トヨタは2021年12月、東京・お台場で合計16モデルものBEV(電気自動車)を一気に公開して大きな注目を浴びました。それまで“BEVには消極的”と言われていたトヨタがここで反転攻勢に転じたのです。bZ4Xはそんな中で、まさにトヨタの歴史にも残るエポックメイキングカーとして登場しました。
ただ、発売を発表して間もなく、ハブボルトの不具合によって、リコールと出荷停止という誰もが予想していなかった事態に陥ってしまいました。今のところ、販売再開の見通しは立っておらず、発表したばかりの16代目クラウンが販売延期となったのも同じハブを使っていることではないかと言われています。
しかし、bZ4Xを公道試乗すると、初のBEVとは思えない高い完成度にはビックリ!トヨタの電動技術がハイレベルな領域にあることを実感させられたのです。今回はそんなbZ4Xの試乗レポートをお届けしたいと思います。
【今回紹介するクルマ】
トヨタ/bZ4X
※試乗車:Z(4WD)
KINTO月額利用料合計:869万7480円(税込)※CEV補助金飲み適用の場合、申込金77万円は含まれておりません
安定したデザインと広い車内をもたらしたロングホイールベース
試乗したルートは、軽井沢から東京都内までの約200kmの道のり。一般道と高速道を交えて走行し、途中、充電スタンドでの急速充電も行い、その際の使い勝手も検証しました。bZ4Xはラインナップを「Z」のワングレードとしており、今回試乗したのはその4WDです。なお、bZ4Xはトヨタのサブスク「KINTO」での提供のみとなっています。
bZ4Xのデザインテイストは最近のトヨタ車に共通するものですが、それでも冷却のための空気取り入れが必要ないBEVらしく、フロントグリルの高さを最小限にとどめるなど、独自の雰囲気を醸し出しています。ボディ寸法は全長4690mm×全幅1860mm×全高1650mmで、ホイールベースは2850mm。トヨタのSUVである「RAV4」よりもかなり大きいサイズとなりました。
特にホイールベースを長くしてタイヤを可能な限り四隅に配置したデザインは、接地性・走破性の高さを表現しつつもスタイリッシュなプロポーションを表現。これがゆったりとした安定感のあるデザインも生み出したと言えるでしょう。
パワートレーン系は、FWDモデルがフロントに150kWの出力を誇るモーターを搭載するのに対し、4WDモデルはフロント/リア共に80kWのツインモーターを搭載します。搭載したバッテリー(リチウムイオン)は71.4kW/hとし、航続距離はWLTCモードでFWDが500km前後、4WDが460km前後としています。特にこの駆動用バッテリーについては10年後も90%の電池容量維持率を目指したロングライフ設計となっているのも大きな特徴です。
低いダッシュボードとパノラマルーフが開放的な空間を生み出す
車内に入ると、全体に低くしたダッシュボードと、大開口部を持つパノラマルーフが開放的な空間をもたらしていることを実感できます。メーターは視認性を重視するために、ステアリングの上側越しの奥にレイアウトする「トップマウントメーター」をトヨタで初めて採用。これは運転中の視線移動を可能な限り減らせる効果があります。
一方で、センターコンソールは中央部に左右を分けるコンソールが配置された一般的なデザインとなっています。最上段には大型ディスプレイを配置し、そこからエアコンの操作パネル、ベンチレーターの吹き出し口、シフトノブがレイアウトされます。ダッシュボードには落ち着いた室内を演出するようにファブリック貼りとなっていました。
室内はとにかく広い! の一言です。特に後席は前席とのレッグスペースがゆったりとしていて、脚を組んで乗車するのも楽々。若干、フロアが高めにはなっており、後席ヒップポイントとの段差が少なめであるのが気になりますが、レッグスペースの余裕がこれを充分カバーしてくれています。ラゲッジスペースもフロアが高めであることはあっても、かさばるものも問題なく収納できる十分な容量がありました。
ストレスなくスーッと加速するジェントルかつ強力な加速
いよいよ試乗のスタートです。起動スイッチを押してシステムを立ち上げると、メーター上に「READY」のマークが表れ走行可能となりました。ここで戸惑ったのがダイヤル式のシフトノブです。ただ、それは最初だけでした。「P」から「D」に切り替えるときは、ブレーキを踏んで右回し、「R」にするときはその逆、左に回転させます。「P」にするときはダイヤル上にある「P」を押せばOK。とてもシンプルで使い始めるとすぐに慣れました。
走り始めるととてもスムーズかつ静かであることが伝わってきました。よくBEVではモーターによる低速トルクの強さが強調されますが、bZ4Xはそういった感覚とは異なり、ストレスなくスーッと速度を上げていく感じです。しかもBEVらしい加速が欲しいときはアクセルを強めに踏めば強大なトルクが一気に放たれ、鋭い加速フィールとなって現れます。ただ、これもひたすらジェントルな中で行われ、そこが他のBEVとの大きな違いと言えるでしょう。
4WDモデルには、スバルが開発した「Xモード」と言われるドライビングモードが装備されていました。これは主に雪道やぬかるんだ道でのコンディションに適合させたもので、時速40km/h以下でしか作動しません。一般道での利用というより、オフロードを走行するときに使うべきモードと思って良いと思います。
ガソリン車から乗り換えても違和感なく使える「回生ブースト」
ハンドリング操作に対するクルマの動きはとてもスムーズに感じました。低重心と高剛性のシャーシとも相まって、意のままにコントロールできたのです。しかも快適。フロアの剛性が高いこともあって、路面からの遮音もしっかりとしていて、ざらついたコンクリート路面を走ってもその感じがほとんど伝わってこないです。この快適度はBEVの中でもトップクラスにあり、それはレクサスの高級セダンをも凌駕していると言っても過言ではないでしょう。
ブレーキング時もどんなタイミングで踏んでも、安定して確実に止まる感じで安心感がありました。万一の急減速に対してもスムーズに反応するし、「回生ブースト」と呼ばれる回生ブレーキも適度な減速Gで、これならガソリン車から乗り換えても違和感はないのではないかと思います。
ただ、ペダル一つでコントロールしようとすると物足りなさを感じるかもしれません。「回生ブースト」をONしても効果はそれほど高いものではなかったからです。スバル「ソルテラ」に装備されていて、より細かく回生Gを制御できるパドルシフトがないのも残念に思いましたね。
とはいえ、bZ4XはBEVとしてもきわめて高い完成度を発揮しているのは間違いありません。それでいてデザイン性や使い勝手においてもガソリン車から乗り換えても違和感なく使えるのが、いかにもトヨタらしい造り込みをしていると言えます。
その昔、トヨタはクルマ作りにおいて決して外さない完成度の高さを誇ってきましたが、このBEVの第一弾となるbZ4Xにもその精神は脈々と引き継がれていることが実感できます。トヨタのBEV戦略の先陣として、その完成度の高さをまずは評価したいと思います。
SPEC【Z(4WD)】●全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm●車両重量:2010kg●モーター:フロント・リヤ交流同期電動機●最大出力:フロント・リヤ80+80kW/109+109PS●最大トルク:フロント・リヤ169+169N・m/17.2+17.2kgf・m●WLTCモード一充電走行距離:540km[487km]●WLTCモード交流電力量消費率:134Wh/km[148Wh/km]
※[]内は235/50R20タイヤ&20×7.5Jアルミホイールを装着した場合の数値
【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】