カード決済をもっと手軽に
マッケルビー氏は、Squareを創業した動機は銀行業界を破壊することではなかったと言います。彼を突き動かしていたのは「すべての中小企業がクレジットカード決済に手軽にアクセスできる世の中にしたい」というビジョンでした。
マッケルビー氏がそのような強烈な願望を心に抱くようになったのには、こんなエピソードがありました。マッケルビー氏は仕事の傍ら、趣味でガラス工芸品を作っています(趣味とはいえプロ級)。あるとき、ガラス製の蛇口を制作したところ大好評となり、価格を高めの2000ドルに設定して販売することにしました。
すると、ある女性がガラス工房にやってきて、「このガラスの蛇口を買いたい」と言いました。「American Expressのカードで支払いたい」
しかし、ガラス工房はクレジットカードの決済システムを備えていませんでした。そのためカード決済を受け付けることができません。事情を説明すると女性は失望して帰ってしまい、マッケルビー氏は売上の機会を失ってしまいました。
イノベーションは問題を解決しようとすると生まれてくる
この話を旧知の仲であったジャック・ドーシー氏にしたところ「クレジットカードをスマートフォンで簡単に決済できるサービスがあればいいだろうね」という話で大盛り上がり。中小企業や自営業者には、デバイスの導入費用や審査の問題でカード決済を導入できずに困っている人が多く存在します。そのような会社でもスマホを使って簡単に決済できるサービスとしてSquareは生まれたんですね。
マッケルビー氏はこの経験から、イノベーションは「機会を探すよりも問題を解決しようとする」ときにこそ生まれてくると語ります。
「私は『問題』が大好きです。なぜなら問題は見えるから。つまり具体的に特定可能なんです。でも機会というのは目に見えず、何なのか掴めません。だから機会を探す前に、まず問題を見つめたほうがいいんです」
思い立ったが吉日、マッケルビー氏がハードウェア(カードリーダー)、ジャック・ドーシー氏がソフトウェアをそれぞれ担当して開発を進めました。
プロトタイプ製作には3DモデリングソフトウェアのSOLIDWORKSを活用。SOLIDWORKSはモノづくり現場における共通言語と言ってもいいくらい世界中に浸透していることも役立ちました。中国の工場にもSOLIDWORKSのCADファイルを共有するだけでプロトタイプを作れたのです。
マッケルビー氏は迅速に作り上げたプロトタイプをAppleの故スティーブ・ジョブス氏に見せる機会を得ました。しかし、ジョブス氏に見せるにはプロトタイプのデザインがまだまだであり、デザイン面の改良が求められることに気が付きました。
より良いプロダクト作りには、まずプロトタイプを作り、次に他者からフィードバックを受けながら繰り返し改良していくことが必要であるわけです。
また、スクエアは実際に機能するプロダクトをいち早く実物として所有していためベンチャーキャピタルからの出資も容易に獲得することができました。
MBAではなくエンジニアの学位を
マッケルビー氏は「イノベーションを起こしたいと考えているなら、MBAではなく機械工学もしくはコンピューターサイエンスの学位を取ったほうがいい」と起業志望の人にアドバイスを送ります。
マッケルビー氏とドーシー氏はともにコンピューターに精通しているエンジニア。マッケルビー氏はガラス工芸品やCADを使ったモノづくりにも取り組んでおり、ハードウェアにも精通していました。エンジニアとしての知識・スキルが起業に役立ったことは言うまでもありません。また、プロダクトの作り方を技術レベルで把握していることがチームを動かす際にもかなり役立ったそうです。
マッケルビー氏の話からは、イノベーションを起こすためには、テクノロジーを使いこなす能力がますます重要になっていることがわかります。自らプロダクトを作れるエンジニアとしての能力がより一層求められるようになるのは言うまでもありません。
(取材協力: ダッソー・システムズ)