ベテラン自動車ライターの永福ランプとフリーエディターの安ドが、深いような浅いようなクルマ談義をするクルマ連載。今回は、発売されるやいなや圧倒的な人気ですぐに受注停止となってしまった新型シビック タイプRを取り上げる!
※こちらは「GetNavi」 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです
【レビュアーPROFILE】
永福ランプ(清水草一)
日本中の貧乏フェラーリオーナーから絶大な人気を誇る大乗フェラーリ教の開祖。様々な自動車専門誌や一般誌、ウェブなどで、クルマを一刀両断しまくっている。初老となり運転支援装置の必然性を実感、クルマを評論する際に重要視するように。
安ド
元ゲットナビ編集部員で、現在ではフリーエディター。妻子を抱えても愛車はMTにこだわる。
【今月のGODカー】ホンダ/シビック タイプR
SPEC●全長×全幅×全高:4595×1890×1405㎜●車両重量:1430㎏●パワーユニット:1995㏄直列4気筒ガソリンターボエンジン●最高出力:330PS(243kW)/6500rpm●最大トルク:42.8㎏-m(420Nm)/2600〜4000rpm●WLTCモード燃費:12.5㎞/L
499万7300円
永福ランプが探る小さなパーツの大きな浪漫
安ド「殿! 今回はシビック タイプRです! 早くも何年ぶんかが売り切れて、受注停止らしいです」
永福「同じく売り切れのフェアレディZは、月に100台程度しか販売しないのでまだわかるが、こっちは月400台だ。なのに、あっという間に4年ぶんが売り切れてしまった」
安ド「やっぱり、ハイパワーなガソリン車が、そろそろ消えるからなんですかね?」
永福「人間、もう買えないと思うと、余計に欲しくなるのだな」
安ド「個人的には、MTのみの設定という点にグッと来ます。僕はMT車しか買ったことない男ですから!」
永福「MTのみのモデルが、2万台も売れただけで奇跡だな」
安ド「でも、新型シビック タイプRは、先代に比べると見た目は地味ですよね?」
永福「地味というより知的でエレガントと言うべきだろう。先代は後ろから見ると『ランボルギーニか?』と思うほどハデだったが、新型は羊の皮を被った狼だ。タイプRの伝統になりつつあるリアスポイラーも、真後ろから見ると薄い板1枚に見えるので、あまり目立たないしな」
安ド「このリアスポイラー、よく見ると複雑な形状でカッコ良いんですよね!」
永福「思えばリアスポイラー付きのクルマは貴重な存在になった」
安ド「羽根の付いたクルマに憧れた世代としては、これだけで泣きそうです!」
永福「リトラクタブルヘッドライトは20年前に消えたが、リアスポイラーもこれが最後かもしれないな」
安ド「ところで、走りはどうですか? やっぱりスゴいですか」
永福「もちろんスゴい。しかしあまりにも完成度が高く、公道ではスゴさがわかりにくいのが残念だ」
安ド「そうなんですか!」
永福「シビック タイプRはFF最速のスポーツモデル。300馬力を超えるパワーを前輪だけで路面に伝えるから、先代、先々代は、アクセルを全開にするだけで多少クルマが暴れた。そのじゃじゃ馬感が好きだったが、新型はそういうじゃじゃ馬感がほとんど消えている」
安ド「僕には、速くて楽しいとしか感じませんでしたが……」
永福「ディープなマニアは、速いだけでは満足できないのだ!」
安ド「なぜじゃじゃ馬感がなくなってしまったんでしょう?」
永福「サーキットでの速さを突き詰めてシャーシ性能を上げていくと、自然とそうなるのだ」
安ド「自然とそうなるんですか!」
永福「しかしまぁ、ほとんどの人は、このクルマの本物感に触れるだけで満足するだろう」
安ド「ですよね! 僕は満足しました! MTですけど4ドアなので実用性もありますし、ファミリーカーとして使えます!」
永福「乗り心地も悪くないしな」
安ド「次の愛車にしたいです!」
永福「言うだけならタダだからな」
【GOD PARTS 1】シフトノブ
握りやすい形状で操作感も上々な伝統のアルミ製
トランスミッションは6速MTのみで、潔ささえ感じさせます。そしてこのアルミ製のシフトノブはタイプRの伝統にもなっていて、握りやすく、操作感も上々。ただし寒い冬の朝に乗る際はかなり冷たくなっているのでご注意を。
【GOD PARTS 2】ステアリング
バックスキン仕様で滑りにくく操作しやすい
最近のクルマらしく操作スイッチが配置されていますが、全体のデザインはシンプルです。握る部分は滑りにくいバックスキン素材になっています。かつてサーキットを走る人たちからは、このような素材が好まれたものです。
【GOD PARTS 3】+Rモード
ビンビンに過激な走りが味わえる
走りを楽しむためのドライブモードは、「COMFORT」「SPORT」などが選べますが、その前方にあるスイッチを押せば、「+Rモード」になります。これは電子制御をオフにして運転操作の応答性を過敏にしたモードで、剥き出しの走りが味わえます。
【GOD PARTS 4】ディスプレイ
走行情報を記録して表示、腕を磨くことにも貢献!
スポーツモデルではありますが、現代のモデルらしく、データロガーシステム「Honda LogR」が装着されています。各種走行情報を表示するほか、走行データを自動で保存、解析してスコア化。ドライバーのパフォーマンスアップを助けてくれます。
【GOD PARTS 5】バケットシート
伝統の赤いシートが身体をしっかりホールド
赤いバケットシートもタイプRの伝統的アイテムです。ただし、かつてのようなRECARO社製ではなく、「Honda TYPE Rシート」となっています。身体をホールドして姿勢をキープできるので、キツいコーナーでも運転しやすいです。
【GOD PARTS 6】エンジン
ターボの利点を加えて進化を遂げた心臓部
かつて「タイプR」のエンジンと言えば高回転型のNA(自然吸気式)でしたが、近年のシビックタイプRはターボで武装されました。しかしこのエンジンはターボらしい強烈な加速に加えて、NAのようなスムーズな回転まで味わえます。
【GOD PARTS 7】タイヤ&ホイール
オリジナル設計による高い強度とハイグリップ
横から見るとわかりますが、タイヤがめちゃくちゃ薄いです。これは走行性能を高めたミシュラン社による特別なハイグリップタイヤで、ホイールもリバースリム構造という、歪み低減、内側の接地圧安定を狙った専用設計になっています。
【GOD PARTS 8】エアコン吹出口
フェンスのような雰囲気で内装のアクセントに
普通のエアコンのフィンの手前にフェンスのような網目状のカバーが施され、風向きを変えるためのレバーが突き出ています。シンプルなインテリアにあって、このエアコンの吹出口だけはデザインが凝っていて雰囲気があります。
【GOD PARTS 9】ディフューザー
車体下の空気を整えて走りを安定させる黒い溝
ボディの後方下部はブラックアウトされていて、フィンがつけられています。これがいわゆる「ディフューザー」というもので、ボディ下部を通る空気を利用して走行安定性を高めます。3本出しマフラーも迫力満点です。
【これぞ感動の細部だ!】リアスポイラー
空力を操るレーシングマシン風エアロパーツ
リアスポイラーは当然ながら専用設計で、微妙にグネグネした不思議な形をしています。ホンダはF1に参戦していたメーカーということもあって、空気力学に沿ったこのような難解な形状を生み出すことができたわけですが、超高速域でのダウンフォース獲得の一助となるに違いありません。
【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大表示されます)】
撮影/我妻慶一