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2022/9/1 11:30

人気のMPV市場に中韓勢が挑む。インドネシアの最新自動車事情

インドネシア最大のモーターショー「ガイキンド・インドネシア国際オートショー2022(GIIAS 2022)」が8月11日より21日まで、ジャカルタ市郊外のインドネシア・コンベンションセンター(ICE)で開催されました。

 

これまでインドネシアで圧倒的シェアを誇ってきた日本車。その中心が3列シートのMPV(マルチ・パーパス・ビークル)です。そのMPVを通して感じたインドネシアの自動車市場をレポートします。

↑GIIAS 2022は、ジャカルタ郊外のICE(Indonesia Convention Exhibition)で開催された

 

 

中国「ウーリン」、韓国「ヒョンデ」が相次いで新型MPVを投入

インドネシアは東南アジア屈指の人口2.7億人を抱え、急速な経済成長と共に将来への期待はきわめて大きい国の一つです。そうした状況に日本の自動車メーカーはいち早く着目し、工場建設などの投資も積極的に行ってきました。その結果、インドネシアにおける日本車のシェアは9割を大きく超え、インドネシアは世界で最も多くの日本車が走る国となったのです。

↑GIIAS 2022の会場内風景。プレスデーの8月11日撮影。最も大きなスペースはトヨタだったが、ヒュンダイもそれに匹敵するスペースを確保していた

 

しかし、その状況はここ数年、大きく変化し始めています。中国と韓国勢による進出が影響を及ぼし、ジリジリと日本車のシェアが下がり始めているのです。数年前まで日本車のシェアは95%を超えていましたが、昨年は94%台に下がっています。

 

特にその存在が目立っているのが中国車で、中でもウーリン(五菱)は2021年で前年比3.9倍もの販売実績を上げ、シェアを単独で2.9%にまで高めています。これは3列シートのMPVをリーズナブルな価格で発売したことがインドネシアで受け入れられたとみられています。

↑多彩な車種展開で多くの来場者を集めていたウーリンのブース

 

 

日本勢は先行して新型車を相次いで投入して中韓勢を迎え撃つ

そうした流れに今回のGIIAS 2022では、新たな動きが加わりました。韓国ヒュンダイ(現地読み/日本では「ヒョンデ」)がこのMPV市場に新型車「スターゲイザー」を投入してきたのです。しかも、すべての部品を輸入するノックダウン生産ではなく、現地部品を調達して現地工場で生産する方法に変更し、“インドネシア国産車”としてアセアン各国に輸出する計画を示したのです。

↑ブース内を横断する超巨大なスクリーンで圧倒的存在感を見せたヒュンダイのブース

 

もちろん、迎え撃つ日本メーカーも黙ってはいません。両社合わせて5割を超えるシェアを握るトヨタとダイハツは、昨年11月、FF(前輪駆動)化したMPVとしてトヨタ「アバンザ」/ダイハツ「セニア」を発表。三菱も久しぶりの大ヒットとなった「エクスパンダー」をマイナーチェンジするなど、迎撃態勢はすっかり整ったようにも見えます。

↑マイナーチェンジした「エクスパンダー」「エクスパンダー クロス」のプレスカンファレンス

 

しかし、ヒュンダイの動きはインドネシア国内では好意的に見られているのは確かなようで、インドネシアの自動車事情通によれば「今までとは勢いがまるで違います。中国車を見ても以前と比べて品質は格段に向上していますし、何よりカッコ良いクルマに憧れるインドネシアの人たちにとって、スターゲイザーはかなり脅威になるでしょう」と話していました。

 

1990年代に一度MPV市場に参入して撤退した苦い経験を持つヒュンダイにとって、「今度こそ!」という思いが強いのは間違いないでしょう。インドネシアにおけるMPVは中国勢や日本勢を巻き込み、今後しばらくは熾烈な戦いが繰り広げられそうです。

 

 

ヒュンダイ「スターゲイザー」

ヒュンダイのスターゲイザーは、「スリーク・ワン・ボックス」と名付けられたワンモーションフォルムのスタイリッシュなデザインがポイント。ボディサイズはインドネシアで人気が高い三菱エクスパンダーとほぼ拮抗します。特に横一文字のデイライトを配したワイド感たっぷりのフロントフェイスは近未来感たっぷりのデザインで、MPVとしての存在感をさらに高めていました。

↑横一文字のデイライトを配したワイド感たっぷりのフロントフェイスは近未来を感じさせるデザインとなった

 

パワートレインは1.5L直列4気筒ガソリンエンジンを搭載し、最高出力115PS/6300rpm、最大トルク143.8Nm/4500rpmを発揮。トランスミッションは無段変速式CVTの「IVT」と6速MTが選択できます。

↑左右にまたがるLEDと個性的なリアコンビランプの組み合わせで、“H”をイメージ

 

インテリアは使い勝手の良さを感じさせる水平基調のインストルメントパネルで、インフォテイメント系としてはコネクティッドサービス「ヒョンデ・ブルーリンク」に対応した8インチディスプレイオーディオを設定。これを使うことで、スマートフォンからドアロックの解錠・施錠、エンジンスタート/ストップなどが可能となります。

↑二つの大型液晶ディスプレイを中心に斬新なデザインで構成されるインテリア

 

ウーリン(上海通用五菱汽車)「コンフェロS」

コンフェロSは2017年のGIIASで発表された3列シートのMPVで、ウーリンがインドネシア国内でシェアを伸ばす原動力となりました。全長4530×全幅1691×全高1730mmという手頃なサイズのボディで、2720mmのホイールベースによって3列シートを成立させています。

↑インドネシアでウーリンのシェアを2.9%まで拡大する原動力となったコンフェロS

 

搭載エンジンは直列4気筒1.5LのデュアルVVT付DOHCで、最大出力107PS/最大トルク142Nmの動力性能を発生。トランスミッションは5速MTと組み合わせます。注目は駆動方式がFR方式を採用し、車体をフレームボディとしたことです。これは商用車ベースで設計されていることが背景にあります

↑駆動方式がFRということもあり、車高は高めとなっているコンフェロS

 

インフォテイメントシステムはBluetoothやミラーリンク機能に対応した8インチディスプレイを備え、サンルーフ、リアカメラ、電動パーキングブレーキを備えるなど、仕様的に不満が出ないよう設計されています。これが手頃な価格で買えることが人気を呼ぶ大きな理由になっているようです。

↑コンフェロSのインテリア。オーソドックスながら使いやすい環境を実現した

 

 

三菱「エクスパンダー クロス」

エクスパンダーは2017年のGIIASで公開された3列シートのMPV。「エクスパンダー クロス」は、その最上位モデルとして2019年にデビューしました。今回のマイナーチェンジでは車体前後を一新してSUVらしい力強さをアピール。さらに電動パーキングブレーキを標準装備し、前左右輪の制動力を調整して旋回性を高めるアクティブ・ヨー・コントロール(AYC)などの採用で走行時の安心感や乗り心地の向上をもたらしました。

↑車体前後のデザインを一新してSUVらしい力強さをアピールしたエクスパンダー クロス

 

リア周りはテールゲートをより立体的な形状とし、LED化した水平基調のリアコンビランプによってワイドで安定感のあるデザインとしています。アルミホイールには2トーン切削光輝仕上げの17インチを採用し、前後のスキッドプレートおよびドアガーニッシュのグレー塗装とのコーディネートと相まって、立体感あるスポーティさの表現に貢献しています。

↑より上質なイメージに変貌した新型エクスパンダー クロス

 

インテリアでは、水平基調の「ホリゾンタルアクシス」コンセプトのインストルメントパネルに、大径の4本スポークステアリングを新採用。メーターを8インチのカラー液晶として視認性の向上を図り、ステアリングホイールの操作スイッチから平均燃費や瞬間燃費などの運転情報や、AYCの作動状態などをメーター内で確認できるとのことです。

↑ステアリングから多彩なコントロールを可能西、電動パーキングブレーキも新採用

 

 

トヨタ「アバンザ」/ダイハツ「セニア」

「アバンザ」と「セニア」は、トヨタ自動車とダイハツ工業が共同開発した7人乗り小型ミニバンです。インドネシアで生産が行われてきた3列シートのMPVで、2021年11月に3代目が発表されました。インドネシアにおけるDNGA採用の第2弾に位置付けられ、アバンザにとって歴代初のFFとなったのも大きなトピックです。トヨタ・アバンザは、インドネシアで大ヒットを遂げている三菱・エクスパンダーを意識した造りとなっており、フロントにはシャープなLEDヘッドライトと大きく開口されたグリルを採用することで存在感をアピール。

↑昨年11月、歴代初のFF化を実現した3代目として登場したトヨタ・アバンザ

 

↑ダイハツが参考出品した「セニア・スポーツ」。トヨタ・アバンザと兄弟車の関係にある

 

リアはスクエアな形状にリアコンビランプとリフレクターを隅に配置することで、ワイド感あふれるデザインを印象付けています。

↑搭載エンジンは先代に引き続き、1.3Lと1.5Lガソリンをラインナップした

 

ボディサイズは全長4395mm×全幅1730mm×全高1665mmと先代よりも少し大きく、それに伴って室内長は160mm拡大することとなりました。パワートレインは1.3L直列4気筒ガソリンと1.5L直列4気筒ガソリンをラインナップ。トランスミッションには5MTに加えて「D-CVT」を組み合わせます。

↑実用性を重視したインテリア。トランスミッションは5MT以外にD-CVTも追加した

 

 

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