世界各国で深刻な健康問題になっている「孤独」。一人ぼっちでいる寂しさと睡眠不足には相関関係があり、孤独を感じると、なかなか寝つけず睡眠障害を引き起こす方も多くいます。しかし、その逆に、睡眠時間が足りないとき、人間は孤独を感じるものなのでしょうか? この問題に米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが挑戦。今年8月に実験結果を報告しました。もし「人との付き合いが面倒……」と感じているなら、それは睡眠不足が原因かもしれません。
睡眠不足だと他人と距離をとりたがる
研究チームは、成人18人に対して、睡眠不足と孤独感に関する実験を実施。普段と同じ時間だけ睡眠を取った日と徹夜した日に、自分に対して他人が近づいてきたとき、どのくらいの距離で「近すぎる」と感じるか調査し、MRIで測定も行いました。これはバーチャルテストとして、ビデオで人が近づいてくる場合も同様に行われました。
その結果、睡眠を取っていない日はそうでない日に比べて、他人が近づいて不快と感じる距離が18~60%も伸びていたのです。
私たちは無意識のうちに、自分の周辺にパーソナルスペースを認識して、そのパーソナルスペースに他人が近づいてくると不快に感じるものです。睡眠不足だと、パーソナルスペースが拡大し、他人をよせつけたがらない傾向になるということです。
睡眠不足による孤独感は他人に伝染する
さらに実験では、睡眠をきちんと取っていない被験者が話している様子を別の健康な人がビデオで見て、どう感じるか調査を行いました。被験者はもともと元気な人だったのですが、この実験の結果、ビデオ視聴後には多くの人たちがこの人に対して疎外感を感じていることが判明したのです。たった60秒間のビデオであっても、睡眠不足の人が感じている孤独感を、他人も感じ取っているということなのです。
これらの実験結果からわかることは、人は睡眠不足によって社会とのつながりを拒否して、孤独を招きやすいということ。さらに、その孤独感は知らないうちに周囲にも伝染しているということです。
日本人の2~3割は睡眠時間が不十分
では日本人の睡眠時間は十分なのでしょうか? 厚生労働省の「平成 29 年国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日の平均睡眠時間は6~7時間の割合が男性35.0%、女性33.4%と最も高く、 6時間未満の人も男性は36.1%、女性は42.1%もいます。さらに「睡眠で休養がとれていない」と答えた人は30~40代に特に多く、全体の2~3割を占めています。
十分な睡眠が取れていないと、日中に眠気に襲われるだけでなく、集中力が欠けたり免疫機能が衰えたり、体にさまざまなリスクをもたらすことは周知のとおりです。それに加えて、社会的な人とのつながりにまで、ネガティブな影響をもたらしているとは驚きの結果ではないでしょうか?
本研究の上席著者であるカリフォルニア大学バークレー校のマシュー・ウォーカー教授は、今回の結果は睡眠を7~9時間取る人にとって良い知らせだと述べています。「一晩でも十分な睡眠を取れば、私たちはより社交的になり、自信を取り戻し、他人を引き付けることができるでしょう」
心身の健康を維持するためにも、やはり質のよい睡眠は確保できるようにしたいものですね。