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2022/10/8 20:45

ヴァレオ発、「シトロエン・アミ」のチューンナップ版に試乗したら想像以上に楽しかった!

フランスの自動車部品サプライヤー「Valeo(ヴァレオ)」が、48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載した電動小型モビリティの試作車『48Vライト eシティーカー』を開発。この度、この試作車に試乗する機会を得ました。その試乗レポートをお届けします。

 

最高速度は100km/h! その実力はベース車を遙かに超える

ヴァレオが48Vライト eシティーカーを日本初公開したのは、今年5月に開催された「人とくるまのテクノロジー展2022」でのことでした。ベースとなっているのは、フランスで量産されているステランティスの低速モビリティ「シトロエン・アミ」で、そこに搭載されていた駆動システムに変更を加えたものとなっています。

 

この駆動システムに採用されているのは、48VのBSG(ベルト駆動式スターター&発電機)をベースに開発されたもの。そのため、電気自動車(EV)のスタイルを採るとはいえ、本格的な走りを発揮するのではなく、あくまで最高速度を45km/hに抑えて、14歳以上であれば免許なしでも運転できる欧州の「L6/L7」カテゴリーに収まる車両向けに開発されたと言えます。

↑『48Vライト eシティーカー』に搭載されたヴァレオ製「48V eAccess」

 

しかし、シトロエン・アミに搭載されたeAccessの能力は、まだ十分に発揮されたものではありませんでした。ヴァレオはこのシステムをそのままチューンナップすることで、最高出力をベース車の6kWから10.5kWに引き上げ、最高速度は45km/hから100km/hへと大幅にアップさせることに成功したのです。この日は、このパワーを体験できる状態での試乗となりました。

 

一方、ボディそのものはシトロエン・アミそのまま。全長2410×全幅1390×全高1520mmで、前後左右のボディパネルはまったく同じ部品を使ったシンメトリーデザインを採用して車体の低コスト化を実現。その割にタイヤ径は155/65R14と大きめで、ここから受ける印象はどこか玩具のようでもあります。それがアクセルを踏み込むと一変! 想像を超える力強い走りを見せてくれたのです。

↑ボディはステランティスの低速モビリティ「シトロエン・アミ」そのもの。前後左右共通のデザインがユニーク。ちなみにホワイト塗装の方が前

 

↑48Vライト eシティーカーの運転席周り。動作状態を把握するためのスマートフォンが追加されている。それ以外の仕様はオリジナルのままだ

 

軽量なボディゆえにパワーアシストがなくても操作は楽々

最高出力が10.5kWといえば14馬力程度に相当します。これが仮にガソリンエンジンだったとしたら、トルクが出るまでに一定回転数までの上昇が必要となります。しかし、そこは電動車、低速域から力強いパワーを発揮。このパワー感はノンターボの軽自動車をはるかに超えていると感じたほどでした。しかもまったくパワーアシストがない状態で走るものだから、路面からの反応もリニアに伝わってきます。これがまた走りに面白さを加えてくれたのです。

↑想像以上に楽しい走りを見せてくれた48Vライト eシティーカー

 

パワーアシストがない? これだけを聞けば市街地では使いにくそうにも思えますが、駆動ユニットがeAccessだけなので車体はきわめて軽く、それだけにアシストなしで操舵しても特に負担が大きくなることはないのです。ブレーキに関しても市街地走行レベルなら特に問題はないレベルにあったと言えるでしょう。また、遮音が一切ないことからロードノイズはダイレクトに入ってきますが、電動車であるがゆえにエンジン音はなし。電子音が若干入ってきますが、それほど気になるものではありませんでした。

 

ただ、空調がデフロスタぐらいしか備わっていないのは、日本で扱うにはかなり厳しそうです。日本の夏は高温多湿で、冬になれば気温が低くなってきます。夏は窓を開けて走行すれば何とかなるかもしれませんが、冬はおそらくしんしんと冷えてくると思います。しかも窓を閉めきっていれば窓は曇ってきます。だからこそデフロスタが付いているのですが、仮にこの車両が販売するとなれば空調ぐらいは欲しいところでしょう。

 

とはいえ、このクルマが目指すのはそこではありません。あくまで48Vシステムを採用することで超小型モビリティとしての可能性を模索したモデルなのです。

↑48V eAccessは、48VのBSG(ベルト駆動式スターター&発電機)をベースに開発された

 

48Vシステムなら、軽トラのEV化にもメリット大

この日はもう一台の実験車両にも試乗することができました。それはスズキの軽トラック「キャリィ」をベースに、群馬大学「次世代モビリティ社会実装研究センター(CRANTS)」とヴァレオの日本チームがコンバージョンEVとして共同制作した『EV軽トラック』です。こちらはヴァレオの48V電動アクスル「48V eDrive」を、前後の車軸上に1機ずつ配置した4WDとなっており、それぞれの最高出力は15kW(20PS相当)となっています。

↑軽トラのコンバージョンEV『EV軽トラック』(左)と『48Vライト eシティーカー』(右)

 

この「48V eDrive」はすでに48Vマイルドハイブリッドで採用されたもので、ヴァレオによればシステムとしての信頼性も高く、量産にも向いているとしています。また、ベース車の電動パワーステアリングをそのまま踏襲し、ブレーキのサーボアシストも搭載するなど、こちらは市販を意識した仕様となっているのも注目点です。

↑EV軽トラックのインテリア。ヴァレオカラーで統一されていた

 

試乗してみると意外にも走行音はきわめて静か。加速感は48Vライト eシティーカー以上の力強さがあり、この走りを踏まえ、ヴァレオでは軽トラックの電動化を提案できることが確認できたとしています。特に軽トラックであれば航続距離の長さを気にする必要もないわけで、それでいて駆動システムを一体化できることで軽量化や低価格化も期待できることになります。そうした面で需要は確実にあるとみているわけです。

↑背後から押し出されるような4WDならではの力強い走りを見せたEV軽トラック

 

一時は一世を風靡した48Vマイルドハイブリッドは、完全EVの流れを受けてすっかり影を潜めていた感がありました。ところがどっこい、今回の試乗を通して低速限定のより身近なモビリティとしての用途があることをヴァレオは改めて世に示したというわけです。日本でも超小型モビリティとして導入されれば、電動車の普及により拍車がかかるのではないでしょうか。

↑EV軽トラックは、48Vシステムで作動するラストワンマイルを意識して開発された

 

 

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