【初DMVの旅⑨】バスモードへの変更はあっという間
鉄道モードからバスモードに変更される時はどのような様子なのだろうか。
こちらはいたってシンプルだ。駅が近づくと、いったん停車。そして「モードインターチェンジ」にゆっくりと近づき、入り口にある停車位置で車両を停止して、鉄輪を収めていく。この収める時間が約10秒、停止位置に止まって、モードチェンジ、さらに走り始めるまで約50秒で済んだ。
バスモードに変更した後は、タイヤでの走行となるため、レールに載ったかどうか、確認する作業は必要ないこともあり、運転士が外に出ることはない。このあと車両は停留所へ移動する。
バスモードから鉄道モードへ変更する時間よりも、鉄道モードからバスモードへ変更する時間の方が圧倒的に短くシンプルであることが良く分かった。
【初DMVの旅⑩】乗った人たちの声と地元の盛り上がり
期待を背負って導入された日本最初のDMVだが、乗車した人の感想や地元の盛り上がりはどうだったのだろう。まずは乗車した人の声から。長野県から鉄道を乗り継いで来たという男性。
「何度も乗ったからちょっと飽きたかな」となんとも贅沢な答え。聞くと前日のDMVが走り始めた日の午後に訪れ、すでに3回乗車したそう。「でも、新しい乗り物に乗車できたから満足です」とのことだった。
もう1人、徳島市からやってきたという女性にも話を聞いてみた。家族は車で移動し、当人のみDMVに乗車したのだという。「初めて乗ってみましたが、なかなか面白い乗り物ですよね」と楽しそうに話す。乗車した後は、先回りした家族にピックアップしてもらう予定だとか。ご主人や息子さんよりも先に乗ったのだという。〝鉄道愛〟を感じる女性だった。
東京からお遍路サイクリングで四国を回っているという30代の男性もいた。DMVが走り始めたというので、どのような乗り物なのか甲浦駅へ立ち寄ったのだという。モードチェンジをする様子をカメラに収め、満足した様子。「旅のいい思い出になりました」と笑顔で立ち去った。
受け入れる側の沿線はどのような状況だったのだろう。バスとして走る区間にある3か所の停留所には写真のような横断幕やのぼりが多く立てられて、「世界初のDMV」ということが盛んにPRされていた。
徳島県海陽町の「阿波海南文化村」や「道の駅宍喰温泉」、また高知県東洋町の「海の駅東洋」といった停留所には、おそろいのキャップと、ウインドブレーカーを着た地元の女性たちが乗客を出迎えていた。話を聞いてみると婦人会の方々とのこと。
「自分たちが出迎えても、あまり役立たないかもしれませんが、少しでも盛り上げることができたなら」ということだった。注目されることが少ないエリアだけに、世界初の自慢の乗り物が導入されて誇らしいという気持ちとともに、少しでもPRに協力したいという気持ちが地元に生まれているのだろう。こうした面でDMV導入は〝正解〟だったと言えそうだ。
訪れた日は走り始めたばかりの週末ということもあり、ほぼ満席で走っていた。「発車オーライネット」という予約システムも稼働していおり、ネットで事前予約した人が大半を占めていた。天気に恵まれたこともあり、乗客以外にも多くの人が訪れ、DMVの運行を見守る人も目立った。
【初DMVの旅⑪】DMVに実際に乗ってみて感じたこと
当日すぐに乗ろうと思ってもなかなか乗車できなかったDMVだったが、なんとか乗車できないか停留所にいた係の人や運転士に聞いてみた。すると、道の駅宍喰温泉発の〝列車〟で運良く1席が空いているという。
ということで乗車したのは緑の2号車・DMV932、ニックネームは「すだちの風」。指定された席は通路側、マイクロバスということもあり、やや席は狭い印象だ。天井部分には沿線の小学校の子どもたちが描いた絵が多く飾られている。
乗車したDMV車両は「道の駅宍喰温泉」を12時3分に出発。まずは国道55号を走る。左に見えるのは太平洋。青くまぶしい海だった。約5分で次の「海の駅東洋町」に到着した。ここでも地元の女性たちが、出迎え、見送りをしていた。同停留所を12時9分に発車する。
次の停留所は甲浦駅だ。ここからは鉄道路線を走る。停留所から専用スロープを上っていく。このスロープは鉄道車両ではとても登れないような急坂で、このあたりがDMVの強みだろう。鉄道施設用として造るスロープよりも、よりコンパクトに造ることができそうだ。
DMVはモードインターチェンジで停まり、バスモードから鉄道モードに変更される。さてどのような動きをするのだろう。変わるのを待っていると車内にアナウンスが流れた。
「鉄道モードにモードチェンジを行います」。続いて英語の解説が流れる。「モードチェンジ!」の声とともに、ソレソレ、セイヤ、セイヤの掛け声とお囃子が車内に流れる。お囃子で盛り上がったところで突然に「フィニッシュ!」のアナウンスが。最初の「モードチェンジ!」の声からここまで25秒だった。
ちなみに、モードチェンジの時に流れた徳島名物の阿波踊りふうのお囃子は、地元・徳島海陽町の高校の郷土芸能部が演奏した太鼓ばやしが使われている。なかなか軽妙で楽しい。
モードチェンジの様子を外から見た時には、車体の前方がかなり持ち上がった印象だったが、乗ってみると、傾きはさほど感じられなかった。その後、運転士が外に出て鉄の前後輪が線路の上に載っているかどうか、指さし確認をした後に走り出した。
出発はスムーズで、徐々にスピードを上げていく。線路のつなぎ目では2軸の鉄輪独特な〝たんたん〟という音がする。乗り心地は、道路上よりも良い。道路の上では、道路上の凹凸などを拾ってしまうこともあり、悪路にさしかかるとバス特有のややバウンドする印象があったが、鉄路上ではそうした揺れを感じさせない。
間もなくトンネルへ入った。暗いトンネル内では運転士の後ろにある映像モニターが良く見え、地元の観光案内などが流されていた。
甲浦駅を12時14分発、次の宍喰駅までは7分ほどだ。途中、ストップボタンが押される。DMVは路線バスのように次で降りたい人はストップボタンを押す仕組みになっている。とはいっても停留所や駅が少ないのですべて停車するのだが。
「間もなく宍喰、宍喰」のアナウンスが流れると、進行左側に旧車庫があり2020(令和2)年11月30日で運行終了したASA-301が停められているのが見える。
穴喰駅のホームはDMVの床の高さに合わせて、低いホームが従来のホームに続くように設けられていた。DMVの乗降口部分から踏み台が出てきて、乗り降りしやすい構造になっている。