストを再現する大胆なスタイリングを武器に、これまでに世界で80万台以上を販売。ラグジュアリーなコンパクトSUVの先駆け的存在となったほか、モデル末期にはクラス唯一のフルオープンモデル(コンバーチブル)という変わり種までラインナップに追加されています。

↑グレードは搭載エンジンに応じて標準仕様のほかに「S」、「SE」、「HSE」、さらには専用のディテールが与えられた「Rダイナミック」が用意されます。また、2020年モデルのみの限定グレードとして「ファースト・エディション」も設定されています。ボディカラーのバリエーションも豊富で全13色がラインナップ

 

前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのはその2代目となる新型。ボディサイズは全長4380×全幅1905×全高1650mm。ホイールべースは2680mmで、初代と比較するといずれも若干ながら拡大されていますが、日本の狭い路上でも苦にならないサイズ感はキープされました。また、持ち前のスタイリッシュな風情は相変わらず。ピラー類をブラックアウトしてルーフが浮いているように見える手法は一連のレンジローバーに共通するもので、グラスエリアの天地が薄いクーペ的シルエットは先代から継承。その意味ではキープコンセプトの造形といえますが、もちろん新型では新たな取り組みも見られます。

↑試乗車は20インチホイールを装着していましたが17、18、21インチも選択可能。カラーまで含めればホイールのバリエーションも多岐にわたります

「リダクショニズム(還元主義)」という理念が取り入れられたエクステリアは、特徴的なディテールを継承しつつも全体的にはスッキリとプレーンに仕上げられ新しさをアピール。それを象徴するのが、使用時以外は格納されてボディパネルと同化するドアハンドルでしょう。いまや同門であるジャガー、レンジローバーではヴェラ―ルにも採用されているものですが、新型イヴォークでも新鮮味を感じさせる要素として十分な効果を発揮しています。ちなみにボディタイプはいまのところ5ドアのみ。先代でクーペらしさをストレートに表現していた3ドアと、それをベースとしたコンバーチブルは用意されていません。

↑ドアロックを解錠すると、写真上から写真下のようにドアノブが電動でせり出してきます。カッコいい演出のひとつ

 

パワーユニットはガソリンとディーゼルで4タイプ。ボディは99%新設計

搭載エンジンは、ジャガー・ランドローバーが「インジニウム」と呼ぶ最新世代の2L直列4気筒。日本市場にはガソリン仕様がアウトプット別に3タイプ(P200、P250、P300MHEV)、ディーゼルに1タイプ(D180)が用意されます。ガソリン仕様で最強スペックとなるのはP300ですが、MHEVという名称の通り48V電装とベルトドライブのスターター/ジェネレーターを組み合わせたマイルドハイブリッドであることも特徴のひとつ。走行中でも時速17km/h以下になるとエンジンが停止。エネルギー回生を行い、蓄電した電力は発進時の動力などに活用することで経済性はもとより静粛性の向上にも貢献します。なお、トランスミッションはエンジンの仕様を問わず9速AT。駆動方式もすべて4WDとなりますが、P300MHEVではリアへの駆動伝達を完全に切り離せるドライブライン・ディスコネクト機構を持つアクティブ・ドライブラインを採用。前後駆動配分を最適化するだけでなく、経済性にも配慮したシステムが採用されています。

↑ガソリン仕様のエンジンは写真のP300MHEVが頂点で、ほかに249PSのP250、200㎰のP200を用意。これにディーゼルのP180(180PS)を加え合計で4タイプから選ぶことができます

 

それらを搭載する骨格も一新されました。新型イヴォークでは「PTA(プレミアム・トランスバース・アーキテクチャー)」を採用。これは来るべき本格的な電動化にも対応する新世代ボディで、強固なサブフレームとの組み合わせにより剛性は先代比で13%向上。走りのパフォーマンスだけでなく快適性向上にも貢献するほか、ホイールベースが20mm伸びたことで室内空間の拡大も実現しています。

レンジローバーを名乗るだけに、走破性能にも一層の磨きがかけられました。路面状況に応じてサスペンション、トランスミッション、駆動制御などを簡単なモード切り替え操作だけで最適化するランドローバー自慢の「テレイン・レスポンス2」をイヴォークとしては初搭載。基本的にはデザインコンシャスなイヴォークですが、起伏が激しい路面とボディが干渉するのを最小限に抑えるべく対地アングルも実戦的で、アプローチ、ランプブレークオーバー、ディパーチャーの各アングルはそれぞれ22.2度、20.7度、30.6度を確保。さらに、渡河水深は先代を100mm上回る600mmを実現しています。このクルマで激しいオフロード走行や川渡りに挑むユーザー像というのはイメージしにくいところですが、真摯に走破性向上を追求する姿勢はレンジローバーの名声を築いたランドローバーらしい部分といえるでしょう。

↑対地アングルも良好なので、写真のような疑似モーグル路面程度でボディが干渉することもありません

 

“らしい”といえば、世界初採用という「クリアサイト・グラウンドビュー」もそうした美点のひとつに挙げられるでしょう。これは2014年にランドローバーが発表した、「トランスペアレント・ボンネット・テクノロジー」のコンセプトを具現化したもの。具体的には車速が16km/h以下になると前方路面を録画、それと前方カメラの映像を合成することでフロントタイヤ手前180度の路面状況を室内のモニターで確認することができるようになっています。大きな段差のある路面や、オフロードに代表される障害のある路面で威力を発揮することはもちろん、オンロードでも狭い場所での取り回し時などに重宝するでしょう。

 

↑クリアサイト・グラウンドビューの映像は、インパネ中央のモニターに表示されます。操舵すると画面に合成されているタイヤの角度も変わり、どの程度操舵しているのかも一目瞭然です。なお、合成する路面の録画は30km/hになると自動停止するとのこと

 

ハイテク感にも溢れたインテリアは環境に優しい素材を駆使

↑最新のアウディにも見られる手法ですが、インパネはタッチスクリーンを駆使してスイッチ類が最小限に。レンジローバーではヴェラ―ルに続いての採用となります。ルームミラーは視野角50度の高解像度画像を映し出せるクリアサイト・インテリア・リアビューミラーが新採用されました。装備面ではコネクティビティも充実。離れた場所からクルマの情報を確認、操作できる「リモート」を標準装備。最大8つのデバイスに接続可能な4Gの「Wi-Fiホットスポット」などが採用されました

 

先代のデザイン要素を正常進化させたエクステリアに対し、インテリアはハイテク感溢れる仕立てに一新されました。兄貴分のヴェラールにも通じる基本造形のインパネは、10インチの高解像度タッチスクリーンを採用。ハプティック・フィードバックを組み合わせることでスイッチやダイヤルの類が最小限に抑えられ、室内の眺めはさながら未来志向のコンセプトカーのよう。英国ブランドのクルマ、というと室内は「木と革」のイメージが根強く残っていますが、新型イヴォークのそれは英国デザインの最先端を感じさせる出来栄え。

その一方、細部の作り込みはレンジローバーを名乗るに相応しい水準なので高級感も期待値通りです。また、使用素材には環境に優しいものを積極採用していることも特徴のひとつ。優れた耐久性を誇るクヴァドラ社製ウールブレンド・テキスタイルやリサイクルプラスチックと再生ポリエステルを活用したディナミカスエードクロス、ユーカリ由来の天然繊維を活用したユーカリプタスメランジ・テキスタイルなどが採用されています。

↑シート表皮は英国ブランドでは定番の本革だけでなく、環境に優しい最新素材も多数揃えられました。ボディと同様、カラーに関して選びがいがある点も高級車らしいポイントといえるかもしれません

 

新世代骨格の採用で、室内空間を筆頭とするユーティリティも向上しました。ホイールベースが20mm伸びたことで、特に後席は足元スペースが拡大。先代の後席は若干タイトな印象もありましたが、新型ではコンパクトSUVとして満足できる広さが確保されました。また、荷室容量もVDA測定値で472~1156L。コンパクトなボディサイズを考慮すれば、十分といえる空間を実現しています。

↑ホイールベースが延長された恩恵は、特に後席の足元スペース拡大で実感できます。全体的にはコンパクトなボディサイズだと思えば、納得の広さといえるだでしょう

 

↑荷室容量は、VDA計測でも472~1156Lを確保。後席上端から天井の部分まで含めれば591~1383Lとなるだけにユーティリティは十二分といえるでしょう

 

走りの質感は文字通り高級。コンパクトでもレンジローバーな出来栄え。

今回はガソリンのP300MHEVに試乗しましたが、その走りは予想以上の出来栄えでした。走り始めて最初に気付くのは静粛性の高さ。前述の通り、低速走行時は積極的にエンジンを停止させるMHEV仕様ですが、それを差し引いても遮音性はハイレベル。エンジンを高回転まで回せば室内に入ってくる音のボリュームは相応に大きくなりますが、もちろん不快なものではありません。音質が上手く調律されているとみえて、むしろ積極的に走らせればドライバーの気分を高揚させてくれるほどです。

試乗車の車重は車検証記載値で1980kgと、2トン近くに達していましたがP300のパワーとトルクは300㎰と400Nmとあって動力性能はスポーティと呼べる水準。組み合わせるトランスミッションがワイドレンジな9速ATなだけに、日常域ではシームレスな滑らかさを意識するだけですが、いざ積極的にアクセルを踏み込めば軽快に吹け上がるので、そこにはシフトをマニュアル操作する意義すら見出すことができます(実際にそんなマネをするユーザーはいないでしょうが)。

ですが、今回の試乗で何よりも驚かされたのはシャシーの高い洗練度でした。コンパクト級のSUVというと路面からの入力を正直に伝えてくるクルマが多いのですが、新型イヴォークの乗り心地はしなやかと呼べる出来栄え。平滑な路面はもちろん、目地段差のある荒れたサーフェスでも入力の角が巧みに削ぎ落され滑らかで高級なライド感を披露してくれます。フロントがマクファーソンストラット、リアがインテグラルマルチリンクのサスペンションは現代のSUVらしく決してソフトなセッティングではありませんし、もちろん往年のレンジローバーのように長大な上下のストローク量があるわけでもありません。

それだけに、起伏の激しい路面を走らせればボディは前後左右、さらには対角状に揺すられるのですが、それでもさして不快にならないのは先代より強化されたボディと巧妙なセッティングが施されているからでしょう。当然、オンロードでのハンドリングも「SUVだから」というエクスキューズは不要です。コーナーでは漸進的にロールする“粘り腰”であることに加えて接地感も上々なので、「ちょっとスポーティに」というレベルまでなら十二分に乗り手の期待に応えてくれます。

↑オンロードでは、高級感溢れる滑らかな乗り心地が印象的です。P300MHEVのパワーキャラクターが軽快と呼べる味付けなのに加え、ハンドリングも積極的な走りに応える出来栄えなのでドライバーズカー資質もハイレベルです

 

正直なところ、先代イヴォークはエッジの立ったデザイン性の高さに感銘を受ける一方、レンジローバーを名乗るには走りの質感に不満な部分がありました。ですが、2代目となった新型なら一番身近なレンジローバーとして自信を持ってオススメできます。プレミアムなSUVというと現在はドイツ勢が主流となっていますが、新しいイヴォークはブランド力だけでなくパフォーマンス面でも有力なオルタナティブな選択となったことは間違いありません。

 

SPEC【RダイナミックHSE P300 MHEV】●全長×全幅×全高:4380×1905×1650㎜●車両重量:1950㎏●パワーユニット:1995㏄直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:300PS/5500~6000rpm●最大トルク:400Nm/2000~4500rpm●WLTCモード燃費:―㎞/#

撮影/宮門秀行

 

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