コンパクトSUVは今やクルマの定番カテゴリー。そのカテゴリーで、2019年の販売台数でトップとなったのがホンダの「VEZEL(ヴェゼル)」です。そんな人気モデルに新たに追加されたのが、ホンダアクセスが手掛ける「Modulo(モデューロ) X」。メーカー純正のカスタムカーともいえる期待のモデルに試乗して、その実力を体感してきました。
【今回紹介するクルマ】
ホンダ/ヴェゼル モデューロX
試乗車:ツーリング モデューロX Honda SENSING/ハイブリッド モデューロX Honda SENSING
価格:346万7200円~361万7900円
まずはエクステリアからノーマルとモデューロXの違いを徹底チェック!
「ヴェゼル」が登場したのは2013年のこと。2018年にマイナーチェンジを受けていますが、決して目新しいモデルではないにも関わらず、トヨタ「C-HR」やマツダ「CX-3」などライバルの多いカテゴリーで高い人気を維持しています。その要因としては、基本性能の高さもさることながら魅力的なバリエーションモデルをリリースし、商品力を磨き上げ続けていることが挙げられるでしょう。2019年1月には1.5Lターボエンジンを搭載し、欧州仕様の高剛性ボディを採用した「ヴェゼル ツーリング」を追加。そして同年11月に登場したのが今回紹介する「ヴェゼル モデューロX」シリーズです。
モデューロXとは、ホンダアクセスが製作・販売するコンプリートカーのブランド。2013年にリリースされた「N-BOX モデューロX」を皮切りにこれまで5車種を販売しており、ヴェゼルは6車種目です。ホンダ車の純正アクセサリーを手掛けるメーカーだけに、クルマの特性を知り尽くしているのはいわずもがな。そのノウハウを駆使した仕上がりには定評があります。
試乗会場に用意されていたのは「ヴェゼル ツーリング モデューロX」と「ヴェゼル ハイブリッド モデューロX」の2車種。駆動方式は「ツーリング」がFFのみで、「ハイブリッド」はFFと4WDが選べるようになっています。
ノーマルのヴェゼルからの変更点は、前後のエアロパーツと専用のホイール・サスペンション、それにフロントシート。エンジンやボディには手は加えられていません。エアロパーツも過度な派手さはなく、“実効空力”を意識したもの。レーシングカーのようにダウンフォースを稼ぐのではなく、空気の流れを走りに活かすことを重視し、直進安定性やコーナーリング中の前後タイヤのグリップを適切にコントロールしているとのこと。エアロというと、ドレスアップパーツのように思われがちですが、ハンドリングに対する影響も大きいのです。
ホイールサイズもツーリングが18インチ、ハイブリッドは17インチとノーマルと同じサイズに留められています。
実走でノーマルとの違いを体感!
エアロと足回りの変更で、どこまで走りが変わっているのかと思いましたが、実際に乗ってみるとその違いは明確。「ヴェゼル ツーリング」は欧州仕様のボディを採用していることで、標準モデルに比べるとかなりカッチリした乗り味。そして、モデューロXの「ツーリング」はさらに足が引き締められていることが走り出してすぐに感じられます。街中の交差点を曲がる際にも、ステアリング操作に対してのレスポンスが鋭くなっているのが伝わってきました。
高速道路に入ると、その差はさらにハッキリします。ノーマルのヴェゼル ツーリングも高速での安定性はかなり高いのですが、それを遥かに凌ぐレベルの安定感。スピードが乗るカーブで、横風もそれなりに強かったのですが、車体はピタッと安定していて、レールの上をしっかり走っているかのような安心感でした。高速道路を使っての移動が多い人には、この絶大な安心感は頼りになるはず。
続いて「ハイブリッド」の4WDモデルに乗ってみました。街中の低い速度域ではサスペンションの硬さを感じたツーリングに対して、こちらはかなりしなやか。それでも、ノーマルのヴェゼルとの違いは明らかです。一番大きな違いはハイブリッドもツーリングも、4つのタイヤがどこにあるかが明確に伝わってくること。速度の遅い交差点などでも、タイヤがどこを通っているのかが把握できますし、速度が上がればタイヤがしっかり踏ん張ってくれていることがステアリングとシートを通して伝わってきます。専用シートを採用している効果は、こんなところにも現れているようです。クルマを運転するのが好きな人にとってはたまらない感覚でしょう。
こうしたフィーリングはサスペンションによるものかと思ったら、エアロによる効果も大きいとのこと。空力によってタイヤを路面に押し付ける力を増大させることで、ステアリングレスポンスや収斂性(しゅうれんせい)を高めているそうです。開発に当たっては実走を繰り返し、細かいエッジの立て方など何度も変更を繰り返して形状を決めたのだとか。デザインだけのエアロとは、一線を画した仕上がりは、こうして生み出されているのです。
ホイールも軽さや剛性だけでなく全体のバランスにこだわって作られているのがポイント。金属製とはいえ、ホイールも路面からの入力によって変形と復元を繰り返しているため、乗り心地に大きく影響してくるのです。特にタイヤを裏側で支えるリムは、インナーに行くに従って薄くなるような形状で、タイヤの変形に合わせてホイールもしなやかにカタチを変える特性としているとのこと。その削り量などについても、実走を繰り返して調整しているところが、モデューロXらしいところでしょう。
ちなみに、他メーカーの純正コンプリートカーでは、ボディの補強が施されていることが多いですが、モデューロXではそうしたことをしていない理由についても聞いてみました。開発担当者によれば「どの車種でもボディ補強は検討してきたが、必要な性能とのバランスを考慮すると必要ないとの結論になった」とのこと。それだけ、ベースの車体がよく出来ているということなのでしょう。
ドライバーだけでなく同乗者にも優しい
ただ、ちょっと不安だったのは足回りがやや硬く、路面のギャップを拾う感覚があったこと。運転している分には楽しいのですが、助手席や後席に家族を乗せたときに不満が出る可能性がありそうです。特に子どもは乗り物酔いしやすいので、少し心配です。ただ、担当者によるとクルマ全体の挙動を見直し、乗っている人を中心に余計な動きをしないようにセッティングしているので、乗り物酔いもしにくくなっているとのこと。そこで、改めて試乗車を借りて家族を乗せてドライブしてみました。
その結果、乗り物酔いしやすい体質の小学生を乗せても、初めて乗るクルマには珍しく酔うことがありませんでした。クルマの挙動を知り尽くし、実走テストを繰り返して仕上げられたというだけに、ドライバーだけでなく同乗者にも優しい走りを実現しているようです。これなら、家族持ちでも安心して選ぶことができそう。街中でよく見かけるようになったコンパクトSUVですが、一味違った上質な走り、そしてルックスを体感したい人にオススメのモデルです。
SPEC【ツーリング・Honda SENSING】●全長×全幅×全高:4335×1790×1605mm●車両重量:1360㎏●パワーユニット:1.496L水冷直列DOHC 16バルブ+ターボ●最高出力:172PS/5500rpm●最大トルク:220N・m/1700〜5500rpm●JC08モード燃費:非公表
SPEC【ハイブリッドRS・Honda SENSING(ハイブリッドZ・Honda SENSING)】●全長×全幅×全高:4335×1790×1605mm●車両重量:1310(1390)㎏●パワーユニット:1.496L直4 DOHC 16バルブ+交流同期電動機●エンジン最高出力:132PS/6600rpm●エンジン最大トルク:156N・m/4600rpm●モーター最高出力:29.5PS/1313~2000rpm●モーター最大トルク:160N・m/0〜1313rpm●JC08モード燃費:非公表
撮影/増谷茂樹、中田悟
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