今の30〜40代の人たちが子どもの頃、クルマと言えばセダンがスタンダードでした。その後、荷室を拡大したステーションワゴンが流行ったり、ミニバンブームもあり、今はSUVが人気。でも、最近はセダンも復権の兆しを見せています。その理由について、ホンダの新型「アコード」に乗りながら考えてみました。
【今回紹介するクルマ】
ホンダ/アコード
※試乗車:EX
価格 465万円
【理由その①】クーペのような流麗なスタイリング
アコードといえば、ホンダを代表するセダンモデル。累計販売台数は2000万台にのぼります。初代モデルは1976年に登場し、現行モデルは10代目。ワイド&ローなスタイルをより強調し、リアに向かって流れるようなラインはクーペに近く、かつてのセダンのイメージとは一線を画するものです。
フロントフェイスも力強さの中に端正さを感じさせるもの。個人的にはキラキラ輝くようなグリルパーツを多用することなく、それでいて迫力あるデザインに仕上がっているところに好感を持ちました。
ワイド&ローで艶やかさを感じさせるデザインは、近年流行りのSUVを見慣れた目には新鮮に写ります。乗る人が少なくなっているからこそ、人と違ったクルマに乗りたいなら、セダンを選ぶ価値が出てきたと言ったらひねくれすぎでしょうか。ただ、このスタイルを見ると乗りたいと思わせられる人は少なくなさそうです。
それでいて、トランク容量は573Lもあり、クラストップの収納力を誇ります。可倒式のリアシートを前に倒せば、さらに容量を拡張できるトランクスルー機構を採用し、使い勝手でもSUVに劣る部分はありません。
【理由その②】重心が低く、スポーティなハンドリング
ドライバーズシートに腰を下ろすと、着座位置の低さがちょっと新鮮。低く抑えられた重心位置の近くに座っている感覚が伝わってきて、走りの良さを予感させます。アイポイントも低いのですが、視界は非常に広く、窮屈さを感じさせません。
実際に走り出しても、すぐにこのクルマの素性の良さが伝わってきます。このモデルのために開発された新世代プラットフォームは剛性が高く、重心も低く設定されているので、カーブでも挙動変化が少なく、とても落ち着きのあるハンドリングです。重心位置の高いSUVとは異なり、地面にピタッと貼り付いているような挙動が気持ちいい。近年のSUVは低重心を売りにするモデルも増えてきましたが、それとは明らかに違う意のままに動くハンドリングが味わえます。
そもそもセダンは、重心高が低いだけでなく、ボディ剛性も高めやすい構造。箱を3つ組み合わせたような作りが、1ボックスや2ボックス構造より剛性が高いことは想像しやすいでしょう。フロントだけでなく、左右のリアタイヤの上を結ぶような形のボディ構造となっているので、いたずらに補強を入れなくても剛性が高められる素性の良さを持っているのです。
かつてのアコードには「ユーロR」というスポーティさを全面に押し出したグレードが設けられていたこともありましたが、このモデルのハンドリングはそうしたやんちゃな雰囲気とは別種のもの。ハイスピードでコーナーを抜けられる性能は持っていますが、急がされることなく余裕を持って走るのが似合う乗り味でした。
【理由その③】静かで乗り心地がいい
走り出してすぐに気づかされたのが車内の上質な静けさ。特にタイヤが路面から拾うはずのロードノイズが耳に入ってきません。セダンはエンジンルームやトランクルームとキャビンが遮断された構造となっているため、静粛性に優れています。タイヤハウスがキャビン内にないことも、ロードノイズを低減するのに有利。ミニバンやSUVなどに比べて、空力的にも優れたボディ形状なので風切り音も低減されます。
パワートレインがハイブリッドであることも、静かさに一役買っています。搭載されるのはホンダ独自のハイブリッドシステム「e:HEV(イー エイチイーブイ)」。2モーターのシステムで、以前は「i-MMD」と呼ばれていたモノですね。基本的にモーターの力で走行し、エンジンは発電用に動くというシステムで、エンジンの効率が高い高速域だけエンジンを駆動にも用いるという先進的なシステムです。燃費はJC08モードで30km/L。
高速道路を使った長距離移動もしてみましたが、静かなうえに車体のロールが少なく、路面の継ぎ目などからのショックも体に伝わりづらいため、移動後の疲労もあまり感じずに済みました。渋滞追従機能付きのアダプティブクルーズコントロールや、車線維持支援システムなど安全運転支援システムも充実しているのも、高速ドライブの快適さに一役買ってくれています。このクルマとなら、いつもより足を伸ばして遠出がしたくなりそう。
あらためてセダンに乗ってみて感じたのは、重心位置が低く、静かで剛性も高めやすいなど長らくクルマのスタンダードなカタチとして普及しているのには、それなりの理由があったのだということ。以前は“おじさんの乗るクルマ”というイメージもありましたが、流麗なスタイルは“大人のクルマ”という雰囲気。海外では、SUVの数が増えているため、人とは違ったスタイルを求める若い人にむしろ人気が高まっているという話も聞きます。数が少なくなってきた今だからこそ、あらためて乗りたいカテゴリーになっていると感じました。
SPEC【EX】●全長×全幅×全高:4900×1860×1450mm●車両重量:1560kg●パワーユニット:1993cc水冷直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:107kw[145PS]/6200rpm【モーター135kw[184PS]/5000〜6000rpm】●最大トルク:175N・m[17.8kgf・m]/3500 rpm【モーター315N・m[32.1kgf・m]/0〜2000rpm】●WLTCモード燃費:22.8km/L
撮影/松川 忍
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