乗り物
2020/4/17 17:00

自動運転の電動車椅子「ラクロ」に試乗。パーソナルモビリティに変化は起こるか?

自動運転への関心が高まる中、ロボットベンチャーのZMPはラストワンマイルでの利用を想定した一人乗りのロボ製品「RakuRo(ラクロ)」を2020年5月より発売します。

↑2020年1月に東京・丸の内でラストワンマイルの実証実験が行われた時の「Robocar Walk」(その後「RakuRo(ラクロ)」に名称変更)

 

これまでラクロは介護福祉施設・観光地・商業施設・空港などで実証実験が繰り返されてきましたが、千葉市にある「千葉市動物公園」でもその実験が展開されることに。ただ、本来なら4月上旬に試乗体験会が開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響を鑑み急遽中止となってしまいました。その代わりとして、筆者はZMP本社がある東京・小石川付近でラクロを試乗する機会に恵まれました。ここではその体験レポートと千葉市動物公園で導入が予定されるラクロの概要もお伝えします。

 

試乗コースは満開の桜の下を約1キロにわたって走行

ラクロは、走行中に、映像と音声で周囲とコミュニケーションを取りながら自動走行する一人乗り用ロボットです。ZMPによれば、製品名に含まれる「ラク」は「楽」、「ロ」はロボットの頭文字。つまり自動走行により移動を楽にするロボットのことを「ラクロ」として表記しているのです。

↑5月に発売されるラクロ。一人乗り用の完全自動運転ロボットです

 

開発コンセプトは、本人も付き添う人も車椅子やシニアカーの運転から解放され、移動中の景色や周囲と会話を楽しみながら共に走行できることを追求たそうです。走行中は自動運転車らしく、3D-LiDARやステレオカメラなどのセンサーを使って周囲の状況を把握し、障害物を回避しながら目的地まで自動走行します。

 

車両としてのカテゴリーは電動車椅子(シニアカー)に該当するそうで、免許も要らず時速6km/h以下で公道でも走行できます。ラクロの正面には“眼”に相当する液晶ディスプレイが備えられ、ここで笑顔やウィンクなどを表現。さらに音声ですれ違う人に「こんにちは!」や、「道をお譲り下さい」といった挨拶も行って愛想をふりまきます。

↑ラクロを自動運転走行させるには、あらかじめスマホなどの専用アプリで設定するだけ

 

試乗は、小石川植物園にほど近い播磨坂さくら並木を約1キロほど走行することで行われました。当日は少しキツメの北風が吹いていましたが、天気は真っ青な空が広がる快晴。満開となった桜並木の下を気持ち良く走行することができました。

↑この日の試乗は満開の桜の下、東京・小石川植物園にほど近い播磨坂さくら並木で行われました

 

ラクロには小さなトビラが左右に備えられていて、乗車時にはそれを開いて着座します。ただ、シートは左右に回転させることができ、これを活用すれば車椅子からの乗り換えにも対応できるそうです。シートはかなり大きめで、身体をしっかり支える高いホールド性で想像以上の座り心地です。

↑通常は小さなトビラを開いて乗車するが、写真のようにシートを回転させれば車椅子からも可能

 

操作系のスイッチ類は基本的に液晶ディスプレイがあるだけ。販売される車両には緊急停止用のハードスイッチが設けられます。公道を走る自動車の完全自動運転が実現するのはまだ先のことになりそうですが、このカテゴリーでは一足早く自動運転走行が現実のものとなっていると言っていいでしょう。

↑センシングは3D-LiDARやステレオカメラなどを利用。右上の「ストップ」ボタンで任意停止ができます

 

すれ違う人にもスムーズに対応し、クルマが横切る路地でも不安なし

ディスプレイ上に表示されている「スタート」ボタンを押すと、一瞬のラグを置いた後、ラクロはゆっくりと動き出しました。ZMPによれば、スタート時は必ず安全確認をしているからだそうです。ZMP本社から歩道に出たラクロはあらかじめ設定したルートに従い、歩道上をスムーズに走行。速度は人が歩くのとほぼ同じぐらいで、徒歩で同行するZMPのスタッフとも会話を楽しみながら乗車することができました。

↑スマホからルートが転送されたらディスプレイ上の「スタート」ボタンを押すだけ

 

歩道を走行するため、走行中は多くの人とすれ違う上に、路地とは何度も交差します。こうした状況にもラクロはスムーズに対応しました。すれ違い人に対しては緩やかに避けていく感じで、動きはとても滑らか。万一、正面で人とガチンコした場合は完全停止して「道をお譲り下さい」と声を発して対応しました。人がいなくなると自動的に再発進。これなら興味を持った人たちに取り込まれた時でも安心ですね。

 

路地に差し掛かるとラクロはその手前で一旦停止して左右を確認。たまたまクルマが目の前を横切りましたが、それも認識してじっと停止したままやり過ごしていました。ZMPによればセンサーは150mほど先まで認識するため、近づいて来るクルマも十分認識して停止すべきかどうかをAIが判断するのだそうです。

↑走行中はディスプレイ上に到着地点までのルートが表示されるので、ルート上を正しく走行しているかを確認できます

 

走行中にちょっと違和感があったのは、時折、障害物もないのにカーブを描いて走行することです。これは歩道の周辺にある物体に対して過大に反応してしまったことが原因らしく、同行したZMPのスタッフによれば、認識するパラメーターを調整することで対応できる範囲とのことでした。

 

また、ラクロの前を自転車がいきなり横切るシーンに遭遇したときは一瞬ぶつかるかとも思いましたが、それも自動停止して対応。ぶつからずに済みました。販売されるラクロには緊急停止ボタンも装備されるとのことで、安心感はさらに高まりそうですね。

↑目的地に到着すると音声と画面を使ってそれを知らせてくれる。走行中に観光ガイドを出すことも可能

 

千葉市動物公園では園内の動物をガイドしながら自動走行

このラクロは基本的にリース契約で販売することとなっており、その費用は月々10万円+メンテナンス料となります。個人というよりも、施設単位での契約を想定。これまでも全国の施設と契約を進めているとのことですが、千葉市動物公園では一般向けを対象とした体験会を開催することとしたのです。

 

千葉市動物公園では、公園内の草原ゾーンを一周する周回体験を予定しています。走行中は周回路の途中にいるミーアキャット、ゾウ、キリン、カンガルー、フラミンゴ、シマウマなどの解説もしてくれるとのこと。距離は350mほどで所要時間は約10分。利用料金は500円を予定しているそうです。

 

2020年初め、テスト走行のために園内を走行させたところ、子どもたちからは人気が高く、その注目度から取り囲まれて一時は走れなくなることもあったと言います。ラクロが子どもたちを乗せて走るラクロの姿を一日も早く訪れることを待ちたいですね。

↑千葉市動物公園で今年初めに実施された実証実験の様子。子どもたちの人気は抜群だったそうです

 

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