国を挙げて電気自動車(EV)を推進する中国。その中国を代表するEVメーカーがBYDです。元々はバッテリー専業メーカーでしたが、その電池事業で培ったノウハウを活かして2008年からは量産型プラグインハイブリッド車を発売。その後、大型バスやタクシーなどの商用車両でもEVを発売し、今や世界屈指のEVメーカーに成長しました。
そして今回、ついに3台の乗用車EV「ATTO 3(アットスリー)」、「SEAL(シール)」、「DOLPHIN(ドルフィン)」を日本国内で発売すると発表。第一弾となるのが2023年1月に投入予定のe-SUV、ATTO 3です。すでに豪州、シンガポールでは発表済みで、それに続いて日本で発売が決まりました。今回は一足早く、すでに発表済みの豪州仕様に試乗。そのレポートをお届けします。
2025年までに、日本国内に100店舗のディーラー網を予定
ATTO 3が中国でデビューしたのは2022年2月と最近のことです。EV専用プラットフォーム「e-Platform3.0」を独自開発し、バッテリーには安全で耐久性が高いとされるリン酸鉄バッテリーを採用。高い安全性を保ちながら、フラットな床面がもたらす広い車内空間と、440Lもの荷室容量を実現しています。BYDジャパンによれば、バッテリー容量は58.56kWhで、航続距離は485km (WLTC 値)を達成。日本仕様ではもちろん急速充電「CHAdeMO(チャデモ)」にも対応するとのことです。
驚いたのが日本における販売網です。BYDジャパンは、なんと2025年までに100店舗を日本全国に展開するというのです。先日、日本への再参入を果たした韓国のヒョンデは、ネット販売を基本としましたが、それとは真逆の戦略を取ったのです。一方で、価格は仕様が決まっていないことから未定とのことでした。ただ、BYDジャパンでは「様々なボディタイプのEVを手に届きやすい価格で展開する」方針とのことで、その価格設定には大いに期待して待ちたいところです。
さて、実車を前にすると、写真で見た印象よりも斬新さにあふれているのがわかります。サイドビューは波打つような膨らみを持たせ、それが面で抑揚のある変化を伝えてくるデザインです。このプレスラインの巧みさに感心していると、この金型を製作しているのは2020年にBYDが傘下に収めた群馬県にあるタテバヤシモールディングということでした。つまり、このプレスラインの実現には“メイド・イン・ジャパン”の技術力が背景にあったわけです。
遊び心にあふれた車内に心がつい躍ってしまいそうになる
車内に入ると今まで見てきたクルマとは違う斬新さにあふれていました。エアコン吹き出し口まわりやシフトレバーなど、いたるところにトレーニング器具のようなデザインが見られ、斬新かつユニークな造形。コンソール上のシフトノブはダンベルをモチーフにしたもので、ベンチレーターのリング上のデザインもフィットネスジムの雰囲気をそのまま再現しているかのようです。
個人的に惹かれたのはオーディオ用スピーカーでした。ドア上部にはドアノブを一体化したミッドレンジスピーカーを組み込み、ドア下部のウーファーユニットから収納スペースにはベースの弦をイメージしたゴム製ワイヤーも張られていたのです。しかも、この弦を弾くと、なんと“ボロロン”と音が鳴るではありませんか。この遊び心いっぱいの雰囲気にはつい誰もが心躍ってしまうはずです。
そんな思いを抱きながら公道へと走らせました。アクセルを踏み込むと、電動車らしい力強い加速で車体を軽々とスタートさせました。しかも、その加速力はどこまでもエンドレスでつながっていくようで、急激なトルクの立ち上がりもなく自然なフィールが好印象です。
道路の段差もキレイにいなし、ショックをしっかりと吸収しているのがわかります。これはe-Platform3.0による高い剛性が貢献しているものと推察され、速度を上げていってもフラットな乗り心地が変わることはありませんでした。特にEVらしい静粛性は素晴らしく、明らかにこの高剛性がメリットをもたらしているのだと実感。
全体に小さめなインターフェースは要改善
ステアリングはやや緩慢な印象でしたが、それも少し走っているうちに慣れてしまう程度のものです。操舵感は全体に軽めで、ボディの見切りの良さとも相まって、駐車を含む市街地での運転は楽に行えるのではないかと思いました。一方で、EVならではの回生ブレーキも備えていますが、レベルを強弱で切り替えても効果の違いはあまり感じられず。ドライブモードもエコ、ノーマル、スポーツと3種類ありましたが、これもスポーツで若干ペダルの反応が良くなったか?と思う程度でした。
そして、全体として小さめなものが多いインターフェースも気になるところ。速度やバッテリー状態を示すメーターはステアリングの奥に見えるレイアウトで、しかもセンターにある12.8インチのディスプレイに比べるとかなりコンパクトです。操作スイッチの位置もわかりにくく、運転中に視認しにくさを感じさせました。また、センターにあるディスプレイは、タテに回転する機構が付いていましたが、これもほぼタブレットが鎮座している印象で、決して見やすいとはいえないものでした。
とはいえ、EVとしての仕上がりの良さは、「さすが手慣れているな」と実感できるものでした。立ち上がりから力強い走りと静粛性は、EVへの期待を充分に満足させるものです。デザインも洗練されていて、一昔前の中国車のイメージはまったくないと断言していいでしょう。今回はインフォテイメント系のローカライズが間に合っていなかったとのことですが、こうした部分も含め、日本仕様として登場する日を期待したいと思います。
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