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2023/4/22 21:00

首都東京のメガ物量拠点「東京貨物ターミナル駅」を解剖する【前編】

〜〜開業50周年を迎えた東京貨物ターミナル駅(東京都)〜〜

 

今年2023(令和5)年は新橋と横浜の間を貨物列車が走り始めて150周年の記念の年にあたる。さらに首都東京の物流拠点「東京貨物ターミナル駅」が生まれてちょうど50年を迎えた。

 

東京貨物ターミナル駅と言われても、何をしているところなのかよく分からないという方が多いのではないだろうか。そこで同駅の取材撮影を試みた。貨物列車が日々どのように走り、また荷物が動いているのか、今週と来週の2回に分けて巨大貨物駅を解剖してみたい。

*取材協力:日本貨物鉄道株式会社。2023(令和5)年3月22日の現地取材を元にまとめました。参考資料:「写真でみる貨物鉄道百三十年」(日本貨物鉄道株式会社刊)など

 

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【巨大貨物駅を解剖①】50年前に開業した東京貨物ターミナル

旅客列車の運行開始の翌年にあたる1873(明治6)年9月15日に、新橋〜横浜間を有蓋車7両、無蓋車8両の計15両の貨車を引き、1日2往復(不定期便も含む)の貨物列車が走り始めた。

 

その後、日本の貨物輸送は急速に発展。戦後の高度成長期には輸送量が急増し、既存の設備だけではさばききれなくなる。首都東京の貨物駅は鉄道創始のころから汐留駅(現在の汐留駅とは異なる)と、隅田川駅の2大拠点で行われてきたが、そのうち汐留駅および東海道本線が扱う輸送量は限界を迎えつつあった。

 

そこで1973(昭和48)年10月1日に生まれたのが東京貨物ターミナル駅だ。同駅を通る新線、東海道貨物線(「東海道貨物別線」「東海道貨物支線」とも呼ばれる)も設けられた。

↑1975(昭和50)年当時の東京貨物ターミナル駅全景 写真:株式会社ジェイアール貨物・不動産開発 「写真でみる貨物鉄道百三十年」から引用

 

掲載の写真は東京貨物ターミナル駅(以下「東京(タ)」と略)が開設されて2年後のころの航空写真だ。敷地内は平屋建ての建物が多く、また周辺部にも倉庫などがなかったことが分かる。

 

東京(タ)が開業後も、汐留駅の貨物駅としての機能は残されていたが1986(昭和61)年11月1日に廃止となった。その後も浜松町駅〜東京(タ)を結ぶ東海道貨物線の路線は残され、カートレイン九州などの運行に使われていたが、こうした列車も廃止され、東京(タ)より北の線路は「休止」という形で使われなくなった。

↑東京貨物(タ)の北側を望む。同駅と浜松町駅間の東海道貨物線は現在、休止中という扱いになっている

 

実は東京(タ)を開業させるにあたり、当時の国鉄は同駅を最大限に生かすプランを持っていた。東京(タ)に千葉方面、京葉線から直接アクセスする路線計画を描いていたのである。京葉線は元々、貨物線として計画されたもので、京葉線から武蔵野線経由で常磐線方面、東北本線方面へのアクセスをスムーズにし、全方向から東京(タ)へスムーズにアクセスするルートが考えられていた。全国からの貨物列車を受け入れ、東京(タ)をそれこそ首都の物流拠点として使おうと考えたわけだ。ところが、浜松町駅からの路線は休止となり、京葉線からの路線も開業に至らなかった。

 

ちなみに、東京臨海高速鉄道りんかい線の線路は東京(タ)の東隣まで到達していて検修庫が設けられている。さらにりんかい線の線路は京葉線と結びついている。これらの路線を結びつけようと思えば可能だったわけだが、JRが分割民営化してしまった以上、見果てぬ夢に終わってしまった。

 

【巨大貨物駅を解剖②】北・中央・南上空から貨物駅を眺める

東京(タ)は貨車に直接貨物を積み込む「車扱(しゃあつかい)輸送」に対応した駅でなく、「コンテナ輸送」の専用駅として生まれた。その規模はとにかく大きい。南北に長く、その長さは3600m、東西も最長600m、総面積は75万平米にも及ぶ。よく大きさの比較に用いられる東京ドームだが、東京ドームが16個入る大きさとなる。まったく予測が付かない大きさだ。

 

東京(タ)を構内図と写真でその姿を見ていこう。まずは北側に機待線があり、連なるように貨物列車が発着する着発線がある。西隣には留置線があり、こちらにはすぐ動くことのない貨車や時間待ちする貨物列車などが留め置かれる。

↑東京(タ)の構内図。北から留置線、着発線、中央部に機留線、南側に荷役線、コンテナホームがある(本図は略図)

 

↑都道316号線、北部陸橋から望む東京(タ)。このあたりが北限で、ちょうどHD300牽引の貨車が入換え作業を行っていた

 

中央部には機留線があり、大井機関区という車両基地で検査・修繕され、出番を待つ電気機関車、入換え用のハイブリッド機関車HD300形式が留められる。このすぐ上には公道の大井中央陸橋が東西を結んでいて、東京モノレールの大井競馬場前駅から徒歩圏内ということもあり、同駅や、隣接するJR東海の大井車両基地を陸橋の上から眺めようと訪れる人の姿をよく見かける。

 

このエリアにはJR貨物の研修施設もあり、乗務員育成のための運転シミュレータ施設なども設けられている。つまり東京(タ)は貨物駅機能だけでなく、JR貨物にとって大事な諸施設が併設されているわけだ。

↑機留線にはJR貨物のEF210形式やEF65形式、入換え専用機のHD300形式が停められている。みな同エリアで出番を待っているわけだ

 

大井中央陸橋の南側には荷役スペースにあたるコンテナホームが広がっている。荷役線が多く設けられコンテナホームへ線路が続き、ホームは6番線から21番線(一部通し番号に抜けあり)がある。

 

このコンテナホームへはひっきりなしに発着列車があり、フォークリフトなどの荷役機械や大型トラックが動き回る様子が見てとれる。

 

↑東京(タ)の南側に設けられたコンテナホーム。膨大な数のコンテナが置かれている様子が見える

 

最近、コンテナホームがある南エリアで大きな変化があった。都道316号線に沿ったところに「東京レールゲート」という大きな建物が2棟建ったのである。この施設は何なのだろうか。

 

【巨大貨物駅を解剖③】新たに誕生したレールゲートとは?

2020(令和2)年3月にまず「東京レールゲートWEST」が誕生。さらに2022(令和4)年7月15日に「東京レールゲートEAST」が完成した。「東京レールゲートEAST」はWESTの約3倍以上の賃床面積だというから、東京(タ)の規模とともに想像が付きにくい。

 

レールゲートとはJR貨物初の「マルチテナント型物流施設」で、フロアごとにテナント賃貸を行い、借りた側はここで集荷、配達、保管、荷役、梱包、流通加工などに使うことができる。大型トラックの出入りができることもあり、企業の物流拠点としてこの施設を使えるというわけだ。

 

東京(タ)は貨物列車の発着地点であるだけでなく、東京港、羽田空港にも近い。企業にとって利便性が高く利用価値が高いこともあり、早くも名の知られた企業が入居し、拠点として生かし始めている。

↑東京(タ)のメインゲート横に建つ東京レールゲートWEST。大型トラック出入り用のスロープが裏手にある

 

【巨大貨物駅を解剖④】西日本方面への貨物列車が圧倒的に多い

東京(タ)は国内の貨物駅として最大の発着トン数を誇る。その量は1日平均7127トンにも及ぶ(2021年度)。年間に直すと約260万トンとなる。成田空港が扱う国際線貨物便の貨物量が235.6万トン(2022年)とされているので、1つの貨物駅で成田空港の国際便の貨物量を凌いでいるわけだ。

 

ちなみに国内の貨物駅では2位が札幌貨物ターミナル駅で6464トン、同じ都内にある隅田川駅は8位となり3355トンとなる。

 

東京(タ)の貨物列車の発着は1日に80本ほど(定期便・臨時便を含む)。発着する貨物列車はどこからやってきて、どこへ発車していくのだろう。時刻表を元に発車する定期列車(臨時列車を除く)全33列車の行き先をチェックしてみた。東京(タ)を発車する貨物列車は次のとおりだ(2023年3月18日現在)。

↑東京貨物ターミナル駅の上り本線を入線する貨物列車。このあと着発線へ向かい、コンテナホームへ入線していく

 

首都圏隅田川駅行4本、宇都宮貨物ターミナル駅行2本、相模貨物駅行など6本
東北地方酒田駅行1本、泉(小名浜)駅行1本
東海中部地方名古屋貨物ターミナル駅行1本
近畿地方安治川口駅行2本、大阪貨物ターミナル駅行1本、百済貨物ターミナル駅行など2本
中国・四国地方広島貨物ターミナル駅行2本、東福山駅行2本、新居浜駅行1本
九州地方福岡貨物ターミナル駅行7本、鹿児島貨物ターミナル駅行1本

 

↑東京(タ)発の東福山駅行5061列車が川崎市内を走る。東福山駅行は1日に2本が発車している

 

この数字を見ると東京(タ)から発車する列車は福岡貨物ターミナル駅行の7本をトップに、近畿地方、そして中国地方、九州地方へ向かう列車が多いことが分かる。また同じ東京都内の隅田川駅が4本と多い。

 

一方で東日本、北海道への貨物列車が少ない。東北、日本海方面、北海道行の列車は隅田川駅を起点に発着する列車が多い。東京(タ)は西日本行、隅田川駅は東日本行と棲み分けが行われているわけだ。こうした棲み分けをしている理由は東京(タ)を取り巻く路線網にある。

↑東京都荒川区にある隅田川駅。開業は1896(明治29)年のことで東北や北海道、日本海方面への列車が多い

 

【巨大貨物駅を解剖⑤】東海道貨物線を南にたどっていくと

東京(タ)がある東海道貨物線は現在、浜松町駅間との路線が閉ざされている。そのため東京(タ)を発着する列車は南側の路線から出入りせざるを得ない。東京(タ)からは、まず大田市場、羽田空港の西側地下を羽田トンネル(6472m)で抜けていく。

↑東京(タ)駅を発車した貨物列車は東京港野鳥公園、そして大田市場の下を通る羽田トンネルへ入線する

 

↑東京(タ)を取り巻く路線網。東京(タ)と北を結ぶ路線が無いことがわかる 地図提供:日本貨物鉄道株式会社

 

地図を見て分かるように、貨物列車が走ることができる路線は東京(タ)の北側にない。東京(タ)を発着する貨物列車は必ず、川崎貨物駅の横を通り、浜川崎駅から南武支線の八丁畷駅(はっちょうなわてえき)方面へ走らなければいけない。

 

西日本方面へは東海道貨物線から東海道本線へスムーズに走ることができるが、北へ向かおうとすると思いのほか厄介だ。

↑南武支線の川崎新町駅付近を走る東京(タ)発の貨物列車。ここから八丁畷駅を通過して東海道へ、また新鶴見信号場へ向かう

 

東京(タ)から北へ向かう列車は、南武支線の八丁畷駅から南武線の尻手駅(しってえき)へ向かい、通称尻手短絡線という単線ルートをたどり、品鶴線(ひんかくせん/現在は横須賀線などの列車が通る)の新鶴見信号場へ向かう。そこから東北本線、高崎線方面への列車は武蔵野線を通って、大宮操車場経由で走る。常磐線や隅田川駅、千葉方面へは武蔵野線をそのまま走る。

 

こうした手間が生じるため、東北方面や北関東、日本海方面への貨物列車は隅田川駅発着便が多くなっている。隅田川駅からは田端信号場を経て東北本線方面へ、スムーズに出入りできるからだ。

 

同じ都内の貨物駅とはいうものの東京(タ)と隅田川駅の間を結ぶ直線ルートがないため、武蔵野線経由で輸送が行われる。両駅間の輸送量は多く、両駅を結ぶ〝シャトル便〟が1日に4往復している。

 

次回は隅田川駅発、東京(タ)着の〝シャトル便〟の動きから、到着列車の動きを追うとともに、東京(タ)の場内の模様をレポートしたい。

↑品鶴線の新鶴見信号場と南武線の尻手駅を結ぶ尻手短絡線。ちょうど東京(タ)へ向かう隅田川駅発72列車が通過していった