世界有数のラグジュアリーブランドとして知られるグッチ。2015年以前は売上が伸び悩み、不振にあえいでいましたが、この老舗ファッションブランド(1921年設立)はいま再び勢いを取り戻しています。2017年第一四半期の決算は前年同期比51.4%増の13億5000万ユーロ(約1800億円)。この業績好調はグッチが自らの企業文化、風土にメスを入れたのが大きいようです。グッチはオープンで、社員にとって心地よい、クリエイティブな企業文化に生まれ変わりつつあります。
そのなかで参考にしているのがスタートアップです。
グッチは今年11月、ミラノのイタリア・ミラノの名門大学ボッコーニ大学と共同で Gucci Research Lab(グッチ・リサーチ・ラボ)を設立したことを発表。高級ブランドにおけるスタートアップ的なメンタリティーやリスクを取る思考、社員への権限移譲(エンパワーメント)を奨励する企業文化が業績に与える役割を学術的に究明していきます。ラボは4人の学者によって構成され、3年間運営される予定。ラグジュアリー業界がどう進化していくかが見えてくるかもしれません。
グッチが好調になり始めた転機は2015年1月にマルコ・ビッザーリ氏がグッチCEOに就任してからです(写真下)。ビッザーリ氏はグッチの改革を推進し、まず、才能を見染めた当時無名のデザイナーのアレッサンドロ・ミケーレ氏をクリエイティブディレクターに抜擢しました。
ミケーレ氏の独特なデザインと世界観は顧客から熱烈に支持されています。それと同時にビッザーリ氏はオンライン上での顧客とのコミュニケーションに力を入れるデジタル化も推進し、ミレニアル世代の顧客からの支持を増やしました。
そして、ビッザーリ氏はオープンで心地よい、クリエイティブな企業風土を育てることに取り組みました。これは3つの柱からなります。
ボトムアップラインアプローチ
グッチの幹部に対して全社員が自由に意見を言える機会を設けました。社員が躊躇なくアイデアを出したり、うまく機能していないことを特定し解決したりする体制を整備しました。
シャドーコミュニティ
グッチの30歳以下の社員で構成されている委員会(シャドーコミュニティー)を設立。委員会のメンバーにグッチの幹部たちが議題にしていることと同様の議題について議論させ提出させました。これにより若い世代の柔軟な考え方、アイデアを経営に反映できるようにしました。
クリエイティブに集中できる環境を整備
予算や売上など裏方のタスクはビッザーリ氏や経営サイドが管理。ミケーレ氏をはじめクリエイターは経済的な制約に縛られないクリエイティブなアイデアを創造できる環境を整備しました。
これらの取り組みがグッチの企業文化を変え、社員の生産性が上がり、業績向上につながっているようです。このような背景を考えると、今回のグッチ・リサーチ・ラボの設立も企業風土改革の一環として見ることができます。
「業界初となる試みで、応用研究で有名なボッコーニ大学と共同研究することができてうれしく思います」と述べたビッザーリ氏。「競走上の優位性という点で、企業文化はこれまで以上に競合と差別化する要因となります」
グッチはラボを通じて自社の成長を支える企業文化を科学的に研究し、研究結果や発見を再現する狙いがあるのでしょう。自社が成長を続けるための土台を固める意図もありますが、研究結果は年次報告書として発刊され一般にも公開される予定。「研究内容は大企業や中小企業にとっても参考になります」とビッザーリ氏は言います。ラグジュアリー業界の未来についてどんなことが分かるのか、今から楽しみです。