人類に言葉が生まれてから、およそ30万年。人類とともに言葉も変わり続けています。そんな言葉の変化に食べ物の変化が関係している可能性があると、言語学者たちが発表しました。食べ物と言葉の間には、どんな関連があるのでしょうか?
やわらかい食べ物で「f」や「v」が発音しやすくなった!?
「f」や「v」のように現代の言葉の中で多用される音は、人間が食べてきた食べ物の変化によって生まれた可能性があると、スイスのチューリッヒ大学の学者やドイツのマックス・プランク研究所の研究員たちで構成される研究チームが最新の論文で発表しました。
狩猟時代の人間は、かたい肉などの食事でもしっかり噛み切れるように上の歯と下の歯がきちんと合わさっていました。子どものときは上の歯が下の歯よりも前面に出た「過蓋咬合(かがいこうごう)」気味でも、大人になるにつれ、上の歯と下の歯がきちんと合わさるようになり、子どものときの過蓋咬合は消えていったそうです。しかし、狩猟生活から農耕生活に生活スタイルが変わると、牛や豚などの肉食から穀物などに食べ物も変化。よりやわらかい食事を摂るようになり、それに伴って、大人になっても上の歯が前面に出たままの過蓋咬合を残せるようになったそうです。
そのような噛み合わせの変化によって、下唇と上歯に隙間を作って摩擦させる「唇歯摩擦音」(例えば「f」)が発音しやすくなってきたのではないかと、研究チームはみているのです。
日本語はどう?
この研究は日本語を対象にはしていないため、日本人の食事の変化が日本語にどんな変化をもたらしたのかは不明です。しかし、国立科学博物館のウェブサイトによると、日本人の顔の骨は明らかに歴史とともに変わってきたそう。人が咀嚼するときに使う筋力「咀嚼筋」が発達すると、顔が広くなる傾向にあり、縄文時代では幅広で頑丈そうな骨格が特徴。古墳時代人には米を食べ始めた影響が見られるそうです。江戸時代ごろになると細長い顔立ちになり、現代では細長く華奢に見えるつくりです。
頭蓋骨を横から見ると、縄文時代の日本人は上の歯と下の歯の先端がちょうど当たっているのに、江戸時代ごろになると、上の歯が舌の歯より出ている過蓋咬合気味となり、上述の研究チームが指摘していた噛み合わせの変化とも合致しています。
たとえば、「食べられる」が「食べる」に、「見られる」が「見れる」というように、ら抜き言葉が「言葉の乱れ」と批判されつつ一般化してきていますが、日本人の食事や噛み合わせの変化も日本語の変化に影響を与えている可能性があるのかもしれません。
私たちの食事は時代とともに少しずつ変わっていくもの。いまの私たちの食事が未来の日本語を形作っているのかもしれませんね。