GT-R然り、タイプRもまた然り、数多く存在する走り志向のクルマにおいて、「R」の称号は、今も特別なものである。では、長年、世界のスタンダードとされてきたフォルクスワーゲン ゴルフではどうか。「R」をどのようなモデルと位置づけ、どれほどスポーティなモデルに仕上げているのだろうか?
■今回紹介するクルマ
フォルクスワーゲン/ゴルフ R ヴァリアント
※試乗グレード:R
価格:652万5000円(税込)
まだまだ買えるぞゴルフR!
シビックタイプ「R」は、2万台もの注文が殺到して約4年分が売り切れたため、早くも受注停止になったが、ゴルフの「R」ならまだ買える! ゴルフRは、伝統あるゴルフ「GTI」を超えるパフォーマンスを持つ最強のゴルフ。究極のスポーツハッチバック&ワゴンを目指したマシンだ。
直列4気筒2.0Lターボエンジンは、最高出力320PS/5350-6500rpm、最大トルク420Nm/2100-5350rpmを誇っている。従来のRに比べても、10PS/20Nm強化されたわけだ。数字的にはわずかだが、この手のスポーツモデルは、進化し続けることが重要だ。
300馬力オーバーのパワーを受け止めるべく、ゴルフRは誕生当初から4WDの7速DSG(デュアルクラッチAT)のみの設定となっている。330馬力のシビックタイプRが、FFのMTのみなのに比べると、かなり正反対のキャラクターだ。シビックタイプRはサーキットに狙いを定めた超絶スポーツモデルだが、ゴルフRの主戦場は公道。速度無制限区間のあるアウトバーンでは、4WDの安定性が強く求められるのである。
前述のように、エンジンは320馬力を誇っている。初代ゴルフRは300馬力、2代目は310馬力、そしてこの3代目は320馬力と、台本があるかのように少しずつパワーアップを果たしている。かつて国産4WDスポーツの頂点を争ったランエボやインプレッサWRXが、280馬力だったことを思えば、320馬力という出力の過激さがよくわかるだろう。
しかし、実際のゴルフRは、それほどすごいクルマという感覚を抱かせない。ATのみなのでイージードライブであることは言うまでもないが、エンジンのフィーリングも、出力の向上とともに、逆におとなしくなっている。
7速DSGは極めて洗練され、もはや通常のトルコンATと区別がつかないほどスムーズだ。エンジンも低速域から使いやすく、フツーに走っているかぎり、そこらのファミリーカーに毛の生えたような程度に感じてしまう。乗り心地も、究極のスポーツモデルとは思えないほど快適だ。これは、オプションの可変ショックアブソーバーの効果だろうか? よく言えばウルトラ洗練、悪く言えばちょっと退屈という印象である。
思い起こせば、2010年に登場した初代ゴルフRは、サウンドの演出が凄まじかった。ATがシフトアップするたびに「バウッ!」という中吹かし音(?)が轟いて、まるでランボルギーニを運転しているような錯覚に襲われた。VWグループは、1999年にランボルギーニを傘下に収めており、その知見が生かされたのか? と感じたものだが、2代目はサウンドがややおとなしくなり、この3代目はさらにおとなしくなっている。
新型ゴルフRも、ドライブモードを「レース」にすれば、アクセルを戻した時に「ボッ!」とレブシンクロを行なうし、アクセル全開で加速すれば、それなりに勇ましい音がするが、初代Rを知っている者には、物足りなく感じてしまう。
サウンドは、速さを体感する上で重要なポイントだ。近年欧州では、騒音規制が非常に厳しくなっており、もはやゴルフがランボルギーニのような音をさせることなど許されない。その影響でゴルフRも、ずいぶん地味になったように感じてしまうのだ。
「羊の皮を被った狼」たる理由
試乗したのは、ゴルフ R ヴァリアント(ステーションワゴン)。車両重量は1600kgとかなりの重量級だ。ランエボやインプレッサWRXは1300kg前後だったから、それに比べるとだいぶ重く、加速も相殺される。速いと言えば速いが、「ウルトラバカ速ッ!」ではない。そのぶんゴルフ R ヴァリアントは、広いラゲージやゆったりした室内など、高い実用性を持っている。「R」のエンブレムも非常に地味で目立たない。
ただ、前後バンパーはR専用であり、リアのディフューザーと4本のテールパイプが、タダモノではないことを示している。マニアが見れば、GTIより15mm低い車高や、19インチホイールの間から覗くブルーのブレーキキャリパーで、「うおお、Rだ!」と識別することが可能。このクルマは、典型的な「羊の皮を被った狼」である。
では、新型ゴルフ R ヴァリアントが、ただの旦那仕様のスポーツモデルかと言えばさにあらず、新型Rのハイライトは、4WDシステムが、従来の4モーションから、「Rパフォーマンスベクタリング」に進化した点にある。4モーションは、前後輪のトルク配分を変えて最良の駆動力を得ていたが、新型Rは後輪に湿式多板クラッチを2個加えることで、後輪左右のトルク配分を変えることができるのだ。つまりコーナリング中は、外側タイヤの駆動力を増すことで、よりグイッと曲がらせることが可能というわけだ。
私はかつて、フェラーリ458イタリアを所有していた。458には「Eデフ」という名の左右駆動トルク配分システムが備わっており、恐ろしいほど曲がるクルマだった。コーナーで外に膨らむことはまずありえず、逆に曲がりすぎて内側のガードレールに激突しないように注意する必要があった。
では、新型ゴルフRもそんな感じかというと、まるで違う。普通に走っていたら、左右駆動トルク配分をしていることなど体感できない。458はそこらの四つ角を曲がるだけで「うひぃ! 曲がりすぎる!」という感覚だったが、ゴルフRは実に自然だ。セッティングがまるで違う。
それはワインディングロードでも同じ。まったく自然によく曲がるだけで、特段意識させるような挙動は起きない。サーキットで限界まで攻めれば違うと思いますが、一般ドライバーが公道で、左右トルク配分を体感するのはまず不可能。それよりも、「ゴルフRは進化を続けている!」という事実(勲章)のほうが重要なのだ。なにしろ「R」なのだから。価格は652万5000円。もちろんゴルフのラインナップ中、最高価格である。
SPEC【R】●全長×全幅×全高:4650×1790×1465㎜●車両重量:1600㎏●パワーユニット:1984cc直列4気筒ターボエンジン●最高出力:320PS/5350-6500rpm●最大トルク:420Nm/2100-5350rpm●WLTCモード燃費:12.2㎞/L
撮影/茂呂幸正
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