〜日本民営鉄道協会「駅と電車内の迷惑行為ランキング」調査から〜
長い休みが終わり、仕事が始まったと思ったら、朝夕の着膨れラッシュで疲れ気味に。通勤・通学が面倒だなと思われている方も多いのではないだろうか。
2019年の暮れに日本民営鉄道協会から「駅と電車内の迷惑行為ランキング」が発表された。すでに20年にわたり調査が続けられている同調査。じっくり見ると、なかなか興味深い。今回はこの内容を見直すとともに、ランキングに入らなかったものの、気になる行為や、迷惑行為の予防に結びつきそうな鉄道車両の例などを絡めつつ、「車内マナー」を見直してみたい。
【あるある迷惑行為①】ワースト3は予想通りの……
まずは日本民営鉄道協会が発表した「駅と電車内の迷惑行為ランキング」(2019年度)のワースト10を見ていこう(カッコ内は2018度の順位)。なお回答数は2676人、調査は2019年10月1日から11月30日にかけて行われた。
1位:座席の座り方(詰めない・足を伸ばす等) 41.3%(2018年度3位)
2位:乗車時のマナー(扉付近で妨げる等) 33.2%(4位)
3位:荷物の持ち方・置き方 32.0%(1位)
4位:スマートフォン等の使い方(歩きスマホ、混雑時の操作等) 31.1%(6位)
5位:騒々しい会話・はしゃぎまわり 27.6%(2位)
6位:周囲に配慮せず咳やくしゃみをする 20.1%(2019年度が初めての設問)
7位:ヘッドホンからの音もれ 18.6%(5位)
8位:ゴミ・空き缶等の放置 12.5%(9位)
9位:酔っ払った状態での乗車 12.3%(7位)
10位:車内での化粧 11.4%(8位)
上記が迷惑行為ワースト10だ。ほとんどが経験したことが、「ある」と思われた方が多いのではないだろうか。
2019年度のワースト1位は「座席の座り方」。41.3%と半分近くの人が不快な思いをしていることが分かった。筆者は年末に9位の「酔っぱらった状態での乗車」をやってしまったようです(陳謝です)。
ワースト11位から18位は以下のようになった。
11位:優先席のマナー 9.9%
12位:電車の床に座る 8.3%
13位:決められた場所以外での喫煙 7.9%
14位:混雑した車内での飲食 7.4%
15位:電子機器類(携帯ゲーム機・パソコン等)の操作音 5.6%
16位:その他 5.5%
17位:混雑した車内で新聞・雑誌等を読む 5.5%
18位:特にない 0.5%
【あるある迷惑行為②】不快さワースト1位の「席の座り方」とは
2019年度のワースト3としてあげられた迷惑行為。さらに調査を見み込んでいくと、次のような行為が特に「迷惑」と感じたことが多い。
例えば、ワースト1位となった「座席の座り方」。こちらを選んだ人のなんと61.2%が「座席を詰めて座らない(間を広く取る、荷物を置く、足を広げる等)」を最も気になったとしている。ちなみに2番目に多かったのは「座りながら足を伸す・組む」は23.1%で、やはり圧倒的に「座席を詰めて座らない」をあげる人が目立った。
以下、「お年寄や身体の不自由な方、妊婦の方等に席を譲らない」(5.6%)、「(子どもが)靴を履いたまま座席に立つ」(4.3%)、「(眠って)寄り掛かってくる」(2.4%)の順だった。
この問題、結構、難しい。冬は着膨れしていてどうしても身体の横幅が広がる。定員どおりの人が座ろうとすると、肩や肘が触れ合うことになる。「すみませんが」と一声かけて、空いている席に座れば良いのだが、声をかけにくい時もある。
人間というのは気ままなもので(筆者も含めてです)、後から乗った時には、空いているのだから、気を効かせてもう少し詰めてもらえれば、と思う。先に座っている時は、“ここはあまりスペースがないですよ、座るのですか“、というようなことを内心で思ったりもする。
まあ内心では思いつつも筆者は身をなるべく細くして、少しでも座れるように空きスペースを設けるように気づかっているのではあるが……。
【あるある迷惑行為③】背中のリックサックはやはりNGですよね
ワースト2位「乗車時のマナー」と3位「荷物の持ち方・置き方」ではどのような時に、特に迷惑と感じるかを見ておこう。
ワースト2位の「乗車時のマナー」では「扉付近から動かない(乗降を妨げる、奥に詰めない等)」が56.5%を占める。以下は「降りる人を待たずに乗り込む」(20.4%)、「並ばないで横から割り込む」(9.5%)、「駆け込み乗車」(5.5%)、「周りの人を押しのける」(4.2%)の順になっている。
「扉付近から動かない」から、スムーズに降りることができない、乗ることができない状態になる。ドアの左右両端にへばりつくように立っているならまだしも、明らかに乗り降りの邪魔になると感じた場合は、やはり一度降りて、乗降を待つというのが順当だろう。
「降りる人を待たずに乗り込む」は、至極不当な行為だと思うが、降りる人の中には、降りる駅を忘れてしまっていたのか、かなり遅れて降りる人がいる。やはりこれは、前もって準備して欲しいな、というのが多くの人の思いだろう。
さてワースト3位にあがった「荷物の持ち方・置き方」。最も迷惑と感じる例として圧倒的に多かったのが「背中や肩のリックサック・ショルダーバック等」(68.2%)だった。
以下、「座席に置く」(8.4%)、「傘(濡れ傘・先端を向けられる等)」(7.4%)、「床(足もと)に置く」(6.5%)、「キャリーバッグを乱暴に運ぶ」(2.8%)、「扉付近に置く」(1.3%)の順となった。最近は、背負うタイプのビジネスバッグが流行し、使う人が多くなっていることもあり、どうしても、このバッグの持ち方が気になってしまうようだ。
【あるある迷惑行為④】感じる迷惑行為は東西でやや異なっている
調査では男性・女性、また大手民鉄関東9社と、大手民鉄関西5社というように東西それぞれのランキングも出している。すると面白いことに男女で、また東西で、微妙な差が現れた。まずは男性と女性が感じる迷惑行為の違いから。
男性への調査では、1位「座席の座り方」、2位「乗降時のマナー」は、総合ランキングと同じだったものの、3位に「スマートフォン等の使い方」があがった。
女性への調査では、1位は「座席の座り方」があげられ、総合ランキングと同じだったものの、2位が「荷物の持ち方・置き方」、3位は「乗降時のマナー」と2位と3位が入れ替わった。女性の方が「荷物の持ち方・置き方」に、より敏感なようだ。
東西の違いはどのようなところがあるのだろう。関東・関西とも1位は「座席の座り方」、3位に「乗降時のマナー」があげられた。ところが、2位が異なった。関東では2位に「スマートフォン等の使い方」があがり、関西では2位が「荷物の持ち方・置き方」となった。
【あるある迷惑行為⑤】20年前のワースト1位は意外にも?
なかなか興味深い内容となっている日本民営鉄道協会の調査。実は20年前の1999年度から始められた。時代を経て、かなり迷惑行為も代わって来ている。そうした変遷も念のために見ておきたい。1999年度の迷惑行為ワースト1位は……。
なんと「携帯電話の使用」で、25.9%とダントツのトップだった。「着信音がうるさい」「大きな声で、我がもの顔で話しているのが耳障り」という声があがっている。ちょうど20年前といえば、携帯電話の普及率が高まったころだろうか。普及当時は、車内で堂々と携帯電話で話す姿が見かけられたのだろう。
今ではそうした行為を目にすることが、非常に少なくなっている。時代の移り変わりとともに、電車内での携帯電話が迷惑にあたることに、多くの人が気付いたこともあるのだろう。最近では車内でのマナーモードの利用が常識のようになっている。こうしたマナーは、多くの人に理解され、少しずつ浸透していくということなのだろう。
1999年度の調査では、以降、2位「座席の座り方」(8.9%)、3位「荷物の持ち方・置き方」(7.5%)と続く。そして4位に「たばこについて」(6.6%)があげられた。「たばこについて」は「決められた場所以外で喫煙している人がいる」という声があがっている。
喫煙マナーもかなり向上しているように思われる。1999年度に4位にあげられた「たばこについて」も、2008年度以降は10位以下となり、2018年度には12位まで落ちている。愛煙家にとって辛いことながら、これも健康志向の高まりとともに、変わっていった現象なのだろう。
【あるある迷惑行為⑥】こんな表示の時にあなたはどうしますか?
ここからは調査からいったん離れて、身近な問題に目を向けていきたい。
もしかしたら自らが迷惑行為をしているかも知れない、そうした可能性がある例から。まずは下の写真を見ていただきたい。筆者が良く利用する駅の乗車位置を示す表示である。この表示の場合、どのように並べば良いのだろうか。
写真を見る限り、下に3つの三角印があるので、「ここに3列に並んでください」ということなのだろうか。ところが表示自体、大人の肩幅よりやや長いぐらいしかない。よって、大人が3列に並ぼうとすると無理がある。
この案内表示がある駅での並び方を見ていると、最初に並ぶ人の立ち位置は2通りに分かれる。この表示のちょうど中央に並ぶ人と、表示のやや右か左かに並ぶかだ。確認してみると、表示の右か左かにややずれて並ぶ人が多いように感じた。
中央に並んでしまうと、降りる人がいた場合に、邪魔になってしまう。2列ならば開いたドアの左右に分かれることができ、乗り降りがスムーズなように思える。ただし、三角の印は3つなのである。3列に並ぶのが正しいのだろうか。
鉄道会社に尋ねると、この表示は「乗車位置サイン」と呼ばれる表示で、“扉の位置はこのあたりですよ”というおよその目印とのこと。三角印は3つあるが、3列という意味ではなく、これよりも後ろに並んで下さいという意味だそうだ。
こうした明確に並び方が決まっていない場所では、大概の人が、自らのマナーの基準を持ち、その基準に従っているように思う。そしてマナーの基準に反するような並び方は、“感じ悪い”となってしまうようにも思える。迷惑行為までは行かないまでも、このあたり判断が難しいように感じた。
ちなみに、乗降客が多い駅では、タテ3列に並ぶように表示がきっちり仕切られ、さらに降りる人のために中間部を空けて。というように“完璧な”表示にしている例が目立つ。
【あるある迷惑行為⑦】気付かないうちに迷惑をかけてしまう例
ここからは筆者が見聞きして、これは迷惑行為にあたるのではないかと思える例をあげてみたい。ランキングには入らなかったものの、車両構造などの特異性から生じる問題もある。
○普通列車のクロスシートで生じた問題
関東地方では少ないものの、東海・近畿地方などを走る近郊形電車には、クロスシートが多く使われている。一部の電車では対面して腰かける4人掛けボックスシートではなく、ほとんどの座席が進行方向を向いた2人掛けクロスシート(転換クロスシート)が使われている。
ある始発駅での発車時のこと。何人かの利用者が通路側に腰かけた。途中の駅で通勤・通学客が多く乗車してきたが、何席かは窓側が空いたままだった。
普通車特有の足下が狭い構造のため、窓側に座ろうとすると通路側の人をまたぐか、足に触れつつ入らざると得ない。なかなか「座りたいのですが」とは言い出し難いのだろう。何席か空いたまま終着駅まで走ることになった。もし終着駅まで乗車するのならば、窓側が空いていれば、窓側に詰めて座るべきだったのではないだろうか、とその時に思った。
しかし、こうした構造の席は、窓側に座る難しさもある。窓側に座っていて、いざ下車しようとする時に、通路側の人が気を効かして、立ってもらえれば良い。しかし、通路側の人に立つなど配慮が得られなかった場合には、それこそ、断って足の上をまたぐ、または足に触れつつ無理やりに通路へ出なければいけない。筆者は複数の荷物を持っていたために一度、下車する時に冷や汗をかいたことがあった。
こうしたクロスシートの車両では、お互いに譲り合い、また通り難そうだなと思ったら、立って、譲りあうことも必要になるだろう。こうした構造面での問題だけでなく、最近、通常の通勤電車で見た事例を2つほど挙げておきたい。
○ドア横に立ちながら、車内中央方向を向いている例
ドアの左右両わきに立っている人は、大概が外や座席側を背にして、対面する方向を向いて立っている場合が多い。ところが、その人は、ドア横に立っているのにもかかわらず、車内の中央部方向に体を向け、対面する人をぼんやり見ていた。ドア近くに立つ人は外側を向いている人が多いから、どうしてもこの人と顔を合わせなければいけなくなる。混んでいる電車だから、その距離は近い。当然、見合う形で立つ人は具合悪く感じてしまう。
スマホを操作しているならば、まだ救いはあるだろうが。どうも若い世代に多い現象のようにも感じているのだが、これは迷惑行為まではいかないものの、面と向かった人はどうも気まずい思いをしてしまう。他人を不快にさせない立ち居振る舞いも電車内では大切なのではないのだろうか。
○ゲームに興じるために前かがみで座る例
こちらはランキングにあった、座り方が悪い一例にあたるのだろうか。ゲームに興じているせいか、座っているものの、座席の背に背中を付けず、前かがみになっている人を見かけた。前かがみになると、その姿勢のために、この1人分、前に人が立てない状態になってしまう。
こうした行為は多くの人が迷惑と感じるのではないだろうか。電車内という密室では、なかなか注意しづらく、本人に自分の行為が他人を不快にさせてしまうことがあることに、気付いてもらうしか方法はないのだろうと思う。
【あるある迷惑行為⑧】迷惑行為を減らす電車内の工夫例を見る
多くの人が使う通勤電車。混雑するとどうしても迷惑に感じてしまうことが増えてくる。そうした迷惑行為を、少しでも減らそうとする工夫が最近の電車で見られるようになってきた。そんな例を見ていこう。
まずは座席の座り方で問題になった「詰めない」ことを防ぐ事例から。まずはJR九州の817系電車の車内の写真から見ていただこう。
JR九州の車両は通勤形電車であっても非常に座席に凝っている。写真の817系もそうした例だ。817系3000番台は2012年に登場した。座席はロングシートながら、一人一人のスペースが完全にセパレートされている。これならば、ちょうど中間部分に座るわけにはいかず、「詰めない」ことは、まずなくなりそうだ。
続いてJR埼京線乗入れ用の相模鉄道12000系の例。通常のロングシートの座席とは形が異なり、境目がやや盛り上がった形状になっている。
この座席の場合、一人ごとの境めの部分に座ろうとしても、やや盛り上がっているので、座り心地が悪い。おのずと、決まったスペースに座ることになる。
最近の電車は、ドアとドアの間に長いロングシートをシンプルに設けるだけでなく、スタンションポールと呼ばれる「タテ手すり」を適度な間隔で設ける例が多い。そして座席を2人掛け、または3人掛けと分けるようにしている。
さらに写真の例のような座席を設置すれば完璧となるだろう。最近
【あるある迷惑行為⑨】扉付近から少しでも中に詰めてもらう工夫
例年、迷惑行為ランキングで上位にランクされる「乗降時のマナー」。中でも扉付近にいて乗降を妨げる行為が迷惑と感じている人が多いことが指摘された。
混んでいる電車だと、つり革などの捉まる場所がなく、なかなか車内の奥に入りにくい。そのため入口付近に、となってしまう人も多いのではないだろうか。
下記の写真は東京メトロ丸ノ内線を走る新型2000系の車内の様子だ。
2000系は、窓側はもちろん、通路の上にもつり革が多く設けられている。通路に入ったものの、身体を支えるものがなくて不安、という通勤電車にありがちな心配も解消できそうだ。
2019年度の迷惑行為ランキングの中には6位に「周囲に配慮せずに咳やくしゃみをする」が入っていた。
冬はインフルエンザが流行する時期。新型車両には空気清浄機が各車に設けられ例が増えてきている。気休めかも知れないが、こんな装置もあったら、より快適な通勤・通学時間が過ごせそうだ。
【あるある迷惑行為⑩】電車内で「心が温まった」時とは?
もう一度、日本民営鉄道協会の駅と電車内の迷惑行為ランキングに戻ってみよう。同調査では、迷惑行為だけでなしに、逆に「うれしかった」「心が温まった」と感じた行為を2017年度から紹介している。代表する声を紹介しよう。
・ベビーカーで乗車した際、周囲の人が運ぶのを手伝ってくれたことがうれしかった。
・小さい子どもが妊婦の方に席を譲っていたのを見て和やかな気持ちになった。
・電車が揺れて倒れそうになった時、横の人がさりげなく支えてくれて助かった。
以下は2018年度の回答から
・外国人の方が、お年寄りに席を譲っているのを見かけた。
・小学生の5人組みが、席を譲ったり、話し声の大きさにお互いに注意したりしていた。見ていて気持ちが良かった。
「心が温まる」電車の中でのささやかな人同士の触れあい。さりげない行為が、電車内のギスギスした雰囲気を和らげることに結びつく。電車内で接している人は見ず知らずの他人ながら、気づかう心が、いかに大切であるかを、今さらながら実感できる声ではないだろうか。