乗り物
2016/9/25 19:00

特例が認められた路面電車――国道と地下の両方を走行する「京阪電気鉄道 大津線」

全国を走る路面電車の旅 第10回 京阪電気鉄道 

 

琵琶湖に面して広がる滋賀県大津市。大津港近くに京阪電気鉄道大津線の浜大津駅がある。大津線とは、2本の路線を総称した路線名。1本は浜大津駅〜御陵(みささぎ)駅間を走る京津(けいしん)線。もう1本は浜大津駅を通り石山寺駅〜坂本駅間を走る石山坂本(いしやまさかもと)線だ。

 

京阪電気鉄道といえば、関西を代表する大手私鉄。大津線は同社の他の路線とは異なり、併用軌道区間がある路面電車だ。なかでも、京津線は“乗り鉄”にはたまらない魅力を秘めている。とても路面電車とは思えない光景に出くわす。4両編成の電車が堂々と道の中心部を走っていく。

 

町中を威風堂々と走る姿は存在感抜群だ。その迫力に、慣れていないクルマは思わず道を譲り、または避け、やや離れ気味に電車の横を通り抜けていく。

↑国道161号(西近江路)を走る京津線。早朝こそクルマが少なめだが、日中は交通量も多い幹線道だ
↑国道161号(西近江路)を走る京津線。早朝こそクルマが少なめだが、日中は交通量も多い幹線道だ

 

 

【歴史】100年以上にわたり大津と京都を結ぶ老舗路線

京阪電気鉄道・大津線の2つの路線は、京阪電気鉄道とは異なる鉄道会社の路線として誕生した。京津線の開業は1912(大正元)年のこと。京津電気軌道が、現在の京津線のうち三条大橋〜札の辻(現・浜大津駅近くの電停)間に路線を敷いた。一方、石山坂本線は京津線が生まれた翌年に、大津電車軌道が大津(現・浜大津)〜膳所(現・膳所本町)間に電車を走らせた。

 

路線を運営する会社はその後、(旧)京阪電気鉄道→京阪神急行電鉄と移り変わるが、1949(昭和24)年に京阪電気鉄道が再発足、今に至っている。

 

さらに京津線は、1997(平成9)年に、それまで走っていた京津三条〜御陵間を廃止。御陵駅で京都市営地下鉄東西線と接続、地下鉄路線への乗り入れを開始した。現在は地下鉄の太秦天神川(うずまさてんじんがわ)駅まで乗り入れている。つまり、京津線の電車は併用軌道を走る路面電車なのだが、それと同時に地下鉄の電車でもある。こんな路面電車は全国を見ても唯一、この京津線だけだ。

↑浜大津駅を発車する石山坂本線の600形電車。浜大津駅付近で併用軌道区間を走る
↑浜大津駅を発車する石山坂本線の600形電車。浜大津駅付近で併用軌道区間を走る

 

 

【車両】石山坂本線は600形と700形、京津線は800系が走る

石山坂本線の電車は600形と700形。ともに石山坂本線のラインカラーに合わせてグリーンに塗られる。とはいえ、現在はラッピングされた電車も多く、伝統の緑色の電車に乗ることができるとは限らない。

 

一方の京津線は800系。この800系は1両の長さが16.5mある。一般的な路面電車は車両の長さが12mほどなので、かなり長い。さらに4両編成ともなると列車の長さが60mにもなる。路面電車の編成の規格は30m以下だ。この800系は地下鉄にも乗り入れる車両ということもあり、特例として認められた車両なのである。

↑800系の前後先頭車両はクロスシート。2列1列の配置で旅気分が楽しめる
↑800系の前後先頭車両はクロスシート。2列1列の配置で旅気分が楽しめる

 

さらに、大谷〜上栄町間には61パーミル(1000m走るうちに61m登るということ)という山岳鉄道なみの急勾配がある。加えて最小曲線半径40mというカーブもある。併用軌道区間も走り、急勾配を上り下り、急カーブも曲がる……。京阪800系は実に優れた車両なのである。

↑京津線の急カーブ区間ではスプリンクラーが作動。電車通過時の車輪が出すきしみ音を緩和する
↑京津線の急カーブ区間ではスプリンクラーが作動。電車通過時の車輪が出すきしみ音を緩和する

 

 

【沿線風景】国道1号沿いを走った後、大津市内の併用軌道区間に入る

京都市営地下鉄・東西線からの電車を乗ると、そのまま御陵駅から京津線へ。京阪山科駅の手前から電車は外を走る。住宅街を過ぎ電車は山あいへ。平行して走る道は国道1号・東海道だ。急な坂を上り逢坂山トンネルを越えると、大津市街へ。下り、そしてカーブ区間が続き、車窓の風景が楽しめる区間だ。

 

上栄町を過ぎると、いよいよ国道161号の併用軌道区間へ入る。クルマが多い幹線道だけに、さすがに電車もスピードをゆるめ、道路信号に合わせて停車、出発を繰り返す。そして、坂道を下りきると間もなく浜大津駅。駅へは90度近いカーブを描き入線していく。このあたりの急カーブも路面電車ならではのものだ。

 

浜大津駅では石山坂本線との乗り換えもスムーズ。石山坂本線は大津市内を走る生活路線で、併用軌道期間は浜大津駅近くの一部のみ。ほぼ専用軌道の鉄道線を走る。

↑石山坂本線の700形。浜大津駅を出た電車は民家のすぐ目の前を縫って坂本方面へ向かう
↑石山坂本線の700形。浜大津駅を出た電車は民家のすぐ目の前を縫って坂本方面へ向かう

 

京阪石山駅から別所駅にかけては密集する大津の古い街並みを縫うように走り、石山寺方面では瀬田川畔を、坂本方面へは琵琶湖を遠望しなら郊外を行く。近年では様々なラッピングを施した電車が走り、華やかだが、オーソドックスな京阪色の車両も合間を縫って走ってきて楽しめる。石山坂本線では、ぜひ終点の坂本駅まで行ってみたい。

 

坂本は延暦寺の門前町で、町家を取り囲む石畳が見事だ。町並みは重要伝統的建造物群に指定されている。石で造られた掘りには沢ガニが生息、街歩きをしているだけで癒される。時間に余裕があれば、さらに足を伸ばして比叡山鉄道(坂本ケーブル)に乗って比叡山を目指したい(坂本ケーブル駅へは京阪・坂本駅から徒歩約15分)。

↑比叡山延暦寺の門前町・坂本。今も自然石を用いた石垣で囲まれた里坊が多い
↑比叡山延暦寺の門前町・坂本。今も自然石を用いた石垣で囲まれた里坊が多い

 

↑比叡山延暦寺へは、麓の坂本ケーブル駅から比叡山鉄道(坂本ケーブルカー)の利用が便利だ。
↑比叡山延暦寺へは、麓の坂本ケーブル駅から比叡山鉄道(坂本ケーブルカー)の利用が便利だ。

 

【TRAIN DATA】

路線名:京阪電気鉄道大津線

運行事業体:京阪電気鉄道

営業距離:21.6km

軌間:1435mm

料金:170円〜320円(同社路線内利用の場合)

開業年:1912(大正元)年

*現路線のうち京津電気軌道が三条大橋〜札の辻(現・浜大津駅近くの電停)間を開業