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2021/10/16 12:00

鉄道&旅好きにお勧め!車両充実度満点の「えちごトキめき鉄道」

〜〜乗りたい&行きたいローカル線車両事典No.4〜〜

 

前回、本サイトで紹介した千葉県の房総半島を走る「いすみ鉄道」。同鉄道会社の元社長が就任したことにより、がぜん活気づいた鉄道会社がある。新潟県を走る第三セクター経営の鉄道会社「えちごトキめき鉄道」だ。

 

すでにご存知の方も多いと思うが、北陸本線を走っていた交直両用電車をメンテナンスした上で導入。休日に急行列車として走らせている。しかも国鉄当時の塗装で。この電車に乗ろうと全国からファンがつめかけている。

 

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【はじめに】6年目を迎えたえちごトキめき鉄道の2路線

2015(平成27)年3月14日に北陸新幹線の長野駅〜金沢駅間が開業した。以降、併行して走っていた信越本線の妙高高原駅〜直江津駅間と、北陸本線の市振駅〜直江津駅間の運営を引き継いで、列車を走らせているのが「えちごトキめき鉄道」である。

 

旧信越本線は、「妙高はねうまライン」に、北陸本線は「日本海ひすいライン」という路線名が付けられた。両路線とも自社車両だけでなく、他社車両も乗り入れている。さらにガラス窓が大きく、鮮やかな赤色に塗られた「えちごトキめきリゾート雪月花(せつげつか)」という観光列車を創業まもなく走らせ、なかなかの人気の路線となっていた。

 

転機が訪れたのは2019(令和元)年秋。鳥塚 亮(とりづかあきら)氏が新社長に就任したのである。鳥塚氏といえば、元航空会社に勤めた後にいすみ鉄道の社長に就任し、国鉄形気動車を導入するなど思いきったアイデアを取り入れ、いすみ鉄道の存続に貢献した人物だ。2018(平成30)年に社長退任の後、えちごトキめき鉄道(以下「トキ鉄」と略)に移った形となった。

 

新社長に就任して2年たった今年には、4月29日に直江津駅の構内に「直江津D51(デゴイチ)レールパーク」を開業、さらに7月4日には413系・455系を使った観光急行を運転し始めるなど、鉄道ファンやファミリー客の誘致に積極的に乗り出している。

 

筆者も今年の春以降に、すでに同路線に3回ほど訪れているが、コロナ禍による難しい時期にもかかわらず週末には、近隣はもとより、遠くから訪れた鉄道好きの姿も多く、さまざまな企画が実りつつあるように感じられた。

 

【注目の車両&路線①】7月から走り始めた「国鉄形観光急行」

同社の路線を走る車両を見ていこう。

 

同社の車両の中で最も気になる車両といえば413系・455系であろう。両車両は現在、観光急行列車としても使われている。413系・455系はどのような車両なのか見ていこう。

 

413系と455系は同じ交直両用電車ながら、生まれた経緯が異なる。直流電車が主力という地域に住む人にとっては、やや縁が薄い車両で、似た形式番号が多々あり難解な部分もあるが、国鉄時代と引き継いだJRの時代も含めて確認しておこう。

 

○クハ455-701(国鉄形交直両用455系電車)

↑クハ455-701を先頭に妙高はねうまラインを走る〝快速列車〟。この日は「赤倉」のヘッドマークを付けての走行

 

形式は455系電車にあたる。455系は国鉄時代に交流、直流両電化方式に対応した急行列車用の車両で、東北本線の盛岡地区と鹿児島本線の熊本電化開業に合わせ、また北陸地区の急行増発用に1965(昭和40)年に製造された。455系の前には453系、473系といった急行形交直両用電車があったが、これらに比べてより勾配区間のある路線で使うことを考慮し、抑速ブレーキなどの機器を強化している。

 

急行列車用に造られた455系だったが、年を追うごとに、急行列車自体の運行が減少していく。長い編成を組んで長距離を走る列車よりも、短い編成で、短い距離を走る普通列車向けの車両が必要となっていった。そのために、電源を持たない中間車は不要となっていた。

 

そこで中間車のサハ455形(種車はサハ455-1)が、1986(昭和61)年に運転台を持つクハ455-701に改造、さらに413系と組んで走るように改造されたのである。

 

クハ455-701は改造された後に413系とともにJR西日本に引き継がれ、北陸本線を長い間、走り続けた。JRの時にはB04編成という編成名で2010年代に入ると北陸地域色という青一色塗装に変更されている。当時、筆者も出会ったことがあるが、下記がその写真だ。

 

現在の姿と比べてみると、色の違いこそあれオリジナルな455系の姿はそのままである。ただし、正面の貫通扉上にある方向幕(列車種別の「急行」が表示される部分)がJR時代には表示がなく開口部が埋め込まれていたことが分かる。

↑北陸地域色に塗られたJR西日本時代のクハ455-701。後ろの413系とは乗降扉の位置と窓配置が異なる。撮影日2014(平成26)年4月12日

 

その後の2015(平成27)年には七尾色と呼ばれるあかね色に塗り替えられた。トキ鉄へやってくる前に、大きな改造と、車体色が複数回、変更されたことが分かる。ちなみに現在、455系の電源付きの車両(要するにモハやクモハ)はなく、トキ鉄に譲渡されたクハ455-701と、同じ経歴を持つクハ455-702が金沢総合車両所に1両のみが残るだけとなった。

 

ちなみに455系には微妙に違う姿形と形式がある。下の写真はクハ455-60とモハ474-46、クモハ475-46の編成で2011(平成23)7月19日に直江津駅のホームに停車する姿、クモハ475、モハ474は475系と呼ばれる455系に近い形式の電車で交流60Hzに対応するように造られた。写真のような475系と455系との組み合わせも、北陸本線では多く見受けられた。写真に写り込むクモハ475-46は準鉄道記念物に指定され、白山市の金沢総合車両所で保存されている。455系、475系とともに交直流電車の過渡期の車両であり、日本の鉄道技術を高めていく上で大きな足跡を残した〝歴史に残る車両〟なのである。

 

この車両塗装は急行列車に使われた大もとの色でローズピンク(赤13号)にクリーム色(クリーム4号)の組み合わせで「交直流急行色」と呼ばれている。

↑直江津駅で2011(平成23)年に停車する455系と475系の編成。トキ鉄のクハ455と比べると前照灯が大きい

 

○クモハ413-6・モハ412-6(国鉄形交直両用413系電車)

↑妙高はねうまラインを直江津駅に向けて走る快速列車。先頭が413系で、同車両は貫通扉上の方向幕が埋め込まれている

 

455系に関してだいぶ話が長くなってしまったが、編成を組む413系の特徴も触れておこう。

 

413系は1986(昭和61)年から製造された近郊形の交直両用電車である。453系・475系など急行形交直両用電車の台車、電装品、冷房装置などを再利用、車体を新造した。交流専用の電車717系も同時期に造られている。413系は北陸地方向けに、717系は東北の仙台地区と九州地区に導入された。

 

413系は北陸路の主力として長年走り続けた。JR西日本では近年、521系という交直両用電車を徐々に新造し、古い413系の置き換えを図ってきた。413系はJRの路線からは徐々に消えていき、最後まで走っていた七尾線の413系も、521系の導入により、今年3月12日で運用終了となった。

 

そんな413系は北陸本線を引き継いだ富山県内を走る「あいの風とやま鉄道」に5編成×3両(計15両)が譲渡された。そのうち、2編成は同社の観光列車に改造された。また一部に廃車されたものも出てきている。

 

ちなみに、413系の電車はあいの風とやま鉄道から、トキ鉄の糸魚川駅まで入線していたが、こちらの運行も2018(平成30)年3月17日で直通運転は終了している。

 

トキ鉄にやってきたのはB06編成という413系3両で、JR西日本当時には七尾線を走っている編成だった。交直流急行色に塗り替えられ、413系3両と、455系(クハ455-701)1両が購入されたが、413系のうち1両は直江津のD51レールパークの庫内で保存展示、一方、JR時代とは異なる455系1両と編成を組んで、現在は直江津駅〜妙高高原駅間と直江津駅〜市振駅間を走るようになっている。

↑七尾線を走った当時の413系B06編成で、車体色は茜色だった。撮影日は2020(令和2)年10月30日

 

413系・455系列車の運転ダイヤは下記のとおり。

 

◆快速列車としての運行

直江津8時43分発→上越妙高9時発→妙高高原9時37分着。

妙高高原9時44分発→上越妙高10時19分発→直江津10時35分着

※途中、高田、南高田、新井、二本木、関山の各駅に停車

 

◆急行列車(急行券が必要)としての運行

直江津11時26分発→糸魚川12時34分発→市振12時52分着

市振13時10分発→糸魚川13時42分発→直江津14時31分着

直江津15時03分発→糸魚川15時51分着/16時40分発→直江津17時08分着

 

【注目の車両&路線②】景色を楽しむならば「雪月花」が一押し

トキ鉄で最も目立つ列車といえば観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」であろう。あらためてどのような観光列車なのか、紹介しておこう。

↑妙高はねうまラインを走る「えちごトキめきリゾート雪月花」。こうして見ると側面のガラス窓の大きさが良く分かる

 

○ET122形1000番台「えちごトキめきリゾート雪月花」

形式はET122形で、その1000番台として造られた。ET122形はトキ鉄の日本海ひすいライン用に造られた車両(後述)で、同線は電化路線ながら、諸事情から気動車が採用された。

 

「えちごトキめきリゾート雪月花」は2016(平成28)年4月23日から運行されている。2両編成で、まず車体は車両限界ぎりぎりまで天井高を広げて造られた。さらに天井まで回り込むように側面窓が設けられている。結露がつかないよう、また断熱効果がある複層ガラスを利用。2枚のガラスの間には乾燥空気を入れ込む凝ったもので。UVカットガラスということもあり、熱も遮られる。

 

また車体の色は鮮やかなレッドとなっているが、こちらは「銀朱色」と呼ばれるカラーで、手塗りで塗装された。

 

ガラス窓から、美しい路線風景が落ち着いて楽しめるように座席幅は広く、足下のシートピッチも幅広く造られている。インテリアには木を多用しているが、こちらは天童木工が担当した。

↑日本海ひすいラインの有間川駅を通過する「えちごトキめきリゾート雪月花」。次の谷浜駅まで日本海の美景が存分に楽しめる

 

ごく一部だけを見ただけでも、手の込んだ車両として仕上げられた「えちごトキめきリゾート雪月花」。2016年度のグッドデザイン賞、2017年度の鉄道友の会ローレル賞に輝いている。

 

多くの観光列車が既存の車両を改造したものが多い中で、まったくゼロから新造している。同社の思いが詰め込まれているといって良いだろう。ちなみに同列車の運行時間は次のとおりだ。

 

◆午前便

上越妙高10時19分発→妙高高原11時30分折り返し→直江津12時26分発→糸魚川13時16分着

◆午後便

糸魚川13時59分発→直江津14時57分発→妙高高原16時16分折り返し→上越妙高16時44分着

車内では午前便がフレンチ、午後便では和食を楽しむことができる。

 

【注目の車両&路線③】多くの車両が走る「妙高はねうまライン」

トキ鉄の楽しいところは、多種類の車両が次々に走ってくることにある。先に紹介した413系・455系、「えちごトキめきリゾート雪月花」。さらに普通列車、特急列車、観光列車とさまざまな車両に出会える。まずは妙高はねうまラインを走る車両を紹介しておこう。

 

○えちごトキめき鉄道ET127系

↑妙高の山並みをイメージしたデザインが描かれるET127系。左上は通称「田島塗り」と呼ばれるラッピング電車

 

ET127系は妙高はねうまラインを走る普通列車用で、元は新潟地区を走るJR東日本のE127系だった。トキ鉄発足に合わせてJR東日本から2両×10編成が移籍した。

 

E127系には新潟地区用に造られた0番台と、松本地区用の100番台があり、0番台と100番台では、やや正面の形が異なる。トキ鉄へやってきた車両は0番台で、同社へやってきた後に、車体前面と側面に同路線から望める妙高の山並みをイメージした緑色の山模様が描かれている。

 

当初、妙高の山並みをイメージしたデザインが大半だったET127系だが、その後に地元企業のラッピングを施した車両が増えている。

 

8月には住宅建材などを扱う田島ルーフテイング社とトキ鉄がコラボ、〝初代新潟色〟に塗り分けた通称「田島塗り」ラッピング電車も登場した。ディテールに凝った広告ラッピング電車で、鉄道ファンを中心に人気となっている。このあたり鉄道ファンの好みをよく理解した鉄道会社らしい創意工夫が見られておもしろい。

 

○北越急行HK100形

↑妙高はねうまラインに乗り入れる北越急行のHK100形。直江津駅〜新井駅の1往復の列車に使われている。写真はHK100形100番台

 

新潟県内にはトキ鉄の他に、第三セクター経営の北越急行という鉄道会社がある。上越線の六日町駅と信越本線の犀潟(さいがた)駅を結ぶ「ほくほく線」の営業を行う。列車の多くが上越新幹線の越後湯沢駅と直江津駅を結んで走る。「スノーラビット」という快速列車を走らせているが、その1往復のみが、新井駅まで乗り入れている。

 

列車の運行には北越急行のHK100形が利用されている。トキ鉄の路線で北越急行の車両にも出会えるというわけだ。ちなみにHK100形の通常車両は薄紫色の帯色だが、赤い帯の100番台「ゆめぞら」の車両が使われることも。同車両は北越急行のトンネル内で車両の天井に星座を投影させる装置が付けられ、人気車両となっている。

 

○E653系 特急「しらゆき」

↑妙高の山並みを背景に走るE653系 特急「しらゆき」。アイボリーを基調に上下に紫紺と朱赤の帯が入る

 

妙高はねうまラインでは、妙高市の玄関口でもある新井駅と、北陸新幹線と接続する上越妙高駅の両駅を発着する優等列車が目立つ。特急「しらゆき」もそうした列車の一つで、新潟駅との間を1日に5往復している。

 

使われるのは1100番台に改造されたE653系で4両とやや短め編成で走る。E653系は元常磐線の特急「ひたち」用に造られた交直両用特急形電車で、新型車両導入後に、日本海側を走る特急に転用された。現在は新潟駅〜秋田駅・酒田駅間を走る特急「いなほ」と、新潟駅と妙高はねうまラインを結ぶ特急「しらゆき」として使われている。

 

○キハ40・48形 「越乃Shu*Kura」

↑妙高高原駅を発車する「越乃Shu*Kura」。週末を中心に11月28日まで運行の予定

 

JR東日本が運行する観光列車「越乃Shu*Kura」も上越妙高駅を発着駅として走っている。現在「越乃Shu*Kura」、「ゆざわShu*Kura」、「柳都Shu*Kura」の3行程が用意されているが、3列車とも上越妙高駅の発着と、もはや妙高はねうまラインにとって欠くことができない列車となりつつある。新潟のおいしい地酒と食が楽しめ、また利き酒もできる列車とあって、左党にはうれしい列車となっている。

 

○115系

JR東日本の115系も直江津駅〜新井駅を1往復走っている。新潟地区を走る115系は、7編成すべて色が違っていて注目度も高い。残念ながら夜に走るのみなので、乗る楽しみしかないのがちょっと残念なところだ。

 

運行は直江津19時18分発→新井19時43分着、新井20時13分発→直江津20時44分着だが、直江津駅を翌朝7時17分に発車するので、早朝の直江津駅構内限定ながら目にすることができる。

 

【注目の車両&路線④】「妙高はねうまライン」で注目したいのは

元信越本線の妙高高原駅〜直江津駅間37.7kmを走る妙高はねうまラインだが、路線のポイントをここで抑えておこう。まずは特急「しらゆき」の写真で見たように妙高の山並みが、路線の途中で見ることができる。

 

さらに珍しいスイッチバック駅がある。新井駅のひとつ南にある二本木駅で、上りも下りも、一度、駅ホームに入線する前、もしくは後に、折り返し線に入り、進行方向を変える。以前には、駅を停車しない特急の通過列車があったが、今は定期運行されるすべての列車が同駅に入るので〝行ったり来たり〟する様子が楽しめる。

↑二本木駅に停車する観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」と、駅へ進入する直江津駅行き普通列車。写真の手前に折り返し線がある

 

二本木駅の先、関山駅、妙高高原駅までの駅間の距離がかなり延び、さらに山あいの路線となる。電車がそれだけ上り下りしていることを実感させる路線だ。

 

妙高高原駅では、しなの鉄道と接続する。しなの鉄道といえば、国鉄型の115系が今も主力として走る路線で、その出会いも楽しいが、最近は新型車両の導入が進み、出会うチャンスが減ってきたのは、鉄道ファンとしてはちょっと残念なところでもある。

↑標高の高い妙高高原駅は降雪量も多い。そんな真冬のホームに止まるしなの鉄道の115系、その右に柱で遮られるがET127系が見える

 

【注目の車両&路線⑤】直江津D51レールパークを走るSLは?

妙高はねうまラインを直江津駅へ戻り、次に日本海ひすいラインを走る車両を見ていくことにしよう。その前に、直江津駅にはぜひ訪れたい施設がある。直江津構内にできた「直江津D51(デコイチ)レールパーク」だ。

 

今年の4月29日に誕生した施設で、その名前のようにD51形蒸気機関車の動く様子に触れることができる。同施設のD51は、和歌山県の有田川鉄道公園で保存されていた827号機で、圧縮空気で動く仕組みに改造されている。827号機は米原機関区、中津川機関区に配置された機関車で、中央西線で活躍したのちに引退となっていた蒸気機関車でもある。

 

同機関車が乗客を乗せた車掌車を牽引。直江津駅のホーム近くとレールパークを往復し、またパーク内にある転車台に載って、ぐるりと回る様子が楽しめる。

↑車掌車を牽いて直江津駅構内を往復するD51-827号機。車両は保存状態がかなりよい、車掌車に乗車しての走行体験も楽しめる

 

レールパークは元直江津機関区を利用したもの。この直江津機関区の歴史は古く1894(明治27)年に発足し、最盛期には転車台の周りに22線という大型の扇形庫が設けられた。1960年台前半までD51をはじめ多くのSLがこの機関区を基地に活躍した。その後、機関庫は縮小され、2015(平成27)年3月14日には、JR東日本からえちごトキめき鉄道へ施設が譲渡されている。

 

機関庫は小さくなったものの、レールパークになった後は、413系(クハ412-6)が庫内で保存展示。413系の車内は休憩所として、また売店として利用されている。ほか車両移動用の小型機関車、世界的な建築家の清家 清氏が自宅で利用していたという有蓋緩急車ワフ29603が保存されている。車掌車も兼ねていた車両で、清家氏はこの車内を書斎に利用していたそうだ。鉄道好きとしては贅沢な趣味の空間であるとともに、うらやましい車両の使い方だと感じた。

↑転車台に乗りぐるりと回るD51-827号機。直江津駅の構内を走行した後にはこうした転車台に乗るシーンを見ることができる

 

直江津D51レールパークはトキ鉄の車庫(直江津運転センター)に隣接していることもあり、車庫内に停車するET127系やET122形などの車両も間近に見ることができる。車庫ならではの動きを見ることができる楽しさも、ここで味わえる。

 

◆直江津D51レールパーク◆ 

営業時間:9時45分〜17時(最終入場16時30分)
営業日:3月上旬〜12月初旬の土・日曜、祝日など
入場料:大人1000円
アクセス:直江津駅南口から徒歩約3分

 

【注目の車両&路線⑥】日本海ひすいラインの注目列車といえば

次に日本海ひすいラインの直江津駅〜市振駅間を走る車両を見ていこう。旧北陸本線ならではの車両も行き来している。

 

○えちごトキめき鉄道ET122形

↑日本海ひすいラインの谷浜駅付近を走るET122形。写真のように朝夕には2両連結で走ることもある

 

ET122形は北陸本線をトキ鉄に移管するにあたって製造された気動車で、元はJR西日本が姫新線(きしんせん)などに導入したキハ122形がベースとなっている。前後両側に運転台がある気動車で、ステンレス車両の下部に「日本海の美しい海」を表現したデザインをほどこす。計8両が造られたが、うちイベント兼用車両が2両用意された。

 

ちなみに、なぜ電車が導入されなかったのか。走る区間の市振駅〜直江津駅間は、市振駅〜えちご押上ひすい海岸駅間が交流電化区間で、梶屋敷駅(かじやしきえき)〜直江津駅間が直流電化区間となっている。えちご押上ひすい海岸駅〜梶屋敷駅間には交流・直流を切り替えるデッドセクション区間がある。

 

つまり、電車の場合には交直両用電車でなければ走れない。交直両用電車の新造は高価で、しかも最低2両で編成を組まなければいけないという問題があった。交直両用電車に比べれば安めの気動車で、輸送量がそう多くない区間のため単行運転が可能なET122形の導入となったわけである。

↑イベント兼用車両のET122-7は「NIHONKAI STREAM」と名付けられた。正面に紅ズワイガニ、側面にアンコウなどのイラストが描かれる

 

ET122形が主力車両の日本海ひすいラインだが、週末ともなるとにぎやかになる。まず413系・455系を使った急行列車が走る。さらに鮮やかな「えちごトキめきリゾート雪月花」も連なるように走るのだ。

 

日本海ひすいラインを走るのは旅客列車だけでない。貨物列車も走る。日本海縦貫線という貨物輸送に欠かせない路線の一区間にあたるだけに、昼夜を問わず貨物列車が走っている。そして牽引機といえば。

 

○JR貨物EF510形式交直両用電気機関車

↑赤い車体のEF510基本番台。レッドサンダーという愛称が側面に入る。右上写真は500番台の銀色塗装機

 

日本海ひすいラインを含む日本海縦貫線を走る貨物列車を牽引するのがJR貨物のEF510形式である。EF510は直流電化区間、交流50Hz、交流60Hz区間が複雑に連なる路線に合わせ、また国鉄時代に生まれたEF81形式の置き換え用として開発された。そして日本海縦貫線では基本番台の赤い車体、愛称「ECO-POWERレッドサンダー」が走り続けてきた。

 

その後、JR東日本が特急「北斗星」などの寝台列車牽引用に新造した500番台が、客車列車の牽引自体がほぼ消滅したこともあり、JR貨物に売却された。現在は、赤い車両の基本番台と、北斗星仕様の青色、カシオペア仕様の銀色の500番台の3色の機関車が走るようになり、貨物列車好きには楽しい線区となっている。

↑日本海ひすいラインの青海駅〜糸魚川駅間を走るEF510の501号機。JR東日本当時のステッカー類は無いものの青い車体色のまま走る

 

【注目の車両&路線⑦】日本海ひすいラインで訪れたい駅といえば

トキ鉄の日本海ひすいラインの営業距離は59.3km。その先の市振駅〜越中宮崎駅間に富山県・新潟県の県境があるため、その手前の市振駅がえちごトキめき鉄道と、あいの風とやま鉄道の境界駅となっている。

 

営業上は市振駅が境界駅となっているが、トキ鉄の普通列車の運行は、2つ先の泊駅までの運行が大半で、その先のあいの風とやま鉄道の列車も大半が泊駅止まりとなっている。あいの風とやま鉄道からトキへ乗り入れる直通列車もわずかにあり、直通列車は糸魚川駅まで走っている。

 

日本海ひすいラインはほぼ日本海に沿って走るものの、トンネル区間が多い。日本海の風景が良く見える区間といえば、直江津駅側から見ると、谷浜駅〜有間川駅間、青海駅〜親不知駅間の一部、市振駅付近が車窓から海の景色が楽しめるが意外に少ないのが残念だ。

 

そんな日本海が良く見える区間の中でも、人気なのが有間川駅の近く。同駅は日本海の目の前にあり、列車と海が一緒に撮影できるスポットとあって、訪れる人が多い。

↑有間川駅のすぐそばから撮影した413系・455系利用の急行列車。市振駅行きの列車は先頭に急行型電車が付くとあって人気がある

 

ほかに一度下車してみたいのが筒石駅。トンネル内にある珍しい駅だ。北陸本線は、同駅がトンネル内に造られるまでは、海側に地上駅があった。駅の開業は1912(大正元)年と古い。地上駅だったものの、地滑りが多発した区間で、1963(昭和38)年に民家と列車が巻き込まれる土砂崩れが発生した。その後に、安全と輸送量を確保するために複線の頸城トンネル(くびきとんねる)を掘削し、トンネル内に筒石駅を開業させた。

 

「えちごトキめきリゾート雪月花」の午前便、午後便とともに同駅に停車、10分弱と短いながらもホームに降りることが可能だ。とはいえ地上の改札口からトンネル内の下りホームまで290段、上りホームまで280段で、エスカレーターやエレベーターはない。かなり〝労力〟を必要とする駅である。とてもえちごトキめきリゾート雪月花の短い停車時間内で改札までの往復は無理だ。

 

筆者も、JR時代に訪ねたことがあるが、ホームから改札口まで大変な思いをして上り下りした。海沿いにある筒石の集落から約1kmと遠いこともあり、一日の乗車客は20人程度と〝秘境駅〟に近い。とはいうものの〝話の種〟になる駅である。

↑写真は北陸本線当時のもの。下りホームと上りホームの位置関係がおもしろい。列車通過時には強い風圧がトンネルを抜けていく

 

いま同駅を通る列車は普通列車以外に貨物列車が通過するのみとなっている。JR当時は特急列車がかなりのスピードで走り抜けていた。その通過する時の風圧は予想以上で、ホームと階段・通路の間には頑丈な引き戸が設けられていて、列車通過時に備える仕組みとなっている。

 

その先の糸魚川駅も一度は訪れておきたい駅だ。駅の建物に併設される「糸魚川ジオステーション ジオパル」には、大糸線を走っていたキハ52-156が静態保存されている。東京・六本木で開かれた鉄道イベントで使われた糸魚川産の杉材を使ったトワイライトエクスプレス展望車のモックアップも、現在は、こちらの施設に展示されている。表を飾るレンガ造りの外装は、かつて糸魚川駅のレンガ車庫だったもので、当時のレトロでおしゃれなたたずまいがよみがえるようだ。

 

日本海ひすいラインは糸魚川駅から先は3駅ほどだが、青海駅〜親不知駅〜市振駅間は特に険しさが感じられるところ。山が海ぎりぎりまで迫り、狭い海岸線に海側から北陸自動車道、国道8号、日本海ひすいライン、県道525号線の路線が平行して走る。列車に乗っていても、その険しい地形に驚かされる。

 

今のように交通機関が発達していないころに、同地を通行した人は断崖絶壁が続く海岸に難渋した。それこそ〝親は子を、子は親を顧みるゆとりがなかった〟とされる。それこそ〝親不知・子不知〟の土地なのである。

↑市振駅の西側を流れる境川を渡る貨物列車。写真は富山県側から撮ったもの。対岸が新潟県となる

 

富山県との県境近くの市振駅付近になると、急に風景が開け始める。普通列車は県境を越えて泊駅まで走るが、市振駅の先に架かる境川が、富山県との県境となる。それこそ〝境(さかい)〟の川なのだ。この先、鉄橋を渡り列車は北陸地方へ入る。この境川の川岸も、すでにあいの風とやま鉄道の路線に入っているとはいえ、なかなかの好スポットといって良いだろう。