スマホでいつでもメールを確認できるようになった現代。ビジネスマンなら帰宅後や週末でも仕事のメールのやりとりを行う場面は多く、オンとオフの区別をつけるのが難しくなってきています。そんな社会背景を受けて世界的に進んでいるのが、業務外の時間でビジネスメールのやりとりを禁止し、デジタルハラスメントを予防する法案です。ワーク・ライフ・バランスの改善につながるこの動きは日本にもやって来るのでしょうか?
先陣を切ったフランス
業務時間外のメール禁止で世界の先陣を切ったのがフランスです。2017年1月から、業務時間外に仕事用電子機器の電源を切る権利を法律として定めました。この法律は従業員にもプライベートの時間をきちんと確保する権利があることを明確化。ちなみに、フランスでは2000年から週の労働時間を35時間とする週35時間制が取り入れられており、国民のプライベートを守る体制がさらに整えられてきています。
パリを追っかけるNY
そんなフランスの流れも受け、アメリカ最大の都市ニューヨークでも現在、同様の法案が協議されています。18年春に提案された法案では、従業員10名以上の企業で、休日や欠勤、有給休暇中の従業員にメールで連絡を取ることを禁止。これに違反した雇用者は250ドルまたは500ドルの罰金が課せられるというもので、この法案が市議会に提出されています。
勤務時間外メール禁止のメリット・デメリット
従業員のプライベートを確保する権利が明言されたフランスやニューヨークの法案は、夜間や休日に仕事のメール対応に追われてきた労働者にとって歓迎されるべきものでしょう。ドイツのフォルクスワーゲンでは夜間のメール送受信を制限するためサーバーをオフにしたり、エスティローダーでは金曜日の夜から月曜日の朝までメールの送受信を禁止したり、独自のルールを設けている企業もあります。
その一方、ニューヨークで提案されている法案については、500ドルの罰金では大企業にとっては大きな金額ではないため、法律に従わない企業が出てくる可能性があることなど指摘する声も上がっています。また、アメリカ人の労働観(働くために生きる)はフランス人のそれ(生きるために働く)とは違うという意見も。
フランスでも勤務時間外メールの禁止法が成立した際に否定的な意見がありました。休日に完全オフすることは必ずしも精神的によくない。仕事が溜まって翌日の業務が滞る。時差のある海外企業と取引をしているときはどうするのか、といった批判や疑問の声が上がったのです。
日本でも近年、自治体でも企業ベースでも働き方改革が進んでいますが、「業務時間外にビジネスのメールを見ない権利」を保障するだけでは無意味という意見もあります。裏を返せば、それは「業務時間外にビジネスのメールは見てもいい」ということ。それによって仕事への評価が上がるようでは、抜本的な改革にはなり得ないからです。日本人の伝統的な労働観もフランスよりもアメリカに近いでしょう。
世界的に進む業務時間外のメール禁止の流れは、はたして日本にもやって来るのでしょうか?