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2021/12/4 15:30

「英国の鉄道」の今を伝える写真展 & 気になる英国の鉄道趣味事情

〜〜「レールブリタニア英国鉄道写真展」を開催(東京都)〜〜

 

鉄道が走る景色は国それぞれ大きく異なり、個性がにじみ出るもののようだ。

 

「RAIL BRITANNIA」という英国鉄道の写真展が12月に東京都内で開かれる。英国に暮らす人たちが撮り歩いた、とっておきの〝英国の鉄道〟が再現された写真展だ。その一部の紹介と、英国鉄道の現在、気になるあちらの〝鉄道趣味〟〝撮り鉄〟の実情に触れてみたい。

 

【英国鉄道に触れる①】英国に住んだからこそ写せた鉄道風景

まずは写真展の概要を紹介しよう。

 

◆RAIL BRITANNIA「レールブリタニア」(副題:英国鉄道写真展)

日程:2021(令和3)年12月10日(金)〜16日(木)期間中無休
時間: 10時30分〜19時(土日17時、最終日14時まで)
会場: 富士フォトギャラリー銀座 東京都中央区銀座1-2-4サクセス銀座ファーストビル4階
入場料金:無料

出展者:相内浩平、大山敬太郎、越智喬之、関根英輝、西尾祐司(敬称略)

 

まずは写真展のタイトルだが、英国の愛国歌「Rule,Britannia!」をもじったそうである。今回の写真展のメンバーは「英国鉄道研究会」の一員であり、英国に長く滞在していたからこそ生み出されたタイトルといえよう。そうした方たちだからこそ写すことができた写真であり、日本の鉄道とはひと味違った〝鉄道景色〟を見出すことができる。

↑一見どこに駅があるのか分からない場所にポツンと立つ駅名標。周りとのギャップに思わずカメラを向けてしまった 撮影:関根英輝(以下同)

 

【英国鉄道に触れる②】英国を良く知るからこそ見えてきたこと

写真展に出展しているひとり関根英輝さん(29歳)は英国生まれの英国育ちで、生粋の〝ロンドンっ子〟だ。本サイトでも英国の鉄道事情を「秩父路号」のペンネームで何度かレポートしている。

 

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そんな関根さんが日本に〝移住〟されたそうで、これを機会に英国鉄道を撮り続けてきたお仲間と写真展を開こうということになった。

↑英国の大幹線である東海岸本線。名前とは裏腹に海岸線を走るのはごく一部区間だがそこでは絶景が望める

 

関根さんに今回の写真展の主旨を紹介してもらうとともに、現在の英国の鉄道事情、趣味事情をうかがった。

 

「今回の写真展は共通の趣味を持った5人の写真家が合同で展示作品を出展しています。こだわったポイントとしては、写真を通して英国の鉄道の魅力を伝えたい、ということです。英国全土で写された写真で、風光明媚な景色、個性あふれる車両、そして鉄道の運行に関わる人々を大きなテーマとしています。

それぞれの写真に〝英国らしさ〟が込められていますので、少しでもそれを感じ取っていただければと思います。日本の鉄道とはまたひと味違った鉄道景色を見ていただき、少しでも英国の鉄道に興味がわいた、または英国に一度行ってみたいと感じていただければと思います」

 

では、関根さんが感じる英国の鉄道の魅力はどのようなところなのだろう。

 

「英国で特に目立つのは鉄道文化や風習でしょうか。最近では色々と状況が変ってきてしまいましたが、鉄道車両の顔が黄色かったり、ヘッドライトは片目しか点灯しなかったり、手動ドアの客車が営業運転で現在でも使用されていたりと、鉄道先進国の中でもユニークさが際立つところだと思います」

 

手動ドアの車両が今も使われるところなどは、日本のように効率および安全第一で鉄道を走らせる国とはだいぶ違うようだ。

 

【英国鉄道に触れる③】鉄道を保存する行動力が半端ない!

「あと大きな魅力としては鉄道文化の保存活動があげられます。一番分かりやすいのが全国各地の保存鉄道ですが、英国には鉄道遺産を後世に伝えるという情熱があふれている人たちが大勢います。

昔の姿で、かつての車両や機関車を復活させて運行したり、挙句の果てには全て廃車になってしまった蒸気機関車の形式を新造してしまったりと、尊敬するほどの行動力を感じます。その人たちのおかげで現在でも過去の鉄道文化と触れ合うことができるのが、大きな魅力だと感じています」

 

保存のために新しい形式を造ってしまうとは、うらやましいほどの行動力である。それを容認する社会の空気もあるのだろう。

↑保存鉄道でのワンシーン。昔の色鮮やかな蒸気機関車が力強く走る姿が現代でも楽しめる

 

「英国では鉄道のみならず産業・文化遺産を保存して後世に伝えるという点では情熱ある方が多くいます。日本でも同様の想いを持つ方は多いでしょうが、大きな違いはボランティア文化とチャリティ文化にあると思います。保存鉄道などは老若男女問わず多くのボランティアの方々が自由時間を割いて運営に貢献しています。

ボランティアの多くが高齢者となっていて、活動人口が減ってきているというのも事実ですが、世間一般にボランティア精神が根付いているのが大きいと思います。

また、チャリティに関しては、日ごろから何かに対して寄付をするというキリスト教から芽生えた文化でしょう。英国政府も、保存鉄道などには文化保存という名目で資金が提供することもあります。これもチャリティ文化のひとつの形と言えるかもしれません」

 

日本では、クラウド・ファンディングでの資金集めが広く行われるようになってきて、車両の動態保存などに役立てられるようになってきた。こうした活動が活発化されるのは素晴らしいことのように思う。あとはそれをいかに末長く持続させられるか、そのあたりが大きなカギなのであろう。

 

そんな関根さんが好きな鉄道車両について聞いてみた。

 

「個人的に思い入れがある車両はA4型蒸気機関車でしょうか。蒸気機関車の公式世界速度記録を保持する『マラード号』で有名ですね。小さいころ、スコットランドに住む母親の友人を訪問する際、いつもその途中にあるヨークの鉄道博物館に立ち寄ったのですが、そこで展示されているマラード号にいつも感銘を受けていた思い出があります。かっこよくて速い蒸気機関車は小さい自分の憧れでした」

↑ヨークの鉄道博物館に静態保存されているマラード号。時速203キロという公式の蒸気機関車の世界速度記録を保持する

 

では、英国で特に好きな鉄道風景は?

 

「お気に入りの鉄道路線でいえばエクセター~プリマスの間にあるドーリッシュ近辺ですかね。ここは海と崖の間に遊歩道と線路がはさまれていて、素敵なロケーションです。夏の日に散歩しながら〝撮り鉄〟するのが、本当に気持ちが良かったです」

 

【英国鉄道に触れる④】英国の〝撮り鉄〟の様子は?

日本では昨今、マナーの問題などで〝撮り鉄〟の評判があまり芳しくないのだが、英国の〝撮り鉄〟事情についてたずねてみた。

 

「元々、英国の鉄道文化は『スポッティング』という、目撃した機関車の番号をメモ帳に記録する趣味が王道で、カメラなどが普及した現在でもこれを行う『スポッター』が数多くいます。撮り鉄も少なからずいますが、日本と比較して人口は圧倒的に少ないので、撮影地などでもめることもほとんどないですし、和気あいあいとした雰囲気で撮影しています。

英国の鉄道趣味人口は平均年齢が高く、若い世代が活発に活動している日本とは対照的です。英国での撮影マナーは英国紳士らしく非常によいです」

 

なるほど、鉄道好きにとってうらやましい環境のようである。撮り鉄も、要は英国紳士らしく、マナーをしっかり守るわけである。日本も見習いたいところだ。とはいえ、まったくトラブルはないのだろうか?

 

「唯一の例外が蒸気機関車の『フライング・スコッツマン』が運行する時でしょうか。鉄道ファンだけでなく一般市民の間でも非常に有名な機関車なためか、ひと目見ようと多くの人が駅、そして沿線に詰めかけます。この機関車の写真を撮影しようと、鉄道の敷地内に入り込むなどのトラブルも頻発します」

 

【英国鉄道に触れる⑤】もし英国で鉄道を撮影したい場合は?

↑旧国鉄色に復元されたHSTをヨーク駅で撮影する現地の鉄道ファンたち

 

今後、英国に旅した時に鉄道を撮影したいと考える方もおられるかもしれない。どのような注意が必要なのか、関根さんに聞いておこう。

 

「近年は対テロ対策で人々の警戒心も強くなっています。駅で写真撮影のためにうろうろしていると〝何をしようとしているのか〟という意図の確認、また注意される可能性があります。駅で撮影する場合は事前に駅係員に撮影の許可をお願いするのが良いかと思います。

ほとんどの場合には快くOKしてくれますが、万が一〝ダメです〟と拒否された場合には潔く諦めることも大事だと思います。

ただ、イベント列車などで鉄道ファンが大勢集まる場合などは、駅の係員も自前のスマホやタブレットで撮影する姿も見受けられますね」

 

制服姿で写真撮りをしていたら、日本ならすぐ問題視されてしまうだろう。英国では大目に見られているようで、そのあたりお国柄のようである。

 

「また沿線での撮影ですが、英国では必ずと言っていいほど鉄道の敷地が外部と柵で区切られています。もちろん、こうした場所では、中には絶対に入らないようにしたいものです」

 

【英国鉄道に触れる⑥】英国に導入された日本車両の評判は?

明治時代、鉄道発祥の国である英国から学ぶことによって日本の鉄道の歴史が始まった。長らくお手本だった英国の鉄道なのだが、今は日本製の車両が走る時代になっている。導入された日本車両は不具合が多いという評判も湧き上がったようだが、実際のところどうなのだろう。

↑イギリスで活躍する日立製のClass 800シリーズ。写真は同シリーズの中でもイングランド北部を中心に走っているClass 802

 

「最初のころはやはり初期不良が出てしまい、悪いところが目立ってしまったようです。特に日立製のClass 800シリーズに関しては英運輸省が自ら発注して税金が使用されたことによって、メディアや一般でも注目されていたことが、悪い評判に転じてしまったことがあったように思います。

また、鉄道ファンの間では過去40年間、英国の鉄道の顔として活躍していたHSTを置き換えるということもあって、受け入れがたい部分があったのでしょうね」

 

このあたり、日本でも鉄道ファンが持つ古い国鉄形車両への愛着にも似ているようだ。慣れ親しんできたものへの愛着は、どこの国も同じなようである。

 

「一般の利用者からすると設備も更新され、性能のおかげでダイヤも利用しやすくなって、便利に感じていると思います。座席が固いという意見は今でも耳にしますが……」

 

確かに、日本でも新しい電車は座席が固いというものもあるようだが、向こうの日本製車両も同じような感想を持たれているようだ。

 

【英国鉄道に触れる⑦】日本に住んで感じた日本の鉄道事情は?

英国の鉄道事情に関して詳しい関根さん。日本に初めて住んでみて、日本の鉄道をどのように感じたのだろう。「現在テレワークが主流で、ほとんど通勤で使用していなのですが」と言うものの……。

 

「行楽での利用のみの感想ですが、やはり時間に正確で快適なのを痛感しました。これは鉄道会社に勤める皆さんの努力と犠牲があってこそのものなので、それを忘れずにありがたく利用していきたいと思います」

 

日本に住んでいるとそれが当たり前のようになってしまっている〝定時運行〟。世界的に見れば、貴重なものなのかも知れない。時間どおり走る電車というのは、本当に素晴らしい日本の鉄道の〝宝〟といって良いのだろう。

 

最後に関根さんから一言、

 

「もしお時間があれば、ぜひ写真展にお越しいただき、英国鉄道の世界に触れていただければ幸いです」