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2020/7/17 17:00

三菱ふそうの燃料電池トラックのプロトタイプ「eCanter F-Cell」を試乗。その詳細は?

昨年開催された「東京モーターショー2019」で、三菱ふそうトラック・バスは燃料電池小型トラックのコンセプトモデル『Vision F-CELL』を発表し、大きな注目を浴びました。今年3月にはこの車両を2020年代後半にも量産化することを発表。量産を目指して製作したプロトタイプ『eCanter F-Cell(以下:F-Cell)』も公開し、いよいよ商用車でも水素を燃料とする燃料電池車(FCV)が動き出すスケジュールを明らかにしたのです。その詳細について、試乗レポートも合わせてお届けします。

↑三菱ふそうが3月に発表したプロトタイプ『eCanter F-Cell』。2029年までの量産を目指して製作している

 

プロトタイプeCanter F-Cellが登場!

F-Cellが担う最大の目的は、燃料電池のパワーを利用することで、電動トラック『eCanter』で課題だった航続距離の問題を解決することです。eCanterは2017年に小型電気トラックとして発表しており、すでに日本、欧州および米国で合計150台以上が既に稼働中です。しかし、航続距離は100km程度にとどまり、搭載バッテリーの重さにより、積載量はディーゼルトラックよりも減ってしまっていました。F-Cellはこの課題を解決する使命を担って開発されたのです。

↑すでに日本、欧州および米国で合計150台以上が既に稼働中という「eCanter」(左)と並んだ「eCanter F-Cell」(右手前)

 

三菱ふそうが明らかにしたところでは、F-Cellには3本の水素タンクを搭載し、目指す航続距離は300km。実にeCanterの3倍もの航続距離を確保し、しかも最大積載量はディーゼルCanterと同等を達成できています(目標値)。そして、使い勝手も良好。水素の充填に要する時間は5~10分程度で済み、eCanterのように長時間にわたる充電時間は不要となるからです。搭載したリチウムイオン電池の容量は40kWhで、システム全体の最高出力は135kW。eCanterと同等のパワーを発揮しながら、それを上回る使い勝手の良さを実現しているのがF-Cellなのです。

↑プロトタイプeCanter F-Cellは、航続距離300kmを目標に開発。eCanterと同等の動力性能と積載量を目指した

 

↑市販されているeCanterとeCanter F-Cellの比較。航続距離を3倍にしつつ、充電(充填)時間を大幅に減らし、積載量もディーゼルと同等にした

 

試乗会の会場となったのは川崎市にある三菱ふそう事業所でした。会場にはF-Cellと、その比較試乗のためにeCanterが並んで用意されていました。既に市販されているeCanterは街を走るディーゼルCanterとほとんど違いが分かりませんが、F-CellはコンセプトモデルということもあってヘッドライトをLED化し、全体を専用のデカールシートでデザインされ、明らかに別モノということが分かります。

↑専用デカールシールで身をまとったeCanter F-Cell。ヘッドライトをLED化することで斬新さをアピール

 

↑プロトタイプeCanter F-Cellのリアビュー。カーゴスペースを犠牲にしていないのが大きなメリット

 

撮影していると、F-Cellの車体には「Re-Fire」のロゴマークがあることに気付きました。Re-Fireといえば、中国の独立系燃料電池サプライヤーで、世界有数の燃料電池システム開発会社であるカナダのバラード社と技術提携によって成長した会社。F-CellはこのRe-Fire製の燃料電池システムで動作することになっていたのです。

↑燃料電池システムとして搭載した「Re-Fire」のロゴマークがカーゴスペースの左サイドに貼られていた

 

この採用について開発者に伺うと、「あくまで東京モーターショーへの出展に間に合わせるためにRe-Fire製システムを採用したのであって、量産化を前提としているたわけではない」とのこと。ならばどうしてグループ内のダイムラー製のシステムは採用しなかったのでしょうか。「ダイムラーは乗用車向け車両で手いっぱいの状況で、製作期間やコストを踏まえ既成システムで展開できるRe-Fire製を採用することにした」とのことでした。

↑プロトタイプeCanter F-Cellの燃料電池システムは、既製のRe-Fire製を採用。そのためシステムのコンパクト化が課題となった

 

いよいよ2台を試乗してみた!

試乗はまずeCanterから行いました。踏み込んだ瞬間から力強いトルクでスタート!荷物を積んでいない状態とはいえ、その後もスムーズに加速していきます。ディーゼル車でも十分なトルク感は感じますが、振動も音もなく加速する様は従来の小型トラックのイメージを大きく覆すものです。まさにEVならではの走りだったと言えるでしょう。

 

続いて、いよいよF-Cellの試乗です。スタート時の力強さはeCanterとほぼ同じ感覚でした。が、その後が続きません。後ろから何かで引っ張られているような感じがして加速が伸びていかないのです。加速時に発生するエアコンプレッサーの音も気になりました。プロトタイプである以上、完成度は当然ながら低いのは仕方がないでしょうけど、走りや快適性でeCanterとの違いは明らかだったのです。

↑プロトタイプeCanter F-Cellの運転席周り。基本的にeCanterをベースとするが、シフトレバーは専用

 

試乗後、この印象をF-Cell開発者にぶつけてみると意外な回答が返ってきました。「F-Cellはプロトタイプと言うこともあり、ベースを量産車になる前のeCanterのものを使っている。それだけにコンポーネントのバージョンが古いので、制御がうまくできていないところもある」というのでした。なんと、F-CellはeCanterよりも古い仕様がベースとなっていたのです。開発者いわく、「正直言えば、燃料電池システムの開発にはきわめて高度な技術が要求される。今後はプロトタイプで得た知見を活かして(自社の)技術レベルを上げていきたい」と、量産に向けた意気込みを語っていました。

 

となると、気になるのは量産に向けた動きです。親会社であるダイムラーは将来的なビジョンとして、2029年までには燃料電池車を量産し、2039年までには販売をゼロエミッション車だけにすると発表しています。そのロードマップに従って三菱ふそうが発表したのがeCanter F-Cellでもあるわけです。

 

その中でポイントとなるのは積載量に影響を与えない燃料電池システムの開発です。開発者は「現状でも電池はフレーム内に収まっており、カーゴスペースを犠牲にはしていない。ただ、燃料電池システムのコンパクト化を進めることでタンクの増設が可能になり、航続距離の延長にもメリットが生まれる」と話します。また、調達先も必ずしもダイムラーだけにこだわっていないとも言います。「現状でダイムラーが用意しているのはタンクが太過ぎて4つ入れるのは難しい。システムのコンパクト化を行うなら、グループ外からの調達も視野に入れている」ということでした。

↑量産に当たっては燃料電池システムのコンパクト化により、燃料タンクをプロトタイプの3つから4つに増やす考え

 

↑水素の充填口はカーゴスペースの右サイドに用意。eCanter F-Cellのおおよそのスペックも記載されていた

 

今、世界中で燃料電池システムへの関心が急速に高まっています。少し前まではほとんど関心を示していなかったドイツまでも1兆円を超える巨額の水素投資の下、官民を挙げて燃料電池システムに本腰を入れ始めています。三菱ふそうがF-Cellの量産を目指す2029年以降、世界は燃料電池システムを巡って熱き戦いが展開されているのかも知れません。

 

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