クラウンセダンは真横のシルエットはカッコいいけど……
一方のクラウンセダンは、クラウンシリーズの中で最もフォーマルなモデルだが、実物を見ると、これはこれでスポーティだ。
なにしろ全長は5mを超えている(5030mm)。それだけで「うわ、長っ!」という迫力が出る。しかもリアピラーが傾斜したファストバックスタイルなので、真横から見ると、アウディA7スポーツバックあたりがライバルというイメージ。クラウンクロスオーバーより高級なのはもちろん、クラウンスポーツと比べても、むしろシュッとスポーティに見える。
真横のシルエットがとてもカッコいいのに対して、フロントやリアはやや凡庸で物足りない。ヘッドライトが「コ」の字型ではなく、シンプルな薄目に見えることも、印象を薄めている。従来のクラウンのイメージはほとんど捨てているので、今後どうやってクラウンらしい「顔」を構築していくかが課題だろう。
魔法の絨毯に乗っているような乗り心地
クラウンセダンは、クロスオーバーやスポーツと違って、エンジン縦置きのFR(後輪駆動)だ。つまりまったく別のクルマと言っていい。同じクラウンの中で別のモデルを作り分けるなんて、トヨタにしかできない贅沢な芸当だ。
FRなので、車体中央にはドライブシャフトが貫通しており(FCEVモデルは水素タンクが貫通)、リアシートの足元中央部は大きく膨らんでいる。定員は5名だが、4人乗りと考えたほうがいい。4人までならゆったりくつろげる。
フロントに縦置きされるのは、2.5Lのハイブリッド(730万円)だが、タンクに積んだ水素と空気中の酸素を反応させて発電してモーターを回して走るFCEV(燃料電池車:830万円)も用意される。
FCEVのメカは基本的にMIRAIと同じだが、これが驚くほどイイ。水素ステーションの設置が進んでいないこともあって、MIRAIは極端な販売不振に喘いでいるが、クラウンセダンのFCEVは、EVだけに静かさや滑らかさはハイブリッドとは比較にならないし、加速はダイレクトそのものだ。仮に自分が社長で、社長車にクラウンを導入するなら、FCEVがベストかもしれない。水素ステーションは運転手が探せばいいのだから。
しかし自分で運転するなら、やはりハイブリッドだ。エンジンが4気筒なので、アクセルを深く踏み込んだときの唸り声が少々安っぽいのは残念だが、それを除けばとても快適で、ハンドリングもサイズを考えれば軽快だ。
なにしろクラウンセダンは、乗り心地が素晴らしい。足まわりはクラウンらしく適度にソフトだが、ピッチング(前後の傾き)を徹底的に抑えたセッティングゆえに、魔法の絨毯に乗っているようなフラットライド感なのである。
スポーツ、セダンともに断然魅力的
クラウンは、スポーツ、セダンともに、従来とはまったく別のクルマになり、断然魅力的になった。反面、クロスオーバーが中途半端な存在に思えてくる。スポーツとセダンの存在感が際立っているからだ。是非もなし。
若返りを目論むクラウンだが、価格を考えると、若返ってもせいぜい40代まで。しかし、おっさんは見た目が9割。クラウンスポーツやクラウンセダンなら、見た目を気にする都会派エリートのおっさんも、愛車として検討対象になるはずだ。
(セダン)SPEC【Z】●全長×全幅×全高:5030×1890×1475mm●車両重量:2020kg●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+モーター●エンジン最高出力:185PS(136kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:225Nm/4200-5000rpm●WLTCモード燃費:18.0km/L
(スポーツ)SPEC【SPORT Z(ハイブリッド)】●全長×全幅×全高:4720×1880×1565mm●車両重量:1810kg●パワーユニット:2487cc直列4気筒エンジン+モーター●エンジン最高出力:186PS(137kW)/6000rpm●エンジン最大トルク:221Nm/3600-5200rpm●WLTCモード燃費:21.3km/L
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撮影/清水草一