モスクワの公共交通機関の入場システム「トロイカ」がロシアで話題を呼んでいます。トロイカは使い勝手がよいだけでなく、デザイン性とファッション性も高く、その利用促進に一役買っている模様。2018年にロシアで行われたワールドカップの期間中には限定モデルなども次々に登場。芸術の国ならではのシステムが人気を集めています。
ロシアの交通システムをリード
モスクワ市内および一部郊外で使用できるICカード乗車券のトロイカは、地下鉄や列車、バス、トロリーバス、モノレール、エアポートエクスプレス、さらに郊外の公共交通機関での移動にも使うことができます。モスクワの地下鉄は「モスクワ運輸複合施設」に含まれており、運輸省の管轄。目覚ましい経済成長に伴った国家プログラムのひとつとして、2013年に初めてトロイカが導入されました。トロイカという言葉は「3頭立ての馬車」を意味しますが、その名の通り、その強い力でロシアの都市交通システムを牽引していくものとなっているのです。
地下鉄はかつて核シェルターも兼ねた軍事施設だったため、長い間、秘密のベールに包まれていました。しかし、国民に使いやすい地下鉄を掲げた運輸省は、トロイカ導入に伴い驚くほどオープンで前向きな姿勢に変化。しかも、トロイカに関しては国家プログラムとしては珍しく、海外企業のMikron社(オーストリア)と提携を結び運営しています。
2017年から国家事業としてデザインの公募が開始。これにより一般企業や一般人の参加が可能となり、より斬新なデザインやアイデアの投入にも成功しました。いままでICカードだけだったトロイカが、携帯アプリやブレスレット、キーホルダー、指輪という形に発展していったのです。
ブレスレットはシリコン製のものが460ルーブル(約790円)で、シックな本革製は650ルーブル(約1120円)とお手ごろな価格。しかも、全17色とカラーバリエーションも豊富で若者の間で高い人気を得ています。ラインストーンがあしらわれたIC指輪は白、黒、青、ピンクの全4色で1個2300ルーブル(約3960円)。発売日と合わせて入籍したあるカップルがこのトロイカ指輪を結婚指輪にしたことも話題となりました。さらにキーホルダータイプのものは、薄いカード形状で350ルーブル(約600円)で、ワールドカップデザインも含めてバリエーションが豊富です。
若者のタダ乗りが減少
トロイカ導入で乗客は携帯電話同様、個人アカウントを自分で管理できるようになりました。オンラインはもちろん、SNSを通してもチャージや残高確認、紛失時におけるアカウントへの不正アクセスを防ぐことができます。
そのうえ、バラバラだったシステムや料金体系をひとつに統合したおかげで、モスクワっ子のみならず外国人にとってもわかりやすいものになりました。トロイカのカードが1枚あれば、公共のキックスクーターを含めたモスクワの公共交通機関をすべて利用できるわけです。今後ロシアがさらに海外へ開かれた場合を考えると、システムの明瞭化はかなり大きなプラスとなったと思われます。また、紙の回数券にまつわる若者の無賃乗車問題も減少。指輪などのアクセサリーがスタイリッシュで、かつ簡単に携帯できることから、若者の間でも能動的に購入し始める人が増えました。
新しいものが大好きで少々飽きっぽいロシア人に合わせてデザインも定期的に更新され、祝日や劇場の記念日には限定カードが次々と発表されています。制作のデザイナーは明らかにされていないものの、この国家プロジェクトに参加できることは、大きな業績となるでしょう。
そんなトロイカは、ロシア最大のネット口コミサイトでもシステムを高評価するコメントで溢れています。「いつでもどこでも残高を確認でき、チャージできるのは画期的。もう前のシステムには戻れない!」「ナイトクラブなどでもらうブレスレットのようで、スタイリッシュ! 現代的だ」「限定デザインのカードを集めるのが楽しい!」
ロシアの成長とともに、今後さらに広がっていくというモスクワ地下鉄。それは同時にトロイカの発展も意味します。運輸省はデザインだけでなく、使用可能エリアもどんどん広げていく考え。トロイカの導入は、ロシアの近代化を象徴するもののひとつで、そこに向けて弾みをつけたことは間違いないでしょう。