デンソーは4月9日、乗員に安心感を与える高度運転支援技術の実現と、車両の安全性能向上に貢献する製品を開発したと発表しました。合わせて、その技術がレクサスの新型「LS」および、トヨタの新型「MIRAI(ミライ)」の高度運転支援技術Advanced Drive(アドバンスドドライブ)に新機能として採用されたことも紹介し、その概要についてオンラインにて説明会を開催しました。
高精度ロケーター機能を有するLiDARと望遠カメラで前方200m先までを検知
新型LSと新型ミライに搭載された新しいAdvanced Driveで可能となるのは、高速道路や自動車専用道路の本線上でステアリング、アクセル、ブレーキの全てをアシストし、ドライバーはステアリングから手を離して走行することができる(ハンズオフ)というものです。また、車線変更をシステム側から提案も行い、ドライバーが周囲を確認してステアリングを保持すると自動で車線変更することが可能となりました。
今回、デンソーが発表したのは、この機能を実現するために開発された製品です。車両や道路の形状を検知する「LiDAR」、2つのカメラで前方を検知する「ロケーター望遠カメラ」に加え、高精度で自車位置を特定する「SIS ECU」、それらの製品などから得られる情報を高速処理する「ADS ECU」「ADX ECU」となります。
LiDARとロケーター望遠カメラはこの二つを組み合わせることで、前方200m以上先までを120°もの広範囲で検知できる製品として開発されました。中でもLiDARはデンソーにとって6世代目となる製品で、新型LSや新型ミライではこれをフロント部に装備。レーザー光の高出力化、受光センサーの高感度化により、遠方までの検出能力で世界最高レベルの性能を備えたとしています。
LiDARのスキャン方式はメカニカルな平面ミラーを用いており、物体を検出する水平の角度も広いことも特徴です。照射するレーザービーム間に隙間がない設計としたことで遠距離の小さな物体を見落としにくいメリットも生み出したと言います。また、デンソーとしては初めて、LiDARに汚れを落とすためのヒーターとウォッシャーを装備したことも明らかにされました。
また、ロケーター望遠カメラは、近距離用と遠距離用に2種類のカメラを搭載し、LiDARを超える長い撮像可能距離と高画素数を備えています。特に遠距離用のカメラでは検知角度を狭めることで角度あたりの画素数を向上させており、これがより鮮明な映像の実現に貢献することになったということです。
デンソーの先端技術を搭載したECUが高度な運転支援を可能にした
このLiDARと望遠カメラなどによって得られたデータは高精度な自車位置を特定するロケーターとして使われます。その処理の中枢を司るのが「SIS ECU」です。高精度地図データやGNSS(GPSなど全地球測位衛星システム)、6軸ジャイロセンサーから得られる位置情報と組み合わせることで、自車が走行する位置情報を車線レベルで取得。LSやミライが車線ごとに高度に制御できるのもこの技術が活きているからと言えるでしょう。
そして、ここで得られた車線レベルの高精度ロケーター情報は、車両を制御する「ADS ECU」と「ADX ECU」に送られます。ADS ECUのADSは「Advanced Driving System」のことで、つまり、このECUが自動運転につながる制御を行うのです。デンソーによれば、このECUは「認識/自車位置推定/運動制御などの自動運転の基本ロジック搭載」「安全性確保のため複数のSoC、MCUで冗長性を確保」する役割を備えているということです。
一方、ADX ECUは「Advanced Driving Extension」を表すもので、「AIを活用した機能の追加・性能向上」としての役割を担います。加えて、いずれも通信でアップデートするOTA(Over The Air)機能にも対応しているということも見逃せません。これは現時点でこそAdvanced Driveが運転支援であるレベル2にとどまりましたが、近い将来、システムがレベル3に発展する際にはアップデートで対応できることを意味しているのです。
実は3月にホンダは世界初となるレベル3の型式認定を受けた新型レジェンドを発売しました。そういう状況下においてもAdvanced Driveでは、どうしてレベル2にとどめたのでしょうか。そこには自動運転に対する考え方の違いがあったと言えます。
自動運転の次のステップへの可能性を秘めたAdvanced Drive
トヨタ自動車は新型LSと新型ミライの発表記者会見で、「自動運転のレベルを上げることよりもドライバーが運転を安心して任せられるかどうかが重要」と、トヨタ自動車 CTOの前田昌彦氏はコメントしています。また、トヨタ先進技術開発カンパニーの「ウーブン・プラネット・ホールディングス」でCTOを務める鯉渕 健氏も「オーナーカーは自分で運転を楽しみながら、運転したくない場面を任せられるミックスされたシステムが合うのではないか」としています。
つまり、システムとして自動運転レベル3に対応できる伸びしろは残しつつも、まずは現時点でユーザーが受容できるシステムを提供したのが、新しいAdvanced Driveなのです。デンソーとしてはサプライヤーとして、OEMが必要とする仕様を粛々と進めていくことが基本です。ただ、そういう中でも「初期段階で先を見据えた方がトータルの面でよりコスト効果が大きい」との提案は行っていくとしました。
こうして振り返るとAdvanced Driveの開発は、インターフェースで「アイシン精機」などが参画していますが、仕様検討の段階からトヨタとデンソーが一体となって取り組むことで完成されたものと言えます。自動運転の実用化はまさに今スタートしたばかり。デンソーが自動運転の発展に果たす役割はますます大きくなっていくと言えるでしょう。
【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】