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2020/12/15 6:00

火入れ式も終わり2機体制に!東武鉄道「SL大樹」の今後に夢が膨らむ

〜〜東武鉄道SLC11形325号機「火入れ式」〜〜

 

東武鉄道が運行する観光列車「SL大樹(たいじゅ)」。日光・鬼怒川温泉地区の活性化を目的に生まれた列車で、同地区の観光客の増加に貢献してきた。そんなSL大樹に、この12月に大きな“動き”があった。

 

新たなC11形への火入れ式が行われたのである。新たな蒸気機関車が加わり2機体制に増強された。さらに3機めの修復が進められている。今回は火入れ式の模様と、車両や列車の生い立ち、今後の運行予定をレポートしよう。

 

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【SL大樹に注目①】火入れ式が行われたC11形325号機とは?

埼玉県久喜市にある南栗橋車両管区。東武鉄道日光線の南栗橋駅近くにある車両基地で、東武鉄道の総合メンテナンスセンターがある。基地の一角にSL検修庫があり、ここで2020年の12月2日に「火入れ式」の神事が催された。

 

すでにSL大樹用にはC11形207号機が使われている。これまで1両のみでの運行を行ってきたが、鉄道車両としては高齢にあたる蒸気機関車なので、過度な負担は禁物となる。大事に扱うことが必要だ。そのため週末など運転日を限定せざるをえなかった。さらに検査日には、ディーゼル機関車が牽引を代行した。鉄道ファンにはディーゼル機関車の牽引も人気があったが、一般利用者にとっては「せっかく訪れたのに」ということになっていた。

 

そこで、SL大樹の運行を強化すべく、蒸気機関車を探していた。そして今回、新たにメンバーに加わったのが、C11形325号機だった。

↑東武鉄道南栗橋車両管区で「火入れ式」が行われ、正式にSL大樹の牽引機となった。きれいに整備された車体が美しい

 

C11形325号機の生い立ちを紹介しておこう。325号機は1946(昭和21)年3月28日、日本車輌製造本店で生まれた。太平洋戦争後、間もなく製造された蒸気機関車で、「戦時設計」「戦時工程」で造られた4次形車両に含まれる。当初は茅ヶ崎機関区に配置された。相模線や南武線などを走った後に、米沢機関区へ。米坂線や左沢線(あてらざわせん)で列車を牽引した。

 

湘南育ちで、その後に山形県内のローカル線を主に走ったわけだ。1972(昭和47)年に引退し、新潟県内で静態保存されていた。1998(平成10)年にJR東日本の大宮工場で復元工事を行い、この時に4次形 C11の特徴だった角形ドームが丸形ドームに変更されている。そして真岡鐵道の「SLもおか」として走り始めた。

↑真岡鐵道を走っていた頃のC11形325号機。下館駅行きの列車は先頭にC11形、後部にC12形といった運転も行われていた

 

真岡鐵道ではC12形とともに2機体制で、SL列車を運行させていた。JR東日本にたびたび貸し出され、「SL会津只見号」ほか多くの観光列車としても利用されていた。長年、走り続けてきたが、高額な検査・整備費用の捻出が難しくなりつつあり、引き取り手を探していた。

 

真岡鐵道では2019年12月にラストランを行った。その後に、325号機は所有権を真岡市から芳賀地区広域行政事務組合に移され、2020年7月30日に東武鉄道に正式に譲受された。それから4か月に渡り東武鉄道によって整備が進められ、今回の「火入れ式」となったのだった。

 

【SL大樹に注目②】女優の門脇 麦さんも駆けつけ祝福した

蒸気機関車に魂をいれ、また今後の安全を祈願する「火入れ式」。神事とあって厳かな雰囲気のなか進行された。神職による祝詞(のりと)の読み上げや、拝礼が執り行われる。その後に、根津嘉澄東武鉄道社長が点火棒を使い、SLの心臓部、ボイラーへの点火が行われた。

 

こうしてC11形325号機は、東武鉄道の蒸気機関車として正式に復活したのである。

↑安全などを祈願して東武鉄道の根津社長が点火棒を使って「火入れ式」を行った 写真提供:東武鉄道株式会社

 

火入れ式当日は女優の門脇 麦(かどわき むぎ)さんがゲストとして招かれた。大河ドラマ「麒麟がくる」のヒロイン役をつとめ注目される門脇さんは「1号機のC11形207号機の運行(開始)日が私の誕生日と同じ8月10日だったので、SL大樹とは何かのご縁があるように思っていました。今日の火入れ式に参加できてとても光栄でした」と話す。

↑東武鉄道の根津社長と並び写真に納まるのはゲストとして招かれた女優の門脇 麦さん  写真提供:東武鉄道株式会社

 

無事に「火入れ式」が終了したC11形325号機。12月26日の土曜日から早くも運行に使われ始め、SL大樹の牽引役をつとめる。

 

【SL大樹に注目③】人気のSL大樹の列車&車両の歩みをたどる

ここからは、せっかくの機会なので、SL大樹の歩みをふりかえっておこう。

 

SL列車の運転計画は今から5年前にさかのぼる。2015年8月10日にJR北海道が保有するC11形207号機を借り、東武鉄道鬼怒川線で運行することを発表された。ちなみに207号機は、かつて走った路線で濃霧に悩まされたことから、その対策として、前照灯を2つ付けている。通称“カニ目”という造りで人気となった。近年はSL函館大沼号などの観光列車の牽引に使われていた。

↑北海道の函館本線を走っていたころのC11形207号機。JR北海道ではSL函館大沼号などの牽引機として活躍した 2013年7月13日撮影

 

まずは、この207号機をJR北海道からかりることができた。もちろんSL列車は蒸気機関車だけでは運行できない。乗客が乗車する客車が必要となる。ちょうどJR四国が14系・12系客車を使わずにいたこともあり、この客車を譲り受けた。蒸気機関車の運行をバックアップする補機用に、JR東日本のDE10形ディーゼル機関車を譲り受けた。さらに安全機器類などを搭載するための車掌車もJR貨物とJR西日本から譲り受けた。

 

起点の下今市駅と、終点の鬼怒川温泉駅に方向転換する転車台がほしい。そこでJR西日本の長門市駅と、三次駅(みよしえき)にあった転車台を譲り受け、輸送して整備した上で設置した。

 

さらに専門のスタッフを育てなければいけない。蒸気機関車運行用の機関士、機関助士、検修員、整備員の育成が必要となる。何しろ、東武鉄道では1966年6月にSLの運行が終了していた。当時を知る人も社内にはいなかった。そこで秩父鉄道、大井川鐵道など、蒸気機関車を動かしている鉄道会社へ、乗務員の研修を依頼した。こうして他の鉄道会社の協力を得て、蒸気機関車の扱い方を学んでいったのである。

 

こうした自社以外の多くの鉄道会社の協力を得て、一つのプロジェクトを成し遂げていくというスタイルは、これまでの鉄道業界では、ほぼなかったことだけに、注目を集めた。

 

そして2016年12月1日、今回、火入れ式が行われた同じ南栗橋SL検修庫で、SL列車の名前が「大樹」と発表された。C11形207号機のお披露目も行われた。4年前を写真で振り返ってみよう。

↑2016年12月1日に列車名は「大樹」と発表された。この日にC11形207号機に初めてヘッドマークが取り付けられた

 

2016年12月1日に列車名「大樹」が発表されるとともに、南栗橋駅構内に設けられたSL用の側線を颯爽と走る姿も報道陣に公開された。

 

この時には、現在使われている車掌車のヨ8000形(8709)とヨ5000形(13785)を連結して走る姿を見ることができた。ヨ8000形はSL大樹にも連結されて、活躍中だが、ヨ5000形はその後の姿を見ていない。ちょっと気になる存在でもあった。

↑列車名の発表とともに南栗橋車両管区内で試運転シーンが公開された。連結しているのは車掌車のヨ5000形とヨ8000形

 

↑C11形207号機の機関車の運転室内。SL列車の運転に向けて、スタッフは長期にわたり他社に出向き研修を積み重ねた

 

【SL大樹に注目④】転車台の作業が人気イベントとなった

2016年12月に列車名が発表された。その後8か月にわたり、試運転などの準備が進められ、2017年の8月10日に正式に運転が始められた。かなり時間をかけて準備されたSL運転だったことが分かる。

↑砥川橋りょうを渡るSL大樹。トラス部分は明治30年に架けられた阿武隈川橋りょうを転用したもので国の登録有形文化財に指定される

 

 

筆者もSL大樹の運転開始後に、たびたび沿線を訪れたが、まずは最初に驚かされたのが転車台の設置場所+公開方法だった。

 

起点となる下今市駅は、北側スペースに扇形庫と転車台が設けられた。見学用の転車台広場が造られ、また隣接してSL展示館が設けられた。転車台を使っての方向転換の作業が、人気のイベントとなった。

↑運転開始当初の下今市駅構内の転車台。後ろの扇形庫は、車両の増強もあり、大きく改修されている

 

下今市駅の転車台は駅構内なので、見学は乗客や入場した人が限られる。鬼怒川温泉駅の場合は、最初に見た時は、びっくりさせられた。

 

駅の玄関前に転車台が設けたのだった。この場所ならば、誰もが気軽に方向転換の風景を楽しむことができる。駅の構内でなく、駅前にわざわざ転線しなければいけないのは、手間かも知れない。だが、転車台でぐるりと回る作業を、一つのエンターテイメントとして売り出したのは、さすがに大手私鉄ならではのアイデアだと感心させられたのだった。

 

SL大樹が運行され始めてすでに4年となる。この鬼怒川温泉駅の駅前での転車台による方向転換は、すでに温泉地を訪ねる観光客にとっても、楽しみなイベントとしてすっかり定着しているかのようだ。

↑鬼怒川温泉駅の駅舎前に設けられた転車台。鬼怒川温泉を訪れた観光客にとって方向転換シーンは注目イベントとなっているようだ

 

【SL大樹に注目⑤】沿線の駅もレトロできれいに模様替え

実は東武鬼怒川線の途中駅は、昭和初期に開設した駅がほとんどで、多くの駅の施設が国の登録有形文化財に指定されている。

 

そうした文化財の状況は、SL大樹の起点駅、下今市駅の旧跨線橋内に解説がある。興味のある方はぜひ見ていただきたい。実は下今市駅の旧跨線橋(東武日光駅側)自体も、国の登録有形文化財に指定されている。

 

東武鉄道ではこうした文化財を生かしつつ、各駅の「昭和レトロ化工事」を進めている。たとえば途中の新高徳駅。最寄りに人気の撮影スポットがあり、鉄道ファンがよく利用する駅だ。この駅に2020年の早春に訪れてびっくりしてしまった。

 

前はごく普通の駅だったが、いつのまにかレトロなおしゃれな姿に変身していたのである。トイレもきれいに整備されていた。駅員もレトロな制服姿に。SL列車が停まらなくとも、鉄道ファンは訪れる。細かいところにまで徹底して整備を始めている。“ここまで東武はやるのか”とビックリさせられた。

↑昭和レトロ化工事によって、リニューアルされた新高徳駅。右上の旧駅舎と比べると、とてもおしゃれに変身したことがよく分かる

 

【SL大樹に注目⑥】次から次へユニークな運行が注目を集めた

2017年8月に運転を開始したSL大樹だが、3年間、同じ形での運行を続けてきたわけではない。形を少しずつ変えて運行させていた。たとえば次の写真は、後ろに補機のディーゼル機関車を付けずに走った時のものだ。

 

補機を付けずに走ると、勾配などの運転で、牽引する機関車の負担も大きくなる。一方で、煙をはく量が多くなる。ちょうどこの補機を付けなかった期間は冬期だったこともあり、白煙が目立って見えた。そうした効果があってか、多くの鉄道ファンが沿線につめかけていた。もちろん列車の乗車率も高まったはずである。

↑補機を付けずに走った時のSL大樹。冬期ということもあったが、白煙が多く立ち上り迫力のあるシーンを見せてくれた

 

また同時期には客車を1両のみだが元JR北海道で活躍していた14系客車オハ14-505、通称ドリームカーに変更した列車も登場した。ドリームカーは、国内最後の夜行急行「はまなす」に連結されていた客車だ。グリーン車と同等で、座席の間が広々していて寛いで乗車できる。またラウンジも設けられていた。札幌駅〜青森駅間を走った「はまなす」に乗車した経験がある人にとって、とても懐かしい客車なのである。

↑補機を付けずに走ったSL大樹。客車3両のうち、中間に元JR北海道の14系ドリームカーを連結して走る日も用意された

 

JR北海道からは同じ「はまなす」の客車として使われていたスハフ14-501も導入されている。これで客車は6両体制となった。さらに補機として使われるDE10形も増強されている。新たにJR東日本の1109号機を秋田総合車両センターで整備した上で譲り受けたのである。

 

この1109号機の塗装には鉄道ファンも驚かされた。青地に金色の帯、さらに運転席下に北斗星のロゴマークが入るこだわりぶりだった。かつて、寝台特急「北斗星」を牽いたDD51形ディーゼル機関車とそっくりな塗装だったのである。この1109号機が2020年10月31日から「DL大樹」を牽引して走り始めた。従来のDE10形がオーソドックスな国鉄塗装だったのに対して、この機関車の色は客車のブルー塗装と似合い、なかなか趣があった。

 

補機を付けない蒸気機関車だけの運行と、さらに新たな車両の導入。常に斬新なスタイルの列車を走らせる試みは、マンネリ化させない工夫そのもので、さすがだと思う。

↑2機目の補機用のディーゼルカーDE10形1109号機。北斗星仕様の塗装が施されていた 写真提供:東武鉄道株式会社

 

【SL大樹に注目⑦】2機体制となりより充実した運行が可能に

SL大樹は、C11形蒸気機関車の1両増やすことで2台体制となる。そして充実した運転が可能となった。整備のためSLが走らない日を無くすことができ、さらにSL列車の本数を増やすことができる。

 

早くも年末年始の運転予定のうち、12月26日と27日、1月1日〜3日、1月9日〜11日の8日間はSL2編成で運転される。SL大樹は1号から8号(上り下り4往復)が運転されるというから、鉄道好き、SL好きにとっては、注目の年末年始となりそうだ。

↑東武鬼怒川線の鬼怒川橋りょうを渡るSL大樹。新高徳駅〜大桑駅間にはこうした名物スポットが多く人気となっている

 

【SL大樹に注目⑧】さらに3機体制で夢が大きく膨らむ

SL大樹の運行は、さらに強化されようとしている。東武鉄道では新たなC11形の復元作業に取り組んでいる。

 

新たなC11が加わる。そしてナンバーは123号機となる。123号機は江若鉄道(こうじゃくてつどう)という現在のJR湖西線の一部区間を走っていた私鉄が、1947(昭和22)年に日本車輌製造に発注した車両だ。同鉄道ではC11 1として走っていた。その後に北海道の雄別炭磺鉄道、そして釧路開発埠頭と巡り、1975(昭和50)年に廃車に。その後は日本鉄道保存協会の所有となり静態保存されていた。この車両が2018年11月に南栗橋車両管区に運ばれ、少しずつ修復が進められていた。復元作業は2021年冬に完了の予定だとされる。

 

ちなみに123号機の「123」は、2020年11月1日に東武鉄道が123周年を向かえたことにちなむ。さらに1→2→3(ホップ、ステップ、ジャンプ)と将来に向かってさらに飛躍を、という思いが込められた。

 

ところで、最初に走り始めた207号機はJR北海道から借用している車両なのだが、こちらはどうなるのだろう。東武鉄道によると、今後も借り続ける予定で、名物のカニ目SLはまだ東武鬼怒川線を走り続けそうだ。

 

3機体制となると、どのような運行になるのだろう。2021年夏以降は、平日を含めた毎日、運転したいと考えているとのこと。

↑真岡鐵道では定期的にSL重連運転が見られたが、東武鉄道でも同じような運転が行われるかどうか注目したい

 

定期運行と、現在、月一回程度、行っている下今市駅〜東武日光駅間の運行のほか、他線区でのイベント運転に乗り出す。加えて事業の目的の一つ、東北復興支援の一助として、会津方面への乗り入れも今後の検討課題だとしている。

 

今回、登場するC11形325号機が走った真岡鐵道で行われたように、C11形2両による重連運転が見られる日も、意外と近い日に訪れるのかも知れない。

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