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2020/8/16 18:30

今も各地で働き続ける「譲渡車両」8選ーー元西武電車の場合

〜〜首都圏を走った私鉄電車のその後2〜〜

 

首都圏や京阪神を走っていた当時の“高性能電車”の多くが、各地の私鉄路線に移り、第2の人生をおくっている。大手私鉄の「譲渡車両」2回目は、元西武鉄道の電車を紹介した。

 

西武鉄道のグループ会社へ移籍する電車が多いのは当然ながら、他にも複数の会社へ移籍して、今も多くが第一線を走る。そんな電車たちの“第二の人生”を写真を中心にお届けしよう。

 

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【注目の譲渡車両①】グループ会社の近江鉄道は全車が元西武電車

◆近江鉄道(滋賀県)800系・820系

↑近江鉄道820系は、元西武の401系。822編成は西武当時の “赤電”と呼ばれたリバイバルカラーで塗られ近江路を駆ける

 

大手私鉄の電車の中で各地の鉄道会社へ譲渡されることが多いのが東急、さらに西武鉄道の電車だ。まずは西武鉄道のグループ会社、近江鉄道と伊豆箱根鉄道の譲渡車両の現状から見ていこう。

 

近江鉄道は西武鉄道のグループ会社ということもあり、古くから西武の譲渡車両を多く使ってきた。現在、すべてが元西武の車両である。

 

なかでも主力として活躍するのが800系と820系。元は西武の401系だった。401系は高度成長期、デザインよりも、車両数を増やすことに専念した西武鉄道らしく、凝らずに正面を平坦にしたデザインが特徴となっている。

 

近江鉄道へ移ってからは、正面がそのままの車両は820系に、独自の3枚窓に改造された車両が800系となった。820系のほうが、西武の元401系の姿を色濃く残しているものの、車体の四隅のスソ部分が当時の車両運行上の問題からカットされているところが西武当時とは異なっている。401系が西武で生まれたのは1964(昭和39)年のこと。1991(平成3)年から1997(平成9)に近江鉄道にやってきてすでに四半世紀と、かなり年季が入った電車となっている。

↑八日市駅に停車中の800系3編成。近江鉄道に来て正面を3枚窓に改造された車両形式だ。車両ごとにラッピングが異なりカラフルだ

 

◆近江鉄道(滋賀県)100形

次は近江鉄道の100形。元は西武鉄道の新101系もしくは301系を改造した電車である。西武の新101系、301系は、西武鉄道の車両のなかでは長寿車両で、現在も多摩湖線や西武多摩川線などを走り続けている。

 

↑元西武の新101系・301系を改造した近江鉄道100形。水色に白いラインというシンプルな姿で近江の路線を走っている

 

さらに各社へ譲渡される車両数が多く、今も各地で活躍している。全長20mと長めながら片側3扉車で、部品類に事欠かず、地方の鉄道会社として使い勝手が良い電車となっている。100形は2両×5編成と編成数も多く、同社の主力車両として沿線で出会う機会が多い。

 

◆近江鉄道(滋賀県)900形

100形と同じく西武の新101系がベースで、100形よりも半年ばかり早く2013年6月に登場した。2両×1編成のみが900形に改造され、当初はダークブルーの淡海号として走り始めた。その後に、虹たび号、あかね号と愛称を変更、塗装もそのつど変更されている。

↑あかね号塗装に変更された900形。ほぼ同形の100形とは優先席をクロスシートに、塗装を変えるなどの違いがある

 

◆近江鉄道(滋賀県)300形

2020年8月から走り始めたのが300形。こちらは元西武の3000系である。3000系は西武池袋線系統で初の省エネルギータイプの車両として1983(昭和58)年から1987(昭和62)年にかけて導入された。その後、2010年代に入り、混雑緩和を図るため西武池袋線や西武新宿線といった本線用の車両の4ドア化が進められ、他車両よりも早めの2014年に西武を引退している。そして一部が近江鉄道に譲渡され、長年、高宮駅の構内に停められていた。その車両がこのほど改造され、300形として“新車デビュー”した。

 

姿形は新101系と似た正面のガラス窓が2枚だ。だが、3000系は同じ2枚窓でも中央にある柱部分の出っ張りが無く、窓周辺と同じ濃い色に塗られていること。そのため柱部分が目立たなくなっている。また近江鉄道初の界磁チョッパ制御方式が使われている。

 

近江300形の車体色は濃い水色一色で100形と似ているが、正面の2枚窓部分の全体がブラックとなり、より引き締まった顔立ちとなっている。

 

【注目の譲渡車両②】元西武電車がほとんど走らない伊豆箱根鉄道

◆伊豆箱根鉄道駿豆線(静岡県)1300系

↑伊豆箱根鉄道1300系「イエローパラダイストレイン」。西武の新101系が登場時のリバイバルカラーで伊豆半島を走る

 

伊豆箱根鉄道は西武鉄道のグループ会社だが、自社発注の電車が多い。神奈川県内を走る大雄山線は全長18mのオリジナル車両5000系のみ。一方の静岡県内を走る駿豆線(すんずせん)は、主力の3000系と、7000系は自社発注の電車となっている。

 

そんな中で、唯一の西武鉄道の譲渡車両が駿豆線の1300系だ。1989(平成元)年から走っていた1100系(元西武701系)が老朽化しつつあったことから、後継車両として西武新101系を譲り受け、2008(平成20)年に改造されて1300系となった。

 

現在、走るのは3両×2編成で色がそれぞれ異なる。1編成は白地にブルーの帯、もう1編成は「イエローパラダイストレイン」と名付けられた西武当時のリバイバルカラー電車だ。「イエローパラダイストレイン」はイベントなどで使われることも多く、元西武電車そのままの姿ということもあり人気が高い。

 

ちなみに西武鉄道に残る新101系の249編成は、伊豆箱根鉄道の1300系と同じ白地に青い帯に塗り替えられた。また251系編成は近江鉄道の100形と同色に塗り替えられ、多摩湖線や西武多摩川線を走る。グループ会社3社の、それぞれのカラーが西武鉄道に勢揃いしているというのもおもしろい。

 

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【注目の譲渡車両③】元の面影をしっかりと残す三岐鉄道の電車

三重県の近鉄富田駅(きんてつとみだえき)〜西藤原駅間を走る三岐鉄道三岐線。走る電車はすべてが西武鉄道の譲渡車両でまとめられている。車体の色も黄色がメインで、下部がオレンジと塗り分けられる。黄色い電車のイメージが強く、かつて黄色が電車の大半を占めていた西武の沿線を訪れたような懐かしさが感じられる。余談ながら筆者は西武沿線で育ったこともあり、この三岐線沿線を訪れるたびに、幼き日に戻ったようなうれしさを感じてしまうのである。

 

そんな三岐鉄道の元西武電車のラインナップを紹介しよう。

 

◆三岐鉄道三岐線(三重県)101系

↑元西武の401系は三岐鉄道では101系となった。前照灯が大きくなっているものの、西武時代の401系の面影をほぼ残している

 

正面が平たい姿の三岐鉄道101系。元は西武の401系だ。401系が登場した当時、国鉄の101系、103系といった、正面が平坦な通勤電車が多かった。とはいえ国鉄101系が、平坦な顔立ちとはいうものの、運転席の窓部分に窪みを付けアクセントにしている。対して西武401系の正面デザインは全面平らである。この極端なシンプルさが特徴だった。

 

三岐鉄道に移り101系となったが、前照灯などが大きく変った以外には改造箇所は目立たず、それだけ西武の401系のオリジナルな姿を良く留めていて興味深い。

 

◆三岐鉄道三岐線(三重県)801系

↑三岐鉄道の801系は元西武701系。写真の805編成は2年ほど前から車両全体をレモンイエロー塗装に変更され走る

 

↑三岐801系の803編成は、昨年に西武時代当時の塗装に変更された。701系の登場したころの“赤電塗装”で一際レトロ感が増している

 

401系とともに三岐線の主力として走るのが801系である。西武鉄道では701系だった。西武701系は1963(昭和38)年に登場した電車で、401系のように淡泊な姿ではなく、当時、流行していた湘南スタイルを踏襲、その後の101系、3000系まで続くいわば “西武顔”の電車だった。デザインは少し凝ったものの、電車にあまりお金を投資しなかった当時の西武の思想が見える。登場当時の前後の先頭車両には、国鉄払下げ品の台車を使うなど、乗り心地が決して良い電車とは言えなかった。

 

三岐鉄道には平成に入った1989(平成元)年から1997(平成9)年にかけて計16両が譲渡された。3両編成化、台車を変更されるなど改造され、今も走り続けている。さらに近年には黄色とオレンジの三岐塗装の車両のほかに、805編成はレモンイエロー一色、803編成赤(ラズベリーレッド)と窓回りがベージュ(トニーベージュ)に塗り分けられている。後者は“赤電”塗装と呼ばれ、西武701系が登場したころの懐かしいカラーが復活したこともあり、人気となっている。

 

◆三岐鉄道三岐線(三重県)751系・851系

↑西武鉄道の新101系が譲渡され三岐751系となった。正面とともに屋根上の雨どい部分などの形が801系と異なっている

 

三岐線には751系と851系という形式の異なる電車が走っている。西武鉄道の新101系が譲渡され3両×1編成の751系となった。三岐線では最も新しい電車だが、それでも1979(昭和54)年製造とかなり年期が入っている。ちなみに三岐鉄道の車両は、西武鉄道がかつて自社車両を製造していた西武所沢工場製がほとんどだが、この751系は東急車輌製造で製作された電車だ。

 

ほか三岐鉄道には851系という電車も走っている。この851系は、元西武の701系で、三岐801系とは機器や台車が異なることもあり851系とされ、1995(平成7)年から走り始めた。その後の2012(平成24)年に先頭車両が事故にあい廃車となったことで、先頭車のみ元西武の新101系の改造車両を連結して走る。そのため前後の姿、また屋根の雨どい部分の形や高さが異なるなど、ちょっと不思議な姿の編成となっている。

 

とはいえ、西武ファンにとっては、まるで“宝箱”のような三岐線。車庫は沿線の保々駅(ほぼえき)に隣接していて、車庫の横を通る道沿いから停まる電車が良く見える。古い元西武電車との触れ合いを求めこの駅に訪れるファンも多い。

 

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【注目の譲渡車両④】すっかり模様替えして走る流鉄の元西武電車

◆流鉄流山線(千葉県)5000形

↑濃淡ピンク色に塗られた流鉄の「さくら」編成。流鉄では5編成すべてが色違いで、それぞれ愛称が付けられている

千葉県の馬橋駅と流山駅間を結ぶ流鉄流山線。5.7kmの短い路線である。短いがすでに100年以上の歴史を持つ老舗路線でもある。そんな流鉄を走るのは全車が元西武の新101系で、流鉄では5000形として走る。ワンマン運転、そして2両運転が可能なように西武の武蔵丘車両検修場で改造され、2009年〜2013年にかけて入線した。

 

現在、走るのは5編成。それぞれ「さくら」「流星」「あかぎ」「若葉」「なの花」という愛称が付けられ、名前に相応しい車体カラーで走る。

 

流鉄は5000形が走る前までは、元西武101系を改造した3000形が在籍していた。101系と言っても今も各地を走る新101系ではなく、701系などと正面の姿が同じ旧101系に分けられるタイプで、この車両が譲渡されたのは流鉄のみだった。こうした珍しい車両が走っていたが、残念ながら2010年に引退している。

 

さらに前をたどると2000形が2009年まで走っていた。こちらは西武701系・801系の改造車両である。その前は、1200形・1300形が2001年まで走った。こちらは元西武551系で、西武では初の両開き扉を用いた車両編成だった。

 

流鉄は1979年にこの1200形・1300形を導入したことにより、電車の近代化を果たした。以降、西武一筋なわけだ。西武鉄道との資本面での関係はないが、不思議な縁を感じる鉄道会社である。

↑終点の流山駅に停まる5000形。右下が流鉄の電車近代化に役立った1200形・1300形。愛称の「あかぎ」は現在の5000形にも受け継がれる

 

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【注目の譲渡車両⑤】ラッピングが楽しい上信電鉄の元101系電車

◆上信電鉄(群馬県)500形

↑上信電鉄500形の第1編成は「ぐんまちゃん列車」のラッピング。かわいらしい姿で子どもたちに人気の電車となっている

 

↑500形第2編成は地元企業「マンナンライフ」のラッピング電車。こちらもなかなか個性的な姿でおもしろい

 

群馬県の高崎駅と下仁田駅を結ぶ上信電鉄。今でこそJR東日本の107系が大量に引き取られて主力となっているが、その前まで上信電鉄では同社が新造した電車と、元西武電車のみだった。元西武451系、601系を改造した100形、さらに西武401系、701系、801系をそれぞれ改造した150形と、いろいろ入り交じり賑やかだった。

 

現在、残る元西武電車は500形のみで2両×2編成が走る。西武時代は新101系だった電車で、改造された上で、2005年から上信電鉄を走っている。当初はクリーム地に緑のラインという淡泊な姿だったが、その後にラッピング電車となり、第1編成が群馬県のPR車両「ぐんまちゃん列車」、第2編成は沿線に本社があるこんにゃくゼリーを販売する企業のラッピング電車となっている。

 

今も全国の鉄道会社を走る新101系だが、こうしたラッピング電車も現代の地方私鉄らしく、興味深い姿である。

 

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【注目の譲渡車両⑥】改造されて秩父路を有料急行として走る

西武鉄道の101系は西武秩父線の開業に合わせて導入された。25パーミルという勾配区間がある山岳路線を走りきる性能を持った電車が必要になったためだった。101系は秩父路に縁がある車両だったわけである。

 

そんな101系の後期車、新101系が改造され、秩父鉄道に譲渡され6000系として走る。新101系は全国の複数の鉄道会社で使われているが、この秩父鉄道の6000系は最も姿を変えた編成と言って良いだろう。

 

◆秩父鉄道(埼玉県)6000系

↑秩父路を走る6000系。3ドアが2ドアに改造された。中間部のみ大きなガラス窓となっていて改造されたことが良く分かる

 

秩父鉄道では現在、3両×3編成の6000系が走る。新101系は側面3扉車両だが、この6000系は中間のドアを取り外して2扉とした。中間部のみ大きなガラス窓となっているため、改造したことが良くわかる。前照灯の場所と形も変え、正面中央にLED表示器を装着している。

 

さらにロングシートの座席をクロスシートに付け替えた。色は白地ベースに窓部分などを薄めのブルーに塗装された。さらに3編成のうち1編成は、古い秩父鉄道の電車を模したリバイバルカラーとなっている。

 

この6000系以外の秩父鉄道の車両はすべてロングシートである。6000系が唯一のクロスシート車両というその機能を活かして、有料の急行列車として使われている。ちなみに秩父鉄道には西武秩父線から4000系という電車も乗り入れている。新旧の西武電車が他社線に秩父鉄道で出会い、さらに元東急や元都営三田線の電車まで行き違い、なかなか賑やかだ。

 

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【注目の譲渡車両⑦】今も富山平野を走り続ける初代レッドアロー

◆富山地方鉄道(富山県)16010形

↑富山地方鉄道の16010形第2編成。特急アルプス号としても利用されている。特急の乗車には特急料金(2号車のみ+座席指定券)が必要に

 

西武鉄道の特急形電車といえば、現在は001系ラビューに、10000系ニューレッドアローが西武池袋線系統、そして西武新宿線を走る。その前に走っていたのが西武5000系である。5000系は1969年に西武初の有料特急用に造られた電車で、鉄道友の会ブルーリボン賞を受賞している。余談ながら半世紀後に誕生した001系ラビューもブルーリボン賞を獲得した。5000系は斬新なスタイルで話題になったラビューが生まれるちょうど半世紀前に誕生した名車だったわけである。

 

そんな西武生まれの名車が今も日本海側を走っている。富山県内に複数の路線を持つ富山地方鉄道。5000系が2005年、2006年に富山へ移籍、改造され16010形となった。現在は3両×2編成が活躍、うち第2編成は2011(平成23)年に水戸岡鋭治氏がデザインし、リニューアル改造が行われた。そして、観光列車「アルプスエキスプレス」として走る。リメイクされたものの、元の姿を色濃く残している。

 

【注目の譲渡車両⑧】SL列車の補佐役として走る元西武の機関車

◆大井川鐵道(静岡県)E31形

↑きれいにメンテナンスされたE34形。古参の機関車に代わってSL列車の補助役やELイベント列車の牽引などに利用されている

 

最後は元西武生まれの電気機関車である。西武鉄道では1996年に貨物輸送が廃止となるまで、多くの電気機関車が在籍していた。特にセメント関連輸送が盛んに行われていたことから、私鉄最大のE851形といった電気機関車を新造され使われていた。電気機関車の創世記の時代に造られた欧米生まれの車両も多く保有していたが、保存車両として残る一部をのぞき、廃車となっている。

 

元西武の電気機関車の中で珍しい存在だったのがE31形。1986(昭和61)年、87年に自社の所沢車両工場で4両が造られた。戦前生まれ、欧米から輸入された古典的な電気機関車に代わる役割を持つ電気機関車として造られたのだが、製造後10年もしないうちに貨物輸送が終了してしまう。その後は工事列車や新車の牽引などで使われたが、その機能が充分に生かす場が消えたこともあり、2010年に引退となった。

 

引退した年にE31形の3両を引き取ったのが静岡県を走る大井川鐵道だった。長らく新金谷駅や千頭駅構内に停められていたが、2017年にクリーム色に朱色の3本ラインが入る西武当時の姿で復活した。現在は、SL列車の補機や、EL牽引のイベント列車などに使われている。何より重連統括制御による運転が可能とあって、鉄道ファンからはなかなかの人気となっている。

 

こうした譲渡車両も、それぞれの歴史をひも解くとおもしろい。何よりも、譲渡された会社で大事に使われている姿を見ると、鉄道ファンにとっては何ともうれしく感じられるものである。

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